ドライブイン安土 新生15 終
次の日、カナ、オレ、清さんの3人で甲賀村へ向かう事とした。例の馬?あぁ。あれはカナが・・・
「このままこの2頭は私が甲賀へ連れて行きます。えぇ。お任せください。特にこの気性の荒い栗毛の子は鍛え甲斐がありますから。え?こっちの大人しい子ですか?何を言ってるのですか!マスターはこちらの鍛え甲斐がある子に決まってるでしょう?大人しい子は私の愛馬としますね!」
と、オレは大人しい馬の方で良かったのだが、オレの愛馬は気性の荒い子と決まったようだ。清さんは元々の馬が居るから変わりない。うん。いつもの如く今日もオレは清さんの後ろだ。軽トラはお休み中。いや、軽トラで向かっても良かったのだが、今は本当に時間が惜しい。カナの大活躍によって一気に発展していってるからな。馬の調教をしてもらうのに軽トラは使えないからな。
今日はオレが軽く自己紹介して、清さんに医者紛いの問診を軽くして、異常がある人は桜ちゃんや梅ちゃんの早朝出店が終わった時点で診てもらう事となっている。言っても、マジの病気なら栄養ドリンクに頼る他ない。風邪くらいなら総合風邪薬を飲んでもらう。
程なくして甲賀村へと到着する。慶次さんもここで合流する予定となってはいるが、未だ来ていないみたいだ。どうせ昨夜はハッスルしたはずだからな。プレイボーイめ!
「やぁやぁ!我が君!おはようございます!お待ちしておりましたぞ!」
「お、小川さん!?その顔どうしたのですか!?」
出迎えてくれたのはいつもの如くの小川さん。甲賀村を纏めてくれている人だ。最近は、『若い人に村を任せ、できれば我が君の側近に取り立ててほしい』と直談判してきた人だ。
最初こそ、さすが元上忍に近い存在まで登り詰めた人だな!と思ったが、今は違う。話し方こそ未だ崩れては居ないが、酒が入ると素が出てしまうのだが、まぁそこに関しては気にしていない。寧ろ素の方が好ましいとまで思うが、どうやらこの人はオレの事を買い被り過ぎている節がある。
酒を出した席だと・・・
「いやぁ〜!本当に尊様へお仕えできて良かったですぞ!(ゴグッ)がっはっはっ!」
「こちらこそです。色々ありがとうございます。今後もよろしくお願い致しますね」
「なんの!なんの!某が必ずや織田家に過ぎたる者は尊様と周りに言われるように粉骨砕身働きますぞ!のう?皆の者よ!」
「「「オォー!!」」」
「いや、オレはそんなに戦には出るつもりないんですけど?」
「(ゴグッ ゴグッ!ガァー)うっぷ・・・失礼。いやいやいや!そうやって直ぐに謙遜するのですな!あ、これから自分の事をワシと呼んでも?」
「お、お好きなように・・・」
「ふむ。ワシは尊様はやれば何でも出来る人だと思っていたのです!いやぁ〜、誠、心から仕えたいと思ったお方は尊様だけですぞ!あれはワシがガキの時・・・そして、初めての追跡任務の時は・・・六角家にて・・・」
「分かった!分かったですから!皆が自慢できるような主になるように頑張るから!小川さんももう大丈夫ですって!」
「(ゴグッゴグッ)いやいや、なんの!なんの!これから良い所なのですじゃ!いやぁ〜、これも何かの縁ですじゃ!ワシの主は尊様だけですじゃ!いや主ではない・・・我が君・・・そう!尊様は我が君ですじゃ!皆の者!今後、尊様の事は我が君と呼べ!」
はぁ!?我が君とか初めて言われたんだが!?
