ドライブイン安土 新生10
「はい。次の人!」
「御目通り願い、感謝感激雨霰の嵐にございます」
「お名前は?」
「某、羽柴様の元に身を寄せております、元浅井家 磯野員昌様支配内 藤堂与右衛門と申しまする」
今なにをしているかというと、毎日引っ切りなしに仕官に来る人の相手だ。殆どの人は一応経歴と名前だけ聞いて、難しい顔をして断っている。まぁ演技だ。これ以上人を雇う余裕がない。だが、この藤堂与右衛門・・・間違いなく、黒田孝高、加藤清正と同じ渾名・・・『築城三名人』の1人の藤堂高虎だろう。
オレと同じくらいの歳かな?若いが、オレと同じくらいの身長で、筋肉隆々。慶次さんのようなガチムチ系ではないが、謂わゆる、細マッチョのような人だ。
だが、何故にオレの所に来るんだ!?さっき秀吉の元に身を寄せているって言わなかったっけ!?
「ゴホンッ。羽柴様の元に居るというあなたが何故、私の所へ?」
「はい。羽柴様に手前は随分と気に入られてしまい、是非とも殿の為に働きたいと思い、数々の事を学ぼうと思う所存。巷で有名な戦う飯屋の店主様に学ぶ事が1番かと思い、殿からも少しの間、暇をもらった次第でございます。これを・・・」
「うん?なになに・・・」
藤堂君がオレに手紙を見せてきた。うん。久しぶりに見たミミズが張ったような字だ。
「此奴は案外使える男である。暫しの間鍛えてやってほしい。掃除や雑務でも良い。何か一つでも不手際があれば回収に来る。よろしく頼む。と書いております!」
「うん。清さんありがとう!」
やっぱ頼りになるのは清さんだ。
「よし!君は採用するよ。羽柴様から書状もあるし、断れないしね。その代わり本当に雑用からになると思うよ?いいんだね?」
「はっ!何でも言ってください!それより・・・ここはなんですか!?南蛮の物ばかりとお見受け致しまするが・・・」
「それはまた追々ね。あそこの桜ちゃんの所に行って、健康診断受けてね。はい!次の人!」
とりあえず、藤堂君は採用だ。城に造詣深いなら色々、ネットで教えていつかオレも城持ちになればこの子に総奉行を任せてみたい。中古の城でもいいや。この子に任せると難攻不落の城が出来上がったり・・・。藤堂君は甘えさせてやろう。
「やっとか!遅すぎる!俺ぁ〜元浅井家 中島直親様馬廻り 大島与左衛門 馬廻り・・・」
長い。長すぎる。誰々の〜誰々支配内とか言った所であんたが凄い訳じゃないだろう!?と言いたい。それにこの人は凄い偉そうだ。却下だな。
「はい。あなたは落第。お疲れ様でした」
「なっ・・・ま、待て!どれだけ待たされたと思っているのだ!」
「それはすいません。けど、一応、皆さんの要望はちゃんと聞いて精査しています」
「そ、そんな訳はない!ここら辺なら俺の名前は売れている!」
「藤堂様?この方の事、知ってます?」
「大田村の次郎左衛門?聞かぬ名ですな」
「だ、そうです。仮にあなたが何者であったとしても以前の経歴は関係ありません。お引き取りください。まず、オレが必要としている人は礼儀正しい事は最低条件です」
「次郎左衛門殿。さぁこちらへ」
太郎君の隙のない誘導・・・。最近はできる男になってきたな。頼もしい。
「チッ。もういい!お前の所でなんか・・・」
「(シャキンッ)次郎左衛門殿。俺はこの店で働いている太郎だ。あなたより若いが、殿への忠誠心は1番だと心得ている。それ以上の事を言うならば2度と喋れなくなるが良いか?」
「太郎君!怖い!その辺にしてあげなさい!なんか握りの一つでも土産に渡してあげて!はい!次の人!」
「俺は西山村の権三郎だ!姉川では働いた男よ!」
気まぐれでオレが面接官のような事を買って出たのだが、清さんの苦労が分かった気がした。この権三郎って人は何を聞いていたんだろう?と思う。礼儀なんてありゃしない。姉川でどう働いたかは知らないけど、まぁ浅井側だった人だとは思うけど、却下だ。
「清さん?遊んであげてくれる?もし一本取られたらこの人を雇うよ」
「おぅおぅ!舐めてもらっちゃぁ〜困るぜ!これでも俺ぁ〜(隙ありッ!!パチン)」
「うん。戦場ならあなたは今ので死にましたね。兵隊を希望するなら最初からそう言ってほしいですよ。どうしてもオレの下で働きたく且つ、兵隊希望ならもう一度お並びください。次の方!」
「えっと・・・私は・・・」
「はい!採用!梅ちゃん!この人に新しい服と健康診断してあげて!」
「ま、待て!何でそんなボロの女は即答で採用されるのだ!?おかしいではないか!?」
「権三郎さん?分かりませんか?別にあなたも雇わないとは言ってませんよ?最低限の礼儀と兵隊希望するくらいなら『1番下でも良い』と言うくらいの気概は欲しいものです。この女性は明らかに貧しいのが分かるでしょう?オレは弱者には優しいのです」
本当は女性だから・・・とは言えない。この子は明らかに何か病気を患っているだろう。見れば分かるやつだ。この時代の女は直ぐに春を売る仕事をする傾向にある。男は力仕事で少ないが、日銭は稼げる。
人権がほぼない女性はその日暮らしも、ままならないからな。それに、てるさんも女性の働き手が欲しいと言ってるからちょうど良い。
女性はほぼ合格にしてあげよう。
吉ちゃんに清さんからの手紙を持たせて、佐和山に出向いてもらい、城番の人に渡して、丹羽さん、信長さんと手紙が届く手筈となっている。信長の元にオレの手紙が届くのは5日程向こうの事だと思っている。 雑賀衆の誰かがこちら側に寝返るという話を伝える為だ。その間にこの面接や視察という名のデートをしていたわけだが、急にカナが現れて色々と指示を出してきた。
「マスター!人手が増えてくるならば、女性陣にも工場仕事を任せてみればいかがですか?特に鉄砲の弾に関してはわざわざ空薬莢を再利用せずとも、和紙や油紙を使った弾薬にすれば、マスターを通さなくとも補給できます!
