ドライブイン安土 黎明9
ドォォォーーーーンッ!!
オレも黒刀を抜刀し、臨戦しようかと思っていた所に、手榴弾・・・まぁこの時代でいう焙烙玉の音が聞こえた。
その爆発にて一番端の馬防柵が粉砕したのが分かった。
「こ、これはヤバい!!」
どういう事だ!?敵にも焙烙玉の部隊が居たのか!?それにしては、爆発の規模が大きかった。あんなに威力の高い焙烙玉はこの時代では無かったはずだ。
「三島村の助三郎一番乗りッ!!誰ぞ相手せい!!」
「黙れッ!!馬鹿野郎が!!」
ブォンッ!! ズシャッ
カッコいい敵の名乗りが聞こえた。だがそこはオレが黒刀にて、毎日毎日、清さんやカナ、慶次さんに鍛えられていたからか、自然と身体が動いた。
一刀の元、三島村?のなんとかって男を断ち切った。
「い、いかん!端が抜かれている!大野隊!俺に着いて来い!尊が危ない!」
「前田様!お待ちください!ここを貴方が離れると真ん中が空いて歯止めがききません!」
「カナ嬢!戦の流れは完全にあちらだ!どこかを犠牲にしなくては守りきれん!味方はまだ川を渡れないのか!?」
「未だ半分は渡り切れておりません!あと、半刻は持ち堪えないと!」
「魚沼村勘吉!推参!女か!?おーい!皆の者!女が居るぞ!!」
「寄るなッ!!下郎め!(ジュバッ)」
「カナ嬢のその朱刀も中々エゲツないな。どういうカラクリか、血が砂のようになっているぜ?そんな事より、カナ嬢が端に行ってくれ!あれ!?先頭の集団が・・・」
「このままではマズイ!小川様!急いでマスターの元に!上杉本隊は左右から突っ込んできますよ!」
堀に足を取られながらも上杉軍は徐々にオレの方へ侵蝕してくるが、なんとか、一撃にて敵を屠っている。オレもアドレナリンが出ているのか、非常に冷静に敵を倒している。
そんな中、カナと小川さんがオレの方へ慌てた顔してやってきた。
「マスター!(我が君!)これより左右から上杉軍が突っ込んできます!退くなら今です!急いで川を渡り・・・」
「いや、まだだ。まだ半分も味方は渡り切れていない。それに半兵衛さんもどこかでタイミングを見計らっているはずだ!」
「ふぁっふぁっふぁっ!中々面白い余興だった!褒めて遣わすぞ!だが、我が宿敵のような何か待ち構えているような物は無かったのう!」
「御実城様だけと思うでない。あの連射できる鉄砲は脅威だが防ぐ手立てがないわけではない。大筒も初見ならば危ないが、生憎、俺は明の船から見た事があってな?それに割に威力も弱い。恨んでくれるなよ?」
気付けば気配もなく、口上の時に居た、小島弥太郎と上杉謙信がオレが居る小さな本陣に居た。
「・・・・・・・」
オレは睨み返す事しかできなかった。
「言葉も出ぬか」
「後もう一人居ただろう?どこへ行った?」
「ふぁっふぁっふぁっ!貴様も飽くまで勝とうとしていただろう?数騎後方から居なくなったのが見えた。蜂矢は横からの攻撃に弱い。
今頃、直江が中陣にて別働隊を止めている所であろうよ。
縦しんば、横を突いて足止めし、先頭の我を討ち取ろうという算段であろう?だが、3点だな。我が宿敵ならば命のやり取りを感じたが、お主には何も感じなかった。
構えぃ!我を最後まで愉しませてみせよ!」
さすが自他共に軍神と言われるだけある。見事に的中している。
「マスター!お下がりください!」
