第7話 三者繚乱 その1



「オラァ!!」

 ウシオマルの、煉瓦の床を砕かんばかりの踏み込みから振り下ろされる斬撃。

 そのあまりの早さと力強さに驚愕し、相手はたまらず正面から受け止める。

「……!」

「おお、よう受けた。まずはお見事じゃが、『反発』の術式は刻印しておらんのか? それとも発動させる暇すらなかったか? お姫様ならこれくらいの斬撃は、難なく捌くじゃろうがのう!」

 相手は衝撃に手が痺れ、終始押されている。

 そのまま、鍔迫り合いというほどのものさえ起こす暇も与えず、ウシオマルは、自身の刀の何倍も厚みも太さもある相手の両手剣を、空高くに跳ね上げた。

「ちぇいさァ!」

 そして掛け声とともに、刀の白刃ではなく、峰で、相手を振りぬく。

 腹部へ強烈な打撃が直撃し、敵は十数ミター(1ミター=1メートル)吹っ飛び、そのまま立ち上がらなくなった。「防護」の魔術の強度が甘ければ、内臓破裂を起こしているかもしれないが、とりあえず生きてはいるようだ。

「安心せい! 峰打ちじゃあ! もっとも白刃だったなら、今頃真っ二つだったじゃろうがのう! ……っと!」

 すぐさま新手である。

 二刀流の短剣の使い手だ。ウシオマルは一瞬にして間合いをつめられた。

 金属同士が打ち合う音が、周囲に無数にこだまする。不利な間合いに飛び込まれたことと手数の多さで、ウシオマルは防御での対応がメインとなっており、徐々に後退を始めた。

 ―――だが、不適な笑みは消えていない。

 ついにはウシオマルの防御が一瞬こじ開けられた。

 その隙に相手の一閃が襲い掛かる。が、ウシオマルは後方に跳び、刀を構えなおす。

「中々―――疾い。じゃが―――」

 ウシオマルの左手が淡く光りを放ち始めた。

 だが、構うことなく、敵はウシオマルの篭手を短剣で打つべく、斬撃を放つ。

 既に刀で受ける時間はない。左手が切り落とされる―――。

「そう思ったのか? 残念じゃなあ」

「……!」

 敵の「鋭利」の魔術は確かに発動しており、その斬撃は、ウシオマルの「防護」の壁を切り裂き、無防備状態の肉と骨を断つのに十分に足るものだった。

「ワシはのう、『軽量』の術式は一切刻印しておらんのじゃ。そんな『重い』術式は必要ないからのう! その浮いた容量のぶんを、こういう魔術の強化に当てとるっちゅうわけじゃ!」

 短剣の白刃は、ウシオマルの肉を1メリ(1メリ=1ミリメートル)ほど食い込ませたところで止まっていた。

「硬化」の魔術を左腕に発動させ、皮膚や肉そのものを、まるで鉄のように硬化させたのだ。

 鈍器などには効果がうすいが、軽量武器の斬撃に対しては、肉体を護る最後の砦となる戦闘魔術である。

 先ほどの打ち合いで、ウシオマルは相手の斬撃の威力を見切り、耐えれると確信したからこそ、敢えて誘いをかけたのだ。

 たらり、と僅かな出血と痛みはあるが、ウシオマルは全く意に介さない。そのまま、短剣を跳ね上げ、相手の体勢を崩した。

 が、敵もただでは転ぶまいと、まだ間合いの範囲内にある左手の短剣でウシオマルに刺突を仕掛ける―――が、ウシオマルはそれをしっかりと刀で受け流し、完全に無防備になった相手の首根を掴んだ。

「くらいなァ!」 

 そして顔面に向かって、思い切り頭突きを叩き込んだ。

 鼻骨が完全に粉砕し、脳震盪まで誘発させたようで、敵はその場に気絶した。

「ご愁傷様じゃな。ワシの石頭は岩も砕くぜ」

 ウシオマルはコキコキと首を鳴らしたあと、自身の防衛範囲にいる残りの一人を挑発した。

 いや―――むしろそれは脅迫に近かった。

「―――さて、これで二人。オラ、どうした。かかってこんかい!」


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