ドライブイン安土 始動 終

 「わっはっはっはっ。おやおや?バレてしまったようだねぇ〜」


 「い、いらっしゃい・・・ませ?」


 現れた男はこの時代で初めて、オレより身長が高い男だった。しかも、タンパク質が乏しい戦国時代で、ボディービルダー・・・って程でもないが、それに近いようなガッチリした身体付きの男だ。


 「違う違う!俺は客じゃねぇ〜ぜ?織田の殿様から言われてね?この店を守れってな?ついでに、この店の店主等も守れってな?」


 「え!?あぁ〜!まさかあなたが・・・」


 「いよっ!よく聞いてくれた!俺こそが天下一の・・・あっ!傾奇者!あっ!前田慶次郎利益よっ!」


 「「「「「・・・・・・」」」」」


 オレ達は何を見せられているのだろうか。歌舞伎なんて見た事ないけど、片足を椅子の上に置いて首を回しながらこの人は自己紹介してきた。しかも自ら傾奇者と言いながらだ。

 ただ一つ言える事は、この人には絶対に勝てそうにない。なんなら、信長なんかより強そうだ。


 「ノリが悪いねぇ〜。まぁいいさ。で、あんたは何て名だい?」


 「オレは尊と申します」


 「名字は?どこの生まれだい?切り揃えられた髪、髷はないから武士ではないだろう?それにこの南蛮の物ばかりの調度品の数々。そうだねぇ〜。差し詰め、堺や近江の豪商または、有力者ってとこだろう!?違うかい?」


 「苗字は武田・・・です。武田尊。名字に関しては織田様から名乗るなと言われているので、今は捨てています。ちなみに、豪商でも有力者でもありませんよ。未来から来たのです。生憎、余りこの事を言った人は信じてくれませんけど」


 「わっはっはっはっ!俺っちが間違えてしまったな!まさか武田とはねぇ〜。どこの武田だい?」


 「若狭?甲斐?他にも武田があるかは知りませんが、まったく関係ありませんよ。それに前田様は驚かれないのですか?」


 「そうかい。まぁ織田の殿様が武田と名乗るなと言うならそういう事なんだろうねぇ。それに驚くとは未来にかい?いや驚いているよ?おっと?少しすまねぇ〜。(プカー)これはキセルっていう南蛮の葉っぱさ。落ち着くんだよ。やるかい?」


 ここでオレは思った。まんま例の漫画のような人じゃん!と。


 「いえ。いりません。タバコは吸いません」


 「つれないねぇ〜。で、ここは俺っちが守ってやるから、あんたの事や未来の事を聞かせてくれないかい?南蛮人は堺に行きゃ〜いくらでも居るがよ?未来から来たという者は俺っちも初めてさ!面白い話を聞かせてくれよ?な?」


 この絡み付く話し方が少し苦手に思う反面、この人とは仲良くなれそうな気がしないでもない。オレもこの人に興味がある。なんたって、未来でも傾奇者としてかなり有名だからだ。


 それからオレ達は全員が自己紹介をした。この人は今まで会ってきた人達とは違い、余りあれこれ質問して来ない。時折り、聞いてくる事はあるけど、基本的にオレの話を頷いて聞き、スムーズに話ができた。

 その事を聞いたのだが、前田慶次曰く・・・


 「何でも人に聞いて答えばかり求めてちゃ面白くないだろう?自分で考え、理解して初めて知恵となるのさ」


 と、哲学的な事を言い出した。途中、太郎君がおでんを出して、小腹を満たしたがこれもこの人は何も疑わず、何も聞いてこずに食べた。だが、流石におでんには驚いていた。


 「おぉ!これは美味い!久しくこのような美味い物に出会わなかった!これも未来という食べ物かい?」


 「いや、未来ではなく、おでんという食べ物です。オレが居た世界では一般的な物ですよ」


 「そうかい。これはまた食べたいねぇ〜。それで・・・俺は何をすればいいのかい?」


 「そうですね。前田様は・・・」


 「おっと!俺の事は慶次と呼んでくれ!あんたとは仲良くなれそうだ!それと・・・そこの可愛子ちゃん?あんたは奥方と聞いたが、中々修練を積んでいるようだねぇ〜?丹羽の殿様の所の娘子だろう?どうだい?一つ手合わせしないかい?」


 「はい!ストップ!!オレの妻に何を言うんですか!」


 「いやいや、怪我なんてさせないよ?」


 「ふふふ。前田様は私の武を見たいと?良いでしょう!表に出ましょうか!」


 いや、何で清さんもやる気になっているんだよ!?めっちゃ嬉しそうなんだが!?


 「あの・・・慶次様?本当に大丈夫でしょうか?」


 「あんたも奥方が心配かね?大丈夫さ。それと様なんて呼び方辞めてくれ」


 「ま、まぁ分かりました。では慶次さんで。本当に知らないですよ?」


 今は飯食って清さんはパワーアップしているはず。慶次さんもおでんを食べてはいたけど、清さんの方が色々食べていたからな・・・。あぁーあ。前田慶次・・・知らねーぞ!?


