第91手 第二形態がある世界

 戦っている皆は、とうとう持ち駒の飛車や歩がなくなったようだ。凄まじい攻撃の嵐は収まり、煙が段々と晴れ渡って来た。


 頼む、消滅していてくれ…!


「お、殺したか!?」


 俺を膝枕してくれているかおりは、嬉しそうに空を見上げる。香の太ももは気持ちいいが、今は将棋星人を倒したかどうかの方が重要だ。


 無い…。


 将棋星人の姿が完全に消えている…!


 勝ったぞ!


 俺らプロ棋士は、勝利を掴むことができた…!


 その時は、誰もがそう思っていた。


 しかし…。


「えっ?」


 よもぎ五段が突然おかしな声を出す。


「お、お腹が…?」


 なんと、よもぎ五段の腹部に、いつの間にか駒が貫いたであろう穴が空いていたのだ。傷口から血が溢れる。


「うぐっ!?」


 片膝をつくよもぎ五段。


「あれぐらいでボクを倒した気でいたのかい?」


 その場にいた誰もが一斉に、慌てて後ろを振り返った。


「う…嘘だろ!?」


 俺は将棋星人の姿を見て恐怖した。先程まで細長い手足で全身に光沢がある体をしていたのに。


 しかし今は筋骨隆々な体に、薄汚い褐色の皮膚。顔の形は逆五角形へと変わり、さらにその表情は怒りに満ち溢れていた。


「あれぐらいの攻撃じゃ、ボクは消滅しないよ。それに我々将棋星の種族は変身できるんだ。変身すれば、第一形態の2倍にまでレーティングが跳ね上がる。もう勝ち目は無いよ。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る