第9手 プロ棋士のレーティングが5桁の世界
「おい、
「うるせぇ!」
香に腕を殴られる俺。
「今、あたしが
対局の翌日。
見事初戦を勝利に収めた俺は、一言でもいいからおめでとうと香に言って欲しかったのだが、見事に殴られた。
まあ、殴られた痛みと共に、多少快感もあったし、良しとしよう。
「あはっ!
「多分、犯罪だからそれはないでしょ!」
俺は、今、女子会に参加している。会場は、
対局の無い日があれば、だいたい集まるメンバーだ。
ここで、イツメンを紹介しよう。
女性では初の双子のプロ棋士。
瓜二つにも程がある。この姉妹は、いつもフワフワしていて、頭の中はまるでハッピーセットだ。
また、余談だが、この二人。オセロの腕も凄まじい。
AIの発達により、オセロの完全攻略法が瞬く間に広まった。その為、日本オセロ連盟は、苦渋の決断を強いられた。なんと、オセロに用いる石の重さを50キロにまで増やしたのだ。
それにより、近代のオセロは、頭脳だけではなく、体力、筋力が物をいう世界へと変貌したのだ。
つまり、この双子姉妹、見た目は赤髪のボブヘアーでイマドキの可愛い容姿なのだが、超怪力なのである。あ、よく見たら首元、太いか?
「おい、リン! あたしがたれぞーと付き合うのなんか、百億パーセント無いっていつも言ってるだろうが!」
香は詰め将棋を解きながら、声だけでラン、リンの区別ができる。俺からしたら特殊能力だ。
俺はこの姉妹を見分けるのは既に諦めている。
「羽野くん、
恐らく、ランの方が尋ねてくる。
「リン! たれぞーの対局日なんて気にすんな! どうせ応援しても次で負けるんだ!」
ランではなく、リンだった。
「えっと…来週の金曜日に決まったけど…。」
昨日、俺と同じ対局日に、あの
結果は、やはり雷蔵の勝ちだった。
本当に雷蔵と盤を挟むことが決まったのだ。だが、雷蔵の勝ちを知った時、俺は心のどこかで臆していた。あの日は、本気で勝つ気でいたのに。
それに、香自身が俺の対局に見向きもしてくれないんじゃ、俺の闘争心がだんだん薄れてしまうのだ。
そんな自分のことを、俺はちょっぴり嫌いだった。
「次、雷蔵なんでしょ?」
今度こそ、ランが俺に尋ねる。
「ああ。」
小さく答える俺。
「篠崎さんの敵討ちだからね! 絶対勝つんだよ!」
「アホか! ラン! だから勝てるわけねぇだろ! たれぞーのレーティング知ってるか!? 7800台だぞ!? 雷蔵は1万3000! 5000も違うんだよ!」
そう、俺は
師匠から昔言われたが、棋力1200と言うのは、数百年前のアマチュア4級か5級のレベルらしい。俺は本当にオーラ力と、みなぎるやる気、それに運だけでプロになれたのだ。
「でもさ、もし偶然でも勝てたら、羽野くんカッコいいよね! ヒーローって感じ!」
ラ…リンが言う。ヒーローか。俺は、叶うなら香のヒーローになりたいけどな。
「ちょっと、篠崎さん! 見せて欲しい物があるんだ!」
そんな中、突然リンが、胡座をかいて詰将棋を解いている香の前に立つ。
「あ、何だよ!? 遠慮なく言えや!」
「おっぱい見せて! えいっ!」
俺は鼻血を噴き出す所だった。リンが香のシャツを思いっきりたくし上げたのだ。もろに見えた。
香は反射的にリンの腹を蹴り飛ばす。
「おえっ!?」
吹き飛ぶリン。
当然の天罰だ。だが良くやった。ここまではっきり見れたのは初めてだ。
いや、はっきり見え過ぎて、嫌な物も見えてしまった。
右胸には、大きな手術跡が今も残っていた。
香は、無言でシャツの乱れをキチッと直し、それから俺らに背を向けた。以外に恥ずかしさがあったのか?
「リン…なんで、てめぇシャツ捲ったんじゃ、ボケ!」
キレてる様子の香。
「ごめん…篠崎さんが、着痩せするタイプかどうか急に確かめたくなって…。」
この姉妹には、共通してド天然なところがある。
「は? あたしはいつでもスタイル抜群じゃ、背は小さいがな!」
それからしばらく香はもじもじと何か言いたそうに震えている。
「そういや、たれぞー!」
「何だよ?」
不意に俺の名を呼ばれてドキッとした。
「お…お前、あたしの胸見たんだから…2回戦絶対死ぬんじゃねぇぞ! わ、わかったな!?」
コ、コイツ…ツンデレ要素もあったのか!?
「おう…任せとけ!」
俺の決意はやっと固まった。
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《100年後の将棋について、その9》
レーティング
現在、レーティング=棋力+オーラ力で算出される。棋力に関しては、将棋全盛期だった2030年のトップ棋士の頭脳を3000とし、それと比較した値をAIが導き出す。
同様に、オーラ力もAIが導き出す。
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