ドライブイン安土 新生12

 年の瀬が迫り皆は慌ただしく動いている。佐和山城下の人達も最近では店に足を運んでくれる人も増えて来た。ドライブスルーも周知の事実となり、騎乗できる位の人もそれなりに来ている。

 てるさんが、裁縫の仕事に入り、ドライブスルーの人手がなくなったわけだが、そこは吉ちゃん、滝ちゃんにヘルプで入ってもらっている。


 慶次さんは、上手く本願寺への行商人と称して入り込めたと飛脚の人から手紙を貰った。若干名の人が慶次さんに従って、本願寺から降ってくるらしい。

 手紙には・・・


 『人生折り返しを迎え、お迎えもいつ来てもおかしくない奴を選別した。その者を尊が面倒見て、例の栄養ドリンクなる物にて復活させろ。そして、その者に餅でも持たせ、年内最後の行商の中に組入れろ。そうすればかなりの人間がお前の元へと来る』


 と、書かれていた。この短期間でちゃんと成果を出した慶次さんを素直に褒めたい。


 次に甲州金取り引きにいった甲賀の3人。この人達は連絡が一切ない。まぁ鉄砲を渡しているから大丈夫だとは思うけど、できるなら年内に戻って来てほしいところだ。年末は忘年会とかしたいからな。オードブルでも用意して、皆でつつき合って食べるのもいいだろう。


 それと、例の視察の後の事だ。信長がオレに今後の事を言ったのだ。


 「貴様は若い。倅の支配内へとし、今後、倅を盛り立ててやってほしいと言ったがこのようにワシは未だ死ぬつもりはない。

 が、いつなにがどこで起こるか分からん。年内に一度顔合わせをさせる。今一度言うが、倅を盛り立ててやってくれ。

 それと、安土城下に貴様の店の支店を出せ。わざわざ山越えをせねばならぬのは面倒だ。城にも貴様の部屋を設ける。これから死ぬまでワシは貴様の飯を食う。良いな?城が出来上がるまでは配下に岐阜城まで持ってこさせろ」


 「ま、毎日っすか!?」


 「なんぞ?不満か?ワシが毎日食したいという事は貴様の飯が1番美味いという事じゃ。京料理?本膳料理?話にならん。あんな飯をたらふく食うより、貴様の店のカレーを匙に一杯食う方が価値がある」


 「ぶれないですね。初めからカレーが好きなのですね」


 「ふん。ワシは食に興味なぞ無かったが貴様がワシを食に拘る様に変貌させたのじゃ。その責任を取れ」


 言われている事は無茶苦茶だが、料理人冥利な事をサラッと言ってくれたのだ。親父から受け継いだメニューの数々・・・。今こそ声を大にした言いたい。親父の飯はあの信長ですら、唸っているぞ!と。


 「もう一つ。謹賀の儀の飯は貴様が贅を凝らして作れ。公家等も呼んでいる。それに、明では主の食を用意する者が宰相となる事が多いそうだ。無官のままでは箔が付かんだろう?任せておけ」


 別に無官のままでもいいんだけど、貰えるなら貰いたいとも思う。これに関しては信長に任せよう。


 と、いう事で今・・・


 「度肝抜く料理を考えているんだけど、次郎君!何がいいと思う?」


 「そうっすね。やはり謹賀はめでたいですので、色とりどりの料理が好ましいかと思います。このレシピ本にある紅白かまぼこ、鯛を使った料理・・・う〜ん。刺身が食べられるなら醤油を披露してもいいかもしれませんね。米物は鯛飯なんかも良さそうです!」


 「うん。良い目をしているね!清さんはどう思う?」


 「そうですね。私なら、どうせ大殿に贅を凝らせと言われているし、以前、羽柴様から頂いた、尊さまの居た世界ではビワマスと言いましたっけ?そのビワマスを羽柴様から買い取り、筆頭家老であられる林様に私が渡りをつけますので、那古屋の海にて取れた海産物を使った料理なんでいかがですか?」


