ドライブイン安土 改革9

 「どどど、どうも!!貴方様が、岡部様でよろしいでしょうか!?ここの店主の尊と申します!」


 「おぉ!其方が店主か!いやぁ〜、丁稚の太郎という奴に無理言って、店を開けてもらったのだ!悪かったとは思うが、実に素晴らしいな!」


 「あ!?え!?店を開けたって・・・」


 太郎君の独断かな?いやまぁ、岡部さんなら仕方ないか。かなり目上の人だしな。それにしても配下の人達かな?この人は確か、大工集団だったよな?

 今は安土城の仕事をしているはず。配下の人もこれまた凄い身体付きの人ばかりだ。よく見ると、炊飯器はうちは5台あるけど、5台フル稼働しているのが分かる。


 ってか、まだ値段設定していないんだけど、どうしようか・・・。


 「おうよ!流石、お館様が褒めておられた南蛮の飯処だな!20貫でも安く感じるぞ?店主よ!これはどこで学んだのだ?部下の者が、食事に一切の毒を吐かないのは珍しいのだ。此奴等は食う事だけは煩くてな?はっはっはっ!」


 「に、20貫ですか!?」


 「ゴホンッ!手前、織田家 赤母衣衆 前田又左衞門 親族衆の1人 前田慶次郎利益と申しまする」


 オレが金額に驚いていると、慶次さんが咳払いして前に出てきた。あの咳払いは何か考えがある時にするやつだと即座に分かった。

 

 が、太郎君・・・オレを殺す気か!?ボッタクリすぎじゃねぇ!?そりゃお金は必要だけどよ・・・。


 「おうおう!其方があの傾奇者か!お館様も其方を気に入っておるみたいだぞ!で、又左殿の親族衆がどうしたのだ?」


 「いえ。ここの飯屋の者が銭の額を勝手に決めたようで」


 「うん?20貫じゃ足りなかったか?」


 「えぇ。急にこんな人数で来られ、準備もかなり大変だったと。それに1人3品以上且つ、酒も相当飲んでいるかと見えまする。今しがた、先まで居た、太郎という店の者が飛び出して行ったかと思いまするが、あれは買い出しに行ったのかと思いまする。そうですよね?尊様?」


 慶次さんが珍しく丁寧な敬語でオレに話してくる。しかも慶次さんは更にボッタクろうとしているのか・・・。いや、違うな。多分これは裏があるのだろう。

 しかも、うちは買い出しなんて行わない。オレがタブレットで全て用意できるからだ。 それをわざわざ、この岡部さんに言うという事は只事ではないという事だ。

 ここまでくれば流石のオレでも分かる。太郎君は何かしらお金が必要だった。それでちょうどこの人が来たから、独断で値段を決めて接客をした。この人も信長に近い権力者だからお金は持っているし、南蛮の事を少し知っているから、迷わず言われたお金を払った。


 その事を直ぐに察知した慶次さんが、太郎君を庇うようにオレに被せるように話をして、然も安く提供していると思わせるようにこの岡部さんに吹っ掛けた。という事だろう。

 では何故、太郎君はお金が必要なのか。『恩を仇で』とか言ってたけど、オレを裏切ったという事だろうか?ならば、前に渡した給金の2貫を『返す』なんて言わないだろう。


 この時代に来て分かった事はかなりの縦社会だ。太郎君含め、桜ちゃんも梅ちゃんも、次郎君も元は草と呼ばれる身分?だった。そしてこれも少し前の話で、出た上役という存在。


 『こんなに給金を貰えば殺されます』


 的な事を言ってたと記憶がある。


 確か、この子達の里は貧しいと聞いている。しかも、倫理観のクソもない、隣が潤っていれば奪ってしまえ!な時代だから、そこも考えると、その上役の人が銭をナイナイしているか、元々任務中に稼いだお金は上に納める制度なのかとオレは思う。

 現代倫理観のオレからすればどちらにしても意味の分からない制度だ。何で金を稼いで殺されなきゃならないのか。何で何もしてないのに奪われないといけないのか。


 貧しいのは仕方がない。だが、弱い者から巻き上げたり、奪ったりするのは違うだろ。


 太郎君はうちの従業員・・・ではない。大名になってもいないし、ましてや、名のある将でもないが、オレの家臣みたいな子だ。ただの友達でもない。オレが、『勝手にうちの従業員が値上げしたようで、申し訳ありません』なんて言おうもんなら、間違いなく太郎君は殺されるだろう。

