ドライブイン安土 大躍進7-3
「ほう?ここが雑賀惣国か。外から見るのとはだいぶ違うようだな。ここが貴様の城か?」
「城・・・って事もないのですがねぇ〜。戦時故に備蓄があまりないので、豪華な飯は作れませんがよろしいですか?」
「ふん。飯は此奴がどうにかしてくれるから気にしなくて良い。雑賀の有力者を今宵集めよ。ただの飯だけでも投降して良かったと思わせてやろう」
「ふっふっふっ。まさか飯にそんなに驚きは・・・いや・・・期待しておきましょうか。誰ぞ。土橋君と堀君達を呼んで来てくれ」
先の本陣での後、1時間もしない内に鶴さん?って女性がオレ達を呼びに来た。この鶴さん・・・。女性だと侮ることなかれ。
次代の・・・ってか、既にあのおっさん孫一は引退したみたいだから今代だけど、要は今の雑賀当主はこの鶴さんなのだが、最初は戸惑っていたみたいだけど、人が変わったように指示を出している。
それを雑賀の皆は文句を言わず従っている。雑賀は民主主義のような政治をしていると言っていたが、この鶴さんが孫一になったというのを納得しているという事だろう。
鶴さんが短い言葉で命令する。
『皆。織田に降伏した。今後は織田軍と争わない。和協して里を繁栄させる。隠し武器も全部出しなさい。従わない家は追放するわよ』
そう短く言うと、まぁ出るわ出るわ。武器の数々。 現代の武器蒐集家や、骨董品が好きな人なんかは喉から手が出る程欲しいのではないだろうか。
ただの火縄銃から、どこぞの権力者への贈り物なのか・・・装飾品のような物が付けられているのまである。
そして、雑賀の地は、家ばかりかと思えば意外にも鍛治施設のような所まである。しかもその施設が・・・、
「ここが雑賀の大たたらだよ。火を落とせば点けるのにかなりの燃料が必要だけど、雑賀は山々に囲まれ、竹もそこら中に生えてくるからねぇ〜。戦時には女手も総出で武器を作るのさ」
現代の日本が誇るアニメの、も◯のけ姫に出てくるような大たたらの施設があったのだ。
「あぁ〜!これ!あっ、な、何でもありません!」
清さんがオレの陰から、たたらを見て話した。恐らく動画サイトであのアニメの予告的なやつを見たのだろう。まぁ、信長が先頭に話しているんだ。遮るような事をしてそのままにする訳はない。
「なんぞ?構わん。言ってみろ」
「す、すいません・・・これはたたらですよね?ふいごから風を送り、粘土土や砂利などで濾過して、鉄を出すという・・・」
「流石、織田の女の子だねぇ〜。学があるんみたいだねぇ〜。そうだよ」
「ほう?清はこれが分かるのか?」
「はい!上質な玉鋼を量産するのに最適です!鉄鉱石が日の本で取れるならこれとは違う、コークス燃料を使った高炉なんかが良いかもしれませんが、たたら製鉄の方が今は良い・・・あっ・・・」
多分、清さんはオレと話してるように思ったのだろう。一度、高炉の話も出たが、鉄を作るのに高炉の方が早いし安定しているが、まず施設は作れないって話をした事がある。
それに、今の時代の人に教えても運用なんてできないし、そもそもの鉄鉱石が愛知県ではそんなに産出しないから、甲賀の地下施設でも、カナが作った、小さい、たたらでライフリング加工した鉄砲を国友さん達と作っている。
あのカナが高炉に手を出していないって事が今はまだ早いってことを物語っている。オレですら仕組みが完璧に分からないっていうのに、清さんはそれを信長に言ってしまった。つまり・・・、
「ほう?こうろ?こうくす燃料?清はこのたたらは古いと言うのか?我が領は雑賀に負けていないって事だな?」
何でも負けず嫌いな信長。もうオレには分かる。
『ダイシキュウ コウロヲ カンセイサセヨ』
これを言いそうだ。
「あの・・・えっと・・・」
清さんが困りだした。まぁ間違いなく負けてはいない。ってか、勝ち負けではなくて、メリットデメリットがあるからな。高炉なんか作っても今はそんなメリットはないし、鉄をもっと作るにしても織田家としては他国に売ったりするくらいなら、捨ててしまえって感じだしな。
「上様。ここからは自分が」
「尊か。言ってみよ」
オレの妻が困っているなら旦那のオレが助けてやらないとな。
「炉にも色々とあり、一長一短があります。この、たたら製鉄炉、高炉、電気炉とありますが、1番安全なのはこの、たたら製鉄炉です。まぁ安全と言いましても、砂鉄、木炭から鉄が出来るまで目視できるからです」
こんな事もあろうかと、某動画サイトで炉の仕組みを見ていて良かった。今、オレは今世紀最大のドヤ顔だろう。
「ふん。まぁ良い。国友には貴様と連携して昨日より今日、今日より明日へ進歩するように言っている。そのまま励め」
あ、うん。信長は何でも興味を持つけど、理論立ってくると途端に飽きる人だ。今回もそうだな。この人は炉の事は分からないだろう。まぁオレも動画で知っているだけだけど。
「うむ。もう良い。先に降伏の書状を作る。太田!太田は居るか!?」
「はっ!ここに!」
「うむ。横に居れ。ワシと雑賀との取り決めを書状に2枚書け」
「畏まりました」
その後、1番大きい館に雑賀の人達も集まる。浜手側から来る信忠君率いる軍も遠藤さんが走って伝えに行き、無駄な戦闘は無く夕方までには全軍が雑賀惣まで到着した。
が、流石に全員は収容できないため、下っ端の人達は相変わらず野宿の形だ。それでもオレが出したテントで寝られる人も相当数居るため許してもらいたい。いや、他の軍の足軽をオレが憂いる意味はないんだけど。
