ドライブイン安土 新生6-1

 「殿様!?ここが例の・・・」


 「兄上!?ここが秘密の飯処ですか!?」


 「クックックッ。まるで浮世のような場所じゃな」


 「「「「いらっしゃいませ!」」」」


 「うむ。苦しゅうない!面を上げぃ!今日は仕事ではない!貴様等もゆるりと相対して良い」


 信長が来た。来た訳だが、マジで女ばかりだ。清さんのように戦う女武士らしき人も少ないが居るには居ると聞いていたが、護衛?として連れて来ている兵の人も見事に女性ばかりだ。

 しかも、この時代の人は男も女もかなり身長が低い。そんな身長が低い中での、女武士の人達は恐らく160センチくらいはありそうな人達ばかりだ。鉢巻をし、紐で腕捲りし、長槍を装備している。


 「ようこそいらっしゃいました。織田様。まずは風呂の方へと御案内致します」


 「うむ。それと貴様にも紹介しておこう。織田家の女中を纏めている、お濃だ。こっちは同腹の妹の市。後は側室の鍋、坂、あここじゃ」


 「お初にお目に掛かります。ここで飯屋を営んでいる、尊と申します。こちらは妻の清。今宵は皆様に満足いただけるよう、精一杯おもてなしさせていただきます」


 お市さんは絶世の美女と名高いだろう。顔を上げてチラッと見てみたのだが、好みは分かれるだろうが、オレは・・・そうでもない。この時代で珍しくポッチャリしているし。やはり、時代的な美的感覚が違うのだろうな。太郎君や次郎君なんかはモジモジしてるのが分かる。

 そして濃姫。この人はクールビューティー的な少し冷たくてツンツンしてるような雰囲気を感じる。濃姫は普通に綺麗な人だと思う。

 後は側室の人・・・3人共に雰囲気が濃姫さんにそっくり。端的に言えば、塩顔と言えばいいだろうか。痩せ型の塩顔。


 「苦しゅうないぞぇ!妾を喜ばせてたもれ!!」


 「こら市!あまり騒ぐもんではありませんよ」


 「はい!義姉上様!」


 ちなみにこの時のカナや慶次さんはどこに居るのか。信長にあまりカナの事を叩かれたくないので甲賀村に行ってもらっている。

 この来訪の事を言えば・・・


 「私が相対しましょうか?」


 「いや、カナの事はあまり知られたくないからできれば甲賀村に行っててくれる?」


 「畏まりました。源三郎様に今一つ作ってもらう物がありましたので、ちょうどよかったです。何かあればトランシーバーでお話しください。直ぐに戻りますので。まぁ明日には呼ばれるかとは思いますが」


 と、含みを持たせて出て行った。何か起こるのだろうかと少し不安だ。


 「まずは織田様から風呂へお入りください。桜ちゃん?お願い出来るかな?」


 「待て。お濃とワシとで入る。ワシ等が出れば他の女を入れてやれ」


 チッ。ラブラブで入るのか!?風呂で事を致したら許さないぞ!!


 「分かりました。では待っている間に側室様やお市様の健康診断なんかをしておきます」


 「ふん。好きに致せ」


 桜ちゃんは信長の風呂案内、梅ちゃん、清さんは他の人の健康診断だ。オレは飯の準備だ。


 

 〜居間〜


 「お初にお目に掛かります。丹羽長秀が末娘 清と申します」


 「うむ!妾は殿の妹の市じゃ!苦しゅうないぞ!それで!ここはなんなのじゃ!?見た事のない物がいっぱいあるぞ!この箱はなんじゃ!?この箪笥は!?南蛮様式かぇ!?」


 「妾は鍋。殿の側室の1人でございますれば」


 「私も同じく側室のあここ」


 「疑問はあるかと思いますが、まずはこれをお飲みください。同じ女同士ですので気兼ねなく」


 「なんじゃこれは?飲めば良いのか?(ゴグッ)美味い!なんじゃこれは!?」


 「「お市様!?!?」」


 「おっ!?なんじゃ!?光っておる!?うん!?なんぞ!?身体が軽くなった気がするぞぇ!?」


 「ゴホンッ。今のは薬にございます。万病に効く薬でして。ここの店主で、私の旦那である尊さまがマウンテン富士と言われる霊峰にて開発した薬にございます」


 「まうんてんふじ?どこにあるのじゃ?そんな事より、こんな美しい鏡なぞどこで売っておるのだ!?よくよく見れば、其方の服もどこぞ可笑しいのう!?南蛮の服かぇ!?」


 「ちゃんと全て説明致しますので、ゆっくりお願いします」


 「嫌じゃ!嫌じゃ!妾は今日しか外に出れんのじゃ!時間が惜しいのじゃ!」


 「ゴホンッ。梅?お市様に先に新しい服と下着の使い方を。それと、贈り物に用意した香水と櫛、シャンプー、トリートメント、石鹸を渡してあげて。使い方もよ」


 「畏まりました」 「な、なんじゃこれは!?妾にくれるのか!?」


 「鍋様、あここ様。あなた達がたもこちらをお飲みください。その後に、色々な役に立つ物をお渡ししましょう。城の中では何かと息の詰まる思いかと存じます故、尊さまに私がお願いした娯楽なんかも用意しました」


 「其方は本当に丹羽殿の娘かぇ?似ておるように見えぬぞ?」


 「正真正銘の娘です。ただ、下女腹の産まれですが。故に、私は外に出て自活しております。外を見ればまだまだ知らない事が多いです。特に旦那様である尊さまに関しては私に過ぎたるお方でございますれば。この後のご飯を食べられると御二人もお分かりになられるかと思います」


