ドライブイン安土 飛躍5

 《目的地に到着致しました お疲れ様でした》


 ナビのカナから声が聞こえて無事に到着した。場所はまんま山の中。道中はなんていう事はない。道とは言えない所を走れとか、低速にしろとか、右に少し曲がって前にとかかなり事細かく指示され、オレは疲弊していた。


 清さんは横でキャピキャピ。てるさんも荷台でキャピキャピ。源三郎さんは酔ったようで、ゲッソリ顔だ。


 その山の中に切り開かれた場所があり、そこには茅葺き屋根の民家がかなり建てられていた。どうやらオレが現れた場所は甲賀でも緊急の避難経路のようで、住民の人達は皆が驚いた顔になっていた。

 そして、1人の老齢な男がこちらにやって来た。


 「もし・・・ここは何もない所。野伏りや賊には見えませんし、あなた様はもしや・・・尊様ではありませんか?」


 「そうです。オレが尊です。太郎君に言って、触れは出してたのは届いたのですね」


 ちゃんと先触れは出していた。いや、車で来る予定ではなかったが、気付いてくれたようで良かった。それにしても、人がまぁみんな普通の人。いや、そりゃ当たり前だけど、普通すぎて忍者には見えない。

 ただ、ここの領主になったのだからオレがしっかりしないとな。


 「えぇ。織田の殿様は『我等が従うなら良し、従わないのであっても敵にさえならなければ甲賀は安泰する』と約束頂きまして、細々と生活しておりました」


 「いや、オレも無理に従わせるつもりはないですが、一応ここ甲賀はオレが面倒を見ろと言われましたので、どうせなら皆さんが自活でき、特産品なんかができれば銭の身入りも良いかと思い考えてきました。まずは人を集めてもらえますか?後、あなたは?」


 「アッシは小川三左衛門と申します。惣番が多羅尾如きに討たれたとお聞きしました。その無念を貴方様がとも・・・」


 「そこまで聞いていたのですね」


 「これは次期、甲賀を率いる子供等から聞きました。織田の殿様の影で働く子等です」


 オレは直ぐに分かった。暗部と言われていた人達だ。


 「一度、お会いしました。確かにあの人達は只者ではない気はしました。とりあえず、小川様。皆をよろしくお願いします」


 「畏まりました。それと、どうかアッシの事は呼び捨てでお呼びください。あそこの家に。元は多羅尾が住んでいた家で、それなりの広さです」


 「分かりました」


 オレは清さん、源三郎さん、てるさんとで大きめな家に移動した。見渡す限り、木木木。家が並ぶ所から少し離れた所に畑らしき物は見える。あんなのじゃ人1人も食えないレベルだろう。

 そもそもの畑と言えるかすら怪しい。


 集まった人は老若男女様々だ。ただ一つ言える事とすれば、敵意こそ感じないが、オレを調べられているような感じがする。人数は50人程。

 小川さんに聞けば、元は500名以上は居たそうだが、やはり食えない土地だし、六角家が滅んでから各地へと仲間は散っていったそうな。


 「皆の者。呼び出してすまぬ。このお方こそが、先日我等に白い米、混ざり物が一切ない胡椒、砂糖、塩を贈ってくださったお方だ!尊様。どうぞ」


 「ゴホンッ。えぇ〜・・・偉そうに言うつもりはありませんが、オレが尊です。横に居るのは妻の清です。これから皆様の生活の展望をオレなりに考えてきましたので、参考までに・・・。まずは資料を配ります。ご覧ください。字が読めない方が居ても、絵がありますのでそれを参考に。それを、踏まえて説明します。その前に腹が減ってはなんとやら。差し入れです」


 オレはまずはお近付きに、クッキーと栄養ドリンク、五右衛門茶を出す。ここは甲賀。未来で忍者と呼ばれる人の住処だ。流石、皆は驚いているのは分かるが、巷の人みたいに顔にはあまり出ていない。


 多羅尾のおっさんを殺した時にも聞いたが、感情を殺すってのも本当にあるのかもしれない。忍者とは悍ましい世界だ。

 ちなみにオレは絶対に草とか乱波者、透波者とは呼ばない。呼ばないどころか、オレの配下にそんな言い方する他人が居たら指摘するつもりだ。


 信長も丹羽さんも岡部さんも軽く言っていたが、少し侮蔑した含みを感じるからだ。身分がなければみんな1人の人間。少なからず能力は普通の人よりここの人達の方が凄いと思う。

 まず、こんな山の中に住む事が既に凄い。自然と脚力を身に付けられるだろう。まぁそれはさておき・・・


 「どうぞ。お食べください」


 オレの掛け声で皆、恐る恐る手を出し始める。ペットボトルに関しては清さんが目線を下げて教えてあげている。


 「こ、これは・・・」 「身体が・・・」


 「権蔵!!?お前身体が光っているぞ!?」


 「尊の旦那!?俺もあんな感じだったのか!?」


 「そうですよ?あの時は本当にビックリしましたよ」


 源三郎さんも同じだった。ただ、皆、一様に光っている。てるさんの時もそうだった。そして、身体が軽くなったと言ってたよな。


 「なっ!?」「吉之助!?どうした!?」


 「昔、観音寺の任務の時の古傷の痛みが消えた!」


 「わ、ワッチもじゃ!ワッチも肩が痛かったのに消えている!動く!動くのじゃ!!」


 「皆の者!聞いてくれ!俺は佐和山城下に住む、元は近江で鍛治屋を営んでいた源三郎と申す。今のは尊の旦那が、まうんてん富士と呼ばれる山に籠り開発した秘伝の薬だそうだ!

