ドライブイン安土 改革6

 その日の夜はまるでお通夜状態だった。慶次さんには約束のウィスキーを渡し、タブレットのレベルが上がった事により、酒の種類が増え、酎ハイなんかまで今はある。本来は未成年という事で、酒なんか飲んではダメだろう。だが飲まないとやってやれない。


 「尊さま・・・」


 「尊様・・」


 「清さんも次郎君もごめんな。少し昔を思い出してしまってね」


 「あのう・・・身近な方が亡くなられたと言っておられましたが、どのような関係の方なのですか?」


 「う〜ん。まぁ、隠す事でもないから言うけど、親父だよ。病状は膵臓癌っていってね。癌という病気は分かりやすくいうと、自分の身体の細胞が狂ったような物なんだよ。特に膵臓という臓器が身体の中にあるんだけど、この膵臓にできた癌は未来でも・・・オレが居た時代でも中々治せない病気なんだ」


 「そんなに恐ろしいものなのですか・・・。それにまさか尊さまのお父様が・・・」


 「そうだね。もうかれこれ2年・・・もは経っていないけど、近くなるかな。膵臓癌というのは基本的に症状が出て、発見されたら手遅れって事も多いくらいなんだ。オレの親父も本当に早かった。痩せこけ、頬も浅黒くなり、最後は昏睡って感じだよ。てるさんのお父さんも・・・」


 「(プカー)まぁそれが天の決めた運命さ。尊の世界では俺達が想像と付かない物が溢れ、医療も発達してるんだろう?だが、それでも勝てないという事だろ?そのガンという物が何かは俺はまったく分からないが、天が決めたその者の人生。俺も明日死ぬやもしれないし、はたまた100まで生きるやもしれん。人生は悔いのないようにしたいものだな。あっ!尊はオレがいつ死ぬかまで分かってるんだよな?」


 「えぇ。だいたいですけど。あなたはかなり有名ですからね」


 「(プカー)別に俺ぁ〜何も大した事はしていないのだがな。だが、それでも俺はいつ死ぬかなんて聞かないぜ?尊がこの乱世に来た事により、未来が変わるかもしれないんだったか?俺だって変わるかもしれないって事だからな。まぁ兎に角、あの女の親父には出来る事をしてやろうぜ?な?尊はそんな気に病むことはないぜ?俺があの親父の立場なら今際の時に現れた、南蛮を知る男が現れたなら満足してあの世に行けるって思うかもな(プカー)」


 まぁ慶次さんらしいな。この人が落ち込む事なんてないだろう。現代で言う、意識高い系で陽キャな若い兄ちゃんだもんな。そもそもの死生観がオレとは皆が全然違うしな。


 「兎に角・・・今日はオレの酒に付き合ってほしい。皆も今日は遠慮なく飲んでください。仕事は明日は休みます。今後の出店に関しては値段設定を決めてちゃんと営業していこう。


 「そうだな。行き当たりばったりではいかないだろう」


 


 〜佐和山城下 とある民家〜


 「上役様。お待たせ致しました。こちらが例の南蛮被れの者が売っている物でございます。今日も人がごった返しておりました」


 「そうか。で、相変わらず1文か?というか・・・これはなんなのだ!?ビードロ・・・ではないな?」


 「それは、びいると呼ばれる酒だそうで、ここを上に向いて引っ張る?だったかな?(プシュッ)」


 「ぬぉ!?泡か!?泡が出ておるぞ!?」


 「飲んだ者が言うには、暴れる黄色い水だそうで、喉を通る瞬間が堪らないそうです」


 「ふん。試してやろう・・・(ゴグッ ゴグッ プハーッ!)うむ!美味いかどうかはさておき・・・確かに、喉を通る瞬間は良い感じがする。次はパオンなる物だな・・・(ハムッ)ん!?!?美味い!これは美味い!」


 「上役様がそこまで言うとは珍しいですね」


 「お前も食ってみろ!癪だが、これは誠に美味い!この握りも見た事のない具が入っておる!そもそものこの米を見てまろ!米が白く、立っているではないか!あの小僧等はこんな物を毎日食っておるのか!?だから、最近、体が大きくなっておるのか!?許せんな」


 「仕掛けますか?」


 「まずはお前がさり気無く奴等の前に行き、近況を聞け。奴等がワシに恩を忘れていないのならば回してくるだろう。その量が多ければ里の者にも回せる」


 「御意」

 

 

 「いやぁ〜!飲んだ飲んだ!」

 

 「も〜!尊しゃまはお酒に弱ぃ〜」


 確かなこんなに飲んだのは初めてだ。だが、一つ言える事は清さんよりかは絶対に飲める口だ。


 「わっはっはっ!酒に逃げる事は余り良くはねぇ〜が、偶には良い!今日はゆっくり休め。俺はもう少し飲んでから休む」


 「了解〜!太郎君達もそこそこでね〜。オレはもう眠るよ!おやすみ〜」


 「私も清様を寝かせつけます!清様。部屋に向かいましょう!」


 「桜〜!まだ飲める〜!」


 「はいはい。ほら!行きますよ!」


 この日オレは初めて皆より早く休む事にした。酒の力もあってか、ベッドに横になると直ぐに意識を手放した。


 「さ〜て・・・俺は風呂で酒と洒落込もうかね。太郎!次郎!ここは任せて良いか?」


 「慶次様。風呂で酒ですか!?」


 「おうよ!ほら!ここを見てみろ!この尊の居た世界では旅館なる場所にてこの澄み酒を飲む事が、りらっくすを起こすらしい!りらっくすが何かは分からないが試してみるのも一興だろう?まぁ、身体には悪いらしいから程々にするさ。じゃあな!あっ、悪いが松風にあの箱の中の草を食べさせてやってくれ!」


