第12手 日本将棋連盟の会長が日本人じゃない世界

 俺は、かおりほし六段と共に師匠の所へ向かった。師匠は、俺らの話を一通り聞くと、俺ら3人を日本将棋連盟のトップである人物の元へと連れて行った。


「そうか。『る将』からの挑戦状か。実に面白いと思わないかね? 毒島ぶすじまくん。」


 パンロング・ヨウ・ジャック会長。


 この目力の強い、白髪頭のじいさんが将棋連盟の会長である。俺は、普段話す機会は滅多に無いが、あまり得意なタイプではない。


「いやー、この子達の話を聞く限りだとね。その『殺る将』の人、中々の強敵だと思うんだけどね。」


 師匠は、頭をボリボリ掻きながら言う。


「プロが『殺る将』に負けることなどない。我々がすべきことは、常にプロの指す将棋との違いを見せることじゃないのかね? 中山なかやま 金太郎きんたろうは、無属性だから負けた? 盤外戦だから負けた? そんな言い訳はいらぬ!」


「おい、ジジィ! てめぇ、会長だか何だから知らねぇがよ! 同じ棋士が傷ついてんだ! 労いの言葉、一つや二つぐらいかけてもいいんじゃねぇか!?」


「おい、香! 抑えろ!」


 ジャック会長に殴りかかろうとする香の腕を俺は必死に掴む。


毒島ぶすじまくん。君が26歳以下の若手を7名今ここで推薦しなさい。」


 暴れる香のことなど眼中に入れず、話を進めるジャック会長。


「いやー、若手じゃなくて、ボクぐらいの年齢のおっさんやおばさんが行った方がいいんじゃないの?」


「ならぬ。ベテランが動く必要などたい。ただ、『殺る将』には、敵わないと言うことを見せつけるのだ。格の違いをだ。」


「んー、会長、ボクはね、もし若手棋士が万が一にでも殺されて、欠けてしまったら駄目だと思うんだ。この子らは、将棋界の宝なんだよ。」


 珍しく良いこと言うじゃねぇか、ロリコン師匠。


毒島ぶすじまくん。君の何もかもを信頼しているが足りないの物が一つある。それは勝ちへの執着だ。もそうだったんじゃないのか?」


「……。」


 何だよ、この緊迫した空気は! 香は、まだ俺の腕の中で暴れているし。


「もうこれ以上は言わせぬ。7人を今すぐ君が推薦しなさい。」


 困り切った顔の師匠。


「だぁー! じゃあ、一人は、このあたしじゃ、ボケジジィ!」


 香のバカ。


「それと、あとは、この羽野はの 垂歩たれふを連れて行くぜ、クソジジィ!」


 なぜ、俺も巻き込む。


毒島ぶすじまくん。自分の弟子が自ら志願したぞ?」


「ボクは、自分の弟子なら信頼しているよ? だけど…」


毒島ぶすじま先生…わたくしを推薦してくださるかしら? わたくしは『殺る将』に負ける気など毛頭ございませんから大丈夫です。」


 星六段まで…


「やはり、万田まんだ七段の門下だけあるな。」


 皮肉ったらしく言うなよクソジジィ。


「おい、クソジジィ! あとは、あたしのダチの天音あまね姉妹、それとさっきやられた金太郎きんたろうを連れて行って、今度こそ勝たせて来る! どうだ!?」


 勝手に決めまくる香。師匠も、そんな香を止める気が無いような表情をしている。


「あと一人、足りないようだが?」


 確かに。


 俺らと同い年ぐらいで気軽に頼めそうなやついたか? 色々と同期の顔を思い浮かべていたが思いつかない。


 悩んでいる最中。


「それなら僕が行くよ、会長。」


 突如、部屋の扉が開く。


「お前か…お前が行くなら一先ず安心だな。四五六しごむ名人…。」


 俺は生で初めて見た。史上最年少名人、佐藤 四五六しごむ


「話は外で聞いてたから、大丈夫だよ。」


「決まったようだね。毒島ぶすじまくん。」


 ジャック会長は、立派な椅子をくるっと回転させて、俺らに背を向けた。


「やれやれ…てことで、会長。ここにいるメンバーと、先程口頭で述べたメンバーの合わせて7人を推薦します。これでいいの?」


 師匠の問いにしばらく無言の会長。


「ああ。明日はよろしく頼むよ。君たち…」


 会長は、窓から外の景色を眺めながら静かに言葉を発した。俺は、窓に反射して映る、ジャック会長の目が怖かった。


 ————————————

《プロ棋士データベース、その2》


 篠崎しのざき かおり六段(15歳)


 12歳プロデビュー

 毒島ぶすじま あゆむ門下

 浮き飛車党

 属性:水

 得意戦法:大島おおしま流浮き飛車びしゃ引きかく戦法


 レーティング:14100

(棋力10700、オーラ力3400)

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