第三章 改革

ドライブイン安土 改革1

 〜天王寺砦〜


 「やはり坊主は坊主よ。他愛ない」


 「えぇ。誠に。討ち取った数は今や2700を超えていると聞いております」


 「ふん。坊主の首なぞ数えなくて良い。それより、光秀?言いたい事とは他でも無い。今は普通だが、さっきまで身体がおかしくなかったか?」


 「身体でしょうか?はて?」


 「なんていうかのう・・・。こう力が漲ってくると言えば良いか」


 「申し訳ありませぬ。ここを必死に守る為にそこまでは・・・」


 「そうか。ならば気にしなくてよい。ワシが思うのは例の彼奴の飯を食った折は少しの間じゃが、力が漲ってくる感覚がしてのう。お主の配下の二郎四郎もそんな風に見えたが?」


 「ふむふむ。確かにそういえば、あの狙撃手を射殺した時が・・・」


 「そうじゃ。投げ刀で敵の胴と足が千切れるか!?ワシは目を疑ったぞ。まぁそのお陰で擦り傷程度で済んだのだがな」


 「本当に他愛ないでしょうか?曲直瀬を呼ばなくてもよろしいので?」


 「構わん。弾が掠っただけじゃ。京に戻ろうかと思うたが変更致す。ワシは彼奴の所に行く。お主は京にて政務を代行しろ。それとなく、銭の改革を臭わせ、国友に鉄砲を見せておけ。貴様が持っておるその銃もそうなのであろう?」


 「お見通しでしたか。これは試し撃ちしかしておりません。この鉄砲なら我等の既存の種子島と似ておる故、国友一門の誰かが分かるやもと思っておりまする」


 「そうか。良きに計らえ。ワシは彼奴に弾丸の秘密を探ってみる。弾は真似出来ぬ。と断言しておったからな。彼奴も考えると申しておったしな」


 「畏まりました」


 


 〜ドライブイン安土〜


 「まずは、そこでオレは改革をしようかと思っている!簡単に言うと出店だ!」


 「「おぉ!」」「(パチパチパチパチ)」


 オレは考えた。ここまで破格な値段で提供しているのに何故、客が来ないかと。それは戦時中という事もあるだろうが、それだけではない。得体の知れない食い物なんて食べたくないだろうという考えが分かったからだ!


 現代に居た頃にもし友達に『どこどこの店に何々があるから食べようぜ!』なんて言われても、その食べ物が知らない物ならば唆られないだろう。現代ならば直ぐに調べる事ができるが、ここは戦国時代。皆が『美味い美味い』と言っても中々ね・・・。


 「わっはっはっはっ!いいねぇ〜!それに酒を付ければ皆が殺到すると思うぜ?丹羽の殿様なら佐和山の城下で商いしても怒らないと思うぜ?ちゃんと、座代さえ払えばな!」


 「座代ですか?いくらくらいですかね?」


 「まぁ、尊なら婿でもあるし、応相談って事じゃないか?まっ、やってみればいいさ!オレは尊の親父殿のウィスキーだったか?この酒があれば生きていける!」


 「はいはい!またそうやって昼間っから飲んで・・・」


 「いいじゃないか!何かあれば身体を張ってでも助けてやるさ!」


 慶次さんはウィスキーにハマっている。当初は親父の飲みかけのウィスキーだったが、タブレットの酒の項目の中にウィスキーが追加されたのだ。というか、酒の種類がかなり増えた。

 どうやら、偶に来てくれるお客さんの誰かが『また来たい』と思ってくれたからなのか、今はレベルは《LV14》にまでなった。


 新たに増えた項目がまぁ多い多い。《工具》《趣味》《お菓子》などなど、細かい項目が増えたのだ。それと例の買い取りシステムも試した。

 

 清さんに言って、佐和山の城の三の丸の物置に入っていたと言っていた錆かけの日本刀を買い取りシステムの項目をタップして、いつもの如く、タブレットに空間が開き放り込んでみたのだが、なんと買い取り金額が1貫。つまり1万円だった。

