第44手 眼球から歩がポロリする世界

 猫王にゃんおうは、血を吐き、苦しみ続ける。


「にゃ…し…死にたく…にゃ…い…!」


 お前は…金太郎を殺した癖に、自分が死ぬのは怖いのか?


「痛い…胸が苦しい…お腹痛い…!」


 段々と猫王の声が小さくなっていく。もう虫の息ってやつか…。予想外のあっけない終局となり、なんだか肩が軽くなる。だが、そんな中…


「きなこ五段…!猫王にゃんおうを回復してくれ!」


 突然、豊田とよた先生が理解し難い言葉を放った。


「は!?どういうことだよ!?なんでわざわざ治してやるってんだ!?」


 かおりが慌てる。それは、ここにいる誰もが思っていることだと思うが。


「いや…豊田九段の言った通りにするぞ。どうやら裏がありそうだ…!」


 鶏王けいおうである大鳥居おおとりいまでもがそう言う。


「ああ、猫王の瀕死になり、オーラの邪悪さが消えたのに気づかないか?恐らく…誰かにコイツは操られていたんだ…」


 豊田先生と鶏王だけがそれに気づいたようだった。俺には全くわからなかったが。


「わ…私、猫王を治します…!」


 きなこ五段が苦しむ猫王の元へと駆け寄り、体に手を当て治療を開始する。そうすると数分もしない内に、苦しんでいた猫王が、落ち着きを取り戻していった。


 しかし…将棋界は裏切り者のオンパレードなのか?


 一体、誰が何の目的で…


 俺は、がっくしと頭を下げると、潰された眼球の中に入っていた歩が、ポロリと出てきて地面に転がった。

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