ドライブイン安土 大躍進12-2

 「ゴホンッ。オレは安土近くで、しがない飯屋の店主です。そして、ここの店主でもあります。単刀直入にお聞きしても?」


 「う、うむ。店主殿か・・・」


 「えっと貴方は・・・能登の方面から・・・(パラ)橘さんという名前ですか。ふ〜ん。では時間ももったいないので・・・あなたのお名前は内ヶ島様などではございませんか?」


 「「「!?!?!?!?!?」」」


 名簿の紙を見ながらオレは疑問を口にした。まぁオレも帰雲城と言えば内ヶ島の城という事しか知らないが・・・、この3人の表情を見れば答えが分かった。うん。当たりだ。

 

 「帰雲城 城主 内ヶ島様一行ですね?先も言ったように時間が惜しいのです。このオレに対して・・・と言えば偉そうに聞こえるかもしれませんが、オレに対しての返答次第で、上様が軍を仕向けるかどうか決まると心得てください」


 「と、殿・・・ここは正直に・・・」


 「う、うむ・・・。偽名を使った事は謝罪致す。そ、某は飛騨 帰雲城 城主 内ヶ島氏理と申す」


 やはり当たりだ。ってか、当主が普通に遊びに来たりするもんなんだな。


 オレは横に控えている冬の蝶さんに頷く。明らかに動揺しているからだ。別に詰問をしに来てる訳ではないからな。


 「まぁまぁ・・・尊様が、あぁやって言ってますが、まずは一献いかがですか?(トクトクトク)」


 「あ、あぁ・・・すまぬな」


 「まぁオレも偉そうに仰々しく言いましたが、あなたを評価しておりますよ」


 「え!?山に囲まれた我等の事を知っていると!?」


 あ、うん。未来のドキュメンタリードラマで上杉家支配内の姉小路何某家の攻撃を確か二回撃退してたっけ?まぁ年代的にまだ一回しか攻められていないと思うけど。


 「えぇ。情報は大切ですからね。上杉家支配内の姉小路何某からの攻撃を防いだと伺っておりますが?」


 「う、うむ・・・」


 あれ!?予想外な反応だな!?いや、確かに上杉本隊じゃないにしろ、この内ヶ島って人からは猛将のような気概は感じられない。


 「まぁ、悪いようにはしません。一度上様とお会いしてはいかがでしょうか?何も全てを和協せよとは言いません。その代わり・・・山の一つ、二つ程は融通してもらいたいですがいかがですか?」


 「や、山と申しますか・・・」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 「ほう?其方が帰雲城 城主 内ヶ島殿か。噂は伺っておる。上杉家に連なる者を撃退したとな?まぁ飲んでください(トクトクトク)」


 「か、辱い・・・(グビッ)」


 安土城 館までやってきた。信長にもちゃんと芝居をしてもらうように言っている。姉小路の件やらはオレが伝えた訳だが、どうもこの人に武勇の臭いが感じられない。だが、供として来ている二人は名前こそ聞かなかったし、内ヶ島にかなり忠誠を抱いているように見えるが、この二人は猛将の類のように見える。

 何故そんな事が分かるかって?それはこの時代に来てなんとなくそう思うからだ。理由はそれだけだが、だが・・・間違いない。信長に対しても畏怖してるように思わないからだ。


 「さぁさぁ。供の御二人も」


 「いえ。某は結構。これ以上は飲めませぬ」


 「うむ。これ以上飲めば何かあった時に前後不覚になるやもと」


 「ふん。そうか。此奴からもある程度聞いたであろう」


 二人が返答すると、信長はさっそく演技を辞めた。オレは思う。信長は演技が下手くそ過ぎなのと、自分が話の中心に居ないと機嫌が悪くなるということだ。


 「当主に代わり某が」


 「いや、ワシは内ヶ島氏理殿に聞いておる。先も言った通り、お主らは山間の豪族のようなものだ。いや、言葉悪いが他意はない」


 いやいや、他意はないじゃなくて、一応城主に向かって言う言葉じゃないだろ!?


 「言葉が過ぎるのでは?」


 「ほぅ?では織田と事を成す腹積りか?こちらとしては一向に構わんが?」


 (パタン パタン パタン)


 ダメだこりゃ。『一向に構わんが?』じゃねーよ!?あぁ〜あ。不機嫌な時にする扇子パタンパタンまで始めたよ。このまま放っておけば・・・


 『スベテヲハイニイタセ モヤシツクセ』


 信長専用魔法を唱えそうだ。


 ってかそもそも、20日は猶予くれるんじゃなかったのかよ!?


