ドライブイン安土 新生14

 店に戻ってきたオレ達。最初から最後までこの馬はオレを威嚇してくる。途中でカナに馬が何を言ってきているのか聞こうかと思ったが、聞かなくてもなんとなく分かったから聞かなかったのだ。

 で、一応店の馬小屋、元車庫に馬を入れて聞いてみる。


 「カナ?一応聞くけど、なにを考えているんだ?」


 「はい。この馬は『我が、人間なんかに屈するものかッ!』と言っております」


 「ははは。やっぱりね。けど、あのオカマには随分と大人しかったように見えたけど?」


 「(ヒヒィーンッ)あれは別枠だそうです。人間以前の問題であれに従わなければいけない。だが、屈服した訳ではない。だ、そうです」


 「まぁ確かにあの人には従わないといけない気がする・・・」


 「・・・・・」


 「尊さま!お風呂沸かしてきますね!」


 「あ、あぁ。よろしくね」


 「ふぅ〜。で、その顔は分かるぞ。何か言いたい事があるんだろう?」


 「えぇ。先程の馬番の方にはお気を付けください。本性は違うようです」


 「うん?あのオカマのこと?」


 「はい。権能が使えないとはいえ、あの者が只者ではない事は分かりました。危害を加えてきそうな気はしませんでしたが、一応マスターにお伝えしておきます。これ以上は人間の営みに入ってしまいますので、勘弁ください」


 「カナがそう言うくらいだから相当だな。分かった気をつけておくよ。なんていうか・・・色々とありがとうね」


 「・・・・こちらこそです。随分とこちらも助かっております」


 「そうだ!最近、一緒にご飯食べていないだろう?いつも五郎君とかに甲賀に出来上がったご飯を持って行ってもらってばかりだから、今日は一緒に食べよう!」


 「ありがとうございます。ではそのように。この馬に関しては明日1日は近付かないようにお願い致します。私が甲賀にて明日調教しますので」


 「調教なんてできるの?」


 「当たり前です!まぁお任せください!」


 どちらにしてもオレはどうにもできないから、オレはカナに任せる事にした。


 とりあえず、吉ちゃんと滝ちゃんにお願いし、プレミアムチモシーという草を餌として与えてもらう事にした。どうやら大人しい馬もあの口の悪い馬の方も一心不乱に草を食べているそうだ。


 「まぁ馬は放っておいてもいいから2人も中においでよ!今日はオレが作るから慶次さんこそ居ないけど、一緒に食べよう!」


 今日のメニューはペペロンチーノだ。メニューにはないパスタだが、個人的にパスタは好きだからそれなりに研究している。


 まず、パスタを茹でる。寸胴鍋に少しの塩を入れる。この塩を加えることで、パスタの弾力を生み出すグルテンがお湯に流れ出にくくなるのと、パスタが吸い上げる水の量も減り、コシも強くなる。

 それと並行して、自家製パンチェッタ・・・まぁベーコンだ。そのベーコンをカリッカリッになるまで炒める。

 ちなみにこの自家製パンチェッタだが、意外にも簡単に作れる。豚バラブロック肉にフォークやパンチャーなどで穴を空ける。そこに天然塩にて肉をコーティングする。言わなくても分かるかとは思うが、肉の中の余分な水分を減らすためだ。

 そして、臭み消しに、ブラックペッパー、ローリエ3枚程、スパイスは好みではあるが、オレはナツメグパウダーを少々振りかけている。別に塩だけでもそれなりにはできる。本当に好みの問題だ。


 これを密封容器に入れて3日間冷蔵庫に入れておく。1日事に、肉からでる水分を捨てて、3日後に流水で塩やスパイスなどを流し落とす。塩抜きが必要に思うだろうが、オレはしない。少し塩辛いくらいがちょうど良いのだ。

 この表面の塩やスパイスを流し落とした後は、キッチンペーパーに包み更に1週間、冷蔵庫で熟成させる。もちろん、キッチンペーパーが役割りを果たしたなら新しいのと交換する。そして出来上がる物が自家製パンチェッタだ。

 通な人なら更に2週間、3週間と熟成させる人も居るだろう。熟成させればさせる程、旨味成分が凝縮され、一度これを食べると、とてもじゃないが、市販のベーコンは食べられなくなるだろう。


 このベーコンを炒めたら、別皿に入れて、同じフライパンで洗わずにオリーブオイルを大匙1加え、刻んだニンニク一斤、鷹の爪を1本輪切りにし、オリーブオイルにニンニクと鷹の爪の匂いを染み込ませる。

 ニンニクが程良く色付いてきたら、ベーコンとパスタを投入!後は絡めるだけだ!


