第32手 ナックル回転で勝つ世界

 俺は奇跡的に五段トーナメント決勝まで進むことができた。


 相手は、香山かやま きなこ五段。年齢は14歳の女子中学生。準決勝で戦った、谷田たにだ よもぎ五段の同門だ。


 今回、先手は俺だ。


「手加減はしねぇぞ…」


 俺は、圧をかけ、そして飛車をそっとCまで浮かせる。


「えっ!いや、私その…!聖属性でして…バリヤーとか傷の回復しかできないんです!だ…だからそんなに本気になられたら…私、怖いです!」


 マジか。そんなこと言われたら攻撃しにくいじゃないか。それにしても、よく決勝まで来れたもんだな…


 よもぎ五段は、モジモジしながら飛車をCまで浮かせた。


 よもぎ五段の聖属性は、やはり将棋向けではないようだ。オーラからは威圧を感じない。俺は、できる限り早く終わらせようと、歩を投げつけ、敵陣破壊を試みた。


「お前を直接狙うつもりはないからな!」


「で…でも駒が飛んできたら怖いです…!」


 俺は、本人を直接狙う訳ではない。敵陣の守り駒目掛けて歩を投げつけた。しかし…


「バ…バリヤー…!」


 なんと、俺が狙った付近に、光輝くバリヤーが本当に現れ、俺の歩が弾き返されたのだ。


「なに…!?」


 コイツ、意外に厄介だぞ。本当にバリヤーを出せるのか。俺は、一旦冷静になり、駒が飛び交う激しい将棋は避けることにした。


 だが、それは相手にとって、思うツボであった。


 オーラが使えない将棋となれば、俺は弱い。俺の玉はどんどん追い詰められる。光属性の特権である二手指しでもこのザマだ。


 俺はこの対局に負けても、予選通過は可能だが、優勝した方が本戦トーナメントで良い位置に入れるのだ。それ故にここで勝つ意味は十分ある。


 何か一発逆転の勝負手は無いものか…


 ひたすら考え続けた結果、俺は、一つの賭けにでることにした。


 俺は静かに飛車を手にする。


「え…飛車が当たったら怪我しちゃうよ!やめて!」


 きなこ五段は、慌てふためいている。


「だから、お前に当てることはないから大丈夫だって…!」


 そう、狙うは玉だけだ…


 俺は、しっかり玉に狙いを定め、そして投げた。


「バ…バリヤー!」


 飛車の軌道をいち早く察知し、玉の上部にバリヤーを張るきなこ五段。


 だが、勿論こうなることは分かっていた!


 よし、落ちろ!


 俺の投げた飛車は、きなこ五段の目測よりも早くストンと落ちた。バリヤーの手前で盤へと落下する。


 俺が投げた飛車はナックル回転。


 そして、下からならば、バリヤーの内側へ潜り込むことができる!


 光属性の特性を活かすのは今だ!こうやって、バリヤーの下に潜り込めた飛車は、込められた光属性により、無防備な玉に向かって再び動き、そして盤外へ弾き飛ばした。


「俺の勝ちだ…!」


 なんと俺は、五段トーナメントにおいて奇跡の優勝を果たした。

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