 「筆頭家老の人って林秀貞って人?」


 「ご存知ですか?」


 たしか、そう遠くない未来でこの人と佐久間って人は放逐されたっけな。なんとなく覚えている。


 「名前だけは知ってるよ」


 「そうですか。与えられている所領こそ那古屋の一地域しかありませんが、それでも大殿と山科様を引き合わせた方は林様ですからね。皆、あの方には頭が上がりませんよ。羽柴様も林様とも誼ができ、いい考えだと私は思います」


 「分かった。もう少し考えてみるよ」


 清さんは清さんでオレの今後の織田家でのあり方を考えての事だろう。一応、顔合わせは終わって、店にも偶に来てくれる人が居るにはいるけど、それでもオレは新参だ。

 それに戦に出てもいないのに、最近は信長からの覚えも良い。歴戦の猛者からすれば面白くないだろう。 あの史実での天下人である羽柴秀吉ですら皆の前では馬鹿な振り・・・この時代ではうつけの振りをして欺いているくらいだからな。

 それに銭に1番敏感な人はオレの感じでは信長。次に秀吉だ。あの人は銭の有用さを知っている。ここで、更に仲良くなっておくのも悪くはない。未だに少し引っかかる所はあるけど・・・。


 その12月の初旬にようやく大きな仕事の一つが終わった。カナが指揮し建造した船だ。


 「マスター!出来上がりました!さっそく九鬼様に渡りをつけ、伊勢湾に向かいましょう!」


 「え!?伊勢湾なの!?津島とか那古屋じゃないの!?」


 「あそこは新たに港を作るには人が多すぎます!港作りもお任せください!それと並行して皆々様の愛馬にこれを装着ください!」


 「うん?これって・・・蹄鉄?」


 「そうです!現代競走馬には必ず装着していますよね!」


 「別に装着するのはいいんだけど・・・オレ・・・馬居ないし、未だ1人で乗るのが不安なんだけど・・・」


 「軽トラックもそれなりに面白いですが、この時代は人馬一体になってこその時代です!それに軽トラックでは行けない場所の方が多いですし、自分の愛馬を持っておいた方がマスターも今後の為ですよ?馬揃えの時などマスターなら行きたいと思うはずです!」


 「そうか・・・まぁそれも任せるよ。そもそも蹄鉄とか馬は嫌がらないの?」


 「実は馬の蹄の先端は痛覚がありません。寧ろ蹄鉄をせずに走り回ると蹄が摩滅し、その度合いが強くなると、蹄内の知覚部まで達することで、痛みにより跛行を呈します。そのため、蹄鉄を装着して蹄の摩滅を防止する必要があるのです!

 先日、織田様が参られた時に、馬小屋で小雲雀ちゃんが言ってたのです!『足がいたいよぉ〜』ってです」


 「いや、カナは馬と話せるの!?」


 「生き物の考えが分かるのは神の標準権能ですよ」


 あっ、そうなのね。動物と話せるのが当たり前なのね・・・んなわけあるか!!


 「ってか、馬って乗れるコツとかないの!?そもそも軽トラや、天上天下唯我独尊さんに壊された原付き、自転車があるから移動には案外困ってはいなかったけど・・・やっぱこの時代の有力者になるなら馬くらい乗れないと恥ずかしいよね!?」


 「そうですね・・・。馬は大変賢い生き物ですから、乗り手の心を読みますからね。あの佐和山の城下の馬屋にでも行ってみますか?私が優しそうな馬を選びましょうか?」


 「確かに現代では中々見ない、馬屋さんがあったね」


 「はい。とりあえず、マスターがピンとくる馬が1番良いと思いますよ」


 「馬の良し悪しは分からないけど、一度見に行ってみようか」


 と、いう事で佐和山城下の端の端にある馬を見に来た訳だが・・・。


 「あんちゃん?すまねぇ〜。うちは年老いた馬や、農耕用の牛しかおいてないんだ。名のある人が買いにくるような所じゃないんだ」


 店主のおじさんがそう言ってはいたものの、カナ曰く・・・


 「あの栗毛の子はまだまだ走りたいって言っています!少し前の人間の戦いの時に躓いて右脚に違和感があり、走れなくなったら売り払われてしまったようです」


 「マジでそんな事まで分かるの!?」


 「そんな訳ありませんよ。私が分かりやすく崩してマスターに教えているだけですよ?流石に馬が賢いと言ってもそこまでではありませんよ?大丈夫ですか?」


 ック・・・カナめ。オレを小馬鹿にした言い方しやがって!


