ドライブイン安土 始動6

 「このままでは光秀が危うい!まだ兵は集まらぬのか!」


 「申し訳ございませぬ!どこもかしこも大慌てでして・・・」


 「ぐぬぬ!もう良い!集まった兵だけで光秀を救出する!第一陣は荒木!」


 「ゴホンッ。えぇー、織田殿?天王寺砦を死守するのではなく、明智殿を救出するという事ですかな?」


 「そうじゃ!文句あるのか?」


 「いえ。あの織田殿が第一家臣とはいえ、個人である明智殿を助ける為に我が軍をお使いになられると?いや、命令とあらば仕方ありません。ですが、それでは木津方面の敵も押し寄せて来るでしょう。我が荒木隊は木津方面の守備をお任せ頂きたい」


 「ック。小癪な。じゃが、ワシは今、個人的な感情であるのは間違いない。其方の言い分も分かる。軍の総大将である以上この感情は持つべきではないが今、彼奴を失う訳にはいかぬ!」


 「ほっほっほっ。ではアッシが先陣を率いましょうかのう?いやなに。この老骨の軍がこの中で1番兵を集めましたからな?」


 「ッチ。松永か。お主だけに煩わす訳にはいかぬ!佐久間!お前も先陣に加われ!それと、細川、若江衆もだ!2番手は一益、蜂屋、サル、長秀、稲葉隊で固めろ!3番手はワシの馬廻りじゃ!」


 「お館様!このサルめにお任せあれ!お館様の3番には安全に砦へと・・・」


 「ワシは先陣じゃ!後方にワシが居ると思わせる!さすれば敵は後方を意識をする!その間にワシが足軽等に混じり砦へと入り、直ぐに陣を立て直す!」


 「先頭にですか!?まさか・・・。いえ。これは桶狭間以来ですか!?ならば、このサルもお連れくださいまし!」


 「ならぬ!お前はワシが後方に居るように見せかけよ!出陣じゃ!!」


  

 「(殿。裏切るなら今かと)」


 「(まだ早い。雑賀の名手にあのうつけは先頭に居ると伝えよ。倒れる事を確認すれば松永軍は織田軍を全て平らげる)」


 「(御意)」


 「さてさて・・・佐久間殿はお館様の後ろでお控えを。露払いは我が松永軍の足軽が引き受けましょうぞ」


 「う、うむ。さすが松永殿じゃ。この軍勢にも怖気付いておらぬと見える!」


 「ほっほっほっ。佐久間様とは経験が違いますからな。佐久間様は退きにお強いでしょう」



 〜天王寺砦〜


 「小童。ほれ。ワシの握りの一つだ。あの奇天烈の店主がくれた握りだ」


 「こ、これを自分にくれるのですか!?」


 「あぁ。腹が減っては力も出ぬだろう?それに万一にもないとは思うが、最後の食事にしたくはないであろう?(ハムッ)うっ・・・これは・・・なんじゃ!?美味い!初めて食べたぞ!?」


 「あぁ!それはツナマヨというらしいです!自分も一度食べました!まよ・・・なんとかという汁だそうです!では自分も頂きます!(ハムッ)うへぇ〜。辛い・・・」


 「ほぅ?一つ一つ具が違うのか。小童の握りは辛いのか?緑色の何かじゃな。それは高菜か?美味そうではないか。一口貰うぞ。(ハムッ)うぉ!これは美味い!ピリっとして高菜と合う!小童!これと交換せい!こちらも美味いが、ワシはこっちの方が好みじゃ!」


 「は、はい!自分は貰う立場ですので!」


 「二郎四郎!お館様の軍勢が見えた!門の周りの敵を蹴散らせ!」


 「ブホッ・・・と、殿!?」


 「聞こえぬのか!握りなんぞ食ってる暇はない!お館様が我等如きの為にこちらに向かって来てくれているのだ!明智の兵が働かないでどうする!早く降りろ!」


 「聞いたか!皆の者!急いで握りを口に入れろ!正念場ぞ!大殿がこちらに参っておる!殿のいう通り、明智の強さを見せつけるのだ!!小童!お主は丹羽様の配下だったな?我等に負けぬ働きを見せてみよ!降りるぞ!小童は投擲前に声をかけろ!巻き添えだけは食らいたくないでな!」


 

 「二郎四郎様!投げます!」


 「おうよ!」


 ドガァァァァァーーーーーーン!


