ドライブイン安土 新生11

 「うむ。うむ。では、これなる箱がすまあとふぉおんなる物か」


 「スマホという物だ。で、この箱の中にある物が、我が殿である尊様の同郷で、ネットの友達と呼ばれる勇士達が考える陣や、構え、築城術である」


 「相分かった。一つ残らずこのぼおるぺんなる物と上質な紙にて描き写させていただく」


 「許可する。その代わり今後、尊様が藤堂殿の知恵を借りたいと思う時は協力してくれ」


 「それはもちろんである!この尊殿のネットの友達は中々に素晴らしい考えの持ち主ばかりである!特にこの五稜郭と呼ばれる形ではどこから攻め上がれば良いか分からぬ」


 「藤堂殿はお目が高い。尊様も安土の城の二の丸にその考えを上奏したが、流石にそこまでの広さが取れなく断念したようだ。俺は街その物を城壁で囲う作りもいいと思うのだが」


 「太郎殿?それでは些か守兵が多くなってしまう。虎口の配置も考えなければならない」


 「自分は総堀りを深く、水路を堀り、水城にしても良いかと思う。上げ橋でしか出入りできなくすれば難攻不落の城となると思うのだが」


 「次郎殿も甘い。確かに落とされはしないであろう。だが、援軍無き籠城は死を待つのみ」


 藤堂君は凄い。オレと同じ歳とは思えない考えだ。

 オレはさっそくスマホの使い方を教え、ネットで某巨大チャンネルの歴史板の城考察の部分を見せてみたわけだが、効果覿面だ。ネットの諸先輩の勇士の暇人達が絵を書いたりして、独自の『俺が考えた最強の城』をレスしている。

 しかも、太郎君、次郎君と直ぐに仲良くなってくれた事が幸いだ。


 「ゴホンッ。ここでオレからも。オレも次郎君のような水城とかカッコいいしいいと思う。且つ、その城が海に近ければ、海から水路を引いて船も出入りできるようにすれば海運も支配できるし、更に巨大な城下を作れるならば仮に敵に包囲されても城壁の中で自活できるならば援軍がなくてもどうにでもなる。

 まぁそもそもの本拠の城を攻められるって事は既に詰んでるって事なんだけどね」


 「はいはーい。男は皆、城が好きなようですねー。夜食をお持ちしました〜」


 「これはこれは。奥方殿。忝い。これは何ですかな!?夕餉のすき焼きなる物も最高の美味でした!」


 「藤堂様は肉が好きなようなので、夜食は焼肉丼に致しました!尊さまはもっと大きくなってもらわないといけませんので、焼肉丼の他に焼き鳥もお持ちしました!ご飯は大盛りです!」


 ック・・・。夜飯の後の夜食だが、最早、夜食の域を超えてやがる。こんなに食べられるか・・・いや、食べないと清さんが作ってくれた物を・・・。


 「さ、さすが清様ですな!ははは!某はプリンを頂ければ喜びます!」


 「じ、自分もっす!尊様!さぁ!お食べください!」


 太郎君も次郎君も腹一杯で逃げやがったな。今度、大盛りからの大盛り飯を出してやる。


 次の日の朝・・・唐突にそれはやって来た。南蛮マントを装備した信長だ。季節は11月下旬。少し肌寒くなってきた頃だ。


 「いらっしゃ・・・織田様!?」


 「おぅ!やっておるようだな!貴様の配下から銭は受け取った!証文は捨てておく。まぁ元より貴様を縛り付けておく口実でもあったが、最早心配もあるまい。とりあえず、朝餉の用意を致せ!カレーだ!」


 信長が来た事により、朝一の行商人や、飛脚の人達が綺麗に散ってしまった。それ以前にお金を受け取った!?何もオレは聞いてないんだけど?


