ドライブイン安土 不退転5

 議論は白熱・・・って事もなく、案外早く終わった。触らぬ祟りにではないが、上杉が領土野心で戦をしているのではない事。

 今回の能登での侵攻は飽くまで、本願寺及び将軍からの激にて行った事だと普通にゲロったのだ。いや、謙信はそんな単純な事ではない。


 「我は飽くまで将軍の声に集いを上げたまで。それと、我が宿敵が目指した京を見たくなったまで。だが、この者が言うには我もその夢半ばに病にて死んでいたそうだ」


 「ふん」


 その謙信の寿命や病の事は信長に何も言っていないが、後でドヤされそうだけど、然も信長も知ってたような口ぶりの返事をしたのみだった。


 「で、上杉は何を望む」


 「上杉家の静謐、天下の静謐。民の静謐。我が望むものをこの3つ。織田領に来る前は我が織田に取って代わり、天下の静謐を差配しようか思うておったが間違いである。

 当初は賤しい銭で人を動かすなぞ、志の無くなった人形のする事だと思っていたが、存外に民の顔は良い。我が越後よりかもな。

 織田の治世は良いという事。このまま他国の民も美濃や近江のように取り扱うなら我としては織田がする事には何も言わん。

 関東管領・・・これだけは譲れないがな」


 「もし拒否すれば?」


 「そうならば、この男との約束は破る事になるが、織田家を完膚なきまでに追い込んでやろう。貴様とはまだ殺り合っていないであろう?」


 「面白い事を言う。どうしても戦いたいと言うならば相手してやっても良いが、その時はお主は間違いなく死ぬぞ。

 北陸に持って行った武器は旧式のような物じゃ。幾分かの兵は大筒で木っ端微塵となったであろう?あれの大きな砲を織田軍は持っている。

 つまらぬ戦で兵を失うのは領主として失格ぞ。そんな事よりかは戦なんぞ早くに終わらし、互いが互いの国を切磋琢磨して発展させる方が良いかとワシは思うがな。

 お主は戦が生き甲斐のような口振りだが、戦が無くなる世が怖いようにも聞こえる」


 「あぁ。そうだ。我が求めるは闘争。戦は好きだ。だが、そんな時代もいつかは終わる。分かってはいる。国同士が戦い疲弊するのは民だ。だが、織田から我を見て、ただの戦狂いと見られるのは心外だ。

 こう見えて越後もそれなりに良い国ぞ?戦をするのに民に悪政を敷いては兵が集まらぬ。兵糧が集まらぬ。故に我は1番に民の事を思っている」


 「それも戦に関連してじゃな。道理は別に何でも良い。ワシは早くに日の本を一つにし、海の向こうの外国に日の本を食い物にされたくないだけだ。戦はまだまだ終わらぬぞ。ワシもこう見えて、敵をどの軍でどのようにして倒すのが最善手か考えるのは好きだ」


 「面白い男だ。武田尊。この男の言った言のままで良い。西は魚津城周辺、南は帰雲城周辺を緩衝地帯とし、我から織田に攻め込む事は辞めよう」


 「ふん。人質はどうするのじゃ?」


 「上杉からは我の姉を人質として送る。それと我は隠居致す。正式に次代の上杉が決まれば知らせる。これは此奴との約束だ。我は約束は破りたくないでな」


 「は?隠居だと!?」


 「おかしいか?」


 「いや。何でもない。ならばワシも同腹の妹を出そう。少しお転婆ではあるがそれは許せ。それと、もし西国との戦で手が足りぬ時は兵を出してくれるのか?」


 「言ったであろう?その時は我は隠居している。次代の上杉家当主が出すと言ったならば好きに使えば良い。我はこれから能登と加賀の取り決めをさっさと行い、政務をこなして、この者が出す酒をたらふく飲んで過ごしたい。肴も楽しみではあるがな」


