ドライブイン安土 改革8

 「ここに居ても結局の所、貧しい事には変わりない。いや、尊様だったかい?あんたに、銭だって渡せない。ならば、少しばかりは休まないといけないかもしれないが、身体が動くようになればあんたの役に立ちたい。娘のてるも屋敷の雑用くらいはできる!どうだい!?俺達を雇ってくれないか!?」


 オレが炉の事を考えていると、お父さんはとんでもないことを言い出した。


 「個人的には構いませんが、オレは飯屋ですよ!?給金もそんなに出せないし、本職の鍛治の加工場だって直ぐには用意できませんよ!?」


 「俺は構わない!命をあんたに助けて貰ったといえど、20年も30年も生きられる訳はない。なら最後くらいは、あんたの役に立ちたいという心に、正直に生きたい。それに・・・打算的だと言われるかもしれないが、てるに腹一杯の飯を食べさせてやりたい。あんたの配下は身体付きが良い。女子でも少しふっくらしている」


 そりゃあな。出会った時は牛蒡みたいに線が細かったが、今は肉も卵も色々と食べて、且つ毎日皆がオレに合わせて刀の素振りや槍の突きの練習に付き合ってくれてるからな。肉付きも良くなってはいる。


 「まぁ・・・この辺では1番安定して色々食べていると思いますよ」


 「だろう!?てるにも色々食わせてやりたい。親としての心なんだ。その分、動けるようになれば俺が働く!な!?頼む!いや・・・頼みます!!」


 ここまで言われて、拒否なんてできないよな。


 「分かりました。いいですよ。ただ、オレの飯屋は店舗兼、住宅なのですが、流石に部屋数が少なくてですね・・・。後ろは山なのですが、横はそれなりに空き地にはなっていますが、住居がないのですよ・・・」


 「そんなの構わない!俺が自分で木を切って建てる!こう見えても、六角の殿様や浅井の殿様の時代では働いた男ぞ!?」


 「そ、そうなのですね。まぁオレの方もマウンテン富士で会得した技で色々と考えてみます」


 タブレットにテントとかあるかな?たちまちはそこに布団だけ出して、寝泊まりしてもらえればいいかな。いや、車庫をもう一つ購入してもいいかもしれない。が、お金・・・足りるだろうか。


 「その前に、まだ俺の名前を言ってなかったな」


 「そういえば・・・お父さんと呼んでただけでしたね。失礼しました。お名前は?」


 「俺は源三郎だ。今後ともよろしくお願い致す」


 「私は既に言いましたが、源三郎の娘、てると申します!雑用でも何でもいたしますのでよろしくお願い申し上げます」


 「オレも正式な名前は・・・武田尊と申します」


 「な!?あんた名字持ちなのかい!?」


 「えぇ。今は伏せていますが、本当です。また近々理由は言いますが、あなた達が初めて自らオレの家で働きたいと言ってくれた方達です。オレの本当の名前を伝えておきます」


 「で・・・あっ!俺が!天下無双の!あっ!傾奇者ッ!!あっ!前田慶次とは!あっ!俺の事よ〜!」


 「すいません。こんなですけど、オレの護衛の方で本当に凄い人なんです。よろしくしてやってください」


 「私は尊様の妻の・・・元、丹羽長秀が末娘の清と申します。今は降城しましたので、平民みたいな者です。よろしくお願い致します」


 「清様及び、尊様の護衛兼、世話係の桜と申します」


 「同じく梅」「同じく次郎と申します。よしなに頼みますっす」


 「いや、待て!待ってください!あんた・・・いや、あなた様はまさか・・・」


 「え?違いますよ。普通の一般人・・・平民ですよ。名字はありますが、これには理由があるのです。で、清さんの事は本当ですけど、優しい女性ですし、オレの妻ってのも本当ですよ」


 「いやしかし・・・こら!てる!頭を下げなさい!」


 「いや、辞めてくださいって!今まで通りでいいですから!清さんもそれでいいですよね!?」


 「えぇ。寧ろ、そうされるのは苦手かな?」


 「そ、そうかい!?手討ちとかないよ・・ないですよね!?」


 「喋り方も気にしませんよ。そんな事する意味がないじゃないですか。まぁ、貴方には期待してますよ。炉は考えがありますので、清さんが持っている左文字?だったかな?これに張り合うくらいの刀をオレに作ってください!刀ってやっぱりカッコいいですからね!」


