第14手 プロ棋士が空を飛ぶ世界

「さあ、最初はわたくしが相手をしますわ。そちらは、どなたが出てきますの?」


 ほし六段は、相変わらずのセーラー服姿。木々の隙間を通る風が、スカートをひらひらと揺らしている。


「私が相手や!」


 フード集団の端っこにいる奴が、名乗りをあげる。声からしてどうやら女性らしい。


 そして、星六段と、対戦相手のフードの女性の周りから黒い炎が消えた。二人は盤の方へとゆっくりと歩む。お互いに盤の前で正座をし、しばらくの間、無言の状態が続く。相変わらず風の音だけ。


「顔を見せないまま対局をするつもりかしら?」


 沈黙を破った星六段。


 すると、段々と顔にかかる黒いモヤが晴れ、女性は自らフードを外した。やっと露わになる顔。金髪のロングヘアーで、鋭い目付きをしている。かなり、スタイルの良い女性だ。


「あ…アイツは…!」


 その姿を見た金太郎が、驚いた表情を見せる。


「元奨励会三段、『かまいたちの鎌足かまたり』だ!期待の新人と言われながらも突如として姿を消した女性棋士だ!」


奨励会しょうれいかい:プロの養成所。将棋においては、四段となって初めてプロとなる。)


 金太郎、見事な解説役をこなしてくれる。


「私が嫌いなタイプの女やな。血祭りにしたろーか?おい、リーダー?振りごましてや?」


(振り駒:先手と後手を決めるための所作。)


 あの、闇フード野郎がやはりリーダーか。どうやら、ご丁寧に振り駒をするようだ。闇フード野郎は、ごそごそとポケットから歩を取り出した。


 振り駒を始める。


「と金が4枚…。振り駒の結果、先手は鎌足だ。これ以降の対局は、先手、後手を交互に変えていく。」


 星六段は後手を引いてしまった。相手の能力が気になる所だ。


「ほな、始めようか!」


 いよいよ始まったと思ったら、その瞬間、鎌足は、いきなりにオーラを込めると、星六段に向かって投げつけた。


 だが、一方の星六段は、不意打ちにも関わらず、器用に、風のオーラで軌道を曲げ、躱す。


 しかし…


「イタッ…!」


 星六段が思わず声を漏らす。


 なんと、避けたように見えた星六段だったが、白く綺麗な頰に、刃物でなぞったような傷が突然現れた。血が顎まで伝い、地面にポタポタと落ちる。


「今、避けただろ!?」


 俺の目にはしっかり星六段が避けたように映ったのだが。


「出た…!あれが『かまいたち戦法』!見えない風の刃が歩を纏っていたんだ!」


 さすが、金太郎、詳しいぜ。鎌足も風属性ということか。


「アンタも風属性やったんか!良かったな、軌道変えへんかったら、今首飛んでたで!」


 初手からいきなり殺しにかかってたのか。一気にこの戦いの緊張感が高まる。


「わたくしの顔によくも傷をつけてくださいましたわね?」


 そして、星六段は静かに飛車を握りしめた。


「もう、あなたの手番はありませんわ。」


 そう言うと、星六段は、飛車を握りしめたまま、宙高くへと舞い上がった。俺は、あまり目が良くないからスカートの中身は見えない。


「なっ!空を飛ぶだと!?ふざけんな!私の攻撃が届かへんだろ!?」


 星六段は、空宙から鎌足を静かに見下ろしている。


「くそっ、パス1だ!」


 鎌足は、盤上のぎょくを詰ますのではなく、星六段を殺すことだけしか考えていないようだった。攻撃が届かないと判断した為に、一手パスを選んだ。しかし、将棋でパス1とは、さすがに初めて聞くルールだ。


「あら、もうわたくしの手番ですわね。長考されなくて助かりましたわ。それでは行きますわよ?」


 星六段は、上空から飛車を握りしめ、一気に下降して来た。


 戸惑う、鎌足を目掛けて。


「おい、止めろ!そんな勢いで飛車を投げるなよ!」


 星六段は、位置エネルギーをも味方につけて、全力で飛車を投げつけた。飛車に纏わせた巨大な風の刃が辺り一面を薙ぎ払う。


「あ…」


 なんと、鎌足の首が宙へと吹き飛んだ。美しかった金髪の髪も、一本一本が風に呑まれてどこかに消えていく。


 更には、周りの巨大な木々も何かの野菜の如くスパスパ切れる。


 そして、首の切断面からは、おびただしい量の血が噴き出し、盤上を真っ赤に染めた。


 間も無く、鎌足の頭部が地面に落ちるのと同時に、星六段も地面へふわりと着地した。


「わたくしを傷付けた代償は大きいですわよ?」


 もうこの絵面、どっちが敵だか俺には分からねぇ。


 ーーーーーーー

《プロ棋士データベース、その4》


 ほし キラリ六段(17歳)


 12歳プロデビュー

 万田まんだ 燈太とうた門下

 浮き飛車党

 属性:風

 得意戦法:3三C角型超空中戦法


 レーティング:12500

(棋力9000、オーラ力3500)






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