「小川さん!酔いすぎです!勘弁してください!」
「我が君ぃー!」「我が君様〜!」
「(クスッ)尊さま!良いではありませんか?甲賀者がこんなに忠誠を誓う事があるなんて考えられない事ですよ?これは大殿なんかより、尊さまへの忠誠です!期待に応えてあげないと罰が当たりますよ?ふふふ」
「そうですよ?マスター。こんなにも慕われるなんてそうそうは有り得ませんよ?この者達を大切にしていけば、自ずと下々の方の待遇は変わっていきます。期待に応えてあげましょう!」
「はぁ〜。分かった!分かったよ!」
と、今に至る。まぁ呼び方に関してだけは小川さんだけは『絶対に退くつもりはない!この先何年お仕えできるか分かりませんが、ワシは死んでも我が君にお仕え致しますぞ!』と言い切ったから許す事にした。
死んでまで仕えてくれなくていいんだけど。熱すぎる漢の小川三左衛門。60歳だと本人は言っていたが、かなり元気な人だ。その元気な小川さんの顔が疲れているのが分かる。
あ、ちなみに他の人達に関しては好き好きに呼ばれている。まぁ呼ばれ方なんて馬鹿にされた言い方じゃなければオレは気にしない。我が君は小川さんだけだが、『若様!』とか『若君様!』『尊兄ちゃん!』『尊ちゃん!』などなど・・・。清さんに関しては皆同じで、『奥方様!』だ。カナに関しても皆同じで、『カナ嬢』だ。
何故オレだけこうなるのだろうか。まぁいいけど。
「なんか、ワシの顔が可笑しいですかな!?」
「いや、めっちゃ疲れた顔してません!?」
「まぁ・・・疲れていないと言えば嘘になりますが、昨日、慶次坊が連れて来た農民等に色々と説明をしていたのですじゃ。何回も同じ事聞かれるので、大概イライラしましたが、ワシ等も我が君に最初は同じ事を何回も聞いていましたからな。無下にもできず、受け答えを何度もしていれば一睡もできなくてですね」
「いや、それならそうと言ってください!小川さんは今日は休み!ゆっくり寝てください!」
「いやいや、なんのこれしき!我が君のお側に居れるなら1年だって眠りませんぞ!」
熱い・・・熱すぎる。
「まぁ無理はしないように。どうせ強制的な休日と言っても小川さんは『休日なら何をしようと自由と言われましたよね?ならワシが我が君の後ろを歩くのも自由ですじゃ!』とか言うでしょう?」
「さすが我が君!ワシの事を分かっていただけてるようですな!!がはっはっ!」
「いや、多分誰でも分かると思うけど。それより、新たに迎え入れた人達の所に。カナはこれから1日別行動だろう?」
「はい。このじゃじゃ馬を調教して参ります。少し遠乗りしますので、留守にしますね」
「了解。気を付けてね」
カナは暴れる栗毛馬に無理矢理跨がり、駆けて行った。何をどうするかは敢えて聞かない。神の力でなんとかしそうな気がするからだ。そして、大人しい馬の方は本当に大人しい。寧ろ大丈夫か!?とまで思う。
「えっと・・・確か・・・貴方は黒川さんでしたっけ?」
「おぉ〜!名前を覚えてくださり、ありがとうございます!その通りです!」
「申し訳ないのですが、この子を牧場にお願いできますか?ちょっと失礼・・・よいしょっと・・(ドサァー)」
「おぉ〜!例のマウンテン富士の技でしたね!この草を食べさせれば良いのですか!?」
うん。マウンテン富士って技じゃなく、マウンテン富士で会得した技なんだけど。まぁ嘘だから何でもいいけど。
「他にもリンゴやバナナ、人参なんかもあるから、食べさせてあげてくれます?」
「畏まりました!」
「さぁ!我が君!こちらです!奥方殿もどうぞ!」
案内された所は旧甲賀の人達の家が並ぶ所だった。そこへ行くと既に何十人かの疲れた顔の男女が並んでいた。
「皆の者ッ!!静聴せよッ!このお方が我が君であり、このお方こそが、ここ甲賀を治める御領主様なるぞ!吉之助!昨日、お主が食べた粥の米はこのお方が出して下さったのだ!そこの乳飲み子が居る女!その哺乳瓶なる物に乳と同じ物を用意してくださった方もこのお方なるぞ!さぁ!我が君!どうぞ!」
いやいや、なんちゅう紹介だよ・・・。なんでこんな仰々しくなるんだよ!?しかも哺乳瓶って、確実にカナが出した物だろ!?あれは粉ミルクだろ!?オレはあんな物買った覚えなんてないんだが!?
