ドライブイン安土 改革2

 「うへぇ〜・・・マジで勘弁してほしい」


 「わっはっはっはっ!!面白い男だねぇ〜!それにしてもまさか本当に松風に着いてくるとは恐れ入ったぜ」


 「う〜ん。少し負けてしまったようです。けど帰りは負けませんよ!」


 はぁ!?帰りもあれなの!?乗り物酔いは今までも経験あるけど、おんぶで酔ったのなんて初めてなんだけど・・・。しかも妻の背中なんて・・・。


 「お武家さんですかぃ?」


 「ほら!尊!聞かれているぞ!」


 「あぁ〜・・・ゴホンッ。お見苦しい所をお見せしました。自分は武家ではありません。普通の男です。えっと・・・御婦人様?良ければ隣で商いをさせていただきたいと思うのですがよろしいでしょうか?」


 「御婦人だなんて!やだわぁ〜!隣でもどこでもいいんじゃない?何を売るのかしら?」


 「手に持って食べられる握りやパン・・・パオンと言えば分かりますかね?南蛮の飯みたいな物です!それらを売ろうかと思っております!一つ1文ですが、お近付きに良ければどうぞ!お代は入りません!」


 オレはできる男だ。と思いたい。オレ達が居る所は城下の端も端、民家の軒先のような所が並んでいる所だ。歴史映画やドラマで見た事があるような風景の場所だ。


 それと、更に更に分かった事がある。料理人冥利な事というかなんというか。どうやら、身体がスーパー強化されるのはオレが作った物だけに関してだという事が分かった。


 同じ食材で同じ物を作っても・・・仮に太郎君が今回の売り物のようにお握りを作ったとしよう。だがそれを清さんや慶次さんが食べようが強化されないのだ。まぁこの事によって、女の子から太郎君への当たりが強くなり、仕事前や何か事の時はオレが飯を作るようになったのだ。

 太郎君が風呂で1人愚痴を言っていたのを聞いている。


 『なっんで!なっんで飯一つであそこまでケチョンケチョンに言われないといけないんだ!特に桜だ!善意でオレが昼飯を渡しただけなのに・・・』


 と、本当に可哀想に思えたから、今回の出店への考えが浮かんだのだ。男達なんかより、スーパー強化は女の子の方が執念が強い。男より強いという事が清さん含め、桜ちゃんも梅ちゃんも嬉しいらしい。

 特に太郎君なんかはよく腕相撲に付き合わされている。オレ?オレは無理だ。自分で自分の飯を食っても強化されないし、なんなら一度、清さんと腕相撲したらテーブルにヒビが入ったし。怪力ならぬ脳筋怪力な奥さんだ。


 「えぇ!?本当に貰っていいのかい!?こ、これがぱおんというものなのかい!?中に何が入っているの!?」


 「原料は大豆です。まぁ簡単に言えば豆腐ですね」


 本当は卵サンドやハムカツサンドなどなど考えはしたが、どうしても肉が入ったりしてしまうため、急遽オレが考案したものだ。豆腐を水切りし、細かく刻んだ玉ねぎを軽く炒め、パン粉と豆腐を混ぜ合わせ、焼いた、現代のヴィーガンの人などがよく食べているだろうと思う豆腐ハンバーグだ。肉類は一切使っていない。

 これなら文句は言われないだろうし、肉を食べた事ある人も肉に近い食感くらいは感じてくれるのではないだろうか。まぁこの時代はセルフヴィーガンみたいな人達ばかりだからな。よくそれで身体が保つなとオレは思う。


 一度、清さんにこの時代の一般的な飯を作って貰った事がある。たくあん、超薄くて雑草が入ってるような味噌汁、何かを擦り潰した物体、そして米だ。一応、冷蔵庫に入ってる物で作ってもらったのだが、あの何かを擦り潰した物体に関しては食べ物を冒涜してるようにしか思えなかった。後、やたらと塩加減が強い。あんな物食べてたら本当に人間50年の世界だと思う。腎臓がやられてしまうだろう。


 なのに、慶次さんはボディービルダーのような身体だ。マジでバケモノかと思ってしまう。それに負けじと、太郎君、次郎君も最近は動物性タンパク質を・・・寧ろ動物性タンパク質のみを食べているから・・・まぁ肉だな。肉を食べ始め、身体の作りが変わったようにムキムキになっていっている。オレ?オレは相変わらずヒョロい。


 「これが豆腐なのかい!?本当にくれるんだね!?食べるわよ!?(ハムッ)」


 齢は60代くらいだろうか。普通に元気そうな戦国時代のマダムのように見えるこの人は疑わずに食べた。

 

