ドライブイン安土 新生9

 手動エレベーターで、地下から地上へと戻ったわけだが、根本的にここから海までどうやって運ぶ?って事だ。だが、これも当たり前過ぎて気が付かなかった。普通に車輪のある台座に備え付けられていたのだ。


 しかも・・・


 「甲賀村から運び込むには村の皆の協力が不可欠です。ですが、マスターの作られたご飯にて、皆の力が増し増しとなっておりますので、骨組みだけではなく、普通にプレスした軟鉄とFRPを塗りたくった船でも簡単に運べますよ」


 「「「「皆の者!!尊の旦那に良いところを見せ付ける時だ!鬨を上げよ!」」」」


 「「「「オォーーーーッ!!!」」」」


 「「「「せいッ!!やぁぁ〜ッッ!!!」」」」


 源三郎さんが掛け声を掛けると、7人の男が骨組みだけではあるが、普通に持ち上げた。もうね・・・人間の力以前の問題だ。


 「どうでぃ!?尊の旦那!?」


 「あ、あぁ。さすが、源三郎さん達ですよ。ははは!」


 笑うしかない。


 「と、いう事ですので、マスターは織田様にお伝えください。後、7日もあれば完成します。その後、装備品などの取り付けを行います。

 武器に関しては成熟期間が足りませんので、この1番艦に関しては例のネットスーパーから取り寄せた現代とまでは言いませんが、18世紀〜19世紀初頭までの直射砲を装備する予定です」


 「そ、そうか・・・。どうせ、既に購入しているんだろう?」


 「まぁ!?さすがマスター!よくご存知ですね!


 《M1877 107mmカノン砲》


 これを購入致しました!口径は正確には106.7ミリ。重量は445キロ。最大射程は8300メートル。これは本来は陸で使用する砲ですが、船に積み込み、車輪を固定して使えるように改造致します!マスターの無敵艦隊創設も夢じゃなくなりますよ!」


 「お、おう。そうか。最早、何でもありだな」


 「そうですか?マスターには迷惑かけていますし、現代の男は誰しも憧れるのではありませんか?兄が言ってましたよ?『男は皆チートとハーレムを好む』と。女性に関しては何もできませんが、私はマスターが楽しい生活を送れるように手助けするだけです!その間に、色々な食べ物を・・・特に甘味であるワッフルに、ケーキに、りんご飴に、シュークリーム、ティラミス・・・・」


 とりあえず、カナが甘い物が大好きな事は分かった。


 その後、オレと清さんとで作業風景を眺めた。まずカナだ。カナは現代の加工場や溶接場で働いている人のような服に着替え、炉からでてくるドロドロな物体を鋳型に入れながらオレに説明してきた。


 「マスターなら知っているかとは思いますが、この鉄鉱石だけで鉄はできません。この高炉には、石炭を蒸し焼きにしたコークスや石灰石を一緒に入れております。他にもスクラップやフェロマンガン、フェロシリコンなどいろいろな副原料を入れております」


 うん。まったく知らなかったし、何を言っているんだ状態だ。


 「で、そのフェロマンガン?とかフェロシリコンなどはどこで手に入れたのかな?」


 「フェロシリコンは鉄の存在下でシリカ、砂をコークスで還元することによって製造できますよ」


 「え!?なら作っているんだ?」


 「いえ。そこまでする時間もあまりなかったですし、源三郎様一派の教育にも時間が掛かりますので、通販からキロ単価500円にて購入しました」


 やっぱりカナだ。何をやっても金が貯まらないと思ったんだよ。


 「そうか。まぁもうオレからは何も言わないから好きにしていいよ。ここまでするならこれから先の織田軍は常勝するくらいの装備を作ってよ。オレの甲賀隊にはライフルを装備できるくらいの部隊にしたいしさ」


 半ばやけくそだ。やるならとことんやってやろうじょねーか。


 「まぁ!!?いいのですね?実は私も楽しくなってきていたのです!ならこれからは遠慮なく、ルールの範囲内でやらせてもらいますね!」


 いや、今まででも遠慮していなかったのか・・・。



 ところ変わって・・・って事でもないが、同じ甲賀村の中でも、新たに開拓したところへ来た。清さんと手を繋いでだ。視察という名のデートだ。ここは、てるさん始め、今は外向きの甲賀村となっている。

 店に来てくれている行商人の客に・・・


 「甲賀村で色々と仕入れをすれば他国で儲けられると思いますよ」


 と、オレが宣伝している場所だ。主に品は石鹸や、シャンプー、歯ブラシセットなどなど、雑貨品なんかも充実している。この商店の纏め役に、てるさんを抜擢したのだ。そりゃ店で働く事もできるけど、梅ちゃんや桜ちゃん、吉ちゃん滝ちゃんと黄色い声は多いからな。


 他には仕立て屋や甲賀らしく薬屋も併設した。栄養ドリンクを飲めば病気は全て治るが、あれを常時売るのは・・・う〜ん。という風に思ったからだ。売れるなら売る。

 身近な人やオレが見かけたら人が死ぬレベルならば遠慮なく使うがたかが栄養ドリンク一つでパワーバランスが一気に壊れるような物だからな。ここは慎重になるべきだ。

 間違って上杉謙信なんかに届けば大事になる。


 仕立て屋の方では色々な服用の布の生地を大量購入した物をてるさんに託した。まず、それに伴ってミシンなんかも渡してあげた。電気はどうしてるのかって?それはアレだ。


 「マスター?ミシンを購入はできますが、流石にこれを動かす動力は許可を得ていません。ドライブインの部屋の中ならば構いませんが、他所で何も縛りなく電気を使うのは・・・」