 「そうか。誠に隠居生活を迎えたいようだな」


 「あぁ。不思議な力・・・まうんてんフジとやらでこの女とこの男が開発した枕にて寝たのだが、夢現にて宿敵と話してな。古き時代もいつかは終わり、新しく変革する。我は戦は強いが銭戦争には織田に勝てぬ。だが、帝を蔑ろにするような政策をするならば我はいつでも牙を剥くぞ。覚えておけ」


 「言うではないか。安心せよ。ワシは日の本を一つにはするが、王にはならん。ただ、外国に日の本を荒らされる事だけは許せん。パアデレや伴天連に好き勝手されるのが許せん」


 「一理ある。堺では人攫いが偶にあると我の目から聞いた事がある」


 「草か。軒猿と言ったか。ワシが堺を支配しだしてからは少なくなっているはずだが、隠れて身寄りもない若い女や男を売って、小銭を稼いでいる奴が居る。必ずこれに関与した者は根斬りとするつもりだ」


 「うむ。その事を放っておけば・・・いや、良い。 まぁ同盟みたいなものだ。これから日がな一日を過ごす訳だ。もちろん越後の発展も考えてくれているのであろう?びいる、澄み酒は交易品に入れてくれるよな?」


 「あぁ。品物の出はほぼ、尊からだと思ってもらえれば良い。これ以上本当に領土野心に燃えぬのなら関東管領・・・これだけは約束致す。

 ワシはこう見えて人を見る目だけはある方だと思っている。敢えて言おう。関東管領 上杉不識庵謙信。織田は上杉を信用致す」


 「ふぁっふぁっふぁっ!小気味良い。存分に日の本を統べるが良い。織田が好き勝手すると言うのならば、我はいつだって牙を剥けるように鍛錬はしておこう。それと・・・同盟を結ぶにあたり、織田の領内へは普通に入っても良いのか?」


 「ふん。断る道理はなかろう。毎度毎度、饗宴のような事は出来ぬぞ?聞けば、かなりの酒豪だと伺っておる」


 「越後人は酒は誰にも負けぬからな!もちろん我もだ!」


 「ほぅ?いつぞや、近衛から聞いたが、薩摩の田舎武士の・・・島津何某の家では兵も武士も皆が酒は浴びる程強いと聞いたぞ?」


 「ふぁっふぁっふぁっ!越後人に敵うはずなかろう。噂とは尾鰭ついて流るるものだ!島津とは聞いた事はないが、その者と相対する時があるとすれば我を呼べ!我とその島津何某とやらの酒比べぞ!」


 和やかな雰囲気になりかけだ。が、残念だが謙信にはそんなに酒は送らん。いや、本能寺の変らしき事が終わればどうでもいいが、せっかく治したものをまた病気を繰り返してもらいたくないからな。


 「で、上杉軍は織田に降るという体で良いか?」


 「本願寺の件か?」


 「あぁ。お主がどう思うかは分からぬが、本願寺にはかなり煮湯を飲まされている」


 「言い分は分かる。とりあえずは我は加賀や能登に展開させている兵を一度退かせよう。其方も兵を一度退かせよ」


 双方、まずは簡単で実に単純な『兵を退かせる』という事で取り決めは決まった。その後の事は追々、決めていくとのこと。

 オレ?あぁ。この後こっぴどく信長に怒られたわけだ。『上杉を治したのか!?』や、『放って野垂れ死にさせれば良いものをッ!』などだ。

 だが、心なしか信長の顔は穏やかになっているのも分かった。事、上杉に関しては本当に信用しているのだろう。後方をまったく気にしなくてよくなったわけだ。

 恐らく、本願寺は風前の灯・・・。将軍は毛利家預かりだが、難癖付けて毛利ごと滅ぼす事になるだろう。秀吉の中国攻めの間に明智が四国にちょっかいを出し・・・。う〜ん。考える事がいっぱいだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ったく!勝手な事ばかりしおって!」