 「すまん。よければ、奥方の刀を見せてもらえないか?」


 「いいですよ?」


 「・・・・奥方殿?これはどこで?」


 「これは父上から頂きました。彼の桶狭間での電撃戦にて、今川公を討ち取った折の戦利品の一つでして。大殿は二尺六寸の太刀を所有し、肌身離さずお持ちになっておられるくらいのお気に入りです。その電撃戦の折に、父上は戦いには参加していないものの、従軍はしており、理由は当時、降伏派が多かった諸将の抑え役を買って出た為に従軍できなかったと聞いております。

 ですが、大殿は、『長秀の抑えがなければ織田を纏められなかった。これは、この義元の左文字を打った刀工に作らせた1振りじゃ!つまりワシの物となったこの左文字と兄弟刀みたいな物じゃ』とお褒めの御言葉と一緒に褒美としてこの刀を譲り受けたようで、私は下腹女の出ですが、父上はお優しく私に、『何もしてやれなかったから、せめてこれを渡しておく』と言っていただき、今に至る訳です」


 「うむ・・・この沸と匂い・・・懐かしい」


 「え!?オトウ!?何で!?」


 清さんと、丹羽さんの件もだけど、桶狭間の事がここで少し聞けるとは思わなかった。が、そんな事よりこの源三郎は何者!?ただの野良鍛治師じゃないの!?実はかなり凄い人とか!?


 「左文字作の刀とは・・・筑前国の刀工で作名 左文字源慶。元は鎌倉の刀工 正宗派に入門したと聞いている。俺はその孫弟子・・・とまでは言えないが、この左文字一派の庶流でもある師匠に師事していた。その左文字派ら南北朝の折に活躍していたと聞いている。昔、兄弟子から本物を見た事があってな。刃に向かって火炎のように突き出る沸・・・これが左文字派の特徴だと・・・」


 「そんなにお詳しいとは・・・あなたまさか!?」


 清さんまで驚いている。オレも驚いてはいるが、そこまで話についていけない。ただ、とんでもない秘密が語られているということは分かる。


 「この刀を鍛刀した者は俺の師匠だろう。元は俺は駿河に居たのだ。昔は俺にも野望があってな。自分の流派を打ち立てたくてな。だが、師匠の下では所詮は左文字派の偽物としか言われないから・・・俺は飛び出したのだ。師匠は確かに今川の大殿と直接話せる人じゃった。師匠は元気にしているだろうか・・・」


 「この刀を最後に・・・亡くなったと聞いております。この刀を打ってもらった時で既に80を超える高齢とお聞きしておりました」


 「そうか・・・。そうだよな。もう15年程前の話になるのだよな。尊様。見ての通り俺は自分の流派を立てられなかった。それに諸国を放浪し、近江に流れ着き、嫁を見つけ、てるが生まれ、浅井の殿様の下の下ではあるが、鍛治に関しては嘘は吐かず頑張った。が、時代は鉄砲に変わってはきているのは知っている。だが・・・。だが!人生の渾身の一振りを鍛刀してみたい。俺の刀鍛治師としての集大成を!それを是非、尊様に献上したい。直ぐには無理だと分かっている。けど、生きてる間には必ず・・・」


 「(クスッ)作った方は違いますが、もしそうなれば私の愛刀と尊さまの愛刀とで師弟刀なってしまいますね!」


 「わっはっはっ!よくぞ言った!その歳で未だ志は消えていないと見える!眼(まなこ)も衰えちゃいねーな!?尊のだけとは言わず、俺達は全員で7人居る!7本の刀を打ってみろ!左文字も有名だが、その左文字をも超える刀を作り、俺達が天下に轟く事を成せば・・・

 源三郎!あんたの名前も天下に轟くって寸法さ!刀の時代は終わねぇ〜!男子(おのこ)は皆、刀に魅せられるものだ!そうだろう?」


 「あぁ。間違いない。その魅せられた1人が俺だ。鉄砲の時代が到来し、俺は愚痴ばかり溢し、心を込めた刀を打たなくなった。心が入っていない刀は鈍(なまくら)だ。直ぐに折れる」


 哲学的な話だな。ファンタジーのような話にも聞こえる。オレは途轍もない人を雇ったのかもしれない。



 〜ドライブイン安土〜


 「おぅ!遅くなっちまった!ほら、銭だ!ついでに、一門の者も連れて来たぞ!南蛮飯を頼むぞ!」


 「は、はい!既に下準備はできております!」


 (本当にやってしまった・・・。この木箱の重さ・・・本当に20貫は入っているだろう・・・。ここまでくればやり通すしかない。この銭を多羅尾様にお渡しし、腹を斬って、今後は尊様に手を出さないようにお願いしよう)



