ドライブイン安土 大躍進8
「これは・・・豆腐ですかな!?」
「(ハフッ ハフッ)豆腐とチーズか。これはなんの肉なのだ?」
「まずは、雑賀様の言う通り、豆腐です。で、チーズという牛の乳のタンパク質という栄養を固まらせた物です。で、上様。これは肉は一切入っておりません。理由は、雑賀は肉に忌避感が強いかと思ったからです。ですが、存外に肉なしでも肉風に思わせるレシピはいっぱいあります」
「君は・・・尊君と言ったかね?素晴らしい物を作るのだね。けど、雑賀は別に肉を食べない訳ではないんだけどねぇ。寧ろ、害獣の鹿肉なんかは結構食べるんだよ。ほら。先も言ったようにここは山々に囲まれているからね。偶に熊も標的にし、射撃の演習も兼ねて食べた事があるんだ。毛皮は堺で高く売れ、肝や胆嚢なんかは生薬としてこれまた高く売れるときたものだ」
そうなんだ?これは初耳だな。だが熊肉を食べたいか?と聞かれればオレはパスしたい。
「それにしても・・・飯如き我等も舐められたものだと思っていたが、いやしかし・・・(ハフッ)」
「うむ・・・(フゥー フゥー)この辛さがクセになりそうじゃ」
「それは麻婆豆腐というものです。米と食べると更に美味しいのですよ。あっ、これもどうぞ。握りにしました」
「ふん。相変わらず小癪な物言いよのう。だが、貴様の飯だけはワシの知る限り、右に出る者は居らん。この日の本全てを探しても貴様の作る飯より更に美味い物を作る奴は居らぬであろうよ。
で、ここで敢えて聞こう。(ハムッ)チッ。尊ッ!少し辛い!今度は今少し辛さを抑えた物を作れ!
うむ。見苦しい所を見せたな。で、ここで敢えて聞く。たかが飯。されど飯。これを見て更に織田と争うという惣があるなら言え。相手してやる」
「「「・・・・・」」」
「はっはっはっ。だからもう雑賀は織田家と争わないと言ったのだけどねぇ。相手を攻める時に一番は下々を見る。その次に兵糧を見て、兵の数を調べる。どれを取っても織田家に敵わないのは明白さ。(ハフッ ハフッ)う〜ん。ちいずとやらは、いと美味し」
「貴様も小癪な事を言う。だが、貴様はワシを撃ったのだ。働いてもらうぞ。まず、織田家は本願寺を蟻一匹すら通さぬくらいに包囲致す。今までは貴様等雑賀が毛利の船を出入りさせていたから中々干上がらせられなかったが、これからは違う」
「はいはい。続けてちょうだい」
この、元孫一は大概凄い。信長に対しても普通に返答してるな。信長も信長だ。いくら合理的とはいえ、まさか命狙ってきた奴を使うとは・・・。
「普通に話せ。貴様の首と胴は皮一枚ぞ。で、本願寺を干上がらせる事ができれば顕如は機を見るに聡い奴じゃ。敵対ではなく、力を残した和睦を選択するだろう。じゃが、ワシは此度はただでは和睦はせぬ。
本願寺門徒の大坂退城だ。全てな」
「ふっふっふっ。流石にそれは無理があるのではないでしょうかねぇ〜」
「あぁ。ワシが顕如なら許さん。徹底交戦だな。だが、矢玉尽き、兵糧も尽き果てているなら話は別だ。西国を頼りに落ち延び、そこで再起を図るだろう」
「毛利家ですか」
「あぁ。今までは、但馬、播磨、備前、辺りを緩衝地として毛利とは争わずにしておったが、それも壊れた。羽柴を第一陣とし西国を攻める。将軍を西国へ追いやったが、何やら画策しているようだしな」
「で、俺ぁ〜は何をすれば良いのですかねぇ〜?」
「顕如の息子の教如。此奴は中々に織田家を憎み、交戦的だと調べがついている」
「西国に落ち延び再起を掛ける顕如殿。この場で決着をつけたい教如殿。本願寺は二つに勢力にさせ、顕如殿と教如殿を離間させたいと?」
「チッ。頭がよく回る男のようだな。あぁ。そこで本願寺勢が二つで争い内紛し、数が少なくなれば御の字ではあるがそうはならぬであろう。機を見て・・・いや。これより先は教えぬ」
「で、俺ぁ〜は暫く本願寺で潜めって事なのかねぇ〜?」