 だが、絶対にそんな事はさせない。まだ知り合って1年どころか、1ヶ月くらいしか居ないけど、最初こそ笑ったり、冗談言ったりなんてしなかったけど、ここ最近の笑顔は本物だったと思いたい。

 昨日から笑顔が無くなったのはこのせいなんだろう。多分かなり悩んでいたんだろうな。一言オレに言ってくれりゃ良かったのに。


 その事を踏まえ、オレがこの岡部さんに話せる事は・・・。


 「えぇ。岡部様。申し訳ありません。南蛮料理にはこの醤油や砂糖、胡椒と、かなり使う料理です。その回鍋肉のタレには甘味もあったでしょう?それは砂糖だけではありませんが、まぁ砂糖の甘さもあります。チャーハンや肉にも甘味の他にも胡椒気もあったでしょう?それらがどのくらいの値が張るかは織田様に近い岡部様ならお分かりになられるかと・・・」


 「そ、そうですよ!岡部様!」


 「うん?其方は・・・丹羽殿の?」


 「はい!末娘の清と申します!この度、尊さまに嫁ぐ事となりました!私も料理を手伝ったりしますが、かなり仕入れに値が掛かるのです!」


 清さんも察してくれたようだ。


 「あ、あぁ。別に払えと言えば払うが、こっちとしてはそれならそうと先に言ってもらいたかったのだがな?その丁稚の太郎という奴に何度も銭の事を聞いたのだぞ?」


 「申し訳ありません。ならば今回はこれ以上は頂きませんので、太郎の失礼な振る舞いを勘弁していただければと思います。その代わり・・・岡部様が味わった事のない甘味を迷惑料としてお出しします。もちろん、配下の方達にもです。清さん?冷蔵庫のプリンを出してあげてくれる?」


 「はい!」


 「ぷりん?聞いた事がないな」

 

 「親分!店主がそう言ってるんでさ!別にいいじゃないっすか!銭の事はオラは分からんですけんど、美味かった物は美味かったし、酒も極上でしたよ!それに甘味なんて、滅多に食えんでさ!」


 「ふん。まぁ確かにお前達がそこまで満足する姿は初めてだな。よし!ならば、丁稚の勝手は無かった事に致す!それとな?本来は飯を食べに来た訳ではないのだ。お館様が、安土の城の一部をここの店主。つまり其方に聞いて、二の丸の作りをここのような建物を参考にせよ言われてな?見るからにこれは南蛮様式だな?どうやって組み立ているのだ?」


 いやそこ!?そもそも何で、信長はオレにそんな話を振るんだよ!?オレは飯屋だぞ!?


 「あぁ!もう一つ!城の料理番の金右衛門という奴が居るのだがお館様は『かれい?という食い物の作り方も教えておけ!』と言っていたぞ?なんでも・・・見た目はアレに見えるそうだが、かなり美味いそうだな?米が何杯でも食べれてしまうとか?」


 「はぁ〜・・・えぇまぁ、好きな人は好きですかね?次来られた時はお出ししますよ。うちの自慢の品でもあります」


 「お待たせ致しました〜!こちらプリンになります!冷たくて甘くて美味しいですよ!」


 「(チュルッ)ムホ!親分!かなり美味いですよ!なにより甘い!!」


 「おいおい!食べるの早過ぎだ!」 


 「(慶次さん。悪いけど、岡部様の相手を任せてもいいですか?)」


 「(いいけど、尊は・・・太郎の事か?場所は分かるのか?)」


 「(何となくこの元凶は分かる。上役って人だと思う。桜ちゃんが知ってそうだから連れて行きますよ)」


 「(俺は行かなくて大丈夫か?)」


 「(大丈夫。もう遠慮はしない。向こうがコソコソ仕掛けてくるなら許さない。そりゃオレは刀も何もできないけど、これは絶対に退けない、絶対に屈してはいけない事なんだと思う)」


 「(・・・・分かったよ。存分にな。抜かるなよ。大将)」


 オレは静かに怒りが沸いている。ファッキンサノバ上役にだ。誰かは分からないけど、うちの太郎君にコソコソ仕掛けてきやがってな。そりゃ、格闘技も刀も何も出来ないけど、勝つ負けるの次元じゃない。