 「ゴホンッ。上様。お任せ下さい。

 当主、内ヶ島様にお聞きします。恐らく、山間で中々娯楽も少なく楽しみも少ないため、わざわざ甲賀までお忍びでこられたのでは?と愚行致します。もし、織田家に協力するならばこれより飛騨 白川付近は飛騨で1番発展する事となるでしょう」


 「店主殿・・・いや、尊殿は何を考えているのか?」


 「まぁ白川付近は本当に山ですからね。その白川付近に一風変わった建物でも建てて、保養地として宿屋などしてみれば良いのでは?山を切り拓き、あなた達が【錦屋 慶次】で食べていた肉などの畜産地などでも良いかと思いますよ。織田家が買い取りますよ」


 「そんな事でもすれば、たちまち上杉家が・・・」


 「その上杉家が居なくなればどうなりますかね?織田家が後ろ盾になれば・・・」


 「尊。そんな煩わしい言い方をするでない。聞け。お主等は万事、織田家に任せておけば良い。上杉が攻めて来たと言えど捨て石なぞにはせぬ。それと独立も許そう。ただ、山の一つ二つは融通せよ。ただそれだけじゃ。それとも誠に白川を灰燼にされる事をお望みか?」


 ほら出た。すぐに『灰燼』とか言うんだからな。


 「と、殿ここは・・・」


 「いや、三島。それに西園寺。許せ。そもそもおかしな話なのだ。俺は戦は嫌いだ。だが、自分に流れる内ヶ島の血は変えられぬ。俺は武勇も、てんで駄目。先の姉小路の軍も金や銀で素浪人を集めお主等に任せておっただけじゃ。いつまでもそれが出るとも限らぬ。ならば今や畿内で知らぬ者が居ない織田家に忠節を誓う事こそ、お家を残す最善の策かと思う。

 俺は皆と酒を飲み、美味い物を食べ、笑って暮らせれば良い」


 清々しいまでの口上だな。まぁけど、勝てない相手に無駄に抗い、犠牲を増やすよりかは良い判断だ。それと、やはり姉小路何某との戦は金、銀で人を集め撃退したんだな。

 なら何故この家臣の三島、西園寺って人がこんな当主に従うのか。それは、恐らくこの内ヶ島氏理が武勇は本当になさそうだが、性格が良いのと、これも恐らくだが、民にも優しいのだろう。

 白川は小さい。民は未だ見ていないから判断はできないが、武家が贅沢できるくらいの人も少ない筈だ。 だから徴発して米やら何かを奪っているのではなく、金、銀を使い他国から米や何かも仕入れたりして飢えたりしないようにしているのだろう。


 「良い判断である。後程、書状を作る。この者を連れて一度、帰雲城を案内してもらいたい。まぁこのまま手ぶらで帰らすのは忍び無い。誰ぞある!」


 「はっ。遠藤ここに」


 「今から言う物を揃えよ。直ちにな」


 ってかこの者を連れてって・・・。まぁオレだろうな。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 (ドドドドドドドドドド)


 「ぬっ・・・誠、これは・・・」


 次の日さっそく向かう事となった。一度、店の方に戻りレベルの上がったタブレットから清水の舞台から飛び降りる勢いで【ケッテンクラート】という物を購入した。

 ケッテンクラートとはなんぞや!?と思うだろう。簡単に言えば、第二次大戦時代のドイツ軍の半装軌車なのだそうだ。前はバイク、後輪がトラックのようなキャタピラだ。

 何より・・・荷台が大きく、スピードこそ時速40キロ程しか出せないが、人を一度に10名程、運べるという事だ。

 これを100万円で購入したのだ。織田家から貰った銭を大盤振る舞いでタブレットに吸い込ませた。いや、レベルが上がり、割引やらなんやら色々できてこの値段だ。何もなければ大概ヤバかったと思う。


 同行者は、例の3人。内ヶ島、三島、西園寺。オレ達はオレ、清さん、カナ、竹中だ。どうも信長はそこまで帰雲城を重要視していないみたいで、金が出ればそれはそれで良いくらいの雰囲気だ。そんな事よりかは、対上杉の拠点としての方を重要視してる節を感じた。


 竹中半兵衛が何故着いて来たか。例の薬で病み上がりながらこの人が今孔明と言われるのが分かった。


 まずその前にルートをおさらいしよう。まず甲賀から岐阜城まで向かう。そこで小休止の後、美濃から北陸街道に向かう。ここで信長が『半兵衛を連れていけ。役に立つ』と言った意味が分かった。


 そのルート上にある郡上八幡城に向かうのだがこの城・・・


 「えぇ。美濃斎藤家時代に少し・・・ゴホンッ。まぁなんと言いますか。その当時の当主はどっち付かずのような性格でしてね。尻をせっつき回したのですよ」


 「え!?尻を!?」


 「私は男色は好みませぬ。言葉の比喩ですよ。少し以前の当主とは確執がありますが、今の当主とは何もございません。それに上様の小姓筆頭の遠藤殿と縁戚ですからね」


 なんとあのいつも気苦労をしてそうな遠藤さんと関わりがあるようだ。ここで一泊した後、帰雲城まで向かう。


 岐阜城までは難なく到着する。いつかの軽トラや原付きでの信長暴走があったせいなのか、領民からはまったく何も無かった。寧ろ、オレの涙と血と汗の結晶100万円で購入したケッテンクラートを見ても・・・


 『おっ!どらいぶいんのがやっておるな!」


 『店主!そんなの購入できるようにまでなったのか!さすが、南蛮仕込みだ!』


 『あれ?出店かい?』


 などなど・・・。少しくらいは驚いてほしいものだ。オレがこの時代の人ならば普通に卒倒するレベルだと思うんだが!?


