ドライブイン安土 改革5

 「とりあえず、あなたを南蛮や誰かに身売りはさせません。まぁこれも何かの縁です。太郎君?梅酒を今日の夜に・・・」


 「はっ!喜んで!急いで店に戻り、次郎に言ってサンドイッチ、ミートパスタをタッパーに入れて戻って参ります!」


 さすが太郎君。酒を餌にすればすぐに食い付く。


 「おい?それならオレも行きたいんだが?ウィスキー1本で手を打たないか?なんなら、松風の方が速いぜ?」

 

 ここにも食い付いた人が居た。


 「尊様。ここは私が」 「いいえ!私こそが最速にございます」


 「尊さま?私は妻ですよね?私が1番ですよね?私はビールで構いませんよ?」


 これは入れ食いかよ!?皆が食い付いたんだが!?


 「皆が店に行ってどうするんだよ!?まぁ慶次さんに任せようかな。とりあえず最速でお願いします」


 「おう!任されたし!ウィスキー忘れるなよ!ハイヤッ!」


 慶次さんは颯爽と駆けて行った。恐らく30分くらいで戻ってくるだろう。


 「あのう・・・」


 「あぁ。てるさんすいません。とりあえず、この栄養ドリンクでも飲んでくださいよ?(プシュ)はい!どうぞ」


 「本当に構わないのですか?銭は払えないのですが・・・」


 「いいですって!」


 「なぁ?兄ちゃん?それはなんだい?」


 「あぁ!菊さん!もう食べたのですか?」


 「えぇ!中で食べないと奪われてしまうからね。あんた!?てるじゃない!?久しぶりね!お父さんは元気にしてる?」


 どうやら、隣の菊さんとてるさんは知り合いらしい。


 「菊さん!お久しぶりでございます。オトウはもう長くありません」


 「そうかい。お気の毒にねぇ〜。ほら。これを上げるから元気だしな?」


 菊さんは大根を渡し、家の中に入っていった。


 「まぁ、とりあえず飲んでください。さっきの馬の人が戻ればあなたの家に参ります。医者って事はないのですが、薬がありますので何か手助けできれば・・・」


 「そ、そんな・・・(ゴグッ ゴグッ)」


 中々飲み始めてくれなかった為、オレは瓶を持ち、てるさんの口元に持っていき飲ませた。のだが・・・


 ポワーン


 「はぁ!?」


 「た、尊さま!?てる殿が光っておりまするが!?」


 オレもビックリだ。こんな訳の分からない事が起こるのか!?あの例のファトー!1発!のやつだけど、こんな隠し効能があるのか!?んなわきゃねーだろ!?


 「だ、大丈夫だ!問題ない!想定内だ!」


 なーにが想定内だ!だよ・・・。こんなの初めて見たし。あまり心配な声を出すと、てるさんがビビってしまうから、こんな事言ったのだけど。


 「なんだか・・・凄く身体が軽くなったような気が・・・」


 「はっ・・・ははは!いやー!てるさん!なんともないですか!?」


 「これが南蛮の薬なのですか!?なんだかスッキリもしました!ありがとうございます!ありがとうございます!」


 てるさんは急にニコニコ顔になり、オレ達に拝み出した。


 「この南蛮のお薬ならオトウも元気になるかもしれません!尊様!それに奥方様!よろしくお願い致します!オトウをお助けください!!」


 いや、薬たってそれは・・・気分的な物なんだけど・・・。って、そんな事は言えない。てるさんが何故、発光したかは分からないけど、そもそものオレが戦国時代に居る事すらあり得ない現象なんだし、例のタブレットも謎のままだからな。ワンチャン、この栄養ドリンクが映画や漫画で出てくるようなエリクサー的な!?

 

 

 慶次さんの帰りを待って、てるさんの家に向かう事とした。てるさんの家はもう少し城に近く向かった所の長屋だった。

 慶次さんは直ぐに戻って来てくれ、タッパーに2人前のミートパスタと豆腐オンリーハンバーグのサンドイッチを持って来てくれた。次郎君も中々手際が良いみたいだ。


 「待たせたな!わりぃ〜!じゃあ、親父の所へ行こうか!なーに!心配するな!尊がなんとかしてくれるさ!」


 慶次さんは簡単に言うけど、内臓の腫瘍系のような病気ならまず何も出来ないんだけど・・・。


 「オトウ!ただいま!聞いて聞いて!南蛮の食べ物を売ってる男性が来てくれたのよ!それに!薬よ!」


 「お・・・おぅ・・・すまねぇ〜・・・客人・・・」


 「これは・・・」

 