「いや、カナ。それに小川さん。二人は小島の相手を。カナは知ってるだろうけど、史実には無い戦いだ。歴史の修正力やなにかがあるかは分からないが、オレは死ぬつもりはない。新しい歴史の幕開けだ。オレが上杉を討つ」
「何を訳の分からん事を。だが・・・最後まで抗う気概は認めよう」
「畏まりました。マスター・・・いえ。武田尊。あなたがこれから作る歴史を私はこの目で見届けましょう」
「ふん。女。それに爺。俺は女だろうと爺だろうと、童だろうと向かってくる者に容赦はせん。先に言っておく。二人で掛かって来い。幾度となく御実城様と戦を駆け、死戦を潜り抜けてきた。俺はそこら辺の野良武者とは違うぞッ!!」
「オン ベイシラマンダヤ ソワカ・・・我 毘沙門天の化身也ッ!!」
ガキンッ ガキンッ ガキンッ ガキンッ
「・・・・・・ック」
「どうした!!口だけかッ!もっと!もっと我を愉しませてみせよ!貴様と同族かは知らぬが、我が宿敵は我の一撃を軍配で受け止めおったぞ!!足りぬッ!もっと愉しませろ!」
オレは防戦一方だ。とにかく馬上からというのもあるが、一撃が重い。清さん、慶次さん、義父さんと模擬戦を行なってきたが、この3人が赤子のようなくらいに謙信の一撃が重い。
慶次さん達はオレの飯でスーパー強化されているのに、その慶次さんより重い。謙信は頭おかしいんじゃねーの!?笑顔でオレに斬り掛かってくるんだぞ!?変態だ!上杉謙信はマジで変態だ!
「女!爺!よそ見をするな!」
「カナ嬢ッ!ワシにお任せあれ!ふんぬッ!」
ガキンッ
「お?見た事のない甲冑だとは思ったが俺の刃を弾くか。何でできているのか?後で爺のその甲冑はいただくとしよう。久しく握っていなかった金棒を使ってもよさそうだな。(スチャ)俺のこの武器を持つ姿を見て、味方は鬼小島と言う。その鬼の一撃をもその甲冑は防げられるのかな?女ッ!!見えてるぞ!」
ガキンッ
「チッ。言葉は嘘ではなく、本当に死戦を潜り抜けているような感じね。けど、私もただの女と侮ることなかれ。久々にこの技を出すわよ。小島様?いえ、鬼小島様?技は発声した方が威力が上がると知っていますか?あなたの魂魄を断ち切りましょう」
「ほう?まやかしの類いか?」
「いえ?本当の事よ?この時代の最先端の明では古来より、人間を形成する陰陽二気の陽気の霊を魂といい,陰気の霊を魄というの。文字通り・・・私のこの朱刀はそれを断ち切る。
あなたはそれなりに人間にしてはやるようだけど、本物の神々の死戦を繰り広げた私を出し抜けると思って?」
「はぁ?おい!女!お前は頭がおかし・・・」
「か、カナ嬢!?柄の所が・・・」
「小川様は黙って見届けなさい。【邪滅】」
シュパッ ポトンッ
謙信との戦いの途中でカナ、小川さんと小島が戦いだしたのが横目で見えた。が、カナがブツブツ言ったと思えば、残像が見えるような横薙ぎ一閃でカナは、現代漫画とかに描かれていそうな、トゲトゲのバットのような小島の武器ごと、斬り・・・そのままの勢いで首まで刈り取った。
その小島の首が落ちると、さすがの謙信も動揺が走るかと思ったが・・・
「ふぁっふぁっふぁっ!愉快!愉快!まさか女が今代の小島を討ち取るとはな!まるで、我の姉者のようだ!小島は一人に在らず!それにあの女は戯言を言っておると思ったが、刀の真髄をも話しておった!