 「うむ。相変わらず貴様の飯は美味い!クックックッ。誠に貴様が我が元にやって来てから面白くなってきおったわ。まさか、雑賀孫一と双璧を成す、土橋胤継を内応させるとはな」


 「それはそれは・・・。その土橋なんとかさんって方に関しては慶次さんがなんとかしたというか・・・ははは」


 「謙遜は良せ。あのワシに負けず劣らずの傾奇者をよく制御している。ワシはこれより堺へ向かう。土橋を使い、顕如と教如を仲違いさせる」


 「政は私は分かりませんので、お任せ致します」


 「苦手な事ばかりから逃げていては何も身に付かぬぞ。配下に何もかも任せているようではまだまだだ。まぁ、それが貴様の良い所でもあるがな。何やら甲賀で秘密の施設もあるそうじゃな。あの町娘と貴様が言うた女か?」


 「えぇ。同郷の者です」


 「ふん。何を作ったのか。楽しみだな。後程、甲賀へ向かう。貴様も来い」


 信長は口調こそいつもと変わらないが、心なしか穏やかな表情だ。まぁだが、あの船の事をなんて言おうか。そのまま言うしかないよな。それに・・・『甲賀村をアスファルト敷きにしたいです!』なんて言えば、質問攻めに合いそうだ。




 「な、なんじゃこれは!?これが船だと!?城ではないか!?」


 えぇ。正にオレもそんな反応っす。これまたカナが張り切ったようだ。


 「織田の殿様。御機嫌麗しゅう」


 「そんな事はどうでも良い!これが浮かぶのか!?えぇ!?浮かぶのか!?これがワシの船なのか!?」


 「はい。この1番艦は織田様に献上し、並行して2番艦、3番艦と建造致します故、その次の4番艦に関しては尊様の物にしていただきたく。その代わり織田様の船に関しましては他の艦にない装備を施しております」


 「カナ!よくぞやってくれた!ワシの想像以上だ!」


 「お褒めに預かり光栄です」


 「源三郎ッ!!説明致せ!」


 「は、はっ!排水量300トン、全長は60メートル・・・」


 「遠藤ッッ!!訳せ!」


 「え!?えぇ〜!?」


 「織田様。私が説明致します。排水量とは船の重量を示す数値であり、主として艦艇について用いられます。

 水に浮かぶ物体は、物体の重さと浮力とが釣り合うときに、物体は静止し、また、浮力の大きさは、水面から下で物体が排除した重さによる力の大きさに等しいのです」


 「う、うむ・・・続けよ」


 カナ無双だ。現代義務教育を終えたオレですら分からない。いや、半分は分かる。分かるけど、信長は分からないだろう。だが、馬廻りの人も居る中、それに小姓の遠藤さんも居る中での知らないという事は信長のプライドが許さないだろう。『う、うむ』なんて、知ってるような口振りだがバレてるんだぞ!?


 「トンというのは、船を水上に浮かべた際に押しのけられる水の重量をトン単位で示した数値で、アルキメデスの原理により・・・アルキメデスの原理とは、流体(液体や気体)中の物体は、その物体が押しのけている流体の質量が及ぼす重力と同じ大きさで上向きの浮力を受けるということです。

 このトンという単位で表した水を押しのける重量は船の重量に等しい数字となります。ただし、完成した船を実際に計量するのではなく、海水の比重を考慮したうえで設計図を基に喫水線下の体積から算出するのが船を建造する上での基本です」


 「「「「・・・・・・」」」」


 カナ無双が終わってからの静寂。論破ではないが、そのぐうの音もでないくらいの論破されたような気分だ。


 「これは女だからと侮ってはいけないという事だな。尊も分かっておるのか?」


 「いえ。正直なところ、半分くらいしか分かっておりません」


 「で、あるか。御託は良い。簡潔に述べよ」


 「はい。簡潔に言えば、私の計算式を使い、使いこなす事ができれば、もっと大きな船も建造できます。それに動力に関しても、作り手の者が学習すれば他の事にも応用ができます。そうですよね?尊様?」


 カナの言わんとしてる事が分かる。大砲とか、改良型の鉄砲だろう。規格統一した部品を使った物を作れば修理も容易になる。

 そして、各地で色々な物を作る工場が出来れば仕事が増え、働く人が増える。住む所も増え一つの町が出来上がる。


 「えぇ。今回はこのオール・・・櫂と言いますか。先端を平たくし、水を漕ぐ抵抗を強くし、推進力を大きくした物ですが、何度も言う、燃える水があるならば漕ぎ手を必要としない船だって作れます」


