ドライブイン安土 大躍進7-2
ただの飯屋の男がよくぞここまでなれたものだ。自分で自分を褒めたいくらいだ。
「上様。堪えてください!」
「(フシュー フシュー)あぁ・・・。早くしろ」
信長は未だ闘争心、プライドを捨てず、眉間に皺を寄せながら桜ちゃんが持ってきたタオルに噛みつき目を閉じた。
本来ならバイ菌やら色々と考える事があるだろう。だが、カナも居るし、ファンタジー全開の薬もあるしなんとかなる。
「では始めます」
「グハァッ!!ぐぬぬぬぬ・・・」
現代に居た頃のオレなら痛みを想像してこんな事淡々とはできなかっただろう。これもこの時代に来て色々と体験したから行える事だろうと思う。
まず、ピンセットで弾傷を少し摘み、広げる。そして、もう一つの先が鉤爪のようになって、摘む所が長いピンセットを傷口に挿れ、後はカナに言われた通り手探りで弾を探る。
「ぬぅぁぁ〜あぁぁ!!!」
「尊ッ!もう良いではないか!」
「そ、そうだ!これが治療だと言うのか!?拷問ではないか!?」
「あっ!こ、これだ!!」
信長の例えようのないうめき声が響いたのと同時に、秀吉と明智から声を掛けられたが無視。
だってその声と同時にオレの指先に硬い物を感じたからだ。
オレは素早くそれを摘み、ゆっくりと持ち上げる。それは歪な形をした弾だった。
「織田様。よくぞ耐え抜きました。これをお飲みください。直ぐに肉が皮膚が塞がります。ただ、失った血までは戻りませんので、暫くは滋養があり、特に鉄、タンパク質、ビタミンCを多く含む物を食べてください」
カナと見事な連携で、オレが摘んだ弾が信長の身体から摘出されたのと同時にカナは例の栄養ドリンクを飲ませた。
すると見る見る内に傷は塞がり、苦しそうな呼吸が通常の呼吸に戻っていった。
「「上様!!!?」」
「騒ぐな!他愛無い」
傷が治ったのと同時に信長は立ち上がり、オレの頭をワシャワシャし、カナには握手し始めた。
「上様!?なんともありませんか!?」
オレは例のタブレット産の薬を信用している。何度も使った事あるからだ。それでも、オレの素人手術を行ったし少し不安がある。が・・・、
「これより・・・ワシが先頭に進軍を開始致す。見ての通りじゃ。京の曲直瀬?施薬院?それがどうした。羽柴!明智!見てみよ!ただの飯屋の男だと思うておったが鉄砲で狙撃されたと言うのにワシは生きておる!尊が治療したからじゃ!このような医術は聞いたことない!」
曲直瀬・・・恐らく曲直瀬道三のことだろう。確かこの時代の医者として後世に名前が残る人だ。施薬院という人は分からないけど、ニュアンス的に医者の人だろう。
カナが居なければあんな事できなかったし、二度とゴメンだ。
それからは信長馬廻りが前方に、その後ろに信長、秀吉、明智と続いて、森の中!?って思えないほどの進軍速度だ。信長の静かな怒りが伝わってくる。
オレは後方で。とのこと。既に慶次さん達が先行しているため、オレの手柄?は確約されているようなものだから秀吉、明智両名に『下がれ』と威圧されるように言われたのだ。
その進軍中にカナに耳打ちされた。
「マスター。とても言いにくいのですが、マスターも勘づいているかと思いますが、マスターの居た世界線で織田様はこの戦で狙撃はされていません」
「あぁ。オレが現れた事により少しずつ変わってきているってことだろう?」
「はい。それが良いか悪いかはありませんが、史実のような事も起こるかもしれませんし、ない事が起こる事もあります。既に権能を失った身・・・。申し訳ございません」
「いや。思えばカナが居なければこんな風になれなかったと思う。これからもカナが居ないとダメだと思うんだ。これ以上の言葉が思い付かないから・・・だけど、とにかく・・・ありがとう。これからも支えてほしい」
「いえ。こちらこそです。こんなにも色々な感情が湧いて出てくるとはやはり、下界とは面白いと私は思います。それより、先ほど出てきた名前の曲直瀬様という方は松永弾正様に面白い指南書を渡しているみたいですよ?マスターも一度お会いして聞いてみると、清様と夜の方が楽しくなるのでは?と思います」