 「えっと・・・八幡様だっけ?お願いできないかな?女性の方の仕事に持って来いだと思うんだ」


 「さすがに私からは・・・」


 「尊さま!?八幡様にお祈りしてはいかがですか!?誠心誠意、チョコレートドーナツを御供えすれば・・・あるいは・・・」


 「お!清さん!やるねぇ〜!じゃあ御供えしてみようか!」


 「そんな、流石にドーナツくらいで不変のルールが変わると・・・(プルプル)『あ、もしもし?はい!お疲れ様です。え?いいのですか!?他の神には!?えぇ。本当ですか!?私の責任ではないですよ!?えぇ。分かりました。この事は内密にしておきます。はい。はい。畏まりました」


 「今しがた了承がでました。『直ぐにチョコレートドーナツを全て御供えしなさい』との事です」


 このようなやり取りがあった。コードなんか挿していないけど使えるようになったのだ。原理はどうなってるかって?そんなの知らん!使えるから使うのだ。それに、八幡様はカナ以上に甘味に飢えているという事が分かった。一度、夢のような夢じゃないような事もあったのだ。


 『ごきげんよう。尊?』


 「え!?あなたは!?何で球体が喋っているんだ!?」


 『ここはあなたの夢の中。あなたが眠っているから意識に入り込んだ。私は八幡。あなたは充実した生活をしているからレム睡眠が短い。だから私が認識できるのは数分。一回しか言わないから覚えておきなさい』


 「まさか!?あなた様が八幡様なのですか!?」


 『その通り。そんな事より私の話を聞きなさい。私は勝負事の前によく祈られるの。それは他の世界でも一緒。聞いたとは思うけど、神は供えられた供物しか食べてはいけないの。

 だけど、私に供えられる物は武器とか防具ばかりなの。ドワーフ一族なんて酷いのよ。毎日、剣や盾を供えてくるの。そんな物もらったところででしょ?あなたは食べ物を供物にしてくれる。しかも、《〜〜の力》の権能をあの子から授かっているから美味しいのよ』


 「〜〜の力?ってなんですか!?聞き取れなかったのですが!?」


 『これは創世記からある権能の一つ。気にしないで。あなたは数千年の間、甘味を食べない生活できると思う?できないわよね?商業神なんて毎日のように美味しい物を食べて、自慢してくるんだから』


 「ってか、八幡様って女神だったのですか?」


 『元々は人間の男の魂が私の意識に憑依し・・・いや。この話は長くなるからいいわ。兎に角、男の姿より女の姿の方が都合がいいの。あなたはこれから定期的に私に美味しい供物を捧げなさい。さすれば良い事が起こるでしょう』


 「例えば何をですか?」


 『あの子が食べている物や未だ出した事のない、あなたが元に居た世界線の令和の時間軸に食していた甘味なら私は喜ぶわよ。特に、あなたが昨日食べていた、チョコレートムースケーキなんて私は食べた事も聞いた事となかったわ。分かるわよね?(グワッ)』


 「ック・・・。目が覚めたら・・・すぐに御供え致します・・・」


 『あら?ごめんなさいね?オーラが出ちゃったわね。催促した訳じゃないのよ?けど、楽しみにしてるわよ?じゃあね?尊?』


 と、こんなやり取りがあった。兎に角、甘い物が好きな神が八幡様らしい。


 「あっ!尊様!どうされましたか!?」


 「まぁ、その視察だ!てるさん?不足な物とかないかな?」


 「はい!充実しております!見てください!じゃーじなる物も作りました!ゴムなる伸びる紐を腰に取り付け、紐で縛るようにしました!脱いだら着たりと楽になります!」


 「おっ!いいじゃん!今度、買い物する時に購入するからよろしくね!」


 「いえいえ!尊様には差し上げます!」


 「お!?そこに居るは、尊君じゃないかぃ!?」


 「あっ、権之助さん!お久しぶりです!」


 今、声を掛けてくれた妙齢の男の人。名前は権之助という人で、行商人ではなく飛脚の仕事をしている人だ。オレがタイムスリップして、間もない頃から定期的に食べに来てくれてる人だ。


 「いやぁ〜、前に尊君から聞いてな!まさか甲賀がこんな事になってるとは思いもよらなかったよ!これから堺に荷を運ぶんだ。少しお偉いさんからの頼まれ事でな?なんでも、尊君に言えば分かると言われているんだ」


 「うん?堺に知り合いなんて居ませんよ?」


 「いや、身長の大きい男で、穀蔵院飄戸斎と言えば分かると言っていたんだが?しかも前金で、たんまり貰ったから冷やかしではないと思うんだが?」


 「こくぞういんひょっとこさい!?誰すか!?その人!?本当に初耳ですよ!?他に特徴は!?」


 「おぉ〜、そう言えば大きい馬に乗っていた!それと・・・キセルを咥えて(分かった!!)」


 「分かった!分かりました!えぇ。知り合いですよ!」


 キセルと馬で分かった。間違いなく慶次さんだ。なんちゅう名前を使っているんだよ!分からなかったらどうするんだよ!


 「おぉ〜。良かった良かった!で、この紙に書いてある物を寄越してほしいそうでな?」


 「石鹸、シャンプー、ウィスキー、ビール、スコッチ・・・清酒・・・赤ワインのロゼ・・・くんさきイカ・・・燻製チーズ・・・」


 もうね。最初こそちゃんと見てたが、絶対に本願寺用ではないな。慶次さんが飲む用だわ。


 「何が何やらワシは分からないが、これも見せてくれって言われてな?」


 「えっと・・・」


 丁寧に折られた紙に書かれていた事。


 『雑賀のとある集団に寝返り有り』


 何故か、大切な事は変な伝令文で伝えてくる慶次さん。寝返りって・・・織田軍に降るって事だよな!?雑賀にもあの人は知り合いが居たのか!?

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