ドライブイン安土 黎明10終
目が覚めるとオレはいつもの見慣れた部屋に居た。どうやら丸2日間眠っていたらしい。甲賀隊の皆、慶次さん、半兵衛、丹羽隊の例の20人、清さん、カナと要は殿を務めた隊だけ先に安全な所まで退却したわけだ。その安全な所とは・・・
「(ズルズルズル)そっか・・・。柴田様や義父さんは未だ加賀に残ってる感じ?」
「はい。丹羽様が、柴田様や安藤様に説き聞かせ、不破様は『万夫不当の豪傑とは尊のことだ』と手放しで褒め且つ、『あの軍神と一騎討ちをし、退却の刻を稼いだ事は値千金の働き』だと言っていただき、今になります」
「だから言ったのです!私が居たらこんなにボロボロにはならなくて済んだのに・・・(グスン)」
「清さん・・・ごめん。けど、あれは必要な事だったと思う。けど、こうやって生きて戻ってこれたんだからいいじゃない(ズルズル)このお粥美味しいね」
「尊様。おはようございます。勘九郎様がお泊まりになられ、部屋に参りた・・・」
「おぉ〜!尊殿!目を覚まされましたか!いや、カナ殿が言うにはかなり血を流したそうではありませんか!?いやいや、手前が動きます故、どうぞそのままで!なんでも・・・上杉と一騎討ちをしたとか!?」
「勘九郎様。お久しぶりです。もう大丈夫です。
それと、一騎討ちは本当です。首級は叶いませんでしたが、どうにかお味方の退却の時は稼いだかと・・・」
「その話を詳しく聞かせていただきたい。それにしても、風呂というものがこんなにも素晴らしいとは思いもよらなかった。父上には自分から伝えている。父上も手放しで褒めておりましたぞ!ただ、父上は安土から離れる訳にはいけない故に・・・」
「そういえば!松永様が謀叛されたと聞きましたが!?」
「えぇ。だから安土より離れられないのです。近い内に父上は出陣するようで、『尊には早急に身体を休め、傷を癒すよう伝えよ』と自分に言われまして。その監督として、尊殿の店?家?に泊まらせていただいた次第です。『尊は直ぐに働くからお前が必ず休ませておけ』とも言われました」
「そうですか。まぁ今は休む事を先決とします」
「はい。そのようにしてください。自分は五郎に飯を作ってもらいます故」
他の皆は、外にゲルテントを設営し、寝泊まりしてるみたいだ。最近ではここ本店に安土や近江に住む普通の領民も食べに来てくれる。その人達から称賛の声を貰っているみたいだ。
その中、清さん、オレ、カナ、半兵衛と自然に4人がオレの私室に残った。
「本当に半兵衛さんには助けられました。礼を言います」
「いえ、その事なのですが、尊殿は不思議に思いませんでしたか?何故いきなり馬防柵が爆発したのかと」
「え!?あっ・・・確かに・・・あれが爆発して流れが一気に上杉軍に・・・」
「えぇ。あの犯人は羽柴小一郎殿ですよ」
「は!?え!?あの羽柴様の弟の!?」
「はい。何か任務の途中だったようで、上杉軍に潜伏していたようでして。あぁ、間違っても上様に言わないように。用意周到に逃げ道も確保しております。上杉家の重臣二人の首を持っていました。
潜伏中の任務は仮に味方相手でも敵方として戦う事が常道。私も旧友が討ち取られましてね」
「はぁ!?だからオレは最初からあの人が粘っこくて可笑しいと思ったんだよ!半兵衛さん!任せてください!こう見えて、上様とオレは・・・」
「だから辞めなさいと言っている!そんな事すればあの者は必ずあなたを亡き者とします!それに此度のこの動きは間違いなく、連動している!ここで尊殿が上様に言いつければ間違いなく織田家は瓦解してしまう!その事を知っての行動です!