 「そうかぇ。なら妾等も暫しの余興に付き合おうか。こんな事は初めてじゃからのぅ」


 「・・・ここだけの話ですが、この本をどうぞ」


 「うん?なんじゃこれは?なっ・・・これは・・・」


 「城の女中の間で流行っているとお聞きしました」


 「あここ殿・・・見てみなされ・・・其方が好きそうな物ぞぇ」


 「こ、これは・・・なんと・・・精巧な・・・絵師は誰ぞぇ!?」


 「それは存じ上げません・・・ですが、こういうのが好みかと・・・これは贈り物です」


 「うむ!恩に着る!この事は・・・」


 「もちろん秘密にございます。これを尊さまは、ビーエル本と言っておられました」


 「びいえる本・・・意味は分からぬが素晴らしい!」


 「ではこのまま続けますね!次は月モノの時に使う・・・」




 〜厨房〜


 「う〜ん。とりあえずは準備できたかな。太郎君?まずは、前菜として鯵の南蛮漬けを出してね。この小鉢のやつね」


 「あれ?いつものように出さないのですか?」


 「いや、一応、皆は目上の人だからね。客の様にドカ盛りでは出せないでしょ?それに女性が多いから食べやすいように取り皿も用意してあげないとね」


 「畏まりました」


 その後、少しの間・・・いや、1時間くらいは厨房で待っていた。信長と濃姫が長風呂していたからだ。その後に、側室さんやお市さんと入り、風呂場からキャッキャッした声が聞こえていたが、その度に信長が不機嫌になってきているのだ。


 「ったく。女共はいつまで風呂に入っておるのじゃ!こちとら、腹が減って仕方がないというのに!」


 オレは声を大にして言いたい。あんたが長風呂したから後ろがつっかえたんだよ!と。


 「遅くなりまして申し訳ございません」


 「兄上!あのどらいやあなる物を買ってくだされ!見てたもれ!妾の髪がサラサラになりました!それにあの風呂!あれを城にも作ってたもれ!」


 「市よ・・・。落ち着け。風呂は作れるやもしれぬがな・・・なんでもかんでも我が儘はいかん」


 あ、うん。信長がお市に激甘なのは本当なんだな。あんなの遠藤さんが言えば即刻打首レベルじゃないかな?


 「殿!誠にありがとうございまする。それに義姉上様も御髪が輝いておりまする!」


 「クックックッ。おべんちゃらは言わなくともよい。妾の髪なんかより其方等の方が綺麗じゃ。今度はお主等が伽に呼ばれるやもしれんよのう(グワッ)」


 戦国時代へ来て分かった事がある。所謂、オーラ的な何かだ。今しがた濃姫が鍋さんに向かって言った後に殺気のような何かを感じた。正室は濃姫だ。だが、プレイボーイの信長はその時の気分で夜の人を変えているのだろう。

 負けられない女の戦いがあるのだとオレでも分かる。こういう時は・・・


 「では、始めましょう!皆様もお座りください!まずは前菜がてら、鯵の南蛮漬けでもお食べください!」


 話題を変える事だ。


 「うん?いつものように聞かないのか?」


 「はい。本日は女性が多いのと、初めての方が多いと聞いておりますので、自信のある料理を大皿に入れて、御自分で好きな料理を取っていただこうと思っております」


 「小癪な物言いだ。だが、相手の事を考えての事だな。許す!」


 「(むしゃむしゃ)兄上!これ!美味しいですよ!」


 「市・・・いくら自由にしてよいと言っても、汚く食べても良いとは言っておらん。お濃?外にお登勢は連れて来ておるよのう?」


 「ゲッ・・・兄上!?義姉上!?まさか・・・」


 「輿にて連れて参っておりまするよ」


 「ふん。さすがお濃だ。尊!外の輿に居る者を呼べ!あぁ〜。貴様も気を付けておけ!」


 お登勢?誰だ?世話係の人か?あのお市がビビってるし、なんならオレにも気をつけろだって?何を気をつけるのだ?

 


  オレは外に出て、女武士に睨まれる中、輿に近付く。


 「お疲れ様です。織田様がお呼びになっております」


 「ゴホンッ。畏まりました」


 女性は咳払いをして、輿から出てきた。オレはビックリした。この時代で女性を見上げる事になるとは・・・。いや、清さんも身長は高いけど見上げる程ではない。が、このお登勢という人は確実に180センチ半ばはあるだろう。しかも・・・


 「あんた!?ここのご飯屋の店主なんだってね!?殿から聞いているよ。なんでも、南蛮のご飯を作れるとね。けどなんだい?その線の細さは!?食べてるのかい!?」


 「あっ、い、は、はい!食べてます!」


 「そこら辺の男よりは大きいけど、アタイよりは小さいわね!男はもっと大きくなりなさい!アタイは登勢。代々、織田家の姫を教育してる家柄の者さ。今は茶々姫、初姫、江姫の教育係の頭をしているのさ!元は市姫様の教育係なんだ!」


 この、お登勢さん・・・。姿のままのイメージで男勝りな話し方で、身振り手振りが凄い。何より、声が大きい。この人も珍しくポッチャリ・・・いや違う。あれは鍛えている身体の大きさだ。現代の男なら簡単に捻り潰されてしまいそうだ・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る