第99手 プロ棋士が建設工事も行う世界

 驚くことに、気がついたらさらに数ヶ月の月日が経っていた。俺らが、数百年前の将棋セットを木から作り上げたあの日からだ。


 俺らは将棋セットだけでなく、建築士なんていない中で、試行錯誤の末に『2代目将棋会館』を建ててしまった。耐震性には少々不満はあるが、立地場所は前回と変わらずに千駄ヶ谷せんだがやの全く同じ場所。やはり、将棋をするには、この場所しかないと思ったのだ。廃墟と化した東京スカイツリーver.3も見える。


 俺らは、そこを拠点とし、木材で大量の将棋セットを作り上げた。


 手間暇かかる作業ではあったが、それらが無ければ話にならない。たくさん作って、そして、たくさん将棋を練習した。


 一応かつて将棋らしき物を指していたので、俺らプロ棋士は、9×9の将棋に対しても意外と早く順応した。


 マス目は昔より桁外れに減ったのに、属性が無ければかなりの難易度を誇るゲームであることを、練習を通して思い知った。


 また、俺らが予想もしていなかったことだが、「将棋をしたい」という老若男女が将棋会館に集まり出したのだ。特に、現在の荒れた日本においては、他に娯楽が無いのが事実。そうなれば必然的に、将棋にジワジワと注目が集まって来る訳だ。


 これまで将棋をしていなかった人の話を聞いたところによると、これまでの将棋は、危険を伴うから中々始め辛いと言う意見が多かった。


 怪我の功名じゃないけど、まあ将棋界の命ってのはギリギリの所で消えずに保てたように感じる。また俺らが数百年前に訪れていたという将棋ブームを再来させよう。


 もう誰も傷つかない将棋を。


 誰だって楽しめる将棋を。


 駒が飛び交わない将棋を。


かおり会長! 私と対局して!」


「次は僕とやってよ!」


 子どもらが香を取り囲む。やけに人気で嫉妬するぜ。


「あー! うるせぇ! お前ら全員、横一列に並べ! あたしが、まとめて相手してやるよ!」


 まぁ、平和だ。

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