ドライブイン安土 大躍進9

 信長の馬廻り含め、オレもカナも清さんも信長に近い部隊は偽物の血を頭から被り、信長を運ぶ体で下がる。時折り、人の居ない方向に鉄炮を撃つという演技までしてだ。

 直近の皆は信長が狙撃されたが問題ないと知っているが下の人まではそれが伝わっていないから、どこかに潜む他家の間者には本当に狙撃されたと見えるだろう。


 「ぬぉぉ〜!これはたまらん!ワシはここで果てるのかぁ〜!」


 「えっと・・・演技のつもりですか?」


 「そうじゃが?」


 信長の下手くそな演技で少し場が和らいだ。そのまま全軍に伊勢の蟹江城まで退くように伝える。その道中の事だ。


 「サル!」


 「はっ!ここに!」


 「本来はこのまま荒木の所へ行かせる所だが暫し待て。何やら能登方面がきな臭くなってきておる。毛利の元に身を寄せている将軍がまたつまらぬ事をしているやもしれぬ」


 「能登ですか!?越前と目と鼻の先・・・」


 「上杉が動くやもしれぬ。いつでも動けるようにしておけ」


 史実の手取川の事だろうか。確か秀吉が戦線を離脱するんだったよな。


 「その・・・仮に上杉が動いたとすれば、総大将は誰になるのでしょうか?」


 「北陸方面軍総司令は権六にと申したはずだが?」


 「・・・・はっ。申し訳ございませぬ」


 「昨年に上杉が能登を支配下に置くべく七尾城に攻め込んだ。が、北条が善戦していたようで春日山城に戻ったのは新しい。このまま上杉に能登を取らせるのはよくない。軍神と名高い上杉だ。真正面から当たるのは悪戯に兵を減らすだけだ」


 「お考えがあるのですか?」


 「奥州の伊達と連携し、上杉の家臣のとある者と謀を考えている」


 「ではアッシなんかが向かわなくとも・・・」


 「今更サルがそんな事を言うとは見損なったぞ。戦とはあらゆる事を想定にしておかねばならぬとあれ程言っていただろうが。相手は軍神と自ら謳う上杉謙信ぞ。

 七尾の長連龍から書状も届いておる。七尾城は能登 畠山の城だが、城主は幼く城の実権は連龍の父で、能登 畠山の重臣の長続連と連龍の兄の綱連が持っている。

 この書状を書いた連龍から念の為に援軍を要請するやもしれぬと書いておる。どうも畠山の家臣の遊佐何某、温井何某は親上杉派で・・と書いている」


 「上様は悶着があるとお思いですか?」


 「どうだろうな。長一族は所領さえ安堵するならば能登は織田家に仕えるとまで言ってきたくらいだ。無下にはできぬ。それに先も言ったように上杉の思い通りにはさせてはならぬ。準備だけはしておけ。号令をかければ即座に動けるようにな」


 「はっ。今後とも精進致します。おい半兵衛!帰るぞ!」


 「(ゴホッ ゴホッ)申し訳ありませぬ。上様にお願いしたき儀がございます」


 「なんじゃ?」


 「羽柴様。申し訳ありませぬ。某は尊殿の与力にさせていただきたい」


 「は?半兵衛!貴様何を言っておるのか分かっておるのか!?」


 「ほう?その心は?」


 「いえ。尊殿の元で南蛮の知識を勉強したいと思いまして」


 「クッハッハッハッ!あの美濃の優男が言うようになったわ!我を通す事なぞ初めてであろう!サル!唐物の茶器を譲る!それで半兵衛が此奴の与力になる事を許せ!半兵衛!その願い聞き届けた!今から此奴の与力ぞ!」


 「(ゴホッ)ありがとうございまする。羽柴様。今までありがとうございました。お世話になりました」


 「・・・・。上様。ではアッシはいつでも動けるように長浜で控えておきます」


 「うむ。良きに計らえ」


 なんか知らない間にあの竹中半兵衛がオレの与力になった。それにあの空咳・・・。間違いないようだ。店に帰ったらタブレットで薬を渡してあげよう。

 それにしても何だってオレの下に付きたいんだ?意味が分からない。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 「チッ。半兵衛め。何を勝手に離脱するのだ」


