ドライブイン安土 大躍進10
〜1577年 5月〜
約2ヶ月半の遠征から帰路へと着いた。蟹江城では本当に信長は飯の時以外は空気だった。時折り、早馬が届きどこかへ連絡なんかはしていたが、茶室に籠り茶を楽しんだり、鷹狩りをしてくると2泊3日のプチ旅行をしたりとだ。
何故このような意味のない事をしているのか、その強制的に飯炊き要員として連れ出された時に聞いた。
「上様。せめて鷹に狩らせるのはウサギとかではなく食べられそうな鳥にしてほしいです。ウサギは愛でる者だとオレは認識していまして・・・」
「ふん。そのような事を言ってくるのは貴様くらいだ。竜田揚げにすれば美味いだろう。で、何か言いたい事でもあるのか?まぁ大方、何故遊び惚けておるのかだろう」
「え、えぇ・・・まぁ・・・。少し気になります」
「今は待ちの刻じゃ。ワシが優勢の折はあれよあれよとおべんちゃらを言って近付いてくる者が居れば、劣勢になれば手のひらを返す者の多いこと。
本願寺を干上がらせるには刻が掛かる。わざと劣勢と見せ、気運を高めさせているのだ。織田を倒すのは今が好機とな。
だが、賢しい顕如は疑問が残るだろう。幾度となく戦った仲じゃ。
ワシが怪我をしたと信じているか、はたまた死んだか。いや、生きているか、何をしているのか。ただ黙しているだけも作戦の一つじゃ。貴様も覚えておけ」
要は何をしているか分からせないための事なんだそうだ。いや確かにオレが顕如の立場でも不気味に思うだろう。情報が掴めず何をしているのか分からない。だが、息子の教如は雑賀に唆されているはずだ。こういう仕掛けは本当に難しい。
ただ、黙していると言ってはいるが、信長は情報を集めてはいる。それも色々な所にだ。それで、やっと5月に安土に帰る事となった。
その帰りの行軍は呑気に思えた。実際に、小さな村々にわざわざ立ち止まり、下々の民達と話したりしていたからだ。こういうところが信長が人気たる所以なんだが、実情は違っていた。
「タケル。休みは終わりぞ。上杉は間違いなく雪が降る前に動く」
オレはこの行動を見て、未だ楽観視していた。多分大丈夫なんだなと。だが、これは信長の演技。これ程上手い演技ができるのかよ!?と思ってしまった。あの怪我した振りの演技は!?とも思う。
ようやっと近江の我が家兼、お店に帰る事ができた。
「我が君ぃ〜ぇゃぁ〜!!!(ドスンッ)」
「うを!?お、小川さん!?く、苦しい!何で抱きしめてくるんですか!?」
「我が君より先に戻り、我が君の事を思い恋焦がれておりました!!」
「い、いや・・・オレは清さん一筋だから!それに遠征も着いて来てたじゃん!」
「(クスッ)まぁマスターもたまにはいいのではないでしょうか?」
いや、カナ・・・馬鹿にしてるのかよ!?
店は甲賀の人達が守ってくれていたから問題ない。そしてオレは皆を集める事にした。ちなみに半兵衛さんだが、本当に苦しそうだから安土からは足軽の人を4人借りて、担架のような木でできた戸棚で運んでもらった。
「あっ、お疲れ様です。すいませんありがとうございました!良ければ今度、店にお越し下さい!奢りますので」
「あ、いえ。それには及びません。任務ですので。ただ・・・また此度のような遠征があれば美味しい兵糧をお願い致します。平時より戦時の方が飯が美味いと馬廻りの間では語り草となっておりまする。特に握りの中に甘い肉が入っているやつは最高に美味でございました」
「あっ、魯肉飯擬きですね。あれくらいならいつでもお渡ししますよ。太郎君?缶ビールを4本」
「はっ」
「これで帰って夜にでも一杯やっちゃってください!ありがとうございました」
「ぬぉ!?まさかこれが金色の酒とな!?ありがたく頂きまする!」
金色の酒とか言われているんだ?たかがビールなのに仰々しい名前だな。まぁいいや。
4人を頭深く下げて見送った後にオレはタブレットを操作する。皆は集まったようで、久しぶりに店の中で自慢のおでんを食べている。だが・・・その前に・・・。
「(フシュー フシュー)この病は長くは保たない感じですかな?」
「あっ、竹中様。寝ててください!」
「いや、今日は調子が悪くてな・・・」
オレは上の私室でカナと話す。竹中半兵衛の病気の事だ。
「で、あの竹中半兵衛は結局で言うと何の病気なんだ?肺炎?結核?」
「史実では1579年播磨国の三木城の包囲中に肺結核にて亡くなります」
「そうか。で、薬はどれにしたらいいんだ?」
「リファンピシン、イソニアジド、ストレプトマイシン、エタンブトール、ピラジナミドと呼ばれる薬を約4ヶ月〜6ヶ月服用すればまず間違いないかと」
「そんなに飲まないといけないの!?それにそんな期間も!?」
「マスターが居た時代では薬があるので脅威ではありませんが、この時代では死の病です。しかも他の人に感染もします。仮にマスターが居た時代でも重い症状が出た患者は薬が効かない場合は手術をする場合もあるのですよ。これは竹中様に限らず、今後の時代により流行る病ですので、薬はかなり多めに持っておくのが良いかと」
「分かった。カナがそう言うならそうするよ」
「はい。まぁですが、今はマスターのタブレットレベルがカンストに近いですので、その薬でも効能は30倍くらい増してるので、3日も飲めば大丈夫でしょう」
確かレベルとかあったね・・・忘れてたわ。ってか、しんみりした感じになったのにいきなりなんだよ!?