 「おいひぃ〜!これ!凄く美味しいわね!中の黒い汁が見た目は怖かったけど、甘辛くて美味しい!」


 「ははは。ソースって汁ですよ。これからは買ってくださいね?では横に失礼しま・・・」


 「兄ちゃん!これを持っていきな!朝収穫した大根さ!それにカブと牛蒡も持っていきな!」


 このマダムは頬張りながら、棚に並べていた野菜をオレに渡してきた。ネットで購入できる物の方が品質もかなり良いけど、素直に嬉しい。


 「ありがとうございます!これは夜ご飯に使わせてもらいますね!」


 ここは素直に受け取る。持ちつ持たれつというやつだ。


 棚やなんかなんてオレ達は用意していない。だが、ここでもオレはネットスーパーの物を遺憾無く発揮する!


 「よぉーし!組み立て完了!」


 一つ2000円で購入した組み立て式テーブルだ。これを3つ購入して、持参している。

 オレ達が組み立て式テーブルを置くと、まぁ注目だ。この時代に値札を書いて物を売っている人すら少ない。購入したい物があればそこの店主に声を掛けて値段を聞く。もしくは、店主が了承すれば物々交換が未だに主流だ。


 「尊!準備はいいか?」


 「大丈夫です!」


 慶次さんが声を掛けてきた。桜ちゃん、太郎君、梅ちゃんそして清さんと皆がオレを見て微笑んでくる。


 「よっしゃ〜!任せておけ!(スゥ〜)さぁ!さぁ!皆の衆よ!寄ってらっしゃい!見てらっしゃい!あっ!今生、味わった事のない握り!あっ!それに南蛮パオン!あっ!食べてみりゃ〜極楽の味!あっ!この尊が店主の!あっ!ドライブイン安土!あっ!開店〜な〜り〜!さぁ!さぁ!どれもこれも1文だよー!」


 慶次さんが歌舞伎役者のような口上で声を上げた。オレは『ふざけてるのか!?』と声に出しそうになったし、なんなら金輪際ウィスキーを取り上げてやろうかと思ったが、これが功を奏した。


 「兄ちゃん!この握りが1文だって!?本当か!?」


 最初の客は現代なら間違いなく変質者と思われるようなおっさんだった。だって褌一丁で肩に棒を掛けて紐を垂らしタライの中に魚を入れているからだ。まぁこの人も現代なら戦国時代の人とはと思えばよく思い浮かぶ感じの人だろう。


 だが、この変質者おじさんが声を掛けてきたのを皮切りに色々な人が声を掛けてきた。


 「はい!1文です!握りの中に具を入れてます!高菜わさびや、鮭マヨネーズとか色々です!」


 「買ったぁ!3つくれ!」「兄さん!アタイもそれおくれ!きゃぁ!押さないで!」


 「俺も!」「ワシも!」「私も!」「ワッチも!」


 あんなに店舗で苦戦していたのが嘘のようだ。男性は少ないかと思いきや、普通に居るし。まぁ織田領では兵農分離だっけ?農業従事者と兵士とで分かられているやつ。あれが既に完全な行われているのだろう。

 ここで声を掛けてくる男性は皆、何かしら仕事をしてる人のようだ。


 「おうおう!押すな!順番に並べ!パオンの方はどうだ!?パオンも中々に美味いぞ!」


 「た、尊様!握りの方が・・・」「これはアタイのだよ!」


 「売り切れました!」


 太郎君の声が聞こえた所で完売だ。


 「店主!もう握りはないのか!?」


 「申し訳ありません!本日は今のが最後になります。パオンはいかがですか!?」


 「仕方ねぇ〜!ならこれを一つ貰うぞ!(ハムッ)うっめ〜!これはがぱおんという物か!?米なんかよりうめー!」


 サンドイッチを買ってくれた、何故かこの人も褌一丁の人だけど、まぁ、この人がその場で食べ始め、感想を言ってくれた事で、更に売れ行きが加速した。


 「尊様!パオンの方も・・・」「最後のようだな!俺のだ!はい!可愛い子ちゃん。1文だな!」


 「は、はい!ありがとうございます!」


 桜ちゃんも受け答えは大丈夫みたいだな。だが、なんということだろう?売り始めて30分くらいだろうか。完売だ。


 「うむ!買えなかった者は残念だ!また明日来るからその時まで・・・あっ!お待ちあ〜れ〜!」


 いや何で最後まで慶次さんが歌舞伎風に締め括るんだよ!?


 それにしても、人が居る所ならこんなに早くうれるのか。明日は食べ物だけじゃなく、石鹸や薬なんかも売れたら更に評判が上がりそうだな!薬なんかもこの時代は効果が本当にあるのか分からない物ばかりだろう。医者になるのに免許なんてものも必要ない時代だしな!よし!そうしよう!

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