 「それはどういう理論なんだ?」


 「簡単に言えば、火の力を使ったものです。例えばヤカンをこのように・・・」


 オレはヤカンに水を入れてカセットコンロにて沸騰させた。その注ぎ口に信長の手に近付ける。


 「熱いではないかッ!!」


 「すいません。ですが、この熱い熱気・・・蒸気と言うのですが、これを風車のようなプロペラ、またはスクリューという物を作り、この力で船を動かす事だってできるのです。別に燃える水じゃなくともできますが、それが1番効率が良いかと思います」


 「・・・・・・」


 「分かりませんか?」


 オレは凄く分かりやすいように言ったつもりだが、信長は無言となった。まぁ蒸気エンジンに辿り着くにはタービンやら電気も必要だからまだまだ先の話になるだろう。


 「まったく・・・貴様とカナの頭がどうなっておるのか分からん。が、意味は分かった。その燃える水がある所の検討はつかんのか?」


 「なんとなくは分かりますが、見てみない事にはどうにも・・・」


 「ほぅ?どこじゃ?この前言っておった、ちゅうとうという国か?」


 「あ、いえ。日の本です。恐らく武田領・・・ギリギリ徳川領くらいかと・・・」


 「なに!?そんなに近くにあるのか!?どこだ!?」


 「はい。相良という場所だったと記憶があります」


 「分かった。ワシも覚えておこう。使えるその燃える水かどうかはワシには判断が付かぬが、必ず手中に治める」


 とうとう言ってしまった。だが、確か相良油田は軽油質のガソリンだっけ?あまり産油しないかもしれないが、精製しなくてもそのまま使える燃料だったと記憶がある。これなら八幡様にも文句は言われないだろう。


 「ふん。どうせじゃ。このまま甲賀を視察致す!案内致せ!源三郎ッ!お前達はこのまま励め!この船を早く海に浮かばせよ!国友衆をここに連れてくる事にする!源三郎。お主はここで頭領となり、一大鍛治集団を作りあげよ!作る物は武器や装備品全般だ!」


 「は、はっ!あ、ありがたき幸せ!」


 信長の一声で源三郎さんの大出世は確約したな。良かったな!源三郎さん!まぁ、目の下にクマがあるから、カナにかなり仕込まれているのだろう。源三郎さんが片手に持っているノートには現代科学者のような数式が見えたし・・・。オレには分からない世界だ。



 それから信長の大名行列が始まった。加工場を抜け軒を連ねるのは、てるさんが居る裁縫工場だ。


 「ここはなんじゃ?」


 「お、お、大殿様ッ!!!」


 てるさんがひっくり返りそうになっていた。そりゃ、天上人みたいな人がいきなり来たらそうなるよな。


 「女!いつも通りに致せ!ここは何をするところぞ?」


 「は、は、はい!ここは服を作る所です!」


 「ほぅ?呉服屋のような所か。男手がないように見えるが?」


 「織田様。ここからは私が。ここは女性専用という訳ではありませんが、女性が主となって働く所です。うちに、泊まりに来られた時にお出ししている服をここで作るようにしています。ジャージとかTシャツと呼ぶ服です」


 ここで信長は軽く目を瞑り何かを考えたのか、頷き出した。そして、次に出た言葉でやはりこの人は天下人になるべき人だと思った。


 「世は乱世。それをワシが武を以って制さんとしておるが、弱い女の食い扶持をも考える男はそうは居らん。せいぜい男の慰み者になるのが世の常だ。だが、貴様はそれを己の力で変える。そう言うのだな?」


 「えぇ。すぐに女は春を売るという事はさせたくありません。そりゃ需要はあるとは思いますが、その辺も待遇を今後改善できればと思っております」


 「国が富むには人が居る。人を増やすには女が居る。女の地位を上げるのは容易ではないぞ?」


 「はい。心得ております」


 「ならば良い。貴様は好きなようにしろ。佐久間や権六に何か言われても信念は曲げるなよ?」


 信長は先を見ている。これから雑賀のなんとかさんって人と会うのだろう。本願寺と関係が深い雑賀の一派が織田に降るという事は本願寺との終戦が近いのだろう。

 そうなれば畿内に敵は居なくなる。本当に天下が見えて来たから信長の考えも変わってきたのだろう。

 オレはオレのできる事を精一杯しよう。まぁ飯屋の店主ではあるが、カナも清さんもみんな居る。


 オレが知ってる限りでは本能寺は10年以内に起こるはず。それまでになんとか真相を突き止めなければ・・・。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る