第93手 将棋の神様が微笑む世界

 次々に倒れて行く仲間達。


 圧倒的な強さを誇る将棋星人を前にして、何故だか今の俺は凄く冷静だった。誰がどう見ても不利な局面だろうが、俺は違った。


「た、たれぞー! お前、手が…!」


 俺はこんなにも絶望的な状況なのに、何故だか勝ち筋が見えてしまっていた。


 勝てる。


 俺は、全身の痛みをすっかり忘れて斬をしっかり手にしていた。


「ん? 覚醒したのかい? 地球人でも神の領域に足を踏み入れることができるんだね。でも、君ごときが覚醒したぐらいじゃボクを倒せないよ?」


 そう、俺は最初から一人で戦ってなんかいない。これまでの短い将棋人生を振り返っても、いつだって一人じゃなかった。


 俺の側には仲間が居たから。


 将棋は一人じゃできないんだ。


 憎かった…これまで戦って来た強敵達の存在ですら、今ならゆるせる。


 今だってそうだ。将棋星人を前にしても将棋を楽しめている。


 将棋の神様、ごめんなさい。俺らは間違っていました。また、再出発します。


 …!


 だから、最後にもう一度だけ奇跡を起こしてください。


「俺らはこれからも…このメンバーで将棋を指し続ける…! もう誰も傷付かない将棋を…!」


 右手に斬、左手に飛車を。


 新たれぞーシステムは進化する。俺らは将棋と共に成長するんだ!


「たれぞー、あたしも準備できたぞ。」


 香が俺の横に立つ。


 香も震えていた。


「ま…まさか、それは! ふざけるな! 人間の分際で達していい領域を遥かに超えているぞ…!」


 将棋の神は、それでも俺らに微笑んでくれたんだ。間違いを犯し続けた俺らに対しても。


 香も、飛車に水属性をたっぷりと込める。


「香、終わらせるぞ。」


「ああ。」


 俺と香は同時に飛車を投げた。


 俺は、従来の新たれぞーシステム同様に、その二枚の飛車の上に跳び乗る。


「真っ直ぐ突っ込んで来たか!? カ、カウンターを喰らわせてやる!」


 悪いな。真っ直ぐは真っ直ぐだが、香の水属性もあるんだぜ?


 俺は、以前放った技の応用を実戦にぶつけた。香が飛車に込めた水属性が、将棋星人の周りを球状に包み込む。


 俺は、飛車に乗ったまま、その中に突っ込んだ。何度も何度も水の中で屈折を起こし、何度も何度も将棋星人を斬で刻んだ。


 その数、ほぼ無限に等しい。


 光の速さを舐めるなよ?


 地球を舐めるなよ?


「ち…ちくしょー…! ボクが…ち…地球人ご…とき…に…」

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