第20手 将棋で手が切断される世界

バカ兄貴とロリコン師匠が顔見知りだと?そんなの初耳だ。


「いやー、底歩そこふ。随分と暴れてくれたみたいだねー。」


師匠は、辺りを見回し、悲惨な現状を把握する。


豊田とよたちゃん、怪我人を連れて、病院まで行ってくれ。ボクと、たれぞー、それから名人がここに残って、底歩そこふは仕留めるから。」


師匠は、懐からを数枚取り出すと、俺、金太郎、四五六しごむ名人を囲む闇の炎へと投げつけた。すると、師匠が込めた闇のオーラが、闇の炎を見事に搔き消した。同属性に対して、しかも、でこの威力なのは流石だ。更には、どこかの病院へ繋がるであろう、ブラックホールまで出現させた。


「よし、かおりちゃんも!豊田ちゃん、金太郎くんと協力して、怪我人を急いで運んでちょうだい。まだ、重症の二人も微かだけどオーラが残っている。蘇生が間に合うかもしれないよ?」


「あ…おう…!」


香は、珍しく師匠の指示に従い、盤上を離れた。そして、安全な所に移動させた、ランを肩で担ぐ。


「たれぞー、てめぇ、足引っ張るなよ!」


「任せろ…お前こそ、みんなを頼んだぞ。」


香は、俺の言葉が聞こえたのかどうか知らないが、返事もせず、師匠が作ったブラックホールにせっせと入っていった。それから豊田先生が星六段を運び、金太郎がリンを運んでいった。


「なんとか…助かればいいね。」


師匠は、そう呟いて、みんなが入って行ったブラックホールを消した。


「さあ、底歩そこふを入れて、そちらは4人。ボクらは3人だ。気合いを入れないとね。」


そう、頭数だけで考えたら、こちらの方が不利だ。でも、師匠と名人は、将棋界では、トップクラスの強さを誇る。いくら、状況が一目不利に見えても、悲観する必要は無いだろう。


だが、バカ兄貴はここで意外な言葉を言い放った。


「この3人は俺一人で殺す。こちらもこれ以上犠牲者を増やすのは困るからな。お前ら3人は先に帰ってくれ。」


バカ兄貴は、やはりバカだった。1vs3で戦うつもりなのか?


底歩そこふ。まあ、を使うつもりだろうが、油断はするな?まだ、試作段階ではあるからな?」


「ああ、分かっている。」


バカ兄貴がブラックホールを作り出す。


「頼んだぞ、底歩そこふ。」


まだ正体の明らかになっていないフード野郎3人は、怪しげな言葉を残し、ブラックホールへ入り、姿を眩ました。しかし、先程喋ったフードの男。あの男の声も聞き覚えがあるような…。


「おい、毒島ぶすじま…。いい加減、ここに来れた理由の種明かしをしてもらおうか?」


「あー、知りたいかい?」


あ、それは俺も知りたい。


「たれぞーさ、鶏王けいおう戦の予選3回戦前に、香から特性投げ飛車ネックレス貰ったでしょ?」


あー、確かに俺は香から御守りとして以前受け取った。


「あれ、ほんとはボクの手作りなんだ。ごめんねー。」


おぇぇぇええ!!!


「ふざけんなっ!俺は香の手作りだと思ったから、頬っぺたにスリスリしたりもしたんだぞ!?」


「ボクが香ちゃんに御守りとしてプレゼントしたのに、いらないからたれぞーにやったんだろうねー。」


そうか、それであの香が俺にあんな物をくれたって訳か。今でも大事に首から下げてしまっている。


「でね、それにボクのオーラもたっぷり込めたからさ、それを目印にここまで飛んで来たわけ。」


成る程。納得したが、俺は聞きたくない情報だった。


「そうか、お陰で俺らの計画は少しばかり崩れてしまったな…」


バカ兄貴の体から、突然恐ろしい程のオーラが溢れ出る。


「えっ?」


俺は、恐怖で足が震えた。師匠どころか、現在将棋界ナンバーワンのオーラ力を誇る、四五六しごむ名人のオーラの2倍以上は上回っていた。


これは、人間が扱えるオーラ量じゃない!


「来るよ…!みんな全力で構えてね!」


師匠が注意を促すが、もう遅かった。


「先ずは、お前だ、たれぞー。」


気づいたら、兄貴は俺の後ろにいた。


「あっ…!」


バカ兄貴が、『ざん』の駒で、俺の右手首をスパッと切断した。宙に舞う俺の右手。


ヤバい。


噴水のように血が噴き出た。痛い。これは、死ぬかも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る