 笑い事ではなくなった。オレは目を背けたくなってしまった。この光景は見た事がある。親父の終末期と似ている・・・。


 頬は痩せこけ、浅黒くなり、手足だけがやけに細くなっている。ワンチャン、肺炎とかならなんとかって思ったけどこれは・・・。


 「尊さま!?治りますよね!?これはなんという病気でしょうか!?」


 「・・・・・・」


 オレが喋れないでいると、慶次さんは察したようで、清さんに声を掛けてくれた。桜ちゃん、梅ちゃん、太郎君も察したようだ。


 「奥方・・・少し表に出ようや。な?」


 「清様。少し出ましょうか」


 清さんが皆に連れられて、外に出たのと同時に、てるさんは泣き出した。そりゃあな・・・。オレでも泣きたいくらいだ。


 「ゴホッ ゴホッ・・・あんた・・・医者なのかい?」


 「いえ、正確には違いますが、少しは分かります」


 「そうか。ワシの病は治らないかのか?まぁ散々無理してきたからな。しょうがねぇ〜。女房を若い頃に亡くしちまったからな。もうすぐ会えるんだな」


 「オトウ!諦めないで!尊様!どうか!どうかオトウにあの黄色い水の薬をお恵みください!対価が必要なら何年掛かっても必ずお支払い致します!どうか・・・」


 いやこれは間違いなく癌だろう。それをただの栄養ドリンクで治るわけがない。安易に期待させない方がてるさんの為だ。

 オレも親父が、『身体がだるい』と言ってたのを知ってたが、気にしなかった。ある日、倒れて病院に救急車で運ばれ、結果は膵臓癌ステージ4と、完治する事が極めて難しい診断結果が出た。

 それからあらゆる物をオレも試した。森林水や気功水などだ。だが、良くなる事はない。普通ならそんな胡散臭い物なんて購入しないが、藁にもすがる思いで購入してしまう。そのくらい、身近な人が亡くなるのは辛い。


 「てるさん。それにお父様。朝起きるの辛くないですか?咳と一緒に血痰が出ませんか?腹も中々空かないのではありませんか?」


 「ゴホッ ゴホッ・・・何故分かる?」


 親父も肺に転移し、よく咳と一緒に最後の方は血痰が出ていた。咳をすれば無意識に横に向くか、手で抑えてしまう癖がある。このお父さんの手も少し赤い何かが付着している。間違いなく血だろう。


 「落ち着いてお聞きください。正確には言い切れませんが、お父様と似た症状で亡くなった方が居ます。膵臓癌という病気です。気休めではありませんが、正式な医者ではありませんので断定はできませんが、癌という病気でまず間違いないかと・・・。申し訳ありません」


 「う、うそ・・・嘘よ!ねぇ!?尊様!?お願いします!あの薬を!!」


 「はい。一応、気休め程度にしかならないかもしれませんが、栄養ドリンクという物をお渡し致します。それと、南蛮に興味があるとお聞きしました」


 「ゴホッ ゴホッ。あぁ。だが、ただの妄想だ・・・」


 「もし食べられるようでしたら、これをどうぞ。中々食欲は湧かないかもしれませんが、南蛮の食べ物になります。これから毎日、配下の者に何か持って来させましょう。お代は頂きません」


 「ゴホッ・・・何でワシなんかにそこまで・・・してくれるのか?」


 「それは、てるさんの熱意と言えばいいでしょうか。てるさんをオレの出店で怪我をさせてしまいましてね・・・(グスン)すいません。後はオレの気持ちです。さっき言ったようにオレもあなたと同じような症状の方を看取りました。できればこのような事が起こってほしくないし、てるさんが満足し、あなたも未練の残らないように少しでも手助けしてあげたい。オレの気持ちです」


 親父の事を思い出して、涙が流れてきた。親父は腰も痛い、お腹も痛いと言って、最後の2日程はモルヒネで眠ったままだった。この時代に麻酔はあるにはあるけど、現代のような静脈注射で・・・っていうような代物ではない。いつ死ぬかまでは分からないけど、最後は相当辛いと予想ができる。

 オレが出来る事はこの人が少しでも南蛮を感じられるような物を作ってあげるだけだ・・・。


 「てるさん・・・。一応、栄養ドリンクを置いておきます。後で、飯の後に飲ませてあげてください。また明日きます(グスン)」


 「あっ!ちょっと!?尊様!?」


 オレは本当に号泣しそうで飛び出してしまった。


 「あら?尊?帰るのか?」


 「慶次さん。すいません。あれは・・・恐らく・・・」


 「そうか。まぁまた明日来ような?」


 「「「「・・・・・・」」」」


 清さんや桜ちゃん、梅ちゃん、太郎君はオレを見て何も言わなかった。てるさんも慌てて表に出てきたが、オレ達は振り返る事無く、ドライブイン安土へ帰った。

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