ドライブイン安土 改革3

 「ちょ!清さん待って!待って〜」


 「待ちませ〜ん!」


 

 「ハァー ハァー ハァー・・・初めて死線を超えた気がするよ・・・」


 「わっはっはっ!あれくらいでなーにが死線だ!情け無いぞ!」


 「お帰りなさいませ。尊様」


 「次郎君。ただいま!問題なかった?」


 「1人、大工らしき者が参りましたが、尊様は居ないと伝えると『また来る』と申して帰りました。何やらこの建物が気になるらしいのと、どうやら、安土普請組の岡部大工一門衆の方だと思われます」


 「岡部・・・ってあの岡部又右衛門って人!?」


 「知っておいでですか!?」


 「未来でもあの人はそこそこ有名じゃないかな?オレも知ってるし!」


 「尊様?」


 「梅ちゃん。どうした?」


 「今日みたいにあんなに人が寄って来たらいくら清様が居て、丹羽様と仲が良いといえど、他の軒先の者から反感を買ってしまうかと・・・」


 「何で?自由市場だよね?」


 「わっはっはっ!天然とは怖いな!分かりやすく言うとだな、尊があんな1文如き値で握りやパオンを売ると他の商売は上がったりな訳だ。そりゃそうだろう?豆腐より安いんだからな。そうなれば、いくら端の方とはいえ、皆が結託して排除しようとするんじゃないか?増してや、明日からは薬も売ろうとしてるんだろう?俺ぁ〜構わないぜ?面白そうだしな!」


 「う〜ん。確かに他から見れば面白くない・・・か。なら安くするのは明日くらいまでにしようか?本来はここへ来て欲しいんだからね」


 「尊さまのお考えのままに!私達だけでは握りもパオンも作れませんので!それと、考えたのですが、梅や桜が売る物と尊さまや太郎、次郎が売る物を差別化してはいかがですか?」


 「理由は?」


 「はい。ご飯に関しては男に任せ、薬類の事などは私達が訪問して医者のような事をしようかと。この《総合風邪薬》と書いてあるお薬は、咳病に効くというお薬ですよね?症状に合わせて処方すれば楷書文字をある程度覚えた私達なら患者に売る事ができます!何より、下々の民が医者に掛かる事なんでできないので、女の私達でも格安にて見回ればいいかなと思いました」


 「いやそれでももし、その患者が癌とか重篤な病なら薬では治らないからその患者が死ねば『ヤブ医者!』とか言われるかもしれないんだよ!?」


 確かに清さんの言う通り。楷書文字はこの時代の人は絶対に分からないだろう。そもそも右から左に向いて読む世界だし、それ以前に字すら読めない人が殆どだから、色々な薬をネットから購入して、医者に診てもらう事ができない人にはかなり嬉しい事だろう。


 「尊様。我等の里は薬としても有名です。例えばこの丸薬・・・白で晒した米に葛粉、キビを混ぜた物です。遠征した折に食べる兵糧丸でございます。そして、こちらは山慈姑(さんじこ)と五倍子(ごばいし)と大根、雄鹿の中にある香嚢、これらを乾燥させて粉末にした紫金丹という丸薬になります。効能は滋養強壮に効きます」


 「はい!はーい!私からも!尊様?これは陀羅尼助(だらにすけ)と言って、キハダの表皮です!これを煮詰め、その汁を飲むと眠気覚ましにもなりますし、腹痛などにも効果がある薬です!」


 「え!?薬なの!?本物!?」


 「我等の里には色々な製法がございます。そりゃ、尊様からすれば『頭湧いてるのか!?』という感想になるやもしれませんが、それでも我等は甲賀草として丸薬に関しては伊賀にも負けていないと自負しております。なんなら、遠征の任務に就いている間などは、薬を売ったりして活動資金を捻出したりしております」


 「へぇ〜!そうだったんだ!知らなかったよ!なら薬学の本とか渡せばこの時代なりに製薬とかできるのかな?」


 「それは分かりませんが、興味はございます!」


 「まぁ、後で探してみるよ」


 この時代の薬をオレは侮っていた。いや、この時代の薬というか、甲賀を侮っていたというかなんというか・・・。だって、切り傷に馬糞とかの時代だろ!?あの禍々しい名前な薬だけど、効果があるって言ってるんだからあるんだろう。


 皆は今はジュースを飲んで休憩している。オレはタブレットと睨めっこだ。薬の項目を見ているのだが、有名なロキソニンやボルタレンなどの鎮痛剤くらいは分かるけど、他はオレは知らない。