我もこれを言うのは久方ぶりぞ!仕舞いにしようか!」
まるで、動揺していなかった。それどころか、剣威がさっきより上がっているように思う。いや、間違いない。
現にオレは黒刀でなんとか防いでいるが、カナが誂えてくれた神々の国?に居るヒュドラの皮を使った甲冑を装備しているが、このヒュドラという名前は禍々しい生き物の皮は生半可な刃は通さないと神界では有名らしく、ヴァルハラに来る神の兵は皆この装備を使っているのだそうだ。だが、その神々が使うような装備を謙信は抜いてくるのだ。
所々、縫わないといけないくらいにオレは斬られている。先も言ったように今はアドレナリンのおかげか、痛みは感じない。ただただ、時間が進むにつれて息が重くなるのは自分でも分かっている。
その謙信が、先にカナが言ったように何かを言おうとしている。漫画や映画のように発声した技は威力が上がるのは清さん達と模擬戦をした時にオレも立証済みだ。
「ふぁっふぁっふぁっ!我の山鳥毛も疼いておる!オン ベイシラマンダヤ ソワカ!我 毘沙門天の化身也ッ!!疾れッ!【斬突】」
「マスターッ!!(我が君ッッ!!)」
謙信が馬上からオレに向かって刀を突き出した。この謙信の斬突という技?か何かは分からないが、それは斬るのではなく、刺す攻撃だった。
何故こんなにも冷静に分析できるのかというと、スローモーションかのようにオレの身体に・・・左肩に突き刺さるのが見えたからだ。
刀の素人故に受け身やらなんやらなんて取れるはずがない。
思わず身体を捩らせただけなのだが、それが功を奏した。明らかに、首を狙った突きのように見えたからだ。
だが、それと同時に今まで感じた事のない激痛が走った。
「ック・・・」
「我も衰えたものだな。確実に貴様の首を狙ったはずが、最近は目が霞んで狙いが定まらない事があったのだが・・・だが!貴様はまだ反対の手でその禍々しい黒刀を手にしている!まだ愉しめるッ!構えぃ!命果てるまでこの仕合いを楽しもうぞ!」
刺された肩に心臓でもあるんじゃないのか!?ってくらい、脈打っているのが分かる。そして、生暖かい自分の血もかなり滴ってきているのも分かる。
「御実城様ッ!!」
「千坂か。今少し待っておれ!」
「新手か・・・中央・・・慶次さん達は抜かれたのか・・・」
「ふぁっふぁっふぁっ!尾張や美濃の弱兵と同列にするでない!我が越後兵は精強である!」
オレはこの言葉で大敗という史実と重なる事を思ってしまった。いや、史実よりかは幾分も味方は撤退できただろう。だが、負けは負け。大負けだ。
だが、この千坂という、これまた歴戦の猛者のオーラを纏っている男が口にした言葉に驚いてしまう。
「穴はかなり作りました。が、別働隊らしき織田軍の一軍がこちら側に・・・。お退きください。このままでも勝ちは間違いありませんが、その別働隊は超少数であるものの、御実城様に一点突破を仕掛け、擬似挟み撃ちを行おうとしております!それに今代の小島も討たれております。どうかここはこの千坂にお任せください」
「我は未だ闘争の中だ!どこの武田か分からぬが、此奴は我が討ち倒す!直江はどうした!?」
「敵は焙烙玉の他にも煙玉のような物まで用意していたようで、念を見て距離を置くように部隊を下げたようで・・・その間にこちら側に向かって・・・正にあの第四回目の川中島のような、濃霧のようで・・・」
「チッ。敵の数はまったく違う。出鱈目な事だとは思うが、未だ我には武田に連なる者が障害となるか・・・」
なんの事を言っているのかはオレには分からない。分からないがとりあえず、半兵衛に渡していたカナと国友さん特製の焙烙玉と緊急時のスモーク花火が役に立ったようだ。
「尊殿ッ!!」
少しの間がした後に、半兵衛の声や鯰江の声が聞こえた。
「チッ。さすがに単騎で出張り過ぎたか」
謙信が声のトーン的に少し冷静になり、明らかに一度撤退というのを言うのがオレにも分かった時に、頭の中に聞いた事のない声が聞こえた。というか、勝手に声が鳴り響いた。
