ドライブイン安土 飛躍4

 城下へ入ると往来の人からは大注目だ。いや、みんなビックリして道を空けてくれる。そうなると現れるのは・・・


 「き、き、貴様!何者ぞ!こ、ここがどこかわ、分かってい、いるのかッ!?」


 「そ、そうだ!そうだ!そ、その訳の分からん物から降りろ!これ以上の狼藉は許さぬぞ!」


 何回か見た事ある、佐和山城下勤めの警備隊?らしき人だ。喋った事はないが、なんとなく雰囲気で名前は、〜左衛門、〜之助みたいな感じがする。


 「あっ!太郎左衛門!それに権之助!私だよ!私!清です!」


 「え!?き、清様!?」


 ほら。やっぱりそんな名前だった。それにどうやら清さんが知ってる人達らしい。


 「少しの間お邪魔します!すぐに移動しますので!」


 清さんはそう言うと、オレに『早目に用事を済ませよう』と言われ、オレは直ぐに源三郎、てるさんの家へと車を走らせる。


 源三郎さん達が住んでいる所は、言葉は悪いが少し・・・お金が少ない人達が集まる区画の所で道幅が狭い。だから、離れた所に車を置き歩いて迎えに行く。


 「源三郎さん!おはようございます!」


 「おぉ!本当に来てくれたのですね!おはようございます!尊様!」


 「尊の旦那!おはようございます!」


 源三郎さんの呼び方に関してはもう慣れないといけない。まさかこの歳で旦那と言われるとは思わなかったぜ。


 「迎えに来ました!どうぞこちらへ!」


 隣の家の人や向かいの家の人達にかなり注目されながらの引っ越しだ。ただ、気になる事が、その住人達の目があまり好意的には見えなかった。

 そりゃあな。本来はこの人も助かる人では無かったんだろう。それに、源三郎さんはお喋りが好きな人だと感じる。無意識に、自慢のような喋り方をしてしまったのだろう。

 明日くらいにでも太郎君に言って、源三郎さん一家からの差し入れと称して、栄養ドリンクを差し入れしてあげよう。


 「ぬぅぁあんだぁ!?これは!?」


 「まぁ!?尊様!?これは何なのですか!?」


 「これは車という物です!荷車みたいな物ですよ!乗り心地は悪いかもしれませんが、この後ろに乗ってもらえます?これから甲賀に用事がありまして、このまま向かわせてもらいます!」


 「あ、あぁ。構わないが・・・」


 源三郎さんは驚きながら荷台に乗った。てるさんは興奮の方が大きいようだ。恐らく活発な人なのかな?


 「じゃあ出発しますよ!」


 オレはゆっくりアクセルを踏み、発進させる。まぁ、後ろから色々な声が聞こえた。


 「走った!?こいつ走りやがった!?」


 「牛や馬も居ないのに走っています!」


 「尊の旦那!?これが南蛮の力なのですかぃ!?」


 「尊様!それに清様!私等如きにこんな素晴らしい車なる物に乗せていただき、ありがとうございます!」


 本来は荷台は乗る所ではないし、なんなら、荷物がかなりあるから狭いのに、文句一つ言われない。それにこの時代にある荷車より安定しているとまで言っていた。

 オレも荷車は一度見たけど、あれは本当に木を丸く切って作ったタイヤを回しているだけの物だからな。サスペンションやなんかもないからな。


 それから、オレは運転に集中していたから気が付かなかったのだが、清さんが助手席で何かを発見する。オレは当たり前すぎて忘れていた。


 「尊さま?この四角い物はなんですか?テレビなる物に似ていますね!?」


 「あ、それはカーナビと言って・・・はぁ!?カーナビ!?しかも矢印が動いている!?」


 「かあなびというのですね!これは地図ですか?凄いですね!」


 キュキュキュ・・・


 オレは急ブレーキを掛けてしまった。


 「っとっとっと・・・尊様!?どうされましたか!?」


 「おぉ・・・くわばらくわばら・・・」


 「すいません!怪我はないですか!?少し待ってください!」


 まず、カーナビに気が付かなかったのは仕方ない。だが、まさかこれが使えるなんて・・・。しかもよく見ると、普通のカーナビじゃない!明らかにこの時代に適したような仕様に見える。