それに、八幡様から先程電話が掛かってきまして、チョコレートムースは非常に美味しかったそうなのですが、少し他の神達に勘付かれそうなため電気式はあの一台だけで他は増やさないでほしいそうです。代替案として、足踏み式ミシンなら可能との事です」
「そ、そうか。八幡様がそう言うなら仕方ない。カナからよろしく言ってほしい」
「畏まりました。それで、これから教育の方もしっかりしていこうかと思っております。船の件と並行しながら小型制作機を導入し、プレス機も新たに増設し、鉄砲作りなんかもいいかなと思っております。ハンマー、シアー、トリガーも量産しやすいですし」
「よ、良きに計らえ!そこはカナに任せる!」
「はい!ありがとうございます!マスターが遠慮するな!と言ってくれましたので、全身全霊で取り組みます!まずは甲賀の皆さんに配備する予定です!工作目処としまして、10日後には試作を作り、20日後には正式に決め、30日後には甲賀兵の皆が分解掃除、射撃にと、できるくらいにと予定しております」
本当に遠慮がなくなってきた。まぁこれはこれでカナは楽しそうだからいいかな?
〜浜松城 付近〜
「随分と歩きやすくなったものだ。関所が無くなるだけでこんなにも変わるのだな」
「そうだな。だが、美濃、尾張、三河だけだ。甲斐や信濃では無数に関所があると聞いている」
「どうする?一々、律儀に銭は払うのか?」
「致し方ないであろう?揉め事を起こせば任務に支障がでる」
「その方等ッ!!止まれッ!ただの行商人ではあるまい。その身のこなし、上忍か、間者か」
「滅相もございません。我等は甲賀出身ですので」
「怪しいな。荷を検める。おい!人を呼べ!」
「(おい。野田。どうする?強行突破するか?)」
「(いや、騒ぎは起こしたくない。強行突破は最後の手段だ)」
「いやぁ〜!御役人!俺達は薬を売りに甲斐に向かうんだ。それはそれは織田の殿様からの密命も受けているんだ」
「お、おい!?青木!?」
「なぁ〜にぃ〜?密命だと!?こちらは何も聞いていない!」
「そりゃ〜密命だからよ。まぁ、この飴玉でも舐めてみな?砂糖の塊みたいな物だが、うちの村で作ったイチゴの果肉を入れてあってな?甘くて蕩けるぞ?俺達は直ぐに三河を抜けたいんだ。分かるよな?(ポンポン)」
「これは・・・なんたる食べ物だ!?これが飴玉だと!?」
「うむ。いやぁ〜、一つだけでは申し訳ない!ここに12個入っているんだ。ここを通してくれるなら御役人殿に譲るのも吝かでもないがいかがか?」
「分かった。だが、明日までに三河を抜けるように!」
「へぇ。このまま遠江方面へと向かいます。本日中には徳川領を抜けるつもりである」
「は?今日中たってそれは・・・もう日が暮れるぞ!?」
「心配御無用。野田殿。青木殿。少し走ろう」
〜岐阜城〜
「上様。甲賀村からの銭が届きました」
ドサッ ドサッ ドサッ
「は?銭?なんでじゃ?」
「甲賀村の使い役の者が言うには『果物の売れ行きが好調過ぎて、尊様の借金をこれにて返済致します』との事でございます」
「聞いておらん。ワシは一度たりとも催促はしておらんのだがな」
「それと、これなる書状も預かりました。尊殿の奥方殿の直筆でございます」
「うん?どれ・・・ほぅ?傾奇者め。やりおったか。明日、朝一に彼奴の店に向かう」
「御意」
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