 「お待たせ致しました!チャーハンになります!ここの店主の自慢の焼き豚・・・獣肉に味を漬けて炒めた物です!」


 「2品目は同じく、ほいこうろうなる食べ物です!獣肉を薄く切った物に甘辛く味を漬けて痛めた物です!きゃべつなる野菜と非常に合います。あ!そこのおでんはご自分でお取ください。横の黄色の物はカラシと言いまして、好みで付けてお食べください」


 「うんめぇ〜!」「なんじゃこりゃ!?ただのこめではないな!?」

 「こんな物初めて食べたぜ!」「おーい!若人!酒も!酒も持って来てくれ!」


 「お待たせいたしました!3品目は、ラーメンになります。本来のここの店主が作るラーメンとは少し違い、自分なりに本来の味を変え、店主の尊様に合格をいただいた味です。本来は醤油味のラーメンですが、自分は獣の骨から出汁を取り、味付けをしたラーメンになります」


 「(ジュルジュルジュル)うむ!お主は太郎と言ったな?若いのに料理の修練を積んでいるようだな!美味い!誠に美味い!ここだけの話だが、お館様の料理番が作る飯より美味い!できるならば、店主が作るらあめん?も食べてみたいぞ!」


 「お褒めの言葉、ありがとうございます。まだ食べられるようならばお出し出来る物はございますが、どうされますか?あっ、酒の方はこれへ。(シャコッ)」


 「なっ!?」「なんだこれは!?」「泡が!?泡が出ておる!?」 


 「金色!?」「いや、オメー達は何も思わないのか!?あの入れ物を!?」


 「確かに・・・ビードロではいな!?棟梁!?これはなんなのですかい!?」


 「そんな事俺は知らん!美味ければ良いではないか!」


 「「「「「(ゴグッ ゴグッ ゴグッ)」」」」」


 「「「「「「うめーーっ!!」」」」」」」


 「若人!もう一杯!!」


 「そういえばよ?お館様が褒められているそうだぞ?あんたの所の店主を(ゴグッ)」


 「褒める?ですか!?」


 「あぁ。なんでも、坊主との戦で店主が出した片手銃やら焙烙玉がかなり役に立ったと聞いているぞ?丹羽殿の下っ端の何某君だったか?まぁ名前は忘れたが、明智殿ですら上機嫌になっているくらいにその下っ端を褒めていたらしいぞ?明智殿は下っ端の事を褒めるなんてしない方なのにな。余程、凄い武器だったのだろう?堺の国友等を近江に詰めさせるとか言っているとか?」


 「あの国友衆をですか!?」


 「あぁ。国友の頭領も片手銃に目を見開いて驚いていたそうだぞ?だが、弾が特殊なんだろう?多分、そろそろお館様もこちらに来ると思うぞ?未だ正確に決着はついていないから、次の戦までにある程度量産させたい腹構えなんじゃないか?(ゴグッ ゴグッ プッハー!)それにしても金色の酒は美味いな!」


 「おーい!若人よ!こちらに向かってくる一団が居るぞ?」


 「え!?あっ・・・・」


 (もう戻られましたか・・・。なら、俺はこの銭を先に多羅尾様に渡し、岡部様を騙したという体にして、咎は俺という事にすれば尊様に迷惑はかけ・・・既にかけてしまってはいるが、なんとか・・・)


 「うん?おい!?どこへ行くのだ!?」


 「岡部様!申し訳ありません!あれが店主の尊様です!後はあの方によろしくお願い致します!御免!」


 「あ!おい!?」



 「これでオレもとうとう刀が持てるかもしれないって事だよね〜!」


 「刀を持つのはいいが、早く尊はそれに見合った技を磨けよ?それ以前に基本的な事が全然だからな!あら?おーい!太郎!出迎えか?って、おい!」


 「太郎君〜!どこ行くの?」


 「尊様!申し訳ありません!本当に恩を仇で返すようにしてしまいました!店に岡部様が居ります!御相手願います!」


 「太郎君はどうしたんだ?なんか急用かな?」


 「もう!本当に太郎は留守番もできないの!?それに岡部様って安土城 普請の岡部様って事?」


 「あっ・・・清さん!急いで!そういえば昨日、岡部様って人が『また来る』とか言われてたんだった!桜ちゃん!多分その普請の岡部様だよ!」


 岡部様が居るとして、何で太郎君は出て行ったんだ!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る