第23手 手が生えてくる世界

 あの壮絶な戦いから半月が経った。


 俺は、その内の半分以上を病院のベッドの上で過ごす羽目になってしまった。こうして生きているだけでも、良かったのだろうか?バカ兄貴との最悪な形での再会…。またいつか、殺し合わなければいけないのだろうか。


 今回の『殺る将』事件の主犯が俺の兄・底歩そこふであることを、師匠と豊田とよた先生が、ジャック会長へと話したらしい。ジャック会長は、俺らが、バカ兄貴達を仕留めそこなったことに対して不満を並べていたらしい。そして、それをたまたま耳にしたかおりが、会長の前で大暴れしたとも聞いた。


「それにしても、羽野はのくん、生えかけの手、可愛いねー。」


「うん!小さい指が生えかけてるよ…」


 動物を見るような目で俺を見るんじゃねぇよ。


 この俺に失礼発言をしたのは、双子姉妹の天音あまね リン五段と、そして、ラン五段だ。


 あの戦いで、一度『覚醒』したリンは、気を失ったものの、傷一つなくこの通りだ。


 一方のランは、内臓破裂が数カ所あり、生死の狭間を彷徨っていたらしいが、なんとかAIによる最新の治療の甲斐があり、現在では筋トレを再開するにまで回復したようだ。


「羽野五段も、わたくしのように義手を付けてはどうかしら?わたくしも、暫くは手が生えて来ないみたいですから。」


 星六段も生きていた。全身に大火傷を負い、眼球は潰れ、鼓膜は破れの重体だったらしいが、こちらも最先端の医療のお陰で、あとは手が生えてくるのを待つのみになっている。


 文字通り、みんな死にそうになりながら戦って、結果がどうであれこうやって生きているんだ。


「ほんと、お前ら死にかけやがってよ!あたしがどれだけ世話してやったか知らんだろーが!」


 かおりはテーブルの上に足を乗せ、恩着せがましいことを言いやがる。


 今日は、あの時のメンバーで集まって打ち上げをしている。ただ、四五六しごむ名人だけは、来なかった。どうやら、負けたことに相当ショックを受け、さらに修行を続けているらしい。小学生の癖して、相当にプライドが高いようだ。


 まあ、確かに俺らも、うかうかはしていられない。


 何故なら、明日からは、4大タイトルの一つ、猫王にゃんおう戦の予選が始まるからだ。


 先ずはこのタイトルを手にして、将棋界に名を刻んでやる!


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 ☆第2局 殺る将篇 完結


 次回より


 新章『猫王にゃんおうの野望篇』


 始動!

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