 錆びてこれならちゃんとした刀なら100貫くらいになるんじゃね!?と思い、丹羽さんには今度あった時にお金は渡すとして、清さんに言って、これもまた佐和山の城の武器庫に入っていた無銘ではあるものの、ちゃんとした刀を買い取りシステムに入れたら・・・


 「はぁ!?何でこれも1貫なんだよ!?」


 と、まぁ1貫だったわけだ。どうやらこのシステムも何か謎があると思い、取り敢えずは保留にしている。


 そして、この事を慶次さんは気になり、今度実家に戻った時に色々持って来てくれるそうだ。後は、今は命令されてオレの護衛になってくれているみたいだが、『俺は正式に尊の家臣になりたい』と言ってきたのだ。


 オレは何度も聞き直したが、本気らしい。酒も然ることながら、飯も美味いし、太郎君や桜ちゃんなど草と呼ばれる身分の人達にも分け隔てなく接する態度が気に入ったそうな。どうもこの慶次さんも甲賀の出身らしく、昔々は本当に草の身分の人は大変だったらしい。


 今でこそかなり改善はしているらしいが、甲賀の里は相変わらず貧しくその日暮らしの人も多いし、出稼ぎでどこかの大名の下の下の下で働いたとしても、差別感情は強いらしい。『卑しい銭で動く乱波者』という事を色々な所で言われるらしい。


 その蔑むような感情を持ち合わせていないオレの事を慶次さんは気に入ってくれたと。だから信長が戦から戻ってくれば直訴するとの事。『叔父御にも直訴する』と言っていた。叔父御とは前田利家の事らしい。


 「叔父御はケチで細かいんだ。それに、まつの姐御は奥方に負けぬ男勝りな豪傑だしな」


 との事。まぁそれに関しては慶次さん本人に任せる。もし、引き抜きで怒られるというなら何か物でも贈る。例のタブレットには惹かれる物が多数あるだろう。



 そんなこんなで、オレ達は握りとサンドイッチを作り、クーラーボックスに入れて、佐和山城下で商いをする事にした。ちなみに、速歩きくらいの速度で歩いて2時間は掛かるらしい。だが・・・。

 あっ、その前にもう一つ・・・例の店だが、次郎君にお留守番してもらう事にした。入り口に鍵をすれば入られる事はないだろうが、念の為だ。次郎君に内から鍵をかけてもらい、『目上の人以外は開けるな』と言った。張り紙も清さんに言って、『本日は休み』と書いた紙を貼った。


 「慶次さん・・・馬に乗らせて・・・」


 「わっはっはっはっ!それは無理だ!この松風は俺以外は乗せないって言っている!」


 ヒヒィーンッ!


 確かに信長の小雲雀より体躯は負けず劣らず、気性も激しそうだ。オレが撫でようとするだけで剥き歯で威嚇してくるのだ。


 「まぁ、近々オレが鍛えてやるさ!毎日1人で素振りしてるだろう?知ってるぜ?聞ける人間が居るなら聞く事が1番だと思うぜ?」


 「あっ!そうだ!尊さま!?歩くのがしんどいならおんぶしましょうか!?」


 「はい!?いやいや、そんなの恥ずかしいから自分で歩きますよ!清さんにおんぶって・・・旦那としてダメだから!」


 「そんな事ありませんよ!寧ろその方が早く到着します!前田様?駆け競べでもどうでしょうか?桜も梅も太郎殿も中々に速いですよ?」


 「わっはっはっはっ!松風に乗った俺に勝負を挑むか!よっしゃ!一つ勝負と行こうかね!合図は任せるぜ?」


 「と、いう事です!尊さま!行きますよ!よーい・・・どんっ!!」


 「あぁ!ちょ!清さん!!!」


 バシューーーーン!!


 この日オレは人生で初めて女の子におんぶをされ、音速に近い速度を生身で感じた。いや音速が時速何キロかは分からないけど、体感的にって事だ・・・。

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