 「クッフッフッ。あの欲のない半兵衛殿がここに来てまさか尊殿の下に付くとはですな〜」


 「面白くない。だが上様が許したのだ。今更戻って来いなぞ言えぬ。これからお前は更に働いてもらうぞ。まずは七尾城と春日山城に潜ませろ。そして状況を伝えよ」


 「クッフッフッ。面白くなってきましたな!で、兄者はどうするので?」


 「甘い上様かと思いきや、勝手に配下を鞍替えさせてしまう。困ったものじゃ。あの言い方では上様は並々ならぬ考えだ。柴田や丹羽の隊も動かすだろう。

 上杉がどう動くかだが、万が一があれば・・・どうなるかのう?」


 「クッフッフッ・・・珍しく本音が聞こえましたな。さて・・・自分は暫し暇を・・・。何かあれば直ぐにお知らせ致します」



 そのままオレ達は信長の負傷に伴い蟹江城まで這う這うの体で帰ったように演出した。本願寺がどう受け取ったかは分からない。が、見事な演技だと思う。後方の兵士なんかは涙流しながら走っていたから少なくとも味方の下の人には演技とはバレていないのだろう。


 当の本人である信長は馬に引かせている荷車の荷台で普通にガチ寝していたし。


 そして、伊勢街道にさしかかり蟹江城が目前に迫った所にて担架に乗せる。ここで直ぐに問題ないアピールしてはダメだからだ。城主の滝川も何かを感じ取ったようで、無言で担架を運び城の中に信長を運ぶ。


 「皆の者!静まれ!上様は未だ息がある!この横の尊が必ず治す!皆は暫し休んでおれ!後程、握りでも持ってこさせる!」


 滝川がそう叫ぶと兵士の人達は少し顔が穏やかになったのが分かった。


 そのまま城の中に入ると信長は・・・、


 「ふん。一益は大根じゃな。尊!お主もじゃ!ワシは今にでも死にそうだというのにあの落ち着きようはなんじゃ!」


 「いやこれでもオレは・・・」


 「ふん。もう良い。一益!些細は直ぐに話す。将達を集めよ。尊!お主は飯を作れ!腹が減った!」


 このように、信長は寝てた癖に1番に腹が減ったと我が儘を言う始末だ。まぁこれが信長でもあるけどな。

 

 信長は蟹江城で滝川に代わり、城の主人となった。オレは現代人だからあまり思わないが、どうやら信長の中では城というものは飽くまで、織田家が諸将に貸しているという考えらしい。

 要は何々会社 何々支店の支店長的な感じだ。本社が何々支店の支店長を違う支店の支店長に移動命令を出せば、現代の勤め人は否応は言えないだろう。

 オレはこの考えが分かるから何も思わない。が、戦国の人はやっとこさ城主となり、それなりに安定してきた所で・・・、


 「うむ。伊勢の治世は安定しているようだ」


 「はっ。お褒めに預かり光栄です」


 「で、だ。お主は進むも滝川、退くも滝川と言えるほどに戦上手だ。政に関しては目立った政策はないが手堅い。豪族等の反発も少なく、この伊勢は昔と比べて素晴らしい変貌を遂げた!」


 「・・・・・」


 「うむ。能書きを垂れても仕方あるまい。単刀直入に言おう。関東方面に鞍替えを考えている。正式に決まれば、関東は滝川に任せたいと思っている」


 聞こえは良いだろう。関東を任せる。現代なら関東支部の支店長。オレからすればまだまだだが、確かに伊勢は発展している。土を転圧しているであろう平らな道。道幅も、伊勢街道も途中までは拡張され人や行商の往来も多い。

 間違いなく滝川一益・・・この人の功績だろう。そして、この人はポーカーフェイスであまり感情を見せない。その人が顔が少し変わっている。かなり落胆なんだろう。特段、仲が良い訳ではないが、甲賀の繋がりで悪くもない。どちらかと言えば・・・仲は良い。


 オレはこの二人の話を飯を作りながら静かに聞いていた。


 カセットコンロに鍋と水をセットした白湯鍋だ。なぜこのようなメニューができるかと言うと、雑賀から退きの時にやられた演技だけでは暇だし、空砲を撃つのも弾がもったいないから、砲手の人に演習がてら鳥でも撃ってほしいと頼んだら意外にも多くの鳥が獲れたのだ。その中に雉がかなりいたため、貰ったのだ。


