第40手 闇の瘴気で人体が破壊される世界

「わりぃな…きなこ五段…うっ…ゴホッ!ゲェッ!」


「しゃ…喋ったらいけません!」


 きなこ五段は、俺の腹部に手を当て、聖属性のオーラをどんどん送ってくれる。先程、星六段の治療も行った為か、きなこ五段は辛そうな表情だ。迷惑をかけている自分自身が本当に情けない。


 そう言えば…かおりは大丈夫なのか…?


 俺は、首だけをなんとか動かし、香がいる方を見る。


 香は…今にも倒れそうな状態でフラフラしていた。呼吸も荒い。


「はぁ…はぁ…」


 香の両鼻からは、鼻血が出ている。


 そして、香の側には、香の本来の対戦相手であったはずの大隣おおとなり四段が、既に血を流し倒れていた。


「お前のような小娘の攻撃が、俺に届くとでも思っているのか?ほれ、闇の瘴気しょうきに体が耐えられていないではないか?」


 闇の瘴気…それは、将棋界一の闇属性を誇る、狂死の特有能力。あまりにオーラ力が高い為、近くにいる生物の細胞を少しずつ破壊していくのだ。


「あたしは…将来名人になるんだ…。てめぇみたいなおっさんに負けるかってんだ…うっ!…オエッ!」


 香が突然嘔吐した。


 鼻血もさっきから流れ続けているし、既に、闇の瘴気にかなり肉体がやられているようだ。このままだと闇にジワジワと侵食やれ、死んでしまう。


「げほっ…!ハァハァ…あたしはなぁ…おめぇみたいなバカは眼中にねぇ…!本当に将棋が好きな奴と…タイトル戦で…名人戦で戦うまで死なねぇんだ…!」


 香は、飛車にオーラを込める。


「そうか…。しかし、残念だがその夢は叶わない。今からここで死ね!」


 狂死きょうしも飛車に大量のオーラを込める。弱っているかおりとは、桁違いのオーラだ。


 二人は、飛車を互いに投げ合った。


 香に勝ち目は無い…!このままだと殺されてしまう!俺は、きなこ五段のお陰で少しだけ回復した体を無理矢理起こし、光属性を体に纏うことで超速移動をした。


「てめぇ…!かおりに手を出すんじゃ…ねぇよ!!」


 俺は、香の顔面目前に迫った狂死きょうしの飛車を、ギリギリのところで『斬』の駒で真っ二つにした。



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