その声の主は誰かも直ぐに分かった。黒刀だ。刀の柄がやたら熱くなっているのが分かったからだ。成長する刀とはよく言ったものだ。妖刀だったよな。確か。最初は女のような口調の黒鉄丸から始まり、今は男の口調に変わってやがる。
『ッチ。こんな俺のような上等な刀を持って負けてしまいやがって!本当はこれをすれば能力が下がるのだが仕方ない!俺は負けるのだけは嫌いなんだ!俺はどんな刀にも槍にも剣にも負けん!おい!持ち主!俺の名前を言え!』
『・・・・・・・・』
『聞こえてんだろ!俺の力を貸してやるんだ!相手の刀も中々血を啜ってきているように思うが俺は負けたくねーんだよ!俺の名は◯◯◯◯◯だ!』
武将で、国のトップでありながら、単騎で突っ込んでくる軍神上杉謙信に、恐怖を植え付けられながらも・・・満身創痍になりながらもオレは命を未だ繋いでいる。
このまま放っておけば出血多量で間違いなく死ぬだろう。痛みもハンパない。が、それでも・・・頭に聞こえるこの声・・・いつかの刀の真名はいつか自分で分かると国友さんとカナに言われた事を思い出す。まさかこの事だとは・・・。
しかも刀が話し掛けてくるなんて思わなかったぞ。それに肝心の名前の所が聞き取れないんだが・・・。
「おい!尊!すまん!所々、脱落してしまった奴は居るがなんとか持ち堪えた!俺達も退き時ぞ!ぬぁ!?その出立ちは・・・お前が上杉か!!」
「囀るなッ!我が闘争は未だ武田尊。この男ぞ。どこの馬の骨かも分からぬお主とはやるだけ無駄だ。それとも・・・貴様は我を愉しませる事ができるのかッッ!!!!」
ガキンッ
慶次さん達、中央の人達もこちらへやってきた。確かに完璧な退き時だろう。半兵衛が死地の中、両軍を引き離し、且つオレの方まで救援に来た。
間違いなく今孔明と言われるだけあるのが分かった。そして、余裕のできた中央の軍の慶次さんも退く事ができる所まで来た。
が、ここでまた争えば間違いなく今度こそオレ達が背中を斬られる。
そしてその慶次さんを・・・剛の刀+パワーアップしている慶次さんをいとも簡単に弾き飛ばす軍神上杉謙信。
「ほっほっほっ。慶次殿をも吹っ飛ばしますか。軍神上杉謙信。ですが、私は甘くはありませんよ?丹羽隊!槍衾構えッ!!」
何故か余裕があるような口調の半兵衛の口上。だが、一切の変化が見られない上杉謙信。
「笑止ッ!!千坂!あれを近付けさせるな!」
「待て!!!竹中半兵衛!丹羽隊!前田慶次!小川三左衛門!甲賀隊!!!皆!退け!!ここで戦えば全滅してしまう!退き時は今ぞ!」
「武田!見損なったぞ!闘争はこれから本領だろうが!」
「上杉謙信ッ!!誰が退くと言った!!あぁ!オレはあんたと今一度やり合う。オレはあんたを超え、上杉を越える!!史実にない歴史をオレと皆で作るんだよッ!!!」
「ふん。頭がおかしくなったか。だが!それこそ武田ぞ!最後まで愉しもうぞ!!千坂。通してやれ。どのみち、能登、加賀は上杉の領土になる。ここで、織田の兵、数人討ち取った所で変わらぬ。我は此奴と心ゆく迄、仕合いたい。
最初は武田と聞き高揚した。不細工な陣、練度の低い兵、装備の性能に任せた武。あぁ。3点だ。落胆した。
だが、今しがた此奴が言った甲賀兵とやらだけはこの織田軍の中で一番の兵だ。越後兵に匹敵する。
そして、この武田尊の戦慣れしていない采配、指揮は0点だ。が、気概、士気に関しては我が宿敵に並ぶ。だから我は久しぶりに駆けた。どのような者なのかとな。此奴と仕合い、久しぶりに愉しく思う。この時が永遠と続けば良いとな」
「尊様!」「尊!」「マスター!」「我が君!」
「あぁ。死ぬ気はない。上杉も通してくれる言っている。皆は退いてほしい。戦の素人だし、こんなのが正解かは分からないが、オレだけは退いてはダメだと思うんだ。
慶次さん。隊を任せます。半兵衛さん。本当に助かりました。今は大人しく退いてください。丹羽隊の皆もわざわざオレなんかのために申し訳なかったです」
「マスター・・・」
あ、うん。なんかカナも皆と退く雰囲気になってるけど、カナはこの場に居てもらう予定なんだが!?神の力で治してもらわないとマジで次は死んでしまいそうなんだが!?