 それを捌いて、骨を出汁にし、肉はそのまま酒と那古屋の乾燥昆布に漬け込んで臭み消しをして食べる。

 さすがにこれだけでは塩味が少ないため、塩、胡椒少しの醤油で極力、鳥の味を壊さないようにした鍋だ。現代のブランド鳥を食べた事のあるオレでも雉は美味そうに見えるくらいに脂があるし、食べごたえも十分だ。

 後はネギ、大根、豆腐だ。これを、滝川によそいながらオレがアドバイスを出す。


 「白湯鍋にございます。熱いのでお気をつけてください。で・・・偉そうに言う訳ではございませんが、自分から見ても伊勢は素晴らしいと思います。もし・・・滝川様が関東に鞍替えになるのならば、自分も何かお手伝いができれば・・・と思います」


 「お主もそう言うか・・・。いただこう・・・(ジュル ハフッ)相変わらず文句の言いようがないくらいに美味い」


 「(ハフッ ハフッ)誠、貴様の飯はいつどこで食べても美味いな。タケルから見ても伊勢は良い所か?」


 「えぇ。間違いなく。雑賀と比べたら失礼かもしれませんし、堺を見た事ないのでどうかは分かりませんが、オレなら伊勢に住めと言われれば喜びますね。平地も多く、海の幸も豊富に取れ、伊勢湾は波が穏やかですので、湾内で養殖業などすれば更に稼げるかと思います。

 他にも甲賀とは近いわけではございませんが、遠いこともありません。薬なんかも卸たりして薬屋や病院なども建設すれば更に人の往来が増えるのではないでしょうか」


 「・・・・・・・」


 あれ!?おかしな事言ったか!?何で黙りこむんだ!?


 「クッハッハッハッ!理解できぬとは怖いよのう。滝川。しかも新参に近い者にな。安心しろ。此奴の頭の中はワシより先をいっている。ワシも分からない事は分からんと学ぶようにしている。

 全てを鵜呑みにするわけではないが、こと金や銭、飯に関しては此奴に敵う者は早々は居ない。

 此奴の配下を数人付けてやる。どうか織田家のために・・・動いてはくれぬか?(チャプ チャプ)」


 信長は労うような顔で自らが滝川のお椀にお代わりをついで、それを渡した。


 「も、もったいのうございまする・・・この滝川・・・上様の願いを断ることなぞできましょうや。上様のお考えは某のような凡夫には分かりませぬ。ですが、分からないならばこそ、命令は忠実にこなすよう心掛けておりまする。その結果が伊勢にございますれば。全て上様の真似をしたに過ぎません」


 「うむ。お主が織田家に仕えてくれなくばここまで来れなかったやもしれぬ。いつか其方の労を労ってやりたいと思う。お主も気付いているやもしれぬが・・・将軍がまたつまらぬ事を考えているやもとワシは考えている」


 「将軍がですか?確か西国に・・・」


 「口と手は達者だからな。可成を亡くしたような事は再現されたくない」


 「まさか!?包囲網ですか!?」


 マジか!?あっ・・・そういえば信長包囲網って数回あったんだよな・・・忘れてたわ。


 「うむ。ワシは何事も最悪まで考えて作戦を考えている。上杉が動くやもしれぬ。だから北陸は権六等にと。後詰めはサルに。で、お主は・・・」


 「武田ですか」


 「そうじゃ。光秀は京周辺のどっちつかずの信のない者への備えじゃ。本来はサルを西国の備えに動かしたかったが、毛利やなんかより上杉の方を止めておかねばならぬ。その間にワシは膠着している本願寺に攻勢を仕掛ける」


 「佐久間隊は上手く本願寺を包囲しておりますが足りないので?」


 「ハァー。宿老だと驕り、彼奴は包囲してるだけで何もしておらぬ。これに関しては人選を間違えたかとワシは思っている」


 確か佐久間はこの事をきっかけに追放されるんだっけ?いや、今はそんなことどうでもいい。


 オレは結果を知っているから安心している節があるが、実際はこのように見えない仕掛けを色々して信長は進んで行ったんだな。


 「・・・某は上様の期待に応えられるよう粉骨砕身頑張りまする」


 「あぁ。お主には期待している。暫し、城に寝泊まりさせてもらうがお主の城だ。好きに致せ。飯も普段の世話も小姓と此奴にさせるから、台所だけ此奴に貸してやってほしい」


 「はっ。下男に伝えておきます」


 いやマジで毎日料理しなくちゃならないんだな。

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