 「申し訳ありません。いつかこの事が分かってもらえる日が来ると・・・」


 「ふん。らしくない!いつぞやから、言えぬ事、必要な事とばかり含みのある事を言いよって。だがまぁ良い。後方の憂いは無くなった。それに上杉から言質ももらった。将軍と本願寺じゃ。毛利には監督不届きとでも帝に言い、毛利討伐の勅命を引き出させる。

 正々堂々と毛利を滅ぼしてやる。で、だ。貴様が上杉と介したのだから貴様が上杉の抑え役となれ。ワシも彼奴は信用はしておるが、ワシは彼奴は苦手だ」


 「苦手ですか?」


 「あぁ。正式に人質交換した折にまたこちらへ来ると言っていた。『ふぁっふぁっふぁっ!我の酒が飲めぬとは言わぬよのう?』と言っておったからな。ワシは上杉が来る頃に大坂にでも向かう。一応織田家の家督は信忠じゃしな。ちょうど良いであろう。貴様が補佐せぃ!(ゴツン)」


 「痛っ!」


 「ふん。これにてこの件は終いじゃ。一度だけ言う。満足な結果ではないにしろ、よくぞ最小の損害で上杉を止めたな。あの男はワシが見ても領土野心はあまり無いと見える。

 つまり、能登、加賀で上杉を止めたというわけだ。あんな田舎なんぞ要らん。

 まぁ、貴様が言う、ズワイガニやふぐ、牡蠣、ノドグロなる魚やなんかは惜しいがな」


 「あぁ・・・特産品的なアレですか?それは上杉様の家の者に取り方作り方、養殖の仕方など覚えれば2年後くらいには食べられるんじゃないですかね?それに、あの人は無類の酒好きでしょう?酒作りなんかも教えれば大人しくしてると思いますよ?少し自分から話したら食い付いていましたよ」


 「ふん。まぁ最初は高く付いたかと思うたが、終わってみれば安いもんよ。これから兵を退かせる。ワシは西に集中する。貴様はいつでも動けるようにだけしておけ」


 「了解致しました」


 〜近江 ドライブイン安土 店内〜


 「ふぁっふぁっふぁっ!これも土産として持って帰るぞ!ほぅ?これも良いのか?千坂!早く積み込め!これが生ハムなる物か?(ハムッ)ぬぉ!これは良い!塩加減が絶妙ではないか!千坂ッ!これも積み込めぃ!」


 「御実城様!これ以上は・・・」


 「上杉様!?あなたはオレを破産させる気っすか!?店の酒も殆ど乗せているじゃないすか!?」


 「ふぁっふぁっふぁっ!面白い事を言う!あの甲賀の事は織田にも内緒にしているのであろう?会話と行動を見れば我は直ぐに分かった!だから話を合わせてやったのだぞ!?その礼と考えれば安いであろう?

 案ずるな!我は言われたくない事や言いたくない事、内緒事は誰にも漏らした事はない男ぞ!近い内に必ず来る。今一度・・・我が宿敵と相対したい!勝つるまで川中島で戦うぞ!」


 「ハァー・・・。まぁ分かりました。他にも面白い合戦なんかもありますので、上杉様ならどうやって戦うか教えてください」


 「うむ!まるで浮世の世界じゃった。久しぶりに国許を離れたがこんなにも差があるとはな!あぁ。すまん。この薬は誠に恩に着る。我の腹心にな?病の者が居るのだが、その者はまだ死なせたくないでな」


 「直江様でしたよね?」


 「そうだ。あの者も治ればここへ来させるとしよう。お主も困った事があれば我を頼れ!それにお主も一度、春日山まで来い!じゃあな!世話になった!」


 「あっ!酒の量は守ってくださいね!塩を肴にとかふざけないでくださいね!?」


 「任されい!お主が作った物を食べてから考えが変わった!もっと色々な酒を飲むには適度が1番だからな!千坂ッ!帰るぞ!」

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