100年後の将棋界はバトル物

第61手 手足の欠損が当たり前になって来た世界

　バカ兄貴のオーラにより生み出された邪龍は消滅した。最強の奥義、『藤井システム』によって。

　後で知ったことなのだが、どうやら『藤井システム』の考案者は、この奥義を使い、ドラゴンになったと言う伝説が残されているようだ。龍には龍でと言うわけだったのか。

「バカな…！振り飛車如きに俺の邪龍がやられただと！？」

　驚きの表情を隠せないバカ兄貴。正直なところ、ここにいる誰もが驚いているであろう。ロリコン師匠にあんな隠し技があっただなんて…。

「底歩（そこふ）の相手もしたい所だけど、僕、疲れちゃった。あとは、みんな頼むよ。」

　師匠は、オーラ切れらしく、バカ兄貴に背を向けると、俺らの所に向かってとぼとぼ歩いて来た。

「くそ…こうなれば、一人一人殺してやる…！」

　すると突然バカ兄貴がブラックホールでワープし、俺の目の前に現れた！

「なっ…！？」

　そして、俺の腕を掴み、ブラックホール内へと引きずりこもうとする。

　しまった！

「たれぞー！」

　俺がブラックホールに完全に引きずり込まれる寸前、なんと香が自ら一緒に中へと飛び込んで来た。

　おい、何でついて来たんだ！？

　今、俺らがいるのはブラックホールの空間内。俺、香、バカ兄貴の3人だけしかいない世界だ。

「香…！お前…！？」

「あ…？そりゃ、お前が一人で勝てるわけないだろうが！？」

　く…！まぁ、つべこべ言ってももう遅い。こうなれば二人でバカ兄貴を倒すしかない。

「たれぞーの女も一緒に来たか…。しかし、極玉（ごくぎょく）を手にした俺の前では、一人も二人も変わらないだろう。」

「あ？あたしは、たれぞーの女じゃねぇぞ！マジ、ぶっ殺すからな！」

　香（かおり）はキレて、バカ兄貴に突っ込む。香の言葉に少し落ち込みつつも、香の足手まといにならないように俺も斬を手にして走る。

「中々、筋のいい攻めだ。」

　バカ兄貴も斬を構えた。

「香！絶対に斬には触れるなよ！」

「当たり前だろうが！」

　香は、水の力で、斬による攻撃の軌道を逸らし、オーラを込めた飛車をぶつける隙を伺う。俺も、バカ兄貴の背後から挟み撃ちをする形で斬を持ち、斬りつけるタイミングを待つ。

「くそっ！たれぞーのバカ兄貴、動きが早ぇな！」

　香と俺は、体力だけが徐々に奪われて行く。二人による挟撃体制だが、全くバカ兄貴は隙を見せない。それどころか、二人を同時に相手にしているのに、カウンターまで狙い始めた。

「上部ばかり手厚くして、下はガラ空きだ。」

　バカ兄貴が激しい攻防の中で、香の足を払った。バランスを崩す香。ふわっと体が宙に舞う。

「先ずは女の方からだ。」

　倒れそうになる香に斬を振りかざす。

「危ない！」

　俺は、瞬間的に香を庇ってしまった。

　バカ兄貴の前に飛び込んでしまい、両足首から先が斬り落とされた。