第74手 飛車1枚で街1つが木っ端微塵になる世界

「羽野五段も…覚醒だと…?」


 名人はかなり驚いた表情をする。当然だろう。俺自身も驚いている。


 この抑えきれないオーラ量にな…!


 極玉ごくぎょくを手にした上に覚醒に至ったのだ。今の俺のレーティングは10万近くあるのは間違いない。


 将棋の楽しさが俺をこの次元にまで連れて行ってくれたのだ。まだ、俺以外誰も知らない未踏の世界に…!


「名人…。将棋って楽しいな! こんなに力の差があっても将棋を指せるってことに喜びを感じてしまう!」


「ああ、僕もだよ。将棋は誰とやっても楽しいものさ。」


 名人、確かに将棋は楽しい。だけど、最後まで将棋を楽しめるのは本当に強い奴だ。


 楽しくても死ねば終わりなんだよ!


 俺は、飛車に大量のオーラを込めた。飛車が破裂してしまいそうなぐらいパンパンにだ。


「死ね! 俺が最強だ!」


 太陽かと錯覚するほどの輝きを放つ飛車を俺は名人に投げつけた。


「くっ!?」


 名人は光を纏い、飛車を全力で躱す。


 俺が投げた飛車は、遠くにある建物をどんどん貫いて、そして数秒後…。数十キロ先の方で大爆発を起こした。


 鼓膜が破れそうになる程の轟音と、地面の激しい揺れ。


 小さな街であれば、今の俺なら飛車一枚で破壊できる。勿論、相手が人間となれば更に容易いことだ。


 そして名人よ。今投げた飛車は囮だ。わざと外したんだ。


 俺は、飛車を避けることで精一杯だった名人の背後に回り込んだ。今度は先程の様に、プラチナを使った小細工ができない程の光速を超えたスピードで。


 数百年前にも『光速の寄せ』で名を遺した棋士も居たと聞くが、俺はその伝説すら今超えた。


「名人…。将棋は最後にミスをした方が負けるゲームだ。」


 斬を背後から名人の首元に当てる。俺の震えは益々激しくなり、間違って別の箇所を斬ってしまいそうだ。


「どうやら僕の負けのようだ…。君みたいな強い棋士と同じ時代を生きれた事を誇りに思うよ。」


 もう我慢できなかった。


 俺は、名人の首を一気に切断した。相変わらずの斬れ味を誇ってくれる斬。頸椎けいついの硬さなんて感じなかった。


「お前がいなければ、俺はここまで来れなかった。」


 名人の頭部が宙を舞い、ゴドッと地面に落下した。


 俺は名人を殺したんだ。そう実感した時には震えは自然と収まっていた。


「よ、よくやったの…! 羽野五段!」


 ジャック会長が何処からともなく姿を現した。


「うるせぇ、クソジジィ! 今から俺は、かおり達を殺すんだ!」


 そう、まだ俺の対局は続く。しかし、相手が3人であろうと、名人よりは楽勝で殺せるだろう。


「たれぞー! てめぇ、あたしが元に戻してやるからな!」


 本当に下品な女だ。さっさと殺してしまおう。


 俺が斬を再び構えた時だった。俺と香達の間にブラックホールが現れた。


 そうだ…忘れていた。


 まだまだ殺し甲斐がいる奴らがいたじゃないか…。


 ロリコン、それと一緒に現れた豊田九段…!

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