ドライブイン安土 新生13
「そこで何を騒いでおる!!」
オレ達の荷物をばら撒いて一つ一つ確認されていると、かなりの人だかりができていた。荷物といっても、肩掛けバッグに栄養ドリンクと、申し訳程度の飴玉、チョコ、タブレットと銭1貫を入れてるだけだ。
まぁタブレットの中には色々入ってはいるから持ち出さなくてもいいんだけど、見せ掛けみたいなものだ。
それらをばら撒いて説明をしていた所に現れた。秀吉本人だ。知らない女を2人も連れている。女ったらしめ!
「殿!申し訳ござらん。この者が怪しい奴かと思い、身を検めていたところにございます」
「うん?尊?尊ではないか!!来るなら来ると触れを出せば迎えを寄越してやったのに!おい!お前!この者が誰か分かっておるのか!?ワシの友だ!その友にこんな恥辱を犯してただで済むと思うのか!?あん!?」
やっぱこの人も武将だ。背も低いし、怪しい感じはするけど、オーラは本物だ。
「も、申し訳ございません!直ぐに腹を召す準備を致します故」
「ちょ!ちょっとタイム!いや、待ってください!羽柴様も!こんな事で腹なんて斬らさなくていいですから!寧ろ腹を斬らせるというなら、今後オレは羽柴様とお付き合いしませんよ!」
「なに!?ふん。そういう事だ!お前!尊に感謝しろ!2度目はないぞ!分かったなら行け!」
戦国武将怖い。こんな事で腹斬らないといけないなんてやってられないよな。
「御免・・・・」
あの人も仕事してただけだもんな。惨い。
「ところで・・・何用じゃ?」
「あ、いえ。馬を購入したいと思いましてね」
「馬?」
「えぇ。馬です」
そこからは話が早かった。オレが『馬くらい簡単に乗りたい。その為に軍馬を売ってる長浜へと来た』と秀吉に言ったら、ニタァ〜と屈託のない笑顔で笑い・・・
「着いて来い。その書状の相手はワシも知っている」
と、言い、秀吉の小姓で、史実での賤ヶ岳7本槍の1人で有名な加藤嘉明になるだろう、加藤茂勝という子にゴニョゴニョと秀吉は耳元で言い、先走りしていった。
「羽柴様?わざわざそんな手の込んだ事などしてもらわなくても、まずは見てみようくらいだったのですが・・・」
「いやいや!気にするでない!ワシの直感でな?お主は今後、もっともっと織田家で上にいくと思っておるのじゃ!何かあればワシを助けてほしいと思うからのう!その恩は売れる時に売っておくのじゃ!」
本当に気を遣ってくれてるようにも見えるし、打算的にこんな事をしてるようにも見える。この人は本当に分からない。
少し歩くとでかい馬小屋へと到着した。長浜の馬小屋は牧場に近い感じだ。30メートルくらいだろうか。木柵で囲って、少し馬が走れるように作られている。その横では夕方なのに、兵隊の人が普通に鉄砲を撃っていた。
「ここじゃ。馬に平時から鉄砲の音を聞かせ、合戦にも慣れさせておるのじゃ。それとな・・・先の小姓の茂勝じゃが、彼奴は幼少の頃に馬の行商の丁稚でな?それで、ワシの領地では馬の売買なども盛んに行っているのだ」
「そうだったのですね」
加藤嘉明は元は馬の行商を手伝っていたのか。これは初耳だ。初代松山藩、陸奥会津藩の藩主って事しか覚えてなかったわ。
「それにしても、五郎左殿の娘子は身長が高いのう?側室の女は普通のように見えるのにな」
「いえ。この子は側室じゃないですよ?オレと同郷ってだけですよ」
「ほうほう。ではワシが狙っても良いのか?カッカッカッカッ!」
「あ、私は生涯独り身の予定ですので、誰に何を言われようが靡く事はありませんよ。銭をいくら積まれようが、まぁ尊様なら分からないでもありませんが」
「つれない女じゃのう。何やら色々と開発をしておるのがこの女じゃろう?」
な!?何でその事を知っているんだ!?『甲賀村の事は秘匿せよ』と信長に言われたから誰にも言ってないし、信長以外は見せていないんだぞ!?
