第30手 男の娘棋士がいる世界
俺はこの4回戦に勝てば、予選トーナメント決勝へと進むことができ、同時に決勝トーナメント進出が決まる。
今回の対戦相手は、
下手したら
…そんなことはさておき、対局が始まった。
俺は今回後手だ。
よもぎ五段は、飛車をCまで浮かせる。
俺は、ここで思い切って、飛車を四筋に振った。現代将棋界ではタブーとされる一手だ。
「バカな!振り飛車だと!?ぼくを舐めているのか!?」
よもぎ五段は俺の勝負手を見て戸惑っている様子である。しかし…彼は、声までまるで女性のようだ。俺まで何かに目覚めそうである。
…そんなことよりも、よもぎ五段は土属性だ。俺は、以前、土属性の相手に飛車を振り、文字通り手も足も出せずに負けてしまった。油断は禁物である。
俺は、以前よりずっと温めてきたアレを再び使うことにした。
振り飛車は終わった。そんなことはない。俺は、諦めていなかった。
ここでぶつけてやる。俺の『たれぞーシステム』を。
俺は、角道も開けて、金、銀、銅、プラチナの進出を図る。玉を守らずに攻めだけに特化する。
「なんだって!?玉を守らず…しかも攻めだけしか考えてないだと!?こんなの通用するもんか…!全部、土のぬかるみに落とし入れてやる!」
よもぎ五段は、土属性を込めた歩を、俺の攻撃の要である駒達に投げつけてきた。
だが、勿論こんなの想定済みだ。
「駒の軌道が丸見えだぜっ!」
俺は飛んできた歩を『斬』の駒で真っ二つにした。しかし、その代償に俺の指は、『斬』を掴んだことでザックリと切れてしまったが。
血がタラーっと指の先端まで流れ、盤へと落ちる。
『斬』は、斬れ味の良すぎる駒であるため、掴むのが容易ではない。
バカ兄貴程は、上手く扱えないが、俺でもなんとか、触れる。だが、もたもたしていると、せっかく生えた指がまた落ちてしまう。この対局は早めに決めねばならない。
『玉と対局者、接近すべからず』
『飛車は振るな』
この二つの格言に喧嘩を売るのが、俺の『たれぞーシステム』だ。
よもぎ五段は、俺の攻めに特化したスタイルに対応できていない!さらに、俺は光属性であるから、二倍のスピードで相手へと迫られるのだ。
よもぎ五段の読みの感覚は、完全にズレていたようだ。
「くっ…負けました…!」
よもぎ五段は、僅か49手にして投了した。
それは、俺の『たれぞーシステム』が初めて炸裂した、会心の将棋であった。
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