ドライブイン安土 改革7

 「さて、行くか」


 慶次さんのいつもとは少しトーンが違う掛け声で向かう事となった。今日は太郎君がお留守番だ。慶次さん、清さん、桜ちゃん、梅ちゃん、次郎君、オレだ。


 清さんが運転の自転車の後ろに乗り、移動している。いつもとは違うのが、体感的に音速の壁を超える勢いではない事と、皆が口数が少ない。斯くいうオレもだ。


 「皆、聞いて欲しい」


 オレは清さんの後ろに乗りながら考えた事を言った。

 

 「これは自分勝手で、なんなら織田様にも怒られるかもしれないけど、オレは身売りや奴隷の話なんて過去の事だという世界から来たんだ。昨日も、てるさんが言ってただろう?『身売りします』って」


 「確かに言われていましたね」


 「うん。けど、オレはそれを阻止したいと思う。皆にも未だ満足な給金は渡せていないし、これ以上人が増えると更にその問題も起こるだろう。けど、オレはあの人を身売りさせたくない。他にももっと酷い境遇の人が居るとは思う。けど、オレが目の当たりにした人はどうにかしてあげたい。そう思うんだ」


 「(クスッ)やはり、お優しいですね!尊さまは!」


 「そうだな〜。そんな考えの者は近江含め、美濃や尾張でもお前くらいかもしれないな。俺は構わないぜ?大将!そんな奇特な考えの持ち主こそ、俺の主ってもんだ!」


 「桜、委細任せます」「梅も同じく」


 「自分は尊様のお考えに従います。それに先日頂いた、給金も使う事がありませんので、全然、自分は大丈夫っす」


 「ありがとう。オレの我が儘ばかり言って。太郎君にはオレから伝えるから。オレから見て、てるさんのお父さんはいつ亡くなってもおかしくないと思う。そうなればオレはあの人を銭で雇うよ」


 「「「はっ!」」」「おうよ!」「(クスッ)」


 


 〜ドライブイン安土〜


 はぁ〜。本当にどうしたものか・・・。こんなにも俺達の事を考えてくださる方はどこを探しても居ないと思うのに、里を裏切る事はできない・・・。


 「ハァー・・・」


 ドンドンドン


 「んぁ!?あ!いらっしゃいませ!申し訳ありません。本日はお休みでございます」


 「お前がここの店主の尊と申す者か?」


 「尊様ですか?尊様なら今は患者の往診?に行かれています」


 「うん?飯屋だけでなく、医者でもあるのか?それにしてもいつ来ても居ないのだな。俺は、織田家 大工衆 岡部一門頭領 岡部又右衛門だ。まぁなんだ。先触れを出さない俺が悪いから何も言うまい。で、いつ戻るのだ?」


 「あ、あなたが岡部様でした・・・。失礼致しました!尊様はいつ帰るとは言ってませんが、恐らく昼九つ 午の刻までには戻られると思います」


 「長いな。二刻以上あるな。まぁいい。ここは飯屋なんだろう?今日は休みなのか?」


 (この話し方・・・。恐らくここの飯を食べてみたいのだろう。今は尊様が居ない。しかも相手は織田家の建築全てを担う岡部又右衛門本人だ。少し吹っ掛けて銭を取り、多々羅様にそれを・・・。いやだが、バレると尊様に恩を仇で返す行為・・・)


 「おい?聞こえていないのか?今日は休みなのか?」


 (尊様!申し訳ありません!咎められるなら喜んで腹を斬ります)


 「え、営業してます!ただ、準備をしておりませんし、食材が少ないので直ぐに用意する分、銭の方が・・・」


 「おぉ!してくれるのか!いやなに・・・安土 築城を任せられている俺の一門の奴等が巷で噂の『どらいぶなんとかって商店の飯を食いたい食いたい』と煩くてな?大丈夫だ!俺は岡部一門衆の頭領だ!銭ならいくらでもある!いつくらいに来ればよい?」


 「す、直ぐに準備に掛かりますので、四半刻後くらいにお願いします!」


 「うん?それくらいでいいのか?なら本当にそれくらいに一門を連れてくるぞ?だいたい10人くらいだ!明日には更に連れて来る!」


 「か、畏まりました!よろしくお願い致します!」


 「うむ。先に支払いを済ませておきたい。なに・・・部下にカッコいい所を見せてやりたいのだ。お主も男なら分かるよのう?はっはっはっ!いくら払えば良い?」


 「い・・・1貫でお願い致します!」


 「うん?たったそれだけか?別に気にしなくていいんだぞ?俺はてっきり30貫くらい吹っ掛けられるかと思ったのだが?なんせここはお館様もお気に入りの所だろう?それに堺ですら、南蛮の物を食べられる店なんて少ないくらいなのに、近江でそれを食べられるなら安いもんだ」