「マスター!私は見届けます。マスターが作る歴史を!」
「あぁ。よろしく頼む」
「分かった!分かったよ!おい!半兵衛殿も甲賀隊もここは尊に任せておけ!悔しいが、ここから挽回するにはちと、兵が足りん!敵さんも通してくれるって言ってるんだ。大将!漢を見せな!死んでも織田軍の語り種になるぞ!あの上杉と単騎で戦ったとな!」
(コクッ)
オレは無言で慶次さんに頷く。
そしてオレは目を閉じて頭の中に響いてきた声に問う。
『肝心の名の部分が聞こえなかった』
『俺を信頼し、力を全部預けろ!こんなに能力を使って言霊を発しているんだ。随分と柔な刃となったが、俺は負けん!持ち主のお前が俺を信じれば自ずと俺の名は聞こえる。信じろ』
『あぁ。分かった』
「良い顔になった。馬上からなら失礼であろう。全身全霊をかけて相手してやろう。この愉しみを終わらせたくないと思いつつも貴様を討ち取る事が、この戦の全てより大いに意味がある。千坂。手を出すな。後ろの直江等にも追い討ちをかけるなと厳命しておけ」
「御意。存分に」
謙信が馬から降りて、ジリジリっと近付いてくる。オレの隊の人達はオレを見ながらもロープを持ち、川を渡り始めた。
「その手では存分に振れないだろう。だが、それは己の未熟さ故だ。最後となってくれるなよ!武田・・・尊ッッッ!!!!!仕合い中に目を閉じるとは何事ぞッ!!!!」
『俺の名前は・・・・』
「ヤタガラス」
この刀の名前が自然と頭に浮かんだのと同時にオレはこれまでで1番柔らかい動きで謙信の懐に入り、腹を斬ろうとしたが・・・現実はそう甘くなかった。血を流し過ぎたのと、力が足りなかった。ただ・・・
ガキンッ パキ
オレが腹を斬ろうとしたら、謙信は愛刀でそれを交差させるように防御し、さながら映画のような鍔迫り合いとなった。
ジリジリ ジリジリ ジリジリ
「今のは少し・・・久しく感じてこなかった死を感じた。だが、これを演じるには少し遅かったようだな。終焉ぞ。(パキンッ)」
謙信との鍔迫り合いで徐々にオレの黒刀 ヤタガラスの根本まで刃が近付いてきて、手を斬られそうと思った所で、謙信の刀が折れた。
ドゴンッ
それと同時にオレは頭に衝撃を受けた。
「ふぁっふぁっふぁっ!まさか我の愛刀 山鳥毛を折るとはな!気分が良い!ここまでだ!」
「「殿ッ!」」
「「「御実城様!」」」
「「殿!!」」
「静まれッ!我は無傷だ!だが、上杉家の宝刀であり、我の愛刀を此奴は斬った!この深傷でだ!万全の状態ならば危うかったであろう!我も久しぶりに死を感じたくらいだ!」
「何奴ぞッ!!!」 「クソが!貴様!生きて戻れると思うなよッ!!」 「そこに直れ!御実城様!此奴を斬る許可を!」
「黙れ!能登、加賀は上杉領となった!我の想像よりこちら側も被害が大きい!それに・・・今代の小島は討たれた。あの女にな。あの女は中々の手慣れだ」
「軍神殿は何を言っているのですか!?今ここで出来る限り織田を討つ事が・・・」
「遊佐よ。お主は降り首でも手柄やもしれぬが、これより降り首は恥じゃ。これより先は義に反する。飽くまで、戦闘中の降り首なら我でも討ち取る。だが、我は此奴と約束したのだ」
「しかし・・・」
「ならばこれより追い討ちを掛けたければ七尾の兵だけで致せ。川を渡り、あちら側に待ち構えている織田軍は七尾の兵より多いであろう」
「なっ・・・」
「おい。いい加減に黙れ。御実城様は機嫌が良い。損ねるでない」
上杉の兵や七尾の兵もオレの所に来て、問答しているがオレはというと・・・
「マスター!もう少し我慢してください!とりあえず、神界ではポピュラーなサラマンダーが作った止血薬です!振り掛けますね」
カナは何やら禍々しい色の粉を突かれた所や縫わないと治らないだろうと思う斬られた所に振り掛けた。
いや、そもそもサラマンダーってあれだろ!?トカゲだろ!?なんでサラマンダーが薬作れるの!?いや、見た事はないけど明らかにヤバそうな生き物じゃないの!?