「あぁ。雑賀の里が担保だ。貴様がこの作戦を顕如に伝えたり、向こう側にこれでも付くというなら先にも言った通り、ここ雑賀惣国はこの織田軍全軍で包囲し、灰燼にしてやろう。雑賀はよく燃えるだろうな。山々に囲まれているからな(グワッ)」
さすが信長だ。絶妙な所で威圧したりオーラを出したりする。
「おぉ〜、怖い怖い。なにも裏切ったりしませんがね。でも、毛利の船はどうやって止めるつもりで?」
「そこは安心せい。織田水軍の九鬼が控えている。言ったであろう?蟻一匹通さぬと。で、貴様が見事お役を果たせば、まずは良し。ワシを狙った事を不問に致そう。その後の雑賀処遇はその時に決める」
「へいへい。中々に難しいが、頑張りますかねぇ〜。土橋君、新宮君も堀君も聞いたでしょ?そういう事だから後は頼んだよ。さて・・・ここからはお願いなんだけど、流石にこのまま素直に本願寺へ戻るのは自殺行為だからねぇ〜。交戦し、織田軍と未だ戦っている風に見せたいんだけどいいかねぇ?」
「ふん。織田軍が苦戦しているように見せろってことか。仕方あるまい。やるからには成功させてもらわないといかんからな。運良く、ワシは貴様に狙撃された。下の者はワシが復活したとは知らぬ。尊!なんぞ貴様の持っている物で怪我したままには見せられないのか?」
はい。出たよ。また無茶振り。
「一応、甲賀隊に救護班は創設しております。必要最低限の物はありますので・・・」
オレが言った通り。甲賀隊の中に救護班はオレが創設した。創設したのだが、持ってくる物を間違えたのだ。いや、普通の遠足とか遊びとかなら十分過ぎる程の装備だと思う。消毒液、カットバン、痛み止め、胃薬、整腸剤、抗菌薬、傷軟膏、湿布、包帯と色々と持って来ている。
全てタブレット産だから増し増しの効能があるやつだ。だが・・・ここは戦だ。戦に薬なんていらなかった・・・。オレとしたことが間違えてしまったのだ。
誰が戦なのに整腸剤やら抗菌薬が必要なんだ。傷軟膏って言ったって刺し傷にはさすがに無理よりの無理だろ!?
「ゴホンッ。えぇ〜と、織田様を包帯でグルグル巻きにして、今は季節は冬ですが探せば少量のノイバラの実を見つける事ができます。これを水で擦り潰し、包帯に色付けすると血のように見えます。よく見ると違うのが分かりますが、遠くからなら分からないかと思います」
「えっと?このお嬢さんは誰かな?」
「此奴の女だ。ワシも未だ知らん。が、そこらへんの武者や公家なんかより頭が回る。名をカナという」
「もう!織田様!マスターの女だなんて!清様に叱られます!」
いやそこかよ!?何故照れるんだよ!?
「ふん。そういうところは女みたいな反応なんだな。まぁ、良い。良きに計らえ。お主の案を採用する。配下の滝川を監視役として残しておく。必要な物は滝川が治める伊勢の蟹江から持ってこさせよう。ワシは深傷を負った。故に、これより退却致す」
「う〜ん。織田家は女性も活躍する家なんだねぇ〜。まっ、それはここ雑賀でも同じだけどねぇ〜。じゃあ尊君?また君の食べ物を食べさせておくれ。俺ぁ〜今から本願寺の蟲となるから次いつ会えるか分からないけどねぇ。あ、間違っても君の大砲で俺ぁ〜を殺さないでちょうだいね?」
この人はなんなんだろうな。秀吉のような話し方ではあるし、粘っこい感じはするがあまり嫌な気分にはならない。明智のように笑いがないように聞こえるけど、おちゃらけのような感じもする。不思議な人だ。
現に、この人に次は何を食べさせてみようかと既に考えている自分もいる。
「えぇ。また会いましょう。もっと美味しい物を食べさせますよ。あ、今度は銭払って下さいね?一応、安土で飯屋をしてますので。次会えるまでには店舗が増えているかもしれませんけど」
「ふん。無駄話しはそこまでじゃ。尊!一度、滝川の城まで戻るぞ」
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