 「に、20貫でお願いします!どうか・・・」


 「よっしゃ!ならそれで頼もう!できれば酒もあるなら頼みたい!」


 「お任せください!後・・・生臭物を使っても?いや、実はあれはかなり美味く・・・」


 「構わんよ。実はそれも楽しみだったのだ。なんせ、南蛮人は肉を好んで食べているだろう?宣教師が塩漬け肉を食べているのを見た事があるのだ。まぁ頼んだぜ?銭は先に持って来させよう」


 (やってしまった・・・。これでオレは後戻り出来なくなってしまった・・・。そもそものこんな事がバレない訳ないよな。あの岡部様は明らかに尊様に用がある感じだったし。飯は振る舞い、素直に切腹しよう・・・。一昔前ならば丁稚の振りして、対象の家の者を亡き者にしても心は何も感じなかったが今は違う・・・。尊様だけは裏切ってはダメだ)




 〜尊一行〜


 「ハァー。中に入ろうか」


 「尊。そんな溜め息なんて吐くな」


 「分かってますよ」


 オレ達は、てるさんの家に到着した。他の家庭も隣に居る、長屋だ。昨日は気が付かなかったが、かなり注目されている。まぁ騎乗している人が1人居るし、オレの自転車も目立つからな。


 オレは気持ちを切り替えて、元気良く挨拶をした。


 「おはようござい・・・ます!?あれ!?てるさんの家ですよね!?」


 「おぉ!其方は昨日の!医者ではございませんか!」


 戸棚を空けて中へ入ろうとした所に、老齢ではあるが、1人の男性がオレに抱き付き抱擁をしてきた。しかも口振りからして・・・


 「まさかお父様ですか!?」


 「そうですじゃ!いやぁ〜、あなた様の薬が効きましてな!?あの栄養どりんくでしたかな!?あれを飲んで、一晩寝ると、この通りですじゃ!」


 「は!?い、いや!?え!?」


 「わっはっはっはっ!尊!流石だな!御老体!この尊は、そんじょそこらの三流のヤブとは違うのだ!な!尊!見立て通りだろ!?(パチンッ)」


 慶次さんは『計算通り!』みたいな顔でオレに問いかけ、ウィンクしてきた。話を合わせろという事か。けど、あの栄養ドリンクでこんな事になるの!?明らかに直ぐに死にそうな感じだったんだぞ!?


 「ゴホンッ。尊さま!流石にございます!少々、難しい病気とお聞きしておりましたが、尊さまが作られた《万病薬》は何でも効きますね!そうは思いませんか!?桜?」


 「そ、そうですね!あの尊様が配合した《万病薬》は最強です!ね!?梅?」


 「そうです!流石、《尊様がお作りになられた万病薬》です!よね!?次郎!?」


 「あ、そ、そうですね!あの《万病薬》は秘伝の薬ですからね!驚きです!」


 いやいや皆は何言ってんの!?タブレットで購入してる所見ただろ!?まったくオレは作ってないし、なんでやたらと万病薬やオレが作ったとか強調してくるんだよ!?


 「(ガラガラガラ)あっ!尊様に奥方様!それに皆様!本当にありがとうございました!!!オトウが元気になりました!!」


 「わっはっはっ!てるとやら!尊が調合した薬の《万病薬》を・・・あっ!渡したのだから!当たり前ってぇ〜!ことよ!」


 いや慶次さんは何故にここで歌舞伎風なんだ!?


 「あれは万病薬なのですか!?誰にでも効く薬なのですか!?」


 「尊さま!そうですよね!?結構、効きますよね!?(パチンッ)」


 清さんまでウィンクしてくる・・・。あぁもう!どうにでもなれ!オレは知らないぞ!