「うむ。今の反応で分かった。やはり上様とお主は何かしておるのだな。尊はもう少し反応を隠す練習をする事だな」
ック・・・嵌められたか。だが、やっぱこの人の勘はすげぇ〜わ。
「ここだけの話・・・秘密にしろと言われているので勘弁してください」
「当たり前じゃ。勝手に上様を探って首は斬られとうない(ヒヒィーンッ)」
「秀吉ちゃ〜ん!久しぶりねぇ〜!」
「グッ・・・オカマ・・・」
「あらやだ!?良い男じゃないかぃ!(サワサワ)」
「ヒィ〜!!」
「その辺にせい!この者はワシの友だ。なんぞ、気性が激しくない軍馬を見繕ってくれ」
このオカマの人こそ、例の佐和山の馬屋の弟さんらしい。まさかオカマだとは思わなかった。出会って5秒で股を触られるとは思わなかった。勘弁してほしい。マジで。
「いきなり冷たいじゃなーい?秀吉ちゃん?」
「やめぃ!やめぃ!その気色悪い声を出すでない!なぁ?尊?この者はこんな感じだが、馬の目利きと射撃の腕はピカ一じゃ。許せ」
「・・・・・天誅!!(ブォンッ シュッ)」
「お、え!?清さん!?」
「チッ。女持ちかぃ。せっかく良い男だと思ったのに」
いや、このオカマさんマジかよ!?スーパー強化してる清さんの鞘ではあるが、一撃を避けたぞ!?
「娘!お主も勘弁してやってくれ。これ以上は目を瞑れなくなる」
「尊さま・・・羽柴様。申し訳ありません。尊さまへの軽口に耐えられませんでした」
「まぁ良い。おい!お前も本当に辞めておけ」
「もう!そんな怖い声出さないでよ〜」
聞けば、このオカマさんと佐和山に居るお兄さんは秀吉が個人的に昔からの知り合いだから、こんな軽い呼び方ができるそうな。
「(ブルッ ブルッ ブルッ)お待たせ〜!この子と、(グッグッグッ)この子なんでどうかしら?」
「おい!それはお主以外、誰も近付かん奴ではないか!近寄らせるな!怪我したくない!」
連れて来られた2頭の内、1頭は本当に大人しそうな子だ。だが、残りの方は・・・
「(ガジガジガジガジ)この子は性格こそ難があるけど、体躯も大きいし、粘り強い走りをするのよねぇ〜。もしかすればこの子の貰い手になってくれるかと思って連れてきたのよ〜。けど、やめておこうかしらねぇ〜」
「マスター!この子達は買ってください!絶対に!」
「うん?ますたぁ?なんだそれは?」
「あっ、羽柴様すいません!カナとオレの間での呼び方です!南蛮の言葉でのお館様という言い方みたいな感じです!」
「マスター!是非!」
カナは何か馬と話してるから分かるのだろう。けど・・・
「(ブボォォッ)こら!折角、あんたの貰い手が決まりそうなんだ!大人しくしやれ!」
明らかにオレに向き歯をし、明らかに馬の鳴き声とは程遠いヤバそうな鳴き声な件について。
「あぁ!もう!羽柴様!この馬2頭とも買わせてください!」
「なっ!?いや、こっちはまだ分かるぞ!?確かに大人しいし、些か頼りない感じはするが、初めての馬にしては勿体無いくらいではあるからな。だが、こっちは人を何人か骨折させておるような駄馬じゃぞ!?いいのか!?」
「大丈夫です!買います!」
「まぁ尊がそこまで言うならいいが・・・。銭は構わん。ワシが出しておこう」
「いやいやそんな訳にはいけません!」
「いや、元よりそうするつもりだったのだ。その代わり、何かあればお主とそこの町娘の格好をした同郷という女の知恵も貸してくれ」
またあの眼だ。少し透かしたような眼。この人は偶にこういう眼をするんだ。だから心から信用できないんだよな。
「さっきから言ってますが、何かあるのですか?」
「ここだけの話だ。上様は毛利を討つおつもりだ。元は阿波の三好を牽制するために、但馬や播磨、備前のあたりを互いの緩衝地帯とし、互いに友好関係を築いてきた。瀬戸の海も、上様は毛利や小早川を刺激しないようにわざわざ気を遣い、瀬戸の海の東部しか支配しないように心遣いを見せておった。じゃが・・・」
「えぇ。直接的ではないとしても、村上水軍を使い、間接的に本願寺側に立ったと」
「そんな簡単な話ではないのだがな。まず、お館様は独立領主なぞ認めておらん。毛利が『織田の下で』と言ったなら違ったやもしれぬが、毛利も中国の大領地の大名だ。退けぬであろうな。だから、上様は、関白左大臣である近衛前久殿を使い、薩摩、肥後に出向させ、大友や島津等を講和させ南から圧力かけようとしている」