 「わっはっはっ!いつでも来てくれて構わないぜ?」


 「では・・・お言葉に甘えさせて・・・うりゃっ!(ドスンッ)」


 「(ガキンッ)っとっとっとっ・・・。やるねぇ〜!まさか跳ね返しが効かないとはねぇ〜。これ以上長引くと俺っちの負けのようだ。だから・・・俺の刀を受けてみろ!(ズドンッ!)(パシュンッ)」


 「まったく・・・噂には聞いていましたが、本当に剛の刀ですね。けど、私の方が一枚上手でしたね?前田様?」


 「わっはっはっはっ!負けた!負けた!大負けだ!久しぶりに1対1で負けた!こりゃ気分が良い!」


 清さんは慶次からの一撃を刀の切先で去なして避けた。これだけで常人ではないような動きだ。だが、そもそもの慶次さんもヤバイ。パワーアップ中の清さんの攻撃を刀で受け止めているんだ。並の人じゃないわ。


 「そ、それまで!これ以上は怪我じゃ済まないからダメだ!」


 「そうだなぁ〜。これ以上となると俺っちも抜き身じゃないと相手できなくなる。それにしてもあんたの奥方は強いねぇ〜。そこらへんの男より強いってもんじゃないぜ。まっ、こんな男だが、肉盾くらいにはなるさ。俺を使ってくれ!あんたに興味が沸いたぜ?わっはっはっはっ!」


 斯くして、前田慶次がオレ達の仲間・・・というか、一緒に住む事となった。だが、それからは大変だ。食い物に関してまではそこそこだったが、オレの自慢の風呂を紹介してからというもの・・・


 「ぬぉ!?あんた!これはなんだい!?何!?ここから湯が出ると!?これはその湯の中に浸かるとな!?この泡はなんだ!?」


 「なぁ〜にぃ〜!?箱の中に人が!?物怪か!?」


 「わっはっはっはっ!この男は漢の中の漢だ!身体も中々に修練を積んでいる!連射できる銃に怯まないのかい?血も出ていないじゃないか!まるで筋肉の鎧だねぇ〜!」


 「へぇ〜!こっちの男も漢の中の漢だねぇ〜!あふがんという怒りがあるのかい?あぁ〜あ!このまーどっくという男は死んだな!」


 例のロボット映画の次にランボ◯怒りのアフガンという映画を見たのだが、どうやら慶次さんは感銘を受けたそうだ。慶次さんも似た身体をしているけど、絶対に鉄砲は弾けないぞ!


 それと、夜の飯の時も大概だ。器一つ一つ丁寧に観察し、食べる食べる。食い尽くすのか!?ってくらいに食べる。そして、親睦を深めようと酒を出したのだが・・・ザルだ。


 「わっはっはっ!誠に美味な酒だな!ビールと言ったか!?黄金の酒とはこの事だねぇ〜!尊!もう一つ!頼もう!」


 「さすがれすねぇ〜!まえださまぁ〜!」


 「奥方に刀は負けたが、酒は俺っちの勝ちのようだねぇ〜」


 「わらしはまだまだれすよぉ〜(バタン)」


 「あぁ、もう!清さん!大丈夫!?よいしょっと・・・。清さんを寝かせてくるから、皆で飲んでて!そこに新しいの置いてあるから、太郎君!注いであげて!」


 「はっ!」


 オレは女の子の部屋に清さんを運ぶ。毎日素振りしているせいか、少し筋肉が付いたような気がする。軽々しく運べるようになった。


 「ふふふ。尊しゃまぁ〜!もう一つぅ〜!」


 「はいはい。今日はもう辞めような?」


 「わらしは、尊しゃまのお嫁でぇ〜す」


 本当に酒が弱い子なんだな。


 そのままオレは布団に寝かせつけ、少し頭を撫でてあげる。見れば見る程に可愛い子だ。酒に弱く、男勝りのように思えて、気遣いもできる子、それが清さんだ。


 「清さん!しんどくなったら呼んでよ!まぁビール1本だからアルコール中毒ではないと思うけど念の為ね!オレは下に居るから!」


 「尊しゃま〜!わたしぃ〜勝ちまひたよぉ〜」


 「はいはい!おめでとう!お酒弱いんだから、これからは余り飲んだらダメですよ!」


 「尊しゃま〜!未来の夫婦(めおと)は接吻をするのでしゅよねぇ〜?動画で見ましたですよ〜!」


 「え!?せ、接吻!?」


 「そうでしゅ!唇と唇を交わすやつでしゅよぉ〜」


 オレはビックリした。接吻と聞けばいかがわしいアレを想像するが、どうやらキスの事らしい。そりゃキスしたいさ。なんなら繋がりたいよ。だが、それはダメと言われているし、約束を破ればマジでこの時代なら斬られそうだし・・・。


 「・・・・・・」


 「尊しゃまは本当に私を好きでしゅか?」


 「もう!清さん!酔いすぎな!そんな事言われればオレだって我慢できなくなるよ!」


 この駆け引きは嫌いじゃない。けど、まだ死にたくない。一度手を出してしまえばオレは毎晩求めてしまうだろう。


 「答えてくないでしゅか?」


 「あぁもう!好きだよ!大好きだから!本当に好きだから辛いんだよ!」


 オレがそう言うと、清さんは起き上がりオレにハグしてきた。しかも目を閉じて唇を少し突き出して・・・。


 「清さん・・・オレは・・・」


 「父上にも皆にも内緒でしゅ!未来の言葉で、きすと言うのでしゅよね?今はこれだけしかできましぇんが、閨房はもうしゅこし待ってくだしゃい!」


 閨房とはなんぞや!?と思ったが、なんとなく意味は分かった。交わる事だろうと・・・。

 オレは欲に負けない!負けない!と思っていたが、簡単に陥落してしまった。


 「「(チュッ)」」


 「尊しゃま〜!大好きでしゅ!」


 「清さん・・・必ず幸せにするから!大好きだよ!」


 「ふっふ〜ん♪(スゥー スゥー)」


 清さんはそのまま寝息を始めた。本当に可愛いくて優しい清さん。オレはもし謎が解けて、帰れるとなったとしても帰らない。


 「オレはこの時代で清さんと一緒に過ごしていく。絶対に帰らないし、離さないから」


 最後の言葉は自然と口から出ていた。

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