 だって、今も通っている清さんに教えられた道だが、親切に道幅まで書いてあるし、なんならソナー?と言えばいいのだろうか。

 潜水艦とかに装備されてそうな、輪っかのような波紋が出て、遠くからオレ達を見ている往来の人が赤丸に映っているのだ。


 「尊様?大丈夫でしょうか?」


 「き、清さん!よく気付いてくれたね!これは凄いよ!」


 「そうなのですか?まさか?この赤い丸の印は人を表しているのですか!?あっ!あの人が動いて・・・印も動きました!どういう風なカラクリなのですか!?これは本来どのように使う物なのですか!?これも未来の物なのですか!?間者にも使える物なのですか!?」


 ハイ。出たよ。質問攻め。最近は身を潜めていたように思えたけど、探究心の塊みたいな人だったよな。忘れていたよ。


 「ま、まぁ、それは夜にでも教えるよ!今は先を急ごう!」


 オレは強引に話を遮り、試しにナビのボタンを押す。操作は現代にあるカーナビと同じのように思う。《こうかむら》と平仮名入力して、《開始》をタップした。

 すると道が2つ出てきた。しかもこれも現代のカーナビでは搭載されていないような機能が出た。


 一つは・・・


 《メリット 近道 デメリット 険しい道 通れるが滑落の可能性あり》


 二つ目は・・・


 《メリット 安全 デメリット 草の上を走る 車体に傷の可能性あり》


 もうね。現代所ではない。令和より、スーパー未来のカーナビのように思えてきた。いや、現代のカーナビでも最新式の高性能のカーナビならある機能なのかもしれないが、オレはこんなカーナビ見た事ない。オレは安全な道をタップする。

 するとルートが更新され、ナビから声が聞こえた。


 《目的地まで凡そ25分 この旅に関してはドライブイン安土 店主 武田尊様及び御一行様を安全にお送りする事を約束致します》


 「しゃ、しゃ、喋った!?尊さま!?喋りましたよ!?箱の中に人が!?」


 「いや、清さん!落ち着いて!この中に人は入れないから!オレもビックリしているんだ!」


 《タブレットのレベル上昇にて能力が解放されたAIです オーナー様。これよりタブレットにも喋る機能が追加されます 御活用下さい そして 名前をお決めください》


 「ちょ、ちょっと・・・ちょぉっと待ぁてぇよぉ!?」


 思わず変な言い方になってしまう。いやいや、そんな事より、こんな事があっていいのか!?AIだと!?戦国時代だぞ!?いや、そう言うなら電化製品も全てそうだ。何故使えるのかって。

 しかも喋り方こそアレだけど、普通に会話が成り立っていることが・・・。


 「ちょっと聞きたい事があるんだけど・・・」


 《はい ですが ここから離れる事を推奨します 素行の悪い侍崩れの男5人が こちらを監視して 襲うかどうか考えているようです》


 「え!?そんな事も分かるの!?」


 《当たり前です これは 標準装備です》


 ・・・。うん。声だけだが、なんとなく想像はついた。ドヤ顔で言っているんだなと。敵を感知する何かの機能は標準装備なのね。


 聞きたい事は山程ある。オレがタイムスリップした理由、何で現代のような生活が出来るのか、何で通販やネットが使えるのか。これは1人の時に聞いてみよう。今は・・・。今は甲賀村に急ごう。


 「じゃあ出発するからナビをよろしく!」


 《先に 名前をお決めください 名無しは 嫌です》


 自我があるのかよ!?しかも言葉の抑揚まで普通に人と話しているような感じになってきているよ!?


 「まぁ!?名前が欲しいのですか!?尊さま!私が決めてもいいですか!?」


 「え!?あ、あぁ。いいけど・・・」


 「やった〜!ありがとうございます!これはかあなびというのですよね!?」


 「正式名称は違うけど、オレが居た世界では殆どの人がそう言うと思うけど・・・案があるの?」


 「はい!ならばこれからあなたは・・・カナ様!カナ様でいかがですか!?」


 いや、そのままモジルのかよ!?てっきりオレはナビ子ちゃんとか、ナビちゃんとかになるかと思ったよ!?しかもめっちゃ、現代風な名前だよな!?


 《ありがとうございます 奥様 これから私はカナとなります タブレット端末のレベルと私は連動しております レベルが100になると到達記念により もう少し機能が拡充され 使用できる能力も飛躍的に上がります では出発どうぞ 安心安全な旅を 御約束致します》


 「ねぇ!?尊さま!?聞きました!?奥様ですよ!奥様!」


 いやそこ!?ま、まぁ、今はこれで良しとしよう。早くここから離れないと野伏りにまた襲われてしまう。

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