「島津・・・」
「うん?知っているのか?」
「え?あ、いやいや。知りはしませんが、とりあえず関わらない方がいい家の人達です!絶対に!」
「うん?知らんと言っておるが、知ってる口振りではないか」
「と、とにかく!あそこは関わらない方が身の為です!1仕掛けたら10で返ってくると思っておいた方が・・・」
「カッカッカッカッ!んな事はどこでも一緒じゃ!ワシは九州の田舎大名等なんかより、キレた上様の方が恐ろしいと思うぞ!浅井親子、朝倉の頭蓋を使った盃の時はおっかなかったぞ?」
髑髏盃・・・あれ実話なんだ・・・。
「確かにそれはそれでヤバそうですね・・・」
「うむ。ワシは上様が1番怖い。怒らせることなかれ。で、ワシが中国攻めに抜擢されたのだ。今はまだ準備段階ではあるがな。出羽介様を総大将に置いて、毛利は中国地方は織田家の領地となるだろう」
出羽介・・・織田信忠の官位名か。いやそれより、もう中国攻めが始まるのか。この人もその中国攻めの一つの・・・三木の干殺しをするのだよな。
「はーい。準備できたわよ〜!この子は本当に誰も懐かないから馬番に気をつけるように言うのよ?(ウフンッ)」
「は、はぃ・・・」
このオカマさんのウィンクとナヨナヨした動きはオレを状態異常にさせるような力がある。信長とは違う強力な魔法のように思う。
「まぁ、そういう事だ!その中国の折に困った事があれば助けてくれ!そう簡単に毛利を攻め落とす事はできないだろうからな」
「まぁ分かりました。オレができる事なら必ず致します。では、ここは甘える事にします。ありがとうございます!」
「うむ!お主も励め!じゃあな!」
オレ達はそのまま長浜を後にした。
「良かったわね〜。秀吉ちゃん」
「もう良せ」
「はっ」
「お前から見てあの女はどうだった?」
「はっ。あの奥方は女の割に凄まじい剛の力でした。が、カナという女は・・・やり合えば1合で終わったでしょうな」
「ふん。さすが、我が弟の秀長よ」
「逆です。自分が殺されていたという事です」
「なに!?お主がか!?」
「えぇ。闘気は感じられませんでしたが、何か得体の知れぬ・・・なんと言えばいいか分かりませんが、何をしても通用しそうにない何かを感じました。やはりあの男には近付き過ぎない程度に留める方が良いかと」
「そうか。お主がそこまで言うのは珍しい。では、彼奴にはそれなりの距離感で、恩を売る事に徹する事とする。それにしても変装は見破られなかったな」
「クッフッフッ。自分の変装はそこら辺の野良と同じではありません。なんせ、実在の者と同じ性格を真似ていますからな!」
「流石、我が弟よ。で、実際の馬番の奴は?」
「切り刻んで埋めておりますよ」
「そうか。兄が佐和山に居ると言っていた。時間差で消しておけ」
「御意」
カナに買った馬を制御してもらい、清さんに大人しい方を制御してもらい、佐和山に戻った時は既に暗くなり始めた頃だ。そうなると往来の人は本当に少なくなる。
オレは直ぐにお礼を言おうと例の馬屋さんに出向く。
「お〜う!兄ちゃん!弟と出会えたんだな!?ちと、変わった性格をしていたろう?ほう?良い馬を買えたんだな!良き!良き!」
「オカ・・・ゴホンッ。あぁいう性格だとは思いませんでしたが、かなりいい方でしたよ!それに羽柴様と昔から知り合いだったのですね?」
「まぁ知り合いという訳でもないだけどな。昔、銭を借りた事があってな。その銭を元手でこの商売を始めたのさ」
「へぇ〜。そうなのですね!本当にこの度はありがとうございました!安土にて、飯屋をしておりますので、良かったら今度お越しください!今回のお礼も考えておりますので!」
「そうかい!そりゃ楽しみだ!近々寄らせてもらうよ!気ぃ〜つけて帰りな!」
お礼を伝えた後、今日は店の方に帰る事にした。
「邪魔するよ〜」
「すまねぇ〜。今日はもう帰るんだ。悪いが明日にしてくれねぇ〜か?」
「クッフッフッ。そうもいけなくてな。悪いが兄上の為に死んでくれ!(パサッ)」
「グッ・・・」
「クッフッフッ。気まぐれであの兄上が銭を貸した者がのうのうと生きて商売までしているとはな。いやはや、恩は色々な所で売るものですなぁ〜。おい!お前等。血も死体も片付けておけ」
「「「はっ!」」」
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