「ゴホンッ。紹介されました、一応ここ、甲賀を治める領主、織田家 たけ・・・ゴホンッ。尊と申します!皆々様におかれましては本願寺からよくぞ降ってくれました」
「あのう・・・オラ達ぁ〜前田様に、『腹一杯食いたきゃ着いて来い』と言われただけで何も分からんのです」
「オラも頭がよくないから吉之助に着いて来ただけで・・・」
「アタイは・・・坊さんを入れ替わり立ち替わり相手するのがもう嫌だから・・・」
「まぁ人それぞれ理由はあるでしょう。ですが、ここへ来た事はあなた達にとって間違いなく良かった事だと断言致しましょう。まず、衣食住は最低限かもしれませんが、保証しましょう。まずは健康診断を行います。1日、2日くらいは好きなように生活してください。
この小川さんと、黒川さんに分からない事は聞いてください。その生活に慣れたあとは、個人個人で面接をします。各々が何をやりたいか聞いて、極力、希望に沿うようにはしましょう」
この中から更に選抜して本願寺の信徒を減らしたい・・・という事は今は伝えない事にした。変に身構えられるのもダメだからな。
それから少しの雑談タイムとなった。
「我が君様!この油もないのに光のは何故でしょうか!?」
「でんき!?なんですかそれは!?」
「ぬぁ!?火、火が指から!?物怪だぁぁぁぁ〜!!!え!?らいたあ?それがですか!?」
「ふっふっふっ。火を見ると何故か落ち着きます」
「これを腋に挟むのですか?(ピピピピ)ぬぁ!?な、なんだこれは!?え!?平熱!?なんですか!?」
「これが南蛮の手拭いですか?なんて上質な・・・え!?手拭いより大きい!?あ!これが布団と呼ばれる物ですか!?え!?この上で夜に眠るのですか!?」
「おい!皆の衆!これらは我が君がマウンテン富士と呼ばれる秘境にて会得した物だ!他国でこのような物なぞ見た事あるまい?」
「まうんてんふじ?どこですかそこは!?」
「そこへ行くにはまずは下界にて数々の修練を積まねばならぬ。我が君と同じ頂に到達するにはそれはそれは海を越え、山を越えて、それはそれは、仏の道に通ずるものもあると聞いた」
「ほ、仏の道ですか!?ならば、我が君様は僧侶・・・いや、上人のような・・・」
「ふん。ワシはそこら辺の寺の上人なんかより我が君の方が数倍・・・いや、何百倍・・・いや、何千倍と凄い方だと思っている。我が君が本気になれば、昨夜食べさせたイチゴがあるだろう?そのイチゴだろうが、混ざり物が一切ない塩だろうが砂糖だろうが、手から無限に出せるお方だ」
「手から・・・無限に・・・」
オレが少し黙っていればどんどんおかしな方向に小川さんは話を持っていく。どうやって手から無限に物を出すんだよ!?料理はそこそこ修練したつもりだけど、他の事なんか何もしていないぞ!?
そうこう話していれば、太郎君達が朝の営業を終えて、甲賀へとやってきた。
「お待たせ致しました。大津出店隊全て完売です!」
「同じく大津出店隊も完売致しました!」
「お〜う!尊〜!おはようさん!」
ちょうど良いところに慶次さんも来た。うん。首周りにキスマーク多数だ。プレイボーイめ!
「さて・・・先にも言ったように、まずは皆さんの健康状態を見ます!軽くこの桜ちゃんと梅ちゃんが色々聞きますので、ちゃんと答えてくださいね?どこか、痛い所とか、しんどい所なんかあれば嘘を吐かず答えるように!それに合わせて薬をお渡しします!」
「く、薬までいただけるのですか!?もしかして・・・その後、オラ達を試し斬りに使ったり・・・」
「え!?試し斬り!?そんな事する訳ないでしょ!?まぁ、見返りを求めていない訳ではありませんよ?ちゃんと皆さんが働けるようになれば、税なんかを貰う予定です。それでも、他の国よりは安い税にするつもりだし、一定額以上稼げない人からは貰う予定もありませんよ?まぁ、今言っても分からないでしょう。
座学も教えます。算術も少しずつ覚えましょう。国語も教えます。少しずつ楷書文字を覚えましょう!」
本当にやる事が増えた。正月の準備もしなきゃならないし・・・。那古屋にも行かなければならない。まぁ動かないと何も始まらないからな。さて・・・やりますか。
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