 「え?あの草は!?いつの間に!?」


 「尊があのたぶれっと?という奴で見つけたらしくてな?ぷれみあむちもしーという馬が食べる草らしい。あれを食べてから松風の走る速さが段違いなのだ」


 「分かりました。お任せを。次郎。俺が松風に」

 

 「分かった。では俺は慶次様とお前に肴を作ってやろう。ウィンナーなんてどうだ?更にその上にチーズマヨネーズだ!あれは美味いぞ〜!」


 「おぅ!誠か!まだ俺は食べた事はないが、まよねえずは美味いな!よっしゃ頼むぜ!」



 「(ふん♪ふん♪)松風〜!美味しい草だぞ〜!ぬっ!?誰だ!」


 「ふっふっふっ。俺の顔を忘れたか?だがよく気付いたな?平和惚けしてるわけではないようだな?最近、報告が少ないように思うのだが?」


 「た、多羅尾様・・・申し訳ございません!報告を怠るつもりは毛頭なく・・・」


 「いや、良い。で、最近はどうなのだ?あの男の元で励んでいるのか?酒の臭いしているぞ?」


 「は、はい!過分な配慮にて任務させていただいております」


 「そうか。銭は貰っていないのか?」


 「・・・・少し頂きました」


 「ほぅ?お前はその事を報告していないな?何故だ?」


 「・・・・申し訳ございません」


 「絆(ほだ)されたか?」


 「いえ。甲賀の掟は忘れておりません。ですが、尊様を裏切る事は俺にはできません。(スチャ)」


 「なんのつもりだ?」


 「これが俺が頂いた給金にございます。全額お渡し致しますので・・・どうか本日はお引き取りをお願い致します。近い内、必ず・・・必ず、銭をお持ち致します故・・・」


 「ふん。掟を忘れていないようだな。だが、危うくも見える。里の事を忘れたのか?誰がガキの頃に飯を食わせてくれた?(ドスンッ)」


 「グハッ・・・(クッ・・・多羅尾様の蹴りはヤバイ・・・。尊様のあの力があれば・・・だが、あの人に迷惑をかけてはならない。ここは耐えるしかない)」


 「勘弁してください・・・」


 「どうだっていいがな。お前が里の誰かに殺されようが、どうされようが俺は気にはしない。六角家を失った今、山中様は織田に従う素振りを見せながら、合議制だった甲賀を山中様1人で束ねようと奔走している」


 「・・・・・・」


 「里は相変わらず貧しい。透波、乱波などと蔑まれ、皆が我等を軽く見る。戦の陰働きがどれだけ重要かすら考えず、任務を達成しても、銭で動く下賤の輩などと言われる。

 なら、正式に仕官したいと言っても鼻で笑われ雇っては貰えぬ。そんな境遇を抜け出したいから俺は生まれを隠し、今の地位まできた」


 「多羅尾様こそ里を裏切るのですか!?」


 「(ドスンッ)舐めた口を言うでない。俺は蔑まれるのはもう御免だ。山中様の考えも分かる。が、里に固執しすぎておる。俺は俺の思う通りにやる。山中様・・・いや、山中の爺に里が纏められるわけがない。だが、あの爺が里を纏め、死ねばどうなると思う?今はここまで。

 この事を伝えるなら伝えるが良い。その代わりお前は二度と眠る事を許されぬ事になると約束しよう。これは貰っていく。10日後にこの10倍を持って来い。あ、貴様は算術も出来ないんだったな。これだから教養のない出来損ないはダメなのだ。20貫持って来い」


 「・・・・・・」


 「おーい!太郎!まだか!?もう出来て・・・どうしたんだ!?」


 「いや、何でもない」


 「何でもないわけないだろ!?言え!何があった!?」


 「だから本当に何でもない!中へ入ろう。飲み直しだ」




 「くぁ〜!良く寝た!あれ!?太郎君!?何でここに!?」


 「おはようございます」


 「あ、うん。おはよう。で、何でここに居るのかな?ってか、寝てないの!?」


 「少しうたた寝をしました。それより、本日も例の方の家に参るのですよね?」


 「え?あぁ、そうだね。準備してくれてたの?」


 「はっ。栄養ドリンクと飯は俺が作りました。肉は入れず、出汁も昆布と椎茸から取った、醤油味のうどんにしました。そして、南蛮物としてこの料理本に書いてあった、ソイミートの青椒肉絲という物を作りました」


 「へぇ〜!凄いな!よく作れたね!肉無し料理ならオレより太郎君の方がセンスがあると思うよ!じゃあ今日はこれを持って行こう!それと、太郎君は今日はお留守番ね!オレ達が出た後、鍵を閉めて寝ること!徹夜は身体に悪いんだ!」


 「いえ、問題ありません」


 「あれ?なんか折角、仲良くなれたと思ったのにまた冷たくない!?何か悪い事した!?」


 「いえ。これが本来の感じ・・・です」


 「なんか・・・いや、何でもないよ。ならオレはもっと仲良くなれるように頑張らないといけないな!これからも頼むね!さて・・・顔洗って、歯磨きして行こうかな」


 (多羅尾様に逆らう事はできない。だが、尊様を裏切る事なんて・・・したくない。俺も変わりたい。初めて、心からお仕えしたいという方に出会えたというのに・・・どうすれば・・・)

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