 けど、タップして見てみるとちゃんと分かりやすく効能まで書いている。癌やALSなど重篤な病気なとは薬だけではどうにもならないけど、一般的な怪我や病気なら現代薬学なら薬で治るものも多い。

 初めて薬を見たけど、色々あるんだなと思った。


 「とりあえず、《総合風邪薬》《湿布》《咳止め》《解熱鎮痛剤》《切り傷用軟膏》《整腸剤》《目薬》《栄養ドリンク》こんなもんでいいかな?清さん?」


 「(ブボッ)ご、ゴホンッ!は、はい!」


 「え?また食べてるの?」


 「ずいばぜん!ゴホンッ!ほっとけえきなる物が美味しくてですね・・・」


 「いや、別にいいけど、そんなに食べてよく太らないね?羨ましいよ。薬なんだけどこれくらいあれば大丈夫かな?薬の裏に薬効が書いているから紙に書き写してもらえるかな?」


 「畏まりました!」


 「それらを桜ちゃんや梅ちゃんと間違わないように患者さんに渡してね!で、明らかに薬でどうこうならないようなら、その人には悪いけど・・・」


 「はい!心得ております!」


 オレもこのネットも完全無欠ではない。無理なものは無理!けど、ただの風邪でも亡くなってしまう人も居るかもしれない。それが少しでも緩和できれば素晴らしい事だと思う。ただ、値段設定をどうするかなんだよな・・・。




 〜佐和山城下 とある民家〜


 「上役様。あの城詰めの上忍の出来損ないが城下で商いをしているようですが」


 「丹羽の殿様の所の女に付けた奴等か?」


 「へぇ。なにやら、握りやパオンなる物を販売していたそうですが、直ぐに売り切れになったとか。握りの方は鮭が使われているとかいうそうで。それにパオンの方には肉が使われているとかいないとか」


 「肉・・・か。で、売り切れになったというのに銭を持って来ないとはどういう事だ?」


 「へぇ。初日だなんとか言って、全て1文で売り出していたそうで、売り上げの銭も少ないのかと」


 「金額の問題じゃねぇ〜よな。誰が里で食わせてやったと思ってるんだ。誰が丹羽の殿様に推挙してやったと思っているのだ。で、あの対象の男は?」


 「何やら変わった者のようでして、城主の娘も居るとあり、遠目からしか確認しておりませんが、どうやら安土方面を拠点としているようでございます」


 「賦役に参加させられているのか?」


 「いえ。それはないようです。何やら自由奔放にしているように見えます。飯屋を営んでいるようです。これは自分が思う事ですが、飯屋の男の割に羽振りがいいようで、服も南蛮人のような服に、髪も切り揃えられておるようです。町民に扮して調査致しましょうか?」


 「いや、まだ良い。そんな男なぞ聞いた事がない。今でこそ城番の長束様にに拾ってもらいはしたが、かつては散々だった。生きる為に里の者の為に下げたくない頭を下げ、どんな汚れ仕事もこなした。が、そんなワシを差し置いて任務だというのに笑っているとはどういう事だ。美味しい所はワシ等が頂く。今はまだ何もするな」


 「御意」



 〜ドライブイン安土〜


 「するってーと何かい!?これが握りの具材になるって事なのかい!?」


 「えぇ。まぁそうですね。本当は本物の肉類も使いたいのですが・・・肉は禁忌と聞きましたので」


 オレが握りの説明をしてる人はなんと・・・あの有名な信長公記の著者で有名な太田牛一さんだ。名前とは違い、ヒョロヒョロした人で、常に墨と筆を持ち歩いているらしい。なんでも、今回の戦・・・天王寺砦?で、味方が死んだみたいで、補填要員として速馬が届き、参陣するらしい。その速馬の伝令役の人から、『尊が作った日持ちする飯を持って参れ!彼奴の飯を食うと力が出る!』と言ったそうで、この人がここに来たのだ。


 信長は早くもスーパー強化の秘密に辿り着いたらしい。それで、とりあえずオレが握りを作って、サランラップに巻こうとした時に色々質問された訳だ。しかもわざわざ器用に筆で色々書いている。


 「ふむふむ。こういう味がお館様は好みということですか。いや、お館様が食に興味を持つなど初めてでしたからな。ではこれは確と受け取りました。必ずやお館様にお渡し致しましょう!御免!」


 なんだが、太田牛一はそそっかしい人だと思った。

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