第76手 闇は太陽にて散る世界

「ば…馬鹿野郎が…! あたしはたれぞーの攻撃ぐらい、自分で避けれたんだ! 何を格好つけて盾になってんだよ…!?」


 俺としては呆気ない決着で興醒めだ。この記念対局をもう少し楽しみたい気持ちもあったのだが。


「か…かおりちゃんには…できる限り…格好いいところ見せたい…からね…。」


 このロリコンめ。その性癖が命取りになったのだ。


「香ちゃん…。将棋界は任せたよ。君は若いけど…君なら必ずできる…。僕は…名人に一番近いのは香ちゃんだと思っているし…先頭に立つべきも香ちゃんがいいと心から思っている…。たれぞーを上手く使って頑張るんだよ。」


 土手っ腹を貫いたのにしぶといロリコンだな。俺は斬を構えて今度こそ首を斬り落とそうとする。


 しかし…。


「なっ!」


 ロリコンがブラックホールで突如消えやがった。 移動した先は…!?


「ぶ、毒島くん…!? 何をするんだね!?」


 クソジジィの所へ移動した! ロリコンは倒れたまま、両足でジャック会長を器用に挟んだ。


「ジャック会長がね…不死身の能力者であることは調。それでね、一番ベストな倒し方をやっと今思いついたんだ。ちなみにだけど…僕と豊田とよたちゃんは…『殺る将事件』の前から動いていたんだよ…?」


 なんだと? つまりクソジジィが裏でこそこそしていることに以前から勘付いていたのか!


「私も昔からお前に違和感を覚えていた。」


 豊田九段がロリコンとクソジジィの前に風を纏って移動した。


「だから私は、毒島ぶすじまとは頻繁に接触を繰り返し、情報のやり取りをずっと行なっていた。この男はバカそうだけど鼻が効く。私から以前、せっかく獲った名人位を奪ったのが毒島で、本気で戦ったからこそ一番信用できる男だった…。」


 段々と豊田九段の声が震えて来た。泣いているのか?


「私は…遅過ぎたな。早く毒島の良さに気づいていれば良かったし、早くお前を殺していれば金太郎が死ぬことも無かった!」


 ボロボロと涙を流す豊田九段。俺は、それを見て何か大事なことを忘れているような気が一瞬した。


「あ…豊田ちゃん…? 僕、そろそろ死にそうなんだけど? オーラも尽きたし、最期は一緒に付き合ってくれるかな?」


「ほんと馬鹿野郎だな、お前は…! 当たり前だろうが!」


 豊田九段はロリコンの肩に手を回す。


「ごめんね。巻き込んじゃって。」


「うるさい! 気にするな。」


 コイツら何をする気なんだ? 俺には二人が何をするつもりなのかさっぱり分からなかった。


「何だね、君達は!? 何をする気なんじゃ!?」


 慌てふためくクソジジィ。


。いくら不死身でも…どうしようもないでしょ?」


「ふざけるな…! 太陽だと!? そんなことできるのか!?」


「だから私も一緒に逝くんだよ。私の全部のオーラがあれば、毒島の能力なら可能だ。」


 正気か!? このままだと俺の洗脳が解けてしまうかもしれない! 止めろ!


「いくよ?」


「ああ。」


 ロリコンは最期の力を振り絞りブラックホールを出現させた。


「や、やめんかぁぁぁあああ!!」


 クソジジィの悲痛な叫びだけが残り、三人の姿はすっかり消えてしまった。

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