 其方等は甲賀の・・・者だろう!?其方等もそれなりに薬には精通しているだろうから、これがどれだけ凄い薬なのか分かるであろう?どうか、尊の旦那の言う事を聞いてほしい。怪奇な目をしている者も居るのは分かるが、決してこの方は怪しい者じゃない!」


 いや、ここでまたマウンテン富士が出るのかよ!?恥ずかしいんだが!?


 「いえ、ワイ等はそんな風には思っておらぬ。寧ろこんなワイ等を気に掛けてくれる御仁がどのような方なのかと思っていた次第。先日に貰った物は皆、均等に分けたのだが、まさか我等の未来の事を考えてまでいただけるとは・・・」


 「誠に・・・」


 「うむ。六角家時代でもこのような事は無かった。我等の中にはそれなりに昔は働いた者も居る。だが、今は・・・ただの草臥れた死を待つのみの者だというのに・・・。それが、今しがた頂いた、まうんてん富士の秘薬を飲んでから・・・(フンハッ! ドゴンッ)昔以上に力が増してきている」


 「ぬぉ!?黒川!柱を壊すな!ワシの方が尊様の役に立つ!尊様!見てくだされ!少し草臥れてはいますがこのように、(コォー ハッ! ドゴンッ)」


 いやこの人達は何してんだよ!?家を壊す気か!?


 「辞め!辞め!あなた達の力は分かりましたので!今は食べる事の方をお願いします!清さん!先に進めて!」


 

 〜1時間後〜


 「では、このイチゴなる物を我等の里の特産品とさせていただけると!?」


 「これが本物ですか!?」


 「ふぉっふぉっ!この赤いのがイチゴなる物ですか!?」


 「そしてこちらが、さつまー芋とな!?」


 「いえ。サツマイモです」


 「甘い!?誠、これは美味です!え!?これも特産品に!?」


 「特産品でもいいのですが、この芋を少量ずつ市場にでも流して、ここ甲賀でしか食べられない店でも営んでもらおうかなと。こっちはサツマイモチップス、こっちはバター焼き、大学芋、サツマイモマフィン、サツマイモの炊き込みご飯等々・・・。

 時間の都合上このくらいしか持ってこれませんでしたが、サツマイモは汎用性があり、色々作れるのですよ。しかもどれもこれも簡単に作れます」



 〜2時間後〜


 「この場所を段々畑にして畑を繋いでみればいかがでしょう?この絵のように見様見真似で少しずつやっていきませんか?あ、これが皆さんに少し前にお渡しした米と同じの種籾です。このケースに入れて水を足して芽が出たのをこの説明のような間隔で植えます。え!?畑を今から!?」


 「え!?オレも一緒に!?いやいや、オレは指示してるくらいの方・・・」


 (ゴワァァァァァ〜〜〜)


 「尊様!栄養ドリンクなる物を頂き、サツマイモを頂いてから身体が軽くなりました!見てください!この動きを!」


 「アッシの方こそ見てくだせぇ〜!この大木も・・・(シュッパッ ドォォーーン)」


 「・・・・・・・」


 「まぁ!?皆様凄いですわね!では、私も負けていられないですわね!(シュパッ シュパッ シュパッ)」


 オレは幻を見ているのだろうか。刀も手にせず、甲賀の人達は手刀で大木を切り落とし、掌底で薙ぎ倒したりしてるんだけど!?

 そして、妻の清さん・・・。何故そこで負けず嫌いを発動するんだ!?清さんが張り合えば誰が説明するんだよ!?


 いや、まぁこの事は良い。何となくは想像していた。それに予想より理解が早くて助かる。半日と経たず行動に起こすとは思わなかった。しかもおかしな事に、さっき植えた種籾まで既に芽が出てきやがる。

 オレがする事は植物の成長ですら操ってしまうのか!?



 〜4時間後〜


 「いやまぁ・・・なんていうか・・・」


 「尊様!奥方様!やりやした!いかがでしょう!?」


 「ふぉっふぉっふぉっ!実に愉快!若い頃より身体が軽い!軽い!これならばいつ声が掛かっても尊様の戦働きを手伝えますな!」


 「うむ!誠にのう!」


 オレは間違ったのかな?オレが予想していた1ヶ月の工程が既に半分終わってしまったんだが!?

 見事なまでの段々畑になっている。

 それにこの人達も戦で働くような事言ってるんだけど!?


 オレはこの時も既にビビっていたが、少し後に参加させられる戦で、更に甲賀の人達に驚かされる事となるが、これはまだ先の話。


 オレ達は試しにという訳ではないが、古の忍者の人達が殴り倒したり、押し倒したりして、切り開いた土地に竹で作った柵の横に、魚粉肥を混ぜた土にイチゴの苗を植えてみた。


 「これがまうんてん富士なる場所で開発した肥料ですか!?(ゴグッ)いやぁ〜、黒い水が美味くて甘いとは素晴らしいですな!」


 「いつか、手前もまうんてん富士なる山の頂に登りとうございますな!(ゴグッ)」


 もうね。全てマウンテン富士で終わらせた。だって説明が楽だしね。


 「まぁ、いつさっきのような実ができるかは分かりませんが、まずは試しですからね。オレも農業は初めての試みですので、失敗しながら学んでいきましょう!では、オレ達は帰りますので、また明日に来ます」


 「え!?帰られるのですか!?そりゃ何もない所ですが、泊まっていかれては!?」


 「泊まりたいのは山々ですが、この2人を連れて帰らないといけませんので、今日は帰ります」


 本当に一度泊まってみたいとは思う。だが、源三郎さん達を店に連れて帰ってあげないとな。

 甲賀の人達は本当に名残惜しそうだ。まぁ今日の所は帰ろう。

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