 時代のせいとかもあるが、そんな事は関係ない。


 それからの行動は早かった。オレは隠れてタブレットを操作する。項目は・・・武器のところだ。


 《S&W M15》8貫


 《.38スペシャル弾 24発》1貫


 説明によると、《S&W社の.38口径リボルバーのメインストリームとして、順次に改良を重ねつつ、19世紀から21世紀という長期にわたって多数が生産されている》


 と、書かれている。要は未来のアメリカ製だ。本当は信長に渡した物と同じ物を購入したかったが、何故か同じ物は一つしか買えないのだ。一つ購入すれば、真っ黒になって、タップしたら《売り切れ》と出るのだ。


 そして、すかさず動画にてこのピストルのリロードを確認する。このピストルも持ち手の少し上に出っ張りがあり、それを滑らせると弾を込める所が落ちるのだな。


 いつもは、適当に動画でリロード方法だけを見て終わらせるけど、少しイライラしてるせいか、動画を長く見てしまい、少し分かった事がある。弾込めする際に滑らせるボタンをラッチというらしい。そして、その弾込めする所をシリンダーというみたいだ。

 動画では在米日本人の誰かだとは思うが、丁寧に説明している。一応、チャンネル登録しておこうか。今後も何かと見るかもしれないからな。


 「桜ちゃん。上役って人の所分かる?」


 「え!?尊様!?その手に・・・まさか!?」


 「うん。ちょっと話を聞きに行こうかなってね。桜ちゃん達がその上役?って人の事をどう思っているかは知らないけど、オレは退かないよ」


 「場所は分かります。ですが・・・」

 

 「なら、早く行こう」


 「尊様!自分も・・・」「私も・・・」

 

 「次郎君と梅ちゃんは待機。清さんと慶次さんが岡部様の相手してくれているから、色々作ってあげて。どうせまだ飲むと思うから。そうだな・・・親父の部屋・・・慶次さんが寝泊まりしてる部屋にワインセラーという小さな箱があるから、その中に酒が少し入っているんだけど、その一つを振る舞ってあげていいよ。本当に高い酒だから」


 親父は酒が好きだった。ビールも焼酎もウィスキーもワインも。その親父の形見とも言えるワインを提供してしまうくらいに今オレは・・・


 「本当にイライラするな」


 何故か分からないけど非常にイライラしている。自分が殺されるかもしれないとは思うのに、更々負けるつもりはない。あの賊?の人を殺した時は吐いてしまったが、今ならそんな事にもならず、自らその上役って奴を撃ってしまいそうだ。




 〜とある民家〜


 「多羅尾様。居られますか」


 「出来損ないか。もう銭は工面できたのか?」


 「はっ。ここに・・・20貫揃えて用意しております。そして、お願いしたき儀が御座います」


 「ほぅ?やればできるじゃないか。まぁ、この功において、その願いたい事を聞くだけ聞いてやろう。なんだ?」


 「どうか・・・どうか、これ以上はあの店に手出し無用でお願いします。俺はどうなっても構いません。これ以上、あの方を裏切る事をしとうありませぬ」


 「絆(ほだ)されておるな。草の癖に感情を捨てきれなんだようだな。だからお前は上忍になれぬ出来損ないなのだ。(ドスンッ)」


 「グハッ」


 「おい!いつからワシにそんな口を聞けるようになったのだ?あん?いつからお前はワシより上になったのだ!?(ゴツッ)貴様はワシの駒で居ればいいのだ。(チャリン)貰っておけ。30日後にもう一度同じ銭を奪って来い」


 「・・・・・出来ません」


 「(ドスンッ)聞き間違えか?もう一度言うぞ?30日後に・・・」 「できません!」


 「おのれ!貴様ッ!!!(ドスンッ ゴツッ ドゴッ)」


 「これでも分からないというのか?いやいいんだぞ?貴様がそこまで出来ぬと言うなら、しなくても。なんなら、ワシに勝てると思うなら反撃して来てもいいんだぞ?その代わり、里に居る貴様の妹はそこら辺の素浪人にでもタダで売り渡してやる。男に犯され、回され薬漬けにさせて、他の男に売り渡す」


