ドライブイン安土 始動5

 「ふん♪ふん♪ふん♪あ!小雲雀ちゃん!おはよう!」


 ガジガジガジガジガジガジ


 謎が解けてから10日と過ぎた。時折り、商人らしき人は通るが、遠目からこちらを見るくらいでここへは中々来ない。それでも、数人は・・・いや、繁盛とは程遠いがそれなりに客足は増えている。


 まず太郎君、次郎君に最初の閑古鳥が鳴いていた時に料理を教えた。本当は店の流れを知ってからと思っていたが、余りにも暇だった為、桜ちゃんや、梅ちゃん、オレの嫁こと清さん達に客役になってもらい練習してたのだ。

 それと並行して、楷書文字の勉強だ。とりあえず小学1年生?くらいの子が習うようにオレが『あいうえお』から順に書いた紙を渡し、ひたらすら書いてもらう。

 素晴らしい事が、オレなら勉強は嫌いだけど、皆は喜んで学んでくれるのだ。どうやら学ぶ事は身分の高い人しか出来ないらしく、『俺、一生懸命に勉強します!』や、『私は、甲賀の里の子供にも教えられるように頑張ります!』と言っていた。


 できる事ならその恵まれない子達を全員雇って上げたり、面倒見てあげたいくらいなんだけど、現実はそこまで甘くない。食べる事に関してはなんとかなるだろう。

 だが、うちに来てもらうという事は給料が発生する。その給料を渡す余裕がないのだ。先も言ったように、それなりに客足は伸びている。

 が、全品1文と破格にしているにも関わらず、まだまだ客は少ない。


 とりあえずオレは毎日、朝一の車庫ならぬ馬小屋の掃除を引き受けている。この時代の朝は早い。身体を慣れさせるために引き受けたのだ。現代に居た時のような夜中の営業は今の所するだけ無駄。朝も早ければ夜も早いのだ。戦国時代は。


 料理の方は太郎君、次郎君共に覚えがいい。そりゃ、一流料亭のような腕なんかはない。それはオレもだ。だが、習った平仮名でチャーハン、ラーメン、肉うどん、餃子、おでん、カレー、焼きサバ定食、焼肉定食と、下準備から完成までをノートに取り、時折り確認してはいるが概ね、オレが監督しなくても、オレとの味の違いは少しあるかもしれないが、許容範囲にまで仕上がっている。

 ここまで言えば、オレが偉そうに聞こえるかもしれないが、作り手により味の変化があるようなお店はオレはダメだと思っている。まぁこれも現代価値観の問題だから、今どうこう言っても仕方がない。


 女の子の方は来店から、水とおしぼりの提供、メニューの聞き取り及び説明を覚えてもらった。こちらに関しては何も問題なし。太郎君や次郎君が練習で作ったご飯を皆で食べているから、どれがどんな味とか分かっているからだ。


 ちなみにオレは揚げ物を担当している。別に揚げ物も任せたいと思ったが、それをしてしまうと、いよいよオレのする事が無くなるからだ。


 主に、唐揚げ定食、天ぷら定食、白身フライ定食だ。基本的に定食には味噌汁が付くのだが、これは清さんの担当だ。別に妻となる者に無理矢理働いてもらう事はないのだが、本人が・・・


 「私も働きます!尊さまだけ働かせる訳にはいけません!」


 と、言ったから任せたのだ。桜ちゃんや、梅ちゃんにも料理を教えようとしたが、どうやらこの時代は女性が作った飯は『穢れ』と、思う人が多数居るようで、2人とも自ら固辞したのだ。だが、そんなの関係ねぇ〜!

 今でこそ客は少ないから提供はするが、普通になってくれば、そんな考えを持つ人は断る!そんな意味の分からない差別感情を持ってる客なんてこちらから願い下げだ!