 「小童!流石だ!このまま続けるぞ!」


 「はい!」


 

 「殿。あの丹羽様の下っ端が持っている焙烙玉は!?」


 「ふっ。これだ。少し・・・奇妙な縁の奴でな。まさか1発で敵を木っ端微塵になる威力とは、いやはや。こんなに小さいのにな」


 「それがですか!?その輪っかは!?」


 「それを抜けば爆発するらしい。間違ってもここでは抜くなよ?それよりお館様の旗印は・・・後陣に見えるな。だが、肝心のお館様が見えぬ。戦場でも遠目からでもあの南蛮甲冑は目立つというのに・・・」


 「殿!あそこです!あの先頭の足軽の中に・・・」


 「なんと!?(・・・・・グスン)」


 「殿!?何を泣いておられるのですか!?」


 「馬鹿野郎!お館様が・・・いや、上様が自ら先頭で向かって来てくれている意味が分からぬのか!この私の為に!私も降りる!道を切り開け!門を開けろ!上様をお迎え致すのだ・・・(うん?あの足軽達の旗印は・・・蔦紋?松永殿?その後ろに佐久間殿で・・・松永殿の本隊?)」


 「左馬助!今すぐ敵の攻撃を見ろ!あの先頭の足軽等は倒れておるか!?」


 「え!?し、少々お待ちを・・・いえ!倒れているようには見えません!」


 「謀りおったな!あの爺め!今すぐ二郎四郎に・・・いや遅い!私自ら行く!」


 

 「二郎四郎!今すぐ敵の鉄砲衆に突撃をかけよ!私も上様を迎えに行く!」


 「はぁ!?と、殿!?お待ちくだされ!それは危のうございます!」


 「敵は松永と通じておる!このままなら後ろから上様が挟み込まれる!伝助!まだ焙烙玉は残っておるか!?」


 「は、は、はい!後、2つ残っております!」


 「よし!私に着いて来い!合図と共に敵に投げ込め!」


 

 「(そろそろか。雑賀の銃間に入ればあのうつけの強運も終わりよのう。その後は坊主等と連携し佐久間、羽柴、滝川の軍を喰らい尽くし、ワシが天下を取る。クックックッ。うん?明智か?ふん。今更出ようがここまでは来れまい)」


 「上様ぁぁぁ!!!!」


 「光秀ぇぇぇ!!!今行くぞッ!!!!」


 「(入った!)」


 「伝助ッ!今じゃ!左の鉄砲衆へ投げ込め!2発同時にだ!」


 「は、はい!」


 ヒューン ドォォォーーーーンッ ドォォォーーーーンッ


 グチャ グチャ グチャ


 「クッハッハッハッ!面白い物を持っておるな!今行くぞ!光秀ぇぇ!!」


 「(なんだあれは!?あの焙烙玉はなんぞ!?どうするべきか。裏切るのか!?ワシが裏切ればうつけは殺せよう。じゃが、あの焙烙玉にてワシも・・・)」


 「(殿。落ち着きください。雑賀は、一撃で肉塊となりましたが、数名残っております)」


 「(分かった。雑賀の狙撃後に動け)」


 「殿!!鉄砲衆が残っております!」


 「なに!?上様!!お退きください!ここは罠でございます!!」


 「者共ッ!あの南蛮甲冑が信長だ!狙えッ!」


 「ぐぬぬ!殿!屈んでくだされ!うぉりゃぁ!!」


 ブォンッ!   グサッ


 「グハッ (パンッ)」


 「上様ぁぁぁぁ!!!」「お館様!!!」


 「(撃たれたな!よし!この勝機を・・・)」


 「ぐぬぬ・・・怯むなッ!!ワシ大丈夫だ!擦り傷ぞ!他愛ない!足軽は敵と斬り結べ!雑賀の糞供が!貴様等は根斬りぞ!草の根掻き分けても根斬りぞ!鉄砲とはこうやって使うのだ!!(パンッ パンッ パンッ パンッ パンッ)」


 「(ぬぁ!?あの片手銃はなんだ!?あんな物見た事がない!しかも連射しているだと!?)」


 「上様!お怪我を・・・」


 「辞めい!まずは砦の中だ!お主!確か明智の重臣の二郎四郎と申したな?」


 「申し訳ございませぬ。大殿を怪我させてしまいました。直ぐに腹を斬ります故、どうか殿に咎がかからぬよう」


 「ふん。抜かせ!お主が敵に気付かず刀を投げなければ今頃は撃ち抜かれていたであろう。礼を言う。それより、砦の外に出るとは何事ぞ!」


 「いえ、松永殿?何故ですかな?」


 「(ック。このままでは勝算が薄い。チッ。忌々しい)はっ?何のことですかな?アッシは大和より1番多くの兵を連れて参ったのですぞ?その明智殿の眼はアッシを敵のように見ているのですかな?おかしいですな?アッシが・・・」


 「ふん。ワシもてっきり松永は何かよからぬ事を企んでいるかと思ったのじゃがな?ワシの思い違いだったか?ワシの知っておる松永なら後ろから喜んでワシを斬るかと思ったのじゃがな?」