 で、その岐阜城で小休止の時だ。


 「うむ。ではこの竹中にお任せあれ。美濃に近い帰雲城だが、山間で何も無い所だが、これからはこの尊殿を通して100万石の村を作ろうではないか」


 「ひゃ、100万石とな!?」


 オレは病み上がりの癖に何言ってるんだか。と思っていたが、これがまたこの人は凄い。口が上手い。本人も未だあまり分かっていないだろう、畜産の事や美濃や近江のオレが出した色々な野菜や果物の苗や種なんかを無償提供すると大きく話していた。

 オレとしては最初から銭は取るつもりもなかったのに、


 『いやいや、私が上様に掛け合ったのですよ、内ヶ島殿の領地を飢えさせるのはよろしくないと。えぇ。織田に降った事を後悔なんてさせるはずありません』


 このように嘘八百言ってるのだが、これがまた聞く人は耳を傾けてしまう抑揚と表情。その会話の途中でさらりと、


 「では領地に関しては飽くまで内ヶ島殿は独立領主として。ですので、これはまた視察してからになりますが、金山、銀山の採掘や運搬などは内ヶ島家にて持っていただきますよう」


 「なっ!?それでは話が・・・」


 「え?話とは?独立を保ちたいのでしょう?それを織田家として呑んだわけです。しかも内政干渉をしないとこのように(パサッ)紙にまで記しましたよ?つまりは兵力の差や国力の差はあれど、謂わば対等みたいなものですよね?採掘や輸送、仕分けと織田家で持てというならばこれはまた話が変わってきますよ?

 私は内ヶ島殿が独立を貫きたいと申す故に上様に言って、物資を無償提供するように言ったのですがね?」


 現代ヤクザも真っ青な詭弁を然も当たり前のように言う。しかも信長と物理的に連絡が取れない距離に来てからだ。いや、トランシーバーで連絡は取れるのだが、相手は分からないだろう。オレは話に入れない。というか、こういう仕掛けに素人が口を挟むのはよくない。


 「ック・・・・」


 「おや?別に私にはいくらイライラしてくれても構いませんが、間違っても上様にそのような顔をしない方が良いかと思いますよ?織田家に採掘や輸送などを任せる。内ヶ島家は何もしないと言うならば、山の一つや二つでは利きませんよ?金山銀山鉱山の5つくらいは欲しい所ですがね」


 半兵衛がそう言うとオレに目配せしてきた。いや、ここでオレにどうしろと!?


 「まぁですが、上様は尊殿に一任していますからね。ここからは尊殿に変わりましょうか」


 そう言うと耳打ちしてきた。


 (人心掌握のような事ですよ。私が憎まれ役を負いましょう。尊殿は甘く言いなさい。さすれば内ヶ島一族は尊殿に忠誠を誓うでしょう)


 この事でオレはこの半兵衛こと、竹中半兵衛の事を今孔明と言われるが所以かと思った。全て演技だとオレは分かる。分かるけど、演技と知らなければ本当かと思うくらいに言葉のイントネーション、表情、身振り手振りが違和感がないからだ。


 「まぁ竹中様の言う事も内ヶ島様の言い分も分かります。お互いがお互いに妥協できる所はしましょう。何もかも織田家に差配されても面白くないでしょう?」


 「う、うむ・・・。とりあえずは、我が城へ案内したい」


 郡上八幡城には竹中家からの伝令の人が先触れを出してくれていたようで、急遽訪れたというのにビックリするような歓待だった。


 「さぁさぁ!巷では武器開発も担っていると言われる尊様!岐阜城みたいに煌びやかではございませんが、どうかここ郡上八幡城にて疲れを癒していただきたい!某、城主の遠藤左馬助慶隆と申します!」


 どことなく、小姓の遠藤さんと縁戚だと納得してしまうくらいに言動が似ている。聞けば、遠藤さんを通して、オレが作った・・・、太郎君や次郎君が作った物もあるが、弁当やら砂糖、酒など色々贈り物を貰っているらしい。


 そして、その夜飯の時に待遇の差があった。


 「さぁさぁ!尊様はさぞお疲れでしょう!どうぞこれへ!」


 「なっ・・・私の分が些か少ないように思いますが?」


 「チッ。竹中は病み上がりなんだろう?それだけ食べれれば上等ではないか。もそっと欲しいなら自分でよそえ。小さき時、お前におちょくられた事は忘れていないぞ」


 今孔明の半兵衛とオレ達の待遇の差が顕著に飯に出ていた。ってか、半兵衛・・・オレと出会った時はかなりしんどそうだったが、この人はかなり・・・いや、何でもない。

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