「ありがとう。ってか、サラマンダーって薬に詳しい種族なのか!?いや、確かに既に血は止まったから凄い薬なのは分かるけど・・・」
「え?サラマンダーは神界では一番の薬師と有名ですよ?ティルナノーグ地にはサラマンダー含め、多くの妖精も住んでおり、その中で特にサラマンダーは勤勉で、欲もなく、無償で傷を癒す薬を作るのですよ?」
あ、うん。オレのサラマンダーの印象がかなり変わったよ。
「武田尊ッ!見事也ッ!久々に満足とは言えんが・・・(ゴグッ)酒の味が分かるくらいは満足できた仕合いであった!死ぬでないぞ?これより先は兵を纏め、我が上杉軍は美濃を通り上洛致す。つまり、貴様の殿である織田信長と相対する事となろうぞ。
次は国に残る上杉軍全軍での出撃だ。もう今日のような単騎駆けはできまい。次は軍略で我を愉しませてみせよ!」
「え!?殺さない・・・のですか!?」
「ふぁっふぁっふぁっ!殺されたいのか?貴様が不義を働く男ならここで斬首していただろう。だが、貴様は我に立ち向かった。超寡兵でな。我はそういう男が好きでな。命を脅かしてくれる男は直好きだ。
貴様を生かしておいた方が今後も愉しみでもある。
戦故に、そこに寝転がっている貴様の兵は許せ。もちろんこちらの兵も死んだ者も居よう。それは戦故に仕方のない事だ」
「えぇ。その通りです」
「死んでくれるなよ。また仕合おうか。ふぁっふぁっふぁっ!愉快!愉快!貴様は織田では小荷駄隊なのであろう?(ゴロン)貰っておけ。我の愛刀 上杉家に伝わる宝刀 山鳥毛だ。それを手柄とし、もっと大きくなり我の前に現れよ。我の知る織田なら間違いなく織田軍は此度の救援に負けたが、1番功は武田尊。貴様ぞ。だが・・・それは我が上洛の折に織田を倒したら返してもらうぞ」
「マジっすか・・・」
「訛りが酷いな。我は嘘は嫌いだ。我が言った事は時が掛かろうとも必ず実行致す。もし、加賀、能登を奪い返すというならいつでも来るが良い。我が相手してやろう。全軍後退せよ!」
上杉謙信・・・一言で言うなら変態だ。口から出る言葉はオレの黒歴史時代にも言わないような事をスラスラ話してくる。
命のやり取りをしたのに、なぜか清々しい顔になる人。斯く言う、オレも何故か分からないけど少し・・・変な気分となった。もうあの人とは戦いたくないと思うけど、戦いたいとも思うような・・・。
そして、義の人というのもなんとなく分かった気もした。
「少し・・・・」
「はい!マスター!なんでしょうか?」
「少し、上杉謙信の事、オレも好きになりそうだ。いや、ラブじゃなくてライクの方ね。勝てる気は全然しないけど、また戦ってみたいと思うような・・・(ガタン)」
オレは立ちあがろうとしたら立ち眩みのような感じがして倒れこんだ。
「先程の薬は止血だけです。マスターは血を失い過ぎております」
「そうか・・・なんか眠くなってきた・・・」
「お任せください。私が対岸まで運びます。マスターは寝ててください。薬や部隊の事は私が。それと・・・かっこよかったですよ。マスター」
カナがそう言うと、オレの口に何かの液体を飲ませ、オレは自然と瞼が重くなった。
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