で、オレの隊は何をしているのかと言うと・・・、
「尊!俺は頑張ったぞ!以前の失敗を糧として雑賀の頭領をとっ捕まえたんだ!褒美をお願い・・・あ!お頼み〜も〜うす〜!」
「はいはい。久しぶりの歌舞伎ね。変に区切らなくていいから。小荷駄隊の人にビールでも貰っておいて!間違っても全部飲んではダメだから!夜の取り決めを行う時に出すんだから!」
「おっ!さすが分かってるじゃないか!肉は出さないのか?」
「出したいのは山々だけど、どうせなら和歌山・・・いや、ここ紀伊の郷土料理的なのをと思ったんだけど、柿の葉寿司とかクジラ肉とか・・・けど、流石にそこまでは用意できないから、赤味噌のおかゆさんでも出そうと思う」
「うん?味噌だけのお粥か?」
「おかゆさんね。未来では金山寺味噌ってのがあってね・・・。いや、まぁいいや。多分、総長の上様は絶対に、『コレダケカ モットナニカツクレ』って言うと思うから、こうやって(トントントントン)豆腐を砕いているんですよ」
「豆腐ねぇ〜。豆腐ハンバーグでも出すのか?」
「チッチッチッ。甘いね〜。慶次さんは!肉なし麻婆豆腐だよ。まぁ味見させてあげるから先に雑賀の人達に飴玉とクッキーでも渡してきてください!」
「おぅおぅ!それで雑賀を懐柔するんだろう!任されたし!」
いや、そういう訳ではないんだけどな。これから仲良くするかは分からないけど、織田家に付いた方が今後もこういう物が食べられると知ってもらいたいだけなんだけどな。
この時代は飴玉一つだけで凄い費用対効果が得られるからな。甘さは正義。砂糖の塊だが、その砂糖効果は素晴らしい。
慶次さんが居なくなった所で太郎君に話しかけられた。
「尊様?本当に一品だけなのですか?」
「クックックッ。太郎君は甘いな。何を隠そう・・・この日のために温存しておいたのだよ!ジャジャーン!って効果音程でもないが、マヨネーズだ!」
「あ、あの悪魔の調味料ですか!?戒めの為に俺もそれは食べないようにしているのに・・・(ゴグリ)」
「そんなに好きなの?まぁ、マヨラーって言葉があるくらいだしね。清さん!カナ!少し穴掘ってくれない?素晴らしい料理を作るから!」
「はい!はーい!マヨネーズをかける料理にハズレはありませーん!」
「マスター!!それはまさか・・・文明の利器に匹敵する・・・」
「おいおい。みんなマヨラーかよ!?けど、店のマヨネーズ全然減ってないよ?そんなに好きならつけりゃいいのに」
「「「「・・・・・・・」」」」
あっ。皆の黙った表情で分かった。
「ゴホンッ。正直に言いなさい」
オレが静かに問うと、太郎君は懐からマヨネーズを取り出した。次郎君も、カナまでもだ。
「あぁそうなのね。皆が皆、マイマヨネーズ持ってるのね。まぁいいや。太郎君?それかなりカロリー高いから食べ過ぎると太るよ?」
マヨネーズの件はもういいや。各々が好きな物を好きなように食べればいいし。オレは豆腐グラタンだ。
某工具メーカーが発売しているクーラーボックスは凄い。リチウム電池を使用した充電式のクーラーボックスを持って来ているのだが、未だ充電切れにならず、中は冷蔵庫のようだ。
この中に今回の要・・・チーズが入っている。小さく切った豆腐を一枚、250円の割れない耐熱皿に乗せる。その上にチーズを乗せ、アルミホイルで包み、食品ラップフィルムで綺麗にグルグル巻きにし、掘ってもらった穴の中に砂が入らないように優しく入れる。
後は上に土を乗せ、その上で焚き火をするだけだ。
ここは甲賀や安土、岐阜城じゃないからな。ちょうど良い塩梅の竈門なんてないからな。で、15分程したら火を消し、取り出す。程よくチーズが溶けるくらいでいい。最後にマヨネーズをたっぷりかけて・・・、
「(ゴーーーー)よし!最後にこのバーナーでマヨネーズを焦がしたら完成だ!太郎君次郎君五郎君!これを急いで作ってくれるかな?」
「凄いです!香ばしい匂いがします!」
「だろう?肉なんて入ってないけど、案外これが美味いんだよ!」
「けど、最初からバーナーで作れば早いのではないですか?」
「いい質問だ。別にバーナーでも作れるけど、それをすればチーズも焦げてしまうだろう?いや、その焦がしチーズも美味いんだけど、この料理は違うんだよ」
五郎君の意見も分かる。バーナーで作れば早いけどこれは違う。チーズと焦がしマヨが調和した豆腐グラタンだからな。
まぁ本当は現代の、某料理人がタイムスリップする歴史漫画の中に出てきた事を試したかったってのもあるけど、案外自然のオーブンみたいになって有りかと思う。
出来上がった麻婆と豆腐グラタンを持っていくと、元孫一と、信長、太田、後は4人ほど集まっていた。ちなみにだが、信忠君達率いる諸将は各々が部屋を割り当てられたみたいだ。ネームド・・・ではないが、将というのはこういう時はいい立場だと思う。
「やっときたか。暫し中座しよう。お主等も食ってみろ。此奴の飯は本願寺に付いていては絶対に食べられない物だとワシが保証致す。ましてや、堺でも食えないだろう」
「な、なんですか!?これは!?」
まぁ、雑賀の人達は皆が目を見開いて驚いている。そりゃそうだよな。さて、どんな反応になることやら。
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