 「店主様。ここはピンとくる馬が居ないようです。他を探してみます」


 「すまねぇ〜。長浜城下にワテの弟が軍馬を育てているのだが、行ってみるか?かなり値は高いが、良い馬が多い」


 「羽柴様の城下ですよね!?行ってみたいです!」


 「分かった。この焼き印の紋章を見せてくれ。長浜で軍馬を扱っているのは弟しか居ねぇ〜。直ぐに分かるはずだ」


 「ありがとうございます!」


 オレはここの店主に少しばかりのお金・・・まぁ1貫と、チョコレートと飴玉をを渡して離れた。かなり喜んでいた。


 「どうしようか。今日中に往復できると思う?」


 「尊さまが、私の愛馬 メテオ号に乗るなら余裕ですよ!」


 「いやいや待ってくれ!な?そもそもそんな名前だっけ!?いつからそんな横文字覚えたんだ!?」


 「(クスッ)店にある異世界と呼ばれる世界に転移した漫画を読んで覚えました!名前も変えたのです!メテオ号も喜んでいますよ!ね!?メテオ号!」


 ヒヒィーンッ


 「マスター。本当にこの子は喜んでいます。『カッコいい名前をありがとう』と」


 いやマジなのかよ!?


 「そ、そっか。オレが清さんの後ろに乗ったとして・・・カナだよな・・・。


 「あ、私なら大丈夫ですよ」


 カナはそう言うと目を瞑り喋り出した。


 「兵は神速を尊ぶ・・・(ポワンッ)よし!これで着いていけます!清様!そのメテオ号と勝負しますか?私に勝てば、片手銃の1号は清様に贈りますよ?」


 「本当ですか!?よし!尊さま!早く後ろに!では私が・・・よーい・・・どん!!」


 バシューーーーン!!


 「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜!!!!」



 「ハァー ハァー ハァー・・・・」


 「1番乗り〜!!」


 「ふぅ〜。少しの差で負けてしまいましたか。でも約束は約束です。出来上がり次第お渡ししますね。マスター?大丈夫ですか?」


 「大丈夫もクソもない・・・。マジで振り落とされるかと思った・・・」


 「(クスッ)私が旦那である尊さまを落とす訳ないですよ!ね?メテオ号!」


 ヒヒィーンッ


 「貧弱な男って言っていますよ」


 クソ駄馬が!清さんの愛馬だからって調子に乗りやがって!!


 「メテオ!お前今度オレを馬鹿にしたらいくら清さんの馬だとしても飯をブロッコリーだけにしてやるからな!」


 ヒヒィーンッ


 「望むところだ!寧ろマスターが持ってくるご飯を食べると力が増す。今後も持って来い!と言っております」


 ック・・・オレのスーパー料理は馬にも有効なのかよ!?この間なんか健康を兼ねて、ブロッコリーを出したら嫌がってたくせに。


 オレ達は長浜城下に到着したわけだが、佐和山城下より少し町は小さいように思える。が、夕方前だというのに人の往来は多い。初めてオレは長浜に来たわけだが、例の弟さんの牧場?馬小屋?を探すのも時間が掛かるかと思ったが、杞憂だった。


 「おい!そこの者ッ!止まれ!」


 止まれと言われたが、普通に休憩して止まってたんだけどな。と心の中で呟く。


 「すいません。急いで国に入ってしまいました」


 「見慣れない者だな。どこの者だ!ここは羽柴様が治める国ぞ!」


 「その羽柴様とは懇意にしております。目的があり城下に入らせてもらいました」


 どうやら、城下で馬に乗る事は構わないが、走るのは危ないから御法度らしい。


 「其方のような知り合いなぞ聞いた事がない!身を検める!」


 面倒くなりそうな予感・・・。

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