 「・・・・お戯れを。歳は食いましたが、何が良く何が悪いかは知っておるつもりです」


 「ふん。ならば良い(パンッ)」


 「「「!?!?!?」」」


 「ワシを後ろから斬りかかろうもんならこの残しておった1発で頭を撃ち抜いてやったのだがな。のう?松永?」


 「(ワシが本願寺と通じておる事が筒抜けだったというか!?いや、それよりはあの片手銃だ!あんな物、聞いた事ないし、見た事もなかった!裏切るのは今はいかん!)ほっほっほっ。それこそお戯れですぞ!今より、松永軍が本願寺の坊主を蹴散らせましょう!お館様の頭では既に陣形をお考えになっているでしょう?是非とも松永軍に今一度先陣をお任せあれ。獅子奮迅の働きをお見せ致しましょう」


 「ふん。励め!光秀。よう守ってくれた。礼を言うぞ。それと、話がある」


 「グスン・・・はぃ・・・」


 


 〜ドライブイン安土〜


 更に5日と経った。5月も後半に差し掛かろうとする中、織田軍の人は相変わらず見えなくなったがオレ達は上手い事やっている。客足?相変わらず少ない。いや、まずこの辺には村がないらしい。

 佐和山の城下に村はあるのだが、戦時中とあり男手は少なく、この時代の人は女だけで外に出たりしないらしい。そりゃ治安最悪だし、一家の大黒柱が戦に行ってるのに、呑気に外食なんてする訳がない。オレでもそう思う。

 だが、それでも数人はリピーターになってくれたのだ。その1人が・・・


 「ムホッホッホッ!店主!これも本当に1文なのですかぃ!?」


 「えぇ。開店したばかりですからね」


 「(ジュルジュルジュル)ムホッホッ!このような、うどんがあるとはワテは知らなかったですぜ!毎日食べたいくらいですぜ!」


 「ははは。ありがとうございます。うちの太郎君は腕がいいですからね」


 「それだけではないでしょう?調度品から何から何までいつ来ても驚かされる。特にこのビードロの南蛮湯呑みなんかは公家相手に売れば、かなりの値が付くと思いますがね」


 「生憎、その伝手はありませんし、うちは飯処ですからね」


 「ふふふ。善兵衛さん。口が上手いですね!これは私からの奢りです!」


 「お!奥方殿!ありがてぇ〜!」


 「清さんは直ぐに乗せられるんだから!まぁいいよ!善兵衛さん!妻から奢られるくらいなんだからまた来てくださいよ!」


 「当たり前だよ!ワテは色々な茶店や飯屋に行っているが、京の都の飯屋なんて目じゃねぇ〜!間違いなくここが日の本一さ!」


 「あれ?善兵衛さんは、各地に行く仕事してるのですか?」


 「あれ?言ってなかったかい?ワテは行商人だからよ!近江を始め、西は堺や備前まだまだ行った事あるぞ?東は相模まで行き、北は越後だな!」


 「へぇ〜!健脚ですね!何を売っているのですか?」


 「そりゃ堺で仕入れた南蛮物だな!一級品は、中々仕入れられないが、湯呑みや茶葉なんかも売っているさ。だから、このビードロの南蛮湯呑みが気になったのさ」


 この、善兵衛さん。5回くらい来てくれたかな?オレは初めて仕事を聞いたのだが、なんと行商人らしい。


 「なら、この湯呑みならぬコップを差し上げましょうか?」


 「えっ!?よろしいのですか!?」


 「いいですよ!初めてうちの店の常連になってくれましたし!清さん!そこら辺の紙で包んでくれる?割れないようにね!」


 「はい!尊さま!?どうせなら、余り使わないお皿なんかもよろしいのではないでしょうか?それにこのような紙もお付けして・・・」


 「おぉー!さすが清さん!やるぅ〜!」


 「な、なんですか?これは!?」


 清さんには基本的に自由にさせている。そりゃ妻だからな。それで、現代の事を色々学んで、この家にある本を読んでいるそうだが、客足が中々伸びないこの店に新しい風を吹かせる為に、お店の宣伝をした紙を作ってくれたのだ。

 急にパソコンを知りたいと言って、色々イジイジしていたし、印刷機の使い方とかも聞いてきたが、てっきり興味があるだけかと思っていた。いや、なんならユーチュ◯ブをパソコンで見ていただけかと思っていた。


 「善兵衛さんにこの南蛮食器やビードロ湯呑みを差し上げるから、是非新しいお客様を紹介してくださいね?分かりますよね?この意味が!」


 怖ぇ〜よ!脅しのように聞こえるじゃん!?


 「ゴホンッ。まぁ、その渡した物を売るなり好きにしていいですので、よければ色々な方に、うちの店を紹介してください」


 「分かった!!ワテに任してくれ!必ずや人を連れてくる!ではこれは貰いましょうぞ!ワテは西に向いて行きますので、次回はちと来るのが遠くなるやもしれませんが、必ず来ますので、その時はまた肉うどんをお願いしたい!」


 「ははは!了解です!お気を付けて!」


 オレ達は6人全員で善兵衛さんを見送った。その後に、外から1人の男がこちらを見てる事に気付く。

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