 「クッ・・・・何でそれを・・・」


 「知らぬと思うてか?里はワシが貰う。里の物は人だろうが、土地だろうが全て把握している。全てワシの物だからだ。何故か分かるか?ワシの物をどう使おうがワシの勝手だからだ。道具は使ってこそ真価を発揮する」


 「そ、そんな事!そんな事、山中様が・・・」


 「あん?あの爺がどうしたって?そもそもこの隠れ家にあの爺が居らぬ事を何故疑問に思わない?」


 「え!?まさか・・・」


 「あぁ〜あ。先代は紛いな。里の為に、丹羽の殿様に掛け合い、ようやっと里に仕送りできるようになり、各地に散った同胞とも密となってきたものを・・・。それを貴様等、あの訳の分からぬ飯処に任務に出ていた小童が殺してしまったのだからな」


 「はぁ!?どういう事です!!?それは・・・」


 「これはなんだろうな?そうだ。これは貴様の妹の刀でもあり、小泉家に伝わる短刀だな?小泉家に連なる貴様の家のこの短刀で山中様は無念の死を遂げられた。あぁ〜!まったくもって紛い。なんて紛い死に方をしてしまったのだ!」

 

 「・・・・クッ」


 「悪いようにはせん。貴様がその感情を今一度捨て、ワシの駒となるならば里の妹は静かに暮らせるように配慮する。過酷な任務にも出さぬ。ワシが信用に値すると判断すればこの短刀も返す」


 「・・・・・・・」


 「これからワシが甲賀を纏め上げ、甲賀を傭兵軍団として育てる」


 「傭兵軍団・・・ですか!?紀伊の雑賀のように・・・ですか!?」


 「ふん。あそこは鉄砲バカの戦狂いだ。ワシ等は奴等にも出来ぬ任務を主体とする。行動は今までも変わらぬ。だが、前と違う事は今まで以上に銭で動くように致す。蔑まれようが何と言われようが銭が多い方の味方をする。知っているか?先の戦では雑賀は本願寺側に居たそうだが、未だ織田の殿様は雑賀を欲しているそうだぞ?それは何故とは思わぬか?それは使い道があるからだ」


 「使い道・・・」


 「あぁ。我等も大名等にそう見せつけるのだ。伊賀者は三河の殿様に付け入り、食う事に今は困っておらんようだ。伊賀の服部家を知っておるか?三河の殿様の側近に近い身分だそうだぞ?山中の爺はそれを真似て丹羽様に取り入った。が、遅かった」


 「あなたは何を始めるつもりなのです?」


 「ワシは現在の服部家の当主と旧知の仲でな。あの織田の殿様は苛烈だ。身分を気にせず使ってはくれるそうだが、見てみろ。先の本願寺との戦で遅延行為をしたワシ等に何か褒美でもあったか?せいぜい、鐚銭を与えられたのみだ。その銭以上の事はしたと思っている。力ある者が全て。力がなければ何も変わらぬ」


 「裏切りですか?」


 「ふん。だから出来損ないなのだ。その後の事も考えず目先の事しか考えが及ばないとは正にだな。あの飯処には最近、織田の殿様も出入りしているな?しかも尊というあの南蛮男は料理の腕が良いのだろう?三河の殿様は食う事が好きな方のようでな・・・貴様等4人で織田の殿を討て。

 首を持ち、そのまま三河に流れろ。その後は暫く、服部家が貴様等の面倒を見てくれる手筈となっておる。

 里は伊賀の服部家が進言し、所領は安堵される。そしてワシがその頭領となる。仮に三河の殿とこの談が壊れようともワシがその間に甲賀を日の本一の傭兵集団へと生まれ変わらせる」


 「(この男は何を考えているのだ。草に対しての本質がそう簡単に変わるわけないだろう。どこの誰が草に対して厚遇してく・・れ・・・。尊様が・・・尊様なら気にせずオレ達の事を考えていた!思えば最初から気にせずにオレ達に暖かい飯を食べさせてくれ、見た事もない銭を頂き、服だって新品のような物までくれた・・・その尊様を・・・俺は・・・グスン)」


 「気色悪い!何を涙なぞ流しているのだ!これが最後だ!聞かなければ貴様等を殺す。どちらにしても少し遠回りにはなるが、ワシが甲賀の頭領となる」


 「「!?!?!?!?」」


 「誰だ!?」

 

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