オレは素早く薬を購入した。1日一回として、3錠で良いが、今後の事も考え、100錠購入した。タブレット円表記で7万円と少しお高い。が、竹中半兵衛・・・この人を死なせたくはない。全然知らないし、仲も特に良くはないから知らないが、この人をまだ30代で亡くしてはダメだ。
「お待たせしました。この薬をお飲みください。7日もあれば確実に治るかと思います」
「く、薬ですか?そんなに重い病なので?」
「肺結核という病気です。放っておけば確実に死に至る病です。けど、良かったですね。オレが居て。まだまだ竹中様の人生は続きますよ。今後、オレに感謝して生きてくださいね!」
最後は今後のお付き合いをフランクな物にしたいために冗談風に言ったのだが・・・、
「は、ははっ!今後は間違えても尊殿の方に足を向けて寝ないよう、そして朝は目覚めの感謝の後に尊殿に祈るように致します(ゴホッ ゴホッ)」
「いやいや冗談ですから!!とりあえず飲んで寝てください!!」
竹中半兵衛・・・真面目過ぎるのか!?
竹中の事はカナに任せオレは店内に戻る。ちなみに、薬を飲ませたらファンタジーのように身体が発光し深い眠りに落ちていた。この発光が薬が効きいている証拠だ。色々な薬を色々な人に与えて分かった事だ。
「竹中様は問題ありませんか?」
「うん。清さん。大丈夫だよ。で、皆は・・・まぁ好き勝手にやってるみたいだね。まぁいいよ。食べながら飲みながらでいいから聞いてほしい」
「はいはーい!みんな注目!!尊さまが話されるわよ!」
「清さん・・・酔ってる?」
「え?ぜーんぜん!」
「尊様。奥方は先程、瓶ビールを軽く飲まれておりました」
「ハァー。太郎君。今後は気をつけてくれ。まぁいいや。とりあえず聞いてほしい。越後上杉が能登方面で何か起こす気配があると。七尾城でね」
「軒猿が多い地ですなぁ〜」
「は!?え!?青木さん!?いつから居たんですか!?」
「え?いや、先程、安土を通ったと報告を受けて走って甲賀から駆けつけた次第です」
「走ってって・・・。まぁ・・・。うん。分かった分かりましたよ。で、その七尾城の事なんだけど、皆にこんな事言うのは初めてだと思う。ここから大切な事だ。七尾城から救援要請が必ず来る。で、柴田様総大将で向かう事になるけど、この救援は間に合わないんだ」
「「「「・・・・・・」」」」
「それは・・・例の先読みのですか?」
「青木さんの言う先読みというのが何を意味してるのから分からないけど、オレが居た時代の通説ではね」
「では、柴田様に何か助言でもされるのですか?」
「いや、何もしないよ。それに似た事をオレがさっき言った史実で行った人が居るんだ。羽柴秀吉様だ。正確には少し違うけど、既に柴田様が向かってた時には七尾城は落ちていたんだ。その事を何らかの形で情報を持っていた羽柴様が撤退を進言するんだけど、それを柴田様は馬鹿にして退ける。
結果、手取川・・・現在では湊川っていったかな?その川を渡りきった所で上杉軍が待ち構えているんだ」
「え?ならまた戻れば良いのではないですか?」
「清さん。その日は大雨で川の水がかなり増水していたとオレは学んだ。まさに背水の陣だったんだ。では何もしないオレが何故皆に言ったかというと、その中に義父である清さんのお父さんこと、丹羽様が居るんだ。けど、安心してほしい。ここで丹羽様が亡くなったことはないから。けど、念の為にこれを渡しておこうかと思う。
この戦いの殆どが川を渡れず溺死した人が多いんだ。だからこのフローティングベストを清さんは渡してほしい」
まぁたったこれだけで戦局の何かが変わるわけではないが、史実のように事象が起こってはいるが、いつどこで何が変わるか分からないしな。
それと気になっているのはその次の事なんだ・・・と言おうとしたがまだ早いと思い辞める。本能寺の変・・・。後、数年後の事だ。誰が犯人か分からない中、いくら近い味方といえどどこから話が流れるか分からないからな。今の所、明智は問題ない。ってか、裏切るように思えない。怪しいのは羽柴。特に弟の方だ。
だが、竹中半兵衛がオレの下に付く事は史実になかった事。この今孔明と名高い未来の優男イメージとは正反対のバリバリ武闘派に見える竹中半兵衛・・・。この人の真意を聞かないといけない。南蛮の事を学びたい?嘘を吐くな。絶対に他の意味があるはず。今は肺結核を治す事が先だ。
「まぁとりあえず難しい話はここまで!今日は折角帰ってこれたのだからパーっとしよう!まだ夕刻前だから甲賀の人達も呼んで、季節外れだけどバーベキューでもしよう!他にも今回の遠征で考えていた事があるんだ!」
「バーベキュー・・・。その名もBBQ・・・わたしが・・・このドライブイン安土 店長である太郎がBBQの真髄を教えましょうか」
「いやいや太郎君!?どうした!?」
「(クスッ)尊様が居ない時に良く言っていたのですよ。焼き鳥とか牛串とか道端で焼いて1本単位で売れば、行商人とかにかなり売れるのではと」
「へぇーそうだったんだ?やってみてもいいんじゃない?
「待ってください!私も考えてたのですよー!」
「はいはい。清さんは何を考えてたのかな?」
「尊さまが出す食材が1番ではあるのですが、巷の農家の方から一括で買い取り、今の値段でそれを売り、尊さまが出す食材の料理は少し値を上げてもいいのではないかなと!味の差は歴然ですし、働いているものはやはり美味い物が食べたいですからね!」
「それもいい考えだ!よし!皆も思う事を言ってほしい!オレも皆が集まった時に考えてる事を言うから!」
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