あれは明らかに上様からの命令ではない。私も可笑しいと思っています。特に秀吉様が、播磨の黒田何某とやり取りを始めだしてから何かがおかしくなってきたのです」
「黒田官兵衛って人ですか?」
「え?知っていましたか?」
「まぁ未来ではあなたと黒田官兵衛を合わせて、戦国の両兵衛と言われていまして、そこそこ有名ですよ」
「そのような事が・・・。で、その黒田何某は尊殿が居た世界では・・・」
オレは一瞬、本能寺の変の事を言いそうになったが辞めた。未だ早い。この事を言って、全然違う所で本能寺の変のような事が起これば本格的にオレが防ぐ事が困難になるからだ。
「いえ。半兵衛さんが懸念されているような事は黒田官兵衛にはないかと・・・。それにオレが知っている歴史では半兵衛さんは黒田官兵衛と仲が良かったように思いますが?」
「えぇ。悪くはありません。嫡男の松寿丸を長浜城まで連れて来たのは私ですからね。けど、あの男は私とは違い裏の仕掛けが得意のようで。私は戦闘での仕掛けが得意でありまして」
「一つ・・・聞きたいことがあるのですが、羽柴様の弟は何者なのですか?」
「兄である、秀吉様には忠実。寧ろ秀吉様のためならばなんでもやります。秀吉様は上様に心酔しておりますが、小一郎殿は秀吉様に心酔しております」
「つまり、羽柴様がもし謀叛を起こそうとすれば・・・」
「えぇ。簡単に小一郎殿も裏切るでしょう。そこを私が懸念しているのです。ただ、此度の戦での帰陣を上様がどう見るかです。叱責するでしょう。が、あれは致し方のない事。だから現在も柴田殿や丹羽殿、美濃の御三方達は御幸塚城にて一矢報いるよう動いているのでしょう。特に・・・尊殿の殿で最低限の犠牲で撤退できたのですからね。
尊殿が最初にここに帰れたのも、柴田殿達も行軍中の後ろめたさ、体たらくを自覚しているからでしょう。戦だというのに、飯、酒に溺れていましたからね」
「えぇ。あの事はオレも忘れませんよ。偉そうに言えば・・・舐めてましたよね。行軍中に食って飲んでした物は誰が用意したんだと物凄く言いたかったですよ」
「でしょうね。その事は私も上様の報告時に言います。とにかく・・・尊殿も此度の小一郎殿のことは内に留めていただきますよう。私がいつか必ず罰を下します故に・・・」
「分かりました。そもそもオレもカナも清さんも羽柴様の弟とは合いませんし、会うつもりもありません」
「その方がよろしいかと。馬が合わない者と仲良くはなれませんからね。さて・・・では私は例の物を所望しましょうか」
いやいや半兵衛よ・・・覚えてたんか!?オレは忘れかけてたのに・・・。しかも病み上がりなんだぞ!?
「あ!尊様!ならば私もチーズタッカルビなる物を食べてみたいです!」
「(クスッ)なら、私もマスターが作るおでんを食べたいです!」
「クゥ〜!皆は容赦ないな〜!分かった!分かった!オレは飯屋の店主だからな!どうせだ!外の戦ってくれた人達の物も聞いてくれ!リハビリがてら作るよ!」
「ほっほっほっ!私のが1番ですよ?ベンティアドショットヘーゼルナッツバニラアーモンドキャラメルエキストラホイップキャラメルソースモカソースランバチップチョコレートクリームフラペチーノです。楽しみにしておりますよ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やっぱオレはこういう方が好きだ。そりゃこの時代で笑って過ごすには余程の事がないと無理だろう。
「おりょ!?尊の旦那!生きとったんかぁ〜!?」
「若旦那!生きとったんですか〜!?」
「ははは。なんとかって感じですよ。長次郎さん、又三郎さん」
このように気軽に声を掛けて来てくれる農民の人達も最近は多くなってきた。握りを買いに店に来れるくらいに余裕ができたのだろう。
「おっと?尊の旦那!大きな戦だったんだろ!?命の危機だったと慶次の旦那に聞きやしたぜ!?ほら!長良川で取れた鯉さ!今宵は奥方と激しくするんだろう!?頑張りなよ!」
いや最後の人は誰だよ!?
ってこのようにオレは初めましてだろうと思う人も向こうは知ってる人が多くなっているくらいにはオレの店も周知となってきている。
この農民や領民の人達と気兼ねなく話せ、気兼ねなく店に来てもらうにはやはり、織田信長に日本を統べてもらわないといけない。だからオレは・・・
「カナ。これより、羽柴軍からの情報を怠らないように。例の事件は清さんにも言うつもりはないし、起こるかどうか、明智が犯人かも分からない。寧ろ、明智光秀という人はそんな謀叛起こすようにオレは見えない。
羽柴小一郎。つまり、秀吉の弟・・・これが1番怪しい。
その例の事件・・・本能寺の変が起こるか起こらないかは分からないけど、オレはこれからこの事象を起こらないように動く。協力してくれるか?」
「畏まりました。権能も使えなくなった身ですが、誠心誠意、お仕え致します。新しい歴史の幕開けです。あそこのひょっとこ踊りしている、鯰江様は史実では先の戦で亡くなっていた方ですよ。マスターが歴史を変えたのです」
「あぁ。オレはただの飯屋の男だ。だが、発言力や更に部隊を大きくできるようにオレも1582年までに武功を更に上げる。今は1577年だろう。後、5年・・・。オレは織田信長と2階でDVD見ている織田信忠を救ってみせるぞ」
「ありぇ〜?カナ様と尊しゃまはイチャイチャしてるですかぁ〜?」
「清さん・・・まさかビール飲んだの?」
「飲んでないれぇ〜す」
うん。この清さんと老後もイチャイチャできるくらいにはオレももっと頑張ろう。
羽柴小一郎秀長。オレも絶対に許さないぞ。
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