「はぁ!?夜の方!?指南書!?なにそれ!?」
「カナ様!それに尊さま!夜の方とは何ですか!?」
「(クスッ)後の楽しみにしてください!」
いったいなんの事だよ!?と思った所で前方が止まった。止まったのと同時に小姓の遠藤さんがオレを呼びに来た。
「尊殿配下の前田殿が雑賀衆頭領 鈴木孫一を捕まえた模様です」
「え!?マジすか!?ってかもう捕まえたの!?」
「はい。ただ、織田軍に鈴木孫一を知ってる者が居ない故に、確証はございませんが・・・」
それを言われたのと同時にカナの方に向くと軽く頷いた。信長も秀吉も明智も未来に伝わる肖像画を知ってるオレとしてはなんとなく面影があるから分かる。
柴田勝家に関してはあの髭達磨ってだけで分かったし・・・あ、いや、滝川一益と間違えてしまったっけ?いや、そんな事は今はいい。だが、鈴木孫一の肖像画はオレも分からない。が、カナなら分かるのだろう。っぱ、カナは、すげぇ〜よ。
オレはカナを連れて前方に向かう。すると、5人程の集団が縄で結ばれて寝転がらされており、その前に信長がキャンプ用のオレが出した椅子に足を組んで座っていた。こんな寒いというのに、信長は扇子を仰いでいた。つまり・・・イライラしているという事だ。
「来たか」
信長が声低くオレの方を向き、オレはカナを確認する。頷いた。つまり本物って事だろう。
「それが鈴木孫一です」
「クッフッフッ。だから何度も言っているのだけどねぇ〜。俺ぁ〜が鈴木孫一だって。それにしても・・・どうせ殺されるんだから質問してもいいかな?織田権大納言兼右近衛大将さん」
「ひ、控えろ!その侮蔑した言葉許さぬぞ!」
「そ、そうだ!上様!このアッシに!このサルめに此奴の首を落とす許可を!」
スッ
明智と秀吉が顔を真っ赤にそう言った所で信長は右手でそれを制す。うん。カッコいい例の仕草だ。今度オレも小川さんにでも試してみよう。
「いやぁ〜、羽柴も明智も俺ぁ〜を嫌っているみたいだねぇ〜」
「なっ・・・何故ワシ等の事を知っている!貴様とは会った事もないはずだ!」
「そんな事は簡単な事だよ。誰を狙い誰を殺すか。もし間違えて対象じゃない者を殺してしまえば雑賀の信用は地に落ちる。俺ぁ〜が任務に失敗したのは初めての事でねぇ〜。あ、誰に頼まれたかなんて言わないよ?例え拷問されようがね」
「クッハッハッハッ!面白い男だ。そんなの言わなくても誰でも分かる。顕如だろう。もしくは下間一族の誰かか。本願寺からワシはだいぶ嫌われておるからのう。余興じゃ。貴様の疑問とやらに答えてやろう。大方、何を聞いてくるか分かるがな」
まぁこの状況で黒幕は誰かと言われれば、サルでも分かる。あ、いや、秀吉ではなく、言葉の比喩だ。ただ、雑賀が暗殺集団のような感じとは初めて知った。まぁ傭兵集団みたいな物か。
「まぁ〜。寛大だねぇ〜」
「あぁ。心配するな。時間稼ぎをしてる事くらい分かっている。が、約束してやろう。ワシが生きている間に雑賀に連なる者は根斬りぞ。今は方々に里の者が逃げる時間を稼ぐために貴様はワシと問答しているのだろう?もう一度言う。安心しろ。雑賀は毛程も残さぬぞ。(グワッ)」
信長は冷たく言うと、凄まじいオーラのような物を出した。が、孫一は意に関せず。
「怖い。怖いねぇ〜。雑賀衆とは一蓮托生。俺ぁ〜が殺された後は抵抗せず、投降するように言っているのだよ。信じられないというならそれで結構」
「ふん。聞きたい事はなんぞ」
「じゃあ遠慮なく。俺ぁ〜間違いなくあんたの胸に弾丸を叩き込んだ。何で無傷なのかねぇ〜?」
「それは簡単な事だ。ワシには優秀な部下が揃っているからな。治療してもらった。当たり前の事じゃ」
うん。間違ってはいない。嘘も言っていない。けど、信長さんよ?それは答えになっていないんじゃないですかぃ!?誰もこの時代の人ならその答えは信用しないと思うよ!?