 「ゴホンッ。えぇ。そうです。私がお作りしました。まだ生まれて間もない頃に、私は霊峰と名高いマウンテン富士に登り、その奥地にある所にてこの《万病薬》の開発に成功致しました」


 「まぁ!?まうんてんふじ?がどこにあるかは分かりませんが、さぞかし、お厳しい修行をされた事かと・・・そのお薬を私達に・・・ありがとうございます!ありがとうございます!(グスン)」


 痛い・・・。非常に心が痛い。そもそもマウンテン富士ってどこだよ!?いや、オレが適当に言ったんだけど、ワンチャン富士山と言えば分かるかもと思い、英語を混ぜてみたんだけど・・・。


 「おい!てる!買い出しに行ったんだろ!?早く持てなしてあげなさい!まぁ狭ぇ〜が入ってくれ!それにたっぷり礼をさせてほしい!今は何もないが、せめて飯くらい食べてってほしい!」


 「おぅ!御老体!分かってるじゃないか!景気付けに酒なんてどうだ!?俺達ぁ〜本来は飯処を営んでいるんだ!そこにも売ってあるから飲んでみな?飛ぶぞ!」


 いや病み上がりで何で酒を進めるんだよ!?そもそも股間から出したウィスキーとか誰が飲むんだよ!?せめて懐に隠せよ!?それに酒くらいで飛ばねーよ!!


 てるさんが、オレ達に飯を振る舞ってくれるとの事で甘える事にした。あの鷹のマーク昭和製薬のファイト一発にこんな凄い効能があるなんて信じられない。これは帰ったらタブレットのヒントでも見て確かめようと思う。


 てるさんが作ってくれた物は玄米と思われる米に、味噌汁、漬物に塩と味噌だった。しかもこれが・・・


 「急いで買い出しし、今ある全ての銭をかき集め、尊様達からすればこんな物かと思うかもしれませんが、今できる最大のお礼です!」


 と、言ったのだ。別に馬鹿にするつもりはない。心が籠っていればどんな物だって美味しい。が、流石にこれは食糧事情が悪すぎるんじゃないかな!?丹羽さんの所領だろ!?もう少しどうにかした方がいいんじゃないすかね!?

 玄米で贅沢って・・・。まぁそこは、そりゃ仕方ないだろう。時代だからな。だが、圧倒的におかずが少なすぎる。それに塩分が高すぎる。


 「い、いただきます!ありがとうございます!」


 オレは出された物は例えどんな物だろうと、食べ物なら食べる。それが礼儀だと思っているからだ。味はやはり塩辛い。運動量の多いこの時代の人ならばこれくらいは有りなのかもしれないが、それでも辛い。


 ここに卵焼き一つあればかなり変わるんだけどな。今度、この時代の人が何を食べているのか観察してみようかな。食べ歩きなんかもいいかもしれないな。


 「いかがですか!?」


 「あ!美味しいですよ?少し塩辛いですけど」


 不味いとは絶対に言わない。けど、美味しくない物を本当に美味しいとまでも言わない。せめて、塩辛さがなければ健康的な感じはする。そうだな・・・オレなら、玄米を炊く時にこの味噌玉を溶かして、米に味を漬けるかな。そして、軽く塩漬けしたキュウリに味噌玉を漬けて、汁掛けご飯なら美味しいだろう。


 「ごちそうさまでした!久しぶりにこういう飯を食べたぜ。いや美味かったぜ?ほら!御老体!これは俺達からだ!また食べてくれ!南蛮の飯だよ!」


 「すまない。頂こう。本当にあなた様達が食べられているような物は作れなく、お礼もままならないのだ。許してほしい。ずっと寝ていたから、未だ手足が弱いからまだ働けないが、どこかの鍛治にでも働きにでるからそれまで支払いは待ってほしい」


 「いや、支払いなんて要らないですよ?昨日も言ったの覚えてます?オレの気持ちだって」


 「いや、そういう訳にはいかないだろう!?どこかの霊峰で会得した製法の薬なんだろ!?」


 「ゴホンッ。マウンテン富士にて・・・。それなりに過酷な修行をば・・・」


 「なら尚の事・・・。あんたが現れなければ俺は死んでいただろう。だからこの先の人生がどのくらいあるかは分からねーが、儲け物よ。もしあんたが良いなら、あんたは料理人と聞いたが、鍋くらいなら作ってやれるし、包丁だって、良質な真砂があれば作れられる」


 そういえば鍛治師って言ってたよな。いや、どうせこの時代に来たんだから、まったく使えないけど形だけでも刀は2本くらい欲しいよな。清さんの左文字だっけ?あれを借りたりしてるけど、あれは清さんのだし。

 それにもし、戦に行く事になったとしてもオレは間違いなく数打ちゃ当たる戦法の鉄砲派だからな。それでも、カッコいいから刀も欲しい。


 鍛治をするなら加工場みたいな場所も必要だよな。レベルがかなり上がったからタブレットから炉とか売ってないだろうか?いや、流石に炉なんか売ってないだろうな。ここはグー◯ル大先生で調べて、動画を見た方が良さそうだな。

 

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