100年後の将棋界はバトル物

ぷいゔぃとん

第1局 近未来将棋篇

初手 飛車や車が空を飛び交う世界

 21XX年。


 車は空を飛んでいる。AIの発達で進化を続ける世界は、将棋にだって例外ではなかった。


 俺は、パソコンの前でとある将棋の生中継を観ていた。


 第173期名人戦七番勝負の最終局。


 将棋界では、『闇の帝王』の異名で恐れられている狂死きょうし 惡乱わるらん名人。


 それに対するは、という偉業を成し遂げるべく闘う『光の貴公子』、佐藤さとう 四五六しごむ


 奇しくも、将棋界一の闇属性と光属性を操る者達の闘いだ。


 将棋は数百年の歴史をかけて大きく進化した。以前の9×9の盤ではなく、49×49のマス目どころか、高さA、B、Cが加わった異常なまでに巨大化した将棋盤! そして何よりも、AIの発達により俺らプロ棋士は属性を司ることが可能になった。


 その結果、作戦の幅は当然広がり、ついには対局者への直接攻撃すら認められるようになったのだ。


「クソッタレが! 名人の座は絶対に譲らんぞ! 俺の闇に呑まれて、二度と将棋を指せなくなるがいい!」


 狂死きょうし名人の周りをとてつもない闇のオーラが取り巻く。


「とんでもないオーラだ…。だけど…。」


 佐藤は、口元の血を手で拭うと、盤上にあったを静かに手に取った。佐藤は、強力な飛車ひしゃを失っている為に明らかな劣勢だった。


 誰もが狂死きょうしの勝利で終わると思っていた。


 しかし…。


 この小学生棋士は違った。


「残念だけど、闇属性は光に弱い…。歩が一枚あれば、僕は勝てる…!」


 佐藤は、体に残った全てのオーラを歩に注入する。激しい光に歩が包まれた。


「何!? まだそんな力を残していたのかッ! まさか、この最後の一手の為に!?」


 驚きを隠し切れない様子の狂死きょうし


「次の時代…僕が名人の座は貰うよ!」


「くっ…クソがッ!!」


 二人は互いに属性が込められた駒を投げ合った。空中で激しくぶつかり合い、そして大爆発が起こった。パソコンの画面に集中していた俺は、余りの衝撃で椅子から転げ落ちそうになった。


 そして、爆発で起きた煙は段々と晴れて行き、そこには倒れた狂死きょうし名人の姿が映し出されていた。


 これが、史上初の小学生名人誕生の瞬間だった。


 そして、この頃は誰も、将棋が宇宙規模の大バトルになるとは知る由もなかった。


 ————————————


《100年後の将棋について、その1》


 一歩千金


 歩は一マス先にしか進めないが、決して弱い駒ではない。歩ですらオーラの使い方次第では大逆転することも可能だ。

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