 「(ジュワァ〜)」


 「「「「(ゴグリッ)」」」」


 ふっ。見事に皆、唾を飲み込んだな。基本に忠実に。だが、ワンランク上のご飯。間違いなく美味いと言えるペペロンチーノだ!


 「よしっ!出来上がったよ!皆!食べてほしい!まぁまぁの自信作だよ!」


 「「「「いただきますッ!!」」」」


 「むむむ・・・尊様!こ、これは・・・非常に美味でございます!」


 「私もです!この蔦のような・・・ラーメンとは違う・・・うどんとも違う麺が非常に美味にございます!」


 「マスター!これがパスタですか!!(ズルズルズル)このカリカリの肉が美味しいです!」


 「尊さま・・・うぅ〜ん・・・蕩けそうなくらい美味しいです!!」


 概ね・・・いや、かなり好評のようだ。少し前にミートのペンネは出した事があったが、まさかペペロンチーノがこんなに好評だとは・・・。作って良かった。


 「尊様!もしよろしければ・・・お代わりなんか・・・」


 「あら?吉ちゃんがそんな事言うのは珍しいな!いいよ!間違って慶次さんが居る時と同じ量作ってしまったから、かなり余ってるんだ。慶次さんにも食べさせてあげたかったな」


 ダンダンダンダン


 オレがお代わりを、よそっていると外からドアを叩く音が聞こえた。


 「ヒィ〜!」


 そこにはボロを纏った、体格の良い男が恨めしそうにこちらを覗いていた。


 「おーい!俺だ〜!帰ったぞ!なんか良い匂いがしていると思ったんだ!また俺に内緒でお前達だけで美味しい物食べているんだろう?早く空けてくれ!腹が減った!」


 「はぁ!?慶次さん!?」


 外でボロを纏っていたのは慶次さんだった。


 「おっ!美味そうな匂いだ!それはなんだ!?ラーメンか!?」


 「ってか臭っ!慶次さん!臭すぎ!早く風呂に入ってきて!!」


 「うん?臭うか?まぁ許せ!なんせ2週間は洗ってないからな!わっはっはっはっ!とりあえず軽く報告だけ言うぜ?ここへ帰る前に甲賀に行ったんだ。だが、カナ嬢が店の方に居ると小川の爺から聞いてな?

 で、本願寺の弱体化の件だが、まぁ明日甲賀に向かってくれ。そうすれば分かるはずさ」


 「いや全然報告になってないんだけど?」


 「わっはっはっはっ!全てを聞いても面白くないであろう?とりあえず、尊が言っていた、宗教に狂ってなく、まだ再起を図れそうな社会的弱者だったか?まぁその社会的弱者はそこそこ連れて来たさ。小川の爺に手厚くするように伝えてきた。いやぁ〜、本願寺に入るのには苦労したぜ?久しぶりにハイボールが飲みたい!」


 マジか・・・。慶次さんは適当なように見えてやっぱ凄いわ。やる時はやる人だ。


 「あ、それと・・・向こうでコンドームは使い切ってしまってな?新しく1箱・・いや、念の為に2・・3箱用意してくれないか?飯食った後にコレの所にな?尊も分かるだろう?」


 前言撤回。全てが最後で台無しだわ。


 「(ジュルジュルジュル!ハスッハスッ!ハムッハムッ!)だげるぅ〜!っぱコレだよ!コレ!」


 「行儀悪すぎ!食べるか喋るかどっちかにしたらどうです?パスタにおでんに、チャーハンに、焼肉に・・・どんだけ食べるんすか!?」


 「(ゴグッ ゴグッ!)プッハー!染みる〜!ふぅ〜!俺ぁ〜今、頭から汁が出ているぜ?美味すぎる!尊の飯は格別だ!おい!次郎!お代わり!次はニンニク増し増しのラーメンだ!今宵は1人5発は発射しなくちゃならねぇ〜からな!精力つけておかないとならねぇ〜んだ!」


