第92手 絶対絶命の世界

 嘘…だろ?


 あの攻撃でも死なないのかよ…!?


「絶対に君たちは許さないよ。」


 突如として将棋星人は、火属性と風属性を纏わせた飛車を、俺らが集まっている中心部に向かって投げつけて来た。


「みんな! できる限り遠くへ飛べ…!」


 鶏王けいおうが叫ぶ。香が俺の体を抱えて、遠くへと運ぼうとする。しかし、これだと回避が間に合わない! 俺は、少し全身の痛みも和らいで来たので、なんとか力を振り絞り、光属性を纏って数十メートル先へと光速移動した。


 そして、その僅か1秒も経たない内に、将棋星人が投げた飛車は大爆発を起こしたのだ。


「たれぞー…! す、すまねぇ、助かった…!」


「ああ…! それよりも…みんなは無事なのか…!?」


 目で見える範囲だと、素早い猫王にゃんおうと、空を飛べる星六段、鶏王けいおうは無事であるようだった。


 段々と煙が晴れ渡って来る。


 すると…。


「リン…!」


 ランの声。


 なんとリンが、あの大爆発から咄嗟に、ラン、よもぎ五段を庇ったようで、背中に大火傷を負っていた。


「よ、良かった…。無事…で…。」


 背中の皮膚は真っ黒焦げで、全身のあらゆる箇所から出血もある。


 リンが崩れるようにバタンと倒れた。


「リン…! 大丈夫!? ねぇ、リン!?」


 ランが、リンの肩に手を当て、意識の有無を確認する。


「大丈夫…。な、なんとか生きている…よ。」


 意識も一応はしっかりしている。しかし、生易しい怪我ではない。明らかに一刻を争うような状態だ。


 そんな中。


「君ら双子でしょ? 仲良く死になよ?」


 将棋星人は、いきなりブラックホールでランの背後へ移動すると、同時に二枚の飛車をリンに投げつけた。


 飛車には、強烈なスピンがかかっており、命中するやいなや、肉や骨を抉りながら体内へと入って行った。


 気持ち悪い音がする。


「うっ…! ぐあっ!?」


 一つは右胸、一つは左脇腹に風穴を空けた。血を吐き、膝をつくラン。


「さあ、二人まとめてトドメだよ?」


 次は斬を両手に構えている。


「にゃ、危ない!」


 絶体絶命の瞬間、『雷神猫らいじんにゃんもぉど』の猫王にゃんおうが、超人的なスピードで将棋星人と天音姉妹の間に割って入ると、鋭い爪で斬を受け止めた。


「自分から死にに来たの?」


 将棋星人は、笑みを浮かべながら太い腕に力を込めた。すると、猫王の爪は見事にスパッと切断されてしまった。


「にゃ、オレの爪が…!?」


「爪だけじゃないよ?」


 なんと! いつの間にか猫王の尻尾までもが切断されていた!


 地面に落ちている尻尾を見つめる猫王。


「にゃにゃにゃー!?」


 悶絶。


「死ね。」


 更に、凄まじい風のオーラを纏った歩をぶつけられ、全身を切り刻まれる猫王。地面をゴロゴロと転がり、ぐったりとしてしまった。


 圧倒的だった。

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