「う〜ん。そんな的外れな事は聞きたくないんだけどねぇ〜」
「尊。来い。(スパッ)」
信長はオレを呼ぶのと同時に孫一の結ばれている手の甲を軽く刀で斬った。
「ぬぁっ・・・」
一瞬の事で孫一も驚いたようだ。が、信長は顔色変えず・・・、
「例の奴を飲ませろ。実演するのが早い」
「分かりました。これを・・・」
両手の塞がれている孫一。オレは例の栄養ドリンクを口に持っていき、飲ませた。いや、そもそもこの薬がもう無くなっていたらどうしてたんだよ!?事前に聞いてくれよ!?
それにおっさんにオレが飲ませてあげるとかいやなんだが!?
「「「「孫一様ッッ!?」」」」
捕まえられている他の4人が名前を叫ぶ。これでこいつが本物だと分かる。いや、カナが頷いたから間違いはないんだけど。
孫一の手は即座に血が止まり皮膚が出来上がり治った。
「つまりはそういう事だ。詳しく言えば貴様の放った弾を此奴がワシの身体から摘出し、今の薬を飲んで治ったという訳だ。惜しかったのう?孫一」
「な、なんなのかな!?これは!?こんな薬、聞いた事も見た事もないのだがね!?明の薬かぃ!?」
独特な話し方の孫一が少し狼狽えている。そのくらいに凄いって事だ。まぁオレも驚いている。なんせ、オレの居た時代でもこんな薬なんてないし。
「ふ、ふざけるな!そんな事ありえない!」
「ふん。ありえないと言ってもワシがそうなのだから仕方がなかろう?貴様も今しがた分かったではないか。そもそも雑賀は何故、織田と敵対する?本願寺とそこまで親密ではなかろうに」
「分寺が雑賀には多い。信仰してる民も多い。そもそもの道理として寺を焼き討ちにし、信仰を蔑ろに・・・」
「ハァー。見損なったぞ。孫一。貴様は全体が見える男だと思ったのだがな」
「・・・・まぁ、建前はさっきのかな?本音は俺ぁ〜もあんたと同じさ。けど、雑賀は皆の意見を聞き、意見の多い方を取るようにしてるからね。個人的意見で言うならば俺ぁ〜もあんたのように一度、寺社勢力は解体しないと、無駄に権力を持った坊主等は歯止めがねぇ〜」
「分かっているなら何故敵対する?」
「だから雑賀は惣国だからだよ。皆が織田家のようにあんたの意見で突き進む訳ではないのだよ。さて・・・1番の疑問が解決した。無理な事だとは思うけどもう一つだけ聞いても?」
「なんだ」
「本当に雑賀は根斬りとな?」
「当たり前だ。ワシを害そうとしたのだから許す道理はない」
「いやいや、俺ぁ〜磔だってなんだっていいんだけど、さすがに里の者は許してもらいたいんだよねぇ〜。虫のいい話だとは分かってはいるんだけどねぇ〜」
「貴様を殺せば更に雑賀はワシを憎むだろう。無理な話だな」
「実はねぇ〜、孫一とは雑賀の頭領が名乗る名前なんだ。次代の孫一には織田と和協するように言ってあるんだよ」
「貴様!この期に及んで・・・」
「サル!控えろ。孫一。続けよ」
「畿内は織田で纏まっているのをわざわざまた戦乱に戻すなんて見たくもないからねぇ〜。雑賀の里の者に近江に遣いに出したんだよ。そして、その見た事を聞いたし、実際に分かったんだよ。これをな(ポト)」
「あっ!?それは!?」
雑賀が器用に、後ろ手に縛られているのに、袖の隠しポケット?的な所から板チョコを出した。紛う事なき、タブレットから購入した板チョコだ。
「大津で織田は行商をしてるんだってね?なんて言ったかな?どらいぶいん?だったかな?まぁ、それを遣いの者が買って来てね。しかも1文でね。これを。俺ぁ〜目を疑ったさ。
そして食べて分かったんだよ。
これは誰が戦おうとも織田には勝てないとね。そこらへんの武士大名が束になろうともこれを作れ、且つ下々の民に鐚銭でも売るような事ができるのは織田しかいない。
方や籠城で食う事にも事欠く本願寺、方やこんな甘い物が下々の者まで食べられる織田。どちらが勝つなんて火を見るより明らかだよ」
「チッ。尊。どういう事か説明せよ」