 「は?」


 「うん?わっはっはっはっ!冗談だ!そんな目で見るなよ!尊!」


 「どうだかな。次郎君!ラーメンの出汁で雑炊でも作ってあげてくれ!米の方が腹が満たされるだろう」


 「御意」


 「ふぅ〜。腹もそこそこ満たされた。で、真面目に言おうか。カナ嬢も座ってくれ」


 慶次さんは真顔になり報告をしてきた。


 「本願寺の坊主は本当に糞だぞ。毎日のように下っ端の者には松の皮をふやかせて食べさせたりして、本人等は米をたらふく食べていた。そして・・・身体が満足に動かない者や、降ろうとしている者を神仏の敵とか織田に通じる者とか言って甚振っていた。まぁ信徒達を抑制するために、憂さ晴らしだな」


 「うわ・・・酷いな・・・」


 「で、やっぱ彼奴等は狂ってるよ。尊が宗教絡みはどうしようもないって言ってた事が分かった」 


 「でも、何人か連れて来たんだよね!?オレはまだ会っていないけど・・・」


 「(ゴグッ ゴグッ)あぁ。仏の事を心酔してる者等はどうしようもできないが、案外下っ端の者はどうにかなってな。というか、『俺に着いてくれば腹いっぱい食わせてやる奴を紹介してやる』と言えば、かなりの者が手を上げてな?本当はそこそこ抜いてやろうかと思ったが、案外上人等が気付くのと、告げ口する奴が居て、早々と退散した訳さ。

 で、堺の知り合いに後事を託してな。其奴には少し物を流してほしい。甲賀の爺さん連中数人を使い少しずつ離反させてしまうのが良い」


 「ってか、何人連れて来たの?」


 「(ゴグッ ゴグッ)プッハー!まぁそれは明日のお楽しみさ。自分の目で見てくれよな?さて・・・とりあえずの仕事は終わった!今宵は帰らないから頼むな!明日の昼には帰る!甲賀で落ち合おう!じゃあな!お!そうだ!そうだ!その堺の知り合いなんだがな?尊と会ってみたいそうだぞ?まぁ、これは来年だな!じゃあな!」


 慶次さんが女の所に行くのはいいとして・・・マジで何人連れて来たんだよ!?


 「ふふふ・・・」


 「あれ?カナ?何で笑ってるの?」


 「いえ。前田様の意図が分かりましてね。恐らく甲賀の状態を見たのでしょう。もしくは、小川様から現在の状況を聞いたのか。甲賀は人が足りません。その人を前田様は見つけて来てくれたのかと思いましてね。先の報告に私は同席する意味は無かったのに、前田様は私に同席を求めました。つまりその連れて来た人は好きに使えという意味だと思います」


 「まぁ、連れて来るだけ連れて来て、放置するのは・・・可哀想だよね。けど、何もしないのに飯だけ食わせる余裕は・・・ない事もないけど、勿体無いよね」


 「任せてくださいますか?」


 「あぁ。カナの好きなようにしていいよ。ただ、酷使だけはしないように!」


 「はい。心得ております。当面は長屋の建設をメインに住居を増やします。恐らく前田様は今回連れて来た者を使い、更に本願寺の信徒を離脱させるおつもりなのかと」


 「離脱した者の受け皿をオレ達がって事?」


 「はい。全員引き受けます。マスターが考えた事では?」当初、私はこの案には噛んでいませんし、敢えて聞きませんでした」


 「なんか、含みのある言い方だな?」


 「私はこの案には反対でしたので、言いませんでした。が、私はマスターの意見には逆らいません」


 「そもそも何で反対なんだ?」


 「・・・・失う物が何もない者は本当に面倒ですよ?マスターがその目で御自分で見極めてください」


 カナはオレ自身が考えるような言い方で締めた。確かに安易な考えだったかもしれない。既に経験もした、オレの倫理観はここでは通用しない。

 だが、オレの勝手な弱者救済という考えのせいでオレは経験する事となる。頭の狂った宗教者は救いようがないという事を・・・。

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