 だが、これがこの時代の真理だ。極めて女性に対して冷たい。生理の時も穢れと言われ隔離されたり、これは清さんに聞いたが、身分の高い女性も・・・


 「戦の前などは正室や側室にも極力触らないのが常道とお聞きしています」


 「ご飯も、ここのように皆一緒に食べるという事なんか聞いた事ありません!」


 「女は全て殿方の後に着いて行くのが当たり前です。ですので、女が横に並んで歩む事を許してくれる尊さまに私は惹かれました!これからも末長くよろしくお願い致します!」


 と、オレ的には当たり前の普通な感じで接していたのだが、それだけでオレは珍しいらしい。その事もあるから、桜ちゃんや梅ちゃんもここ最近ではオレに優しい。というか、友達のような感じになってきたのだ。

 だが一つ困る事は夜の方だ。オレはまだ19歳。溜まる方が多い。だが、丹羽さんとの約束で何もしていない。1人風呂の中で致しているのだ。だからバレたくないため風呂掃除もオレが引き受けている。

 それと、この時代で『穢れ』と言われている生理の時は大変だった。


 「尊様。申し訳ございません。月モノが来てしまいました。暫くは外で寝泊まり致します」


 と、言いやがったのだ。


 「はぁ!?何で外で!?別に普通にしていればいいじゃん?あっ!女の子の日はお腹とか痛いんだよね?1週間は桜ちゃんはお休み!2階で楽に過ごしてていいよ!ナプキンとかないよね?少し待ってね!トイレットペーパーしかないから、これで血を拭いていいよ!オレもタブレットで何かないか探すから!」


 「そそんな申し訳ないです!殿方が月モノの女なんかに・・・」


 「そっちの方が意味分からないから!とりあえず命令だ!桜ちゃんは休みなさい!」


 オレは最近は『命令』という言葉をよく言う。本来はこんな事言いたくないが、そうでもしないとこの子達は休みもしないからだ。


 ガジガジガジガジガジガジ


 「分かった!分かったから!掃除してあげるだけだから!いつもしてあげてるじゃん!」


 ヒヒィーンッ!


 そして、今日に戻る。小雲雀ちゃんは毎日甘噛みならぬ、強噛みをしてきやがる。そろそろマジで辞めてほしい。

 このおかげで馬小屋掃除の後は風呂に入るハメになっている。

 あっ、意味があるかは分からないが、毎日、清さんに借りた刀で素振りはしている。偶に模擬戦みたいな事もしているが、上達しているようには思えない。だって、1合で勝負が終わるからだ。



 〜天王寺砦〜


 「懸かれッ!!懸かれッ!!」


 「御報告ッ!!敵方、雑賀衆の鉄砲と本願寺の勢い止まらず、塙安弘様及び塙小七郎様は討ち死にしたもよう!」


 「御報告ッ!!三好康長様の軍が敗走!本願寺の勢いが凄まじく、まもなく天王寺砦は包囲されます!!」


 「チッ。逃げ足だけは早い三好が!ここは何としても死守!!皆の者!奮起せよ!この砦を明け渡す訳にはいかぬ!!」


 「あ、あ、明智様!?じ、自分はどど、どうすれば!?」


 「しっかりしなさい!事ここに至っては余力を残すなどと悠長な事も言ってられない!例の焙烙玉を!其方は伝助と申したな!?」


 「は、はい!伝助です!」


 「うむ!二郎四郎!二郎四郎はどこか!?」


 「はっ!ここに!」


 「この者が持っている焙烙玉にて向かって来た敵を吹き飛ばす!その引きつけ役を頼めるか!?」


 「はっ!必ずや!」


 「よし!伝助!其方に特別任務を授ける!その焙烙玉を使い、敵を倒せ!一つは私が預かる!いいな!?死ぬ事は許さぬ!其方が死ねば丹羽殿に顔が立たぬ!行け!」


 「小童!ワシを見殺しにするでないぞ?役目は果たせ!なーに。ワシが敵を連れて来てやる!その焙烙玉がどれ程の物かは知らぬが、殿が託されたのじゃ!存分に働け!」


 「は、はい!」




 「お館様!!物見の報告で、塙様の軍は壊滅!三好軍は敗走しました!敵はその勢いのまま明智様が守る天王寺砦を包囲した模様にございます!」


 「なんだと!?河内、摂津の兵に総動員じゃ!兵を集めろ!ワシは河内城に陣を移す!」

 

 ったく、どいつもこいつも・・・。このままなら天王寺砦が危うい。今、光秀に死なれると統一が遅れる。チッ。本当に糞坊主が!

 

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