「あ、いえ・・・説明と言われましても・・・。オレは買いたいという人には格安にて色々と売っていまして・・・はい。すいません。まさか雑賀の者が居たとは思いもよらなく・・・」
まぁ出店隊の誰かの時だろう。誰が何を買ったかなんて分かるわけねーよ。
「ふん。まぁ良い。サル。縄を解いてやれ」
「え!?許すのですか!?」
「いいから縄を解け!」
「は、はっ!」
「おや?首を斬られるんじゃ・・・」
「貴様は本心では織田が勝つと言ったな?まぁそれは当たり前だ。ワシが勝つべくして動いているからな。だが、この間小賢しい事を領内で起こした者がおってな。
もしワシが本願寺を力尽くで撃破しても信徒はどこぞで集まり、一揆を起こす可能性もある。雁字搦めにされている下の者は上が居なくなればどうとでもなるが、門徒はそうはいかん。どこぞで南無阿弥陀仏を唱え進めば極楽と言い、攻めてくる。
それは非常に面倒だ。貴様は本願寺に入れるよのう?顕如と教如・・・離間させる事は可能か?」
「クッフッフッ。俺ぁ〜を信用するのかね?」
「貴様の内までは分からぬが、少なくとも里を思っての行動とは受け取れる。それに・・・貴様は敢えてワシの右胸を撃ったな。雑賀は鉄砲の他、薬にも精通していると聞いている。その頭領の貴様が敢えて頭を狙わず右胸を狙うとはな」
「クッフッフッ。それは買い被りすぎですかねぇ〜。流石に気付かれない距離からそんな芸当はできませんよ」
「上様ッ!許してはなりませぬ!今すぐこのサルめに雑賀に総攻撃の下知を!」
「控えろ。何度も言わすな」
「で、ですが・・・」
「くどい!此奴には利用価値がある!孫一にしか離間はできん!力押しでも本願寺には勝てるが、その後の事を考えておるのじゃ!サル!貴様は後方に下がれ!中国攻めの事を考えておけ!これ以上言うならばその任を解くと心得よ!」
「・・・・御意」
「嫌われていますな」
「ふん。別にワシも貴様を好いてはおらん。ただ利用価値があるからだ。宗教とは誠に面倒だからのう。どれだけワシを苦労させるか。あぁ。貴様が裏切れば里は・・・ここ、紀伊は灰燼に帰すと思え。貴様のそのちょこれいとを売った此奴の夢幻兵器にて一撃で終わらせる」
いやいや、一撃で灰燼にはできないよ!?
「ふぅ〜。まぁ、一度詳しく話しましょうか。孫一の名前も捨てなくちゃならないからねぇ〜」
「ふん。抜かせ」
「お鶴ちゃん。君が次代の孫一だよ。里に行き、隠し武器から何まで一つに纏めておくように。金輪際、織田には敵対しないように」
「え!?ま、ま、孫一様!?」
「チッチッチッ。これから孫一はお鶴ちゃん。君だよ」
「痴話喧嘩のような事は後でやれ。ワシは貴様に殺されかけて血が足りないらしいからな。そうだよな?カナ・・・だったか?」
「はい。カナで構いません。恐らく、立っているのも辛いのでは?」
「そういう事は公に言うな」
〜後方に下がった羽柴秀吉〜
「手酷く言われましたな。兄者」
「ふん。本当に上様は甘い。甘過ぎる。尊のちょこれいとより甘い。雑賀なんぞ滅ぼしてしまえば良いというのに」
「手前が狙・・・(ドフッ)」
「軽々しく言うでない」
「ゴホッ ゴホッ いや今回は本気の蹴りでしたな・・・」
「ふん。まぁ良い。中国攻めの折にこの鬱憤を晴らす。だが、有能な者が居れば登用させよ」
「分かりましたよ。おや?半兵衛殿?そんな怖い顔してどうしましたか?」
「何かつまらぬ事を考えているのかと思ったまでですよ」
「いえいえ。ただの兄弟喧嘩ですよ。ねぇ?兄者?」
「そうじゃ。半兵衛の思っているような事はワシは思っておらん。ただ、ワシなら雑賀を滅ぼすのになと思っただけじゃ」
「そうですか。まぁ大殿は大殿でお考えがあるのでしょう。では、私は尊殿の陣に武器を融通してもらうために向かいますね」
「最近、よく尊の陣に居るのう。まぁ頼んだぞ」
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