ドライブイン安土 新生5
本願寺の弱体化。これが成功すれば信長はさぞやオレを褒めるだろう。ひいては、その弱体化に貢献した甲賀村の人も褒められるだろう。
オレの考えはこうだ。まずは、堺へと品を高値で流す。まだ会った事はないけど、堺の人は織田側だ。なら何故、堺に品を流して本願寺が弱体化するのか。
「流石に勝手に本願寺に食べ物を流すのは辞めた方がいいのではないでしょうか・・・」
「清さんもそう思うよね。普通ならオレもそう思うよ。けど、そもそもの本願寺の門徒は何故、宗教に縋るようになったかって事だよ」
「どういう意味です?」
オレはこの時代に来てから自分なりに分析した事を言った。衣食住。この中で1番大切な物は衣服は当たり前として、食だとオレは思う。おかずがなくとも米さえあれば腹は満たされる。
だがその米が無ければどうなるか。人は凶暴になる。人を殺してでも奪おうとする。これは未来知識で知っているというのもあるが、本願寺の坊官は雁字搦めにし、借金をさせて人を攫ったり、社会的弱者に甘言を言って、門徒を増やし、逃げ出そうとする者は見せしめに殺したりと・・・。
まぁ内情はオレの予想でしかないけど、他にもエゲつない事をしているだろう。退くは地獄、進めば極楽とはよく言ったものだ。
「堺に品を流せば必ず本願寺まで品が届く」
「え!?でも、堺はお味方だと認識しておりますが・・・」
「天王寺屋?納屋衆?だっけ?何人居るかは分からないけど、全員を把握しているか?と聞けばそんな事はないと思うんだ。特に機に聡い堺の豪商人なんて、織田家が俄然有利だ!としても、念の為に本願寺側にも恩は売っておきたいはず。
それに、物資が必要なのは織田家より本願寺側だろう。今は佐久間様が見張っているんだよね?」
「はい。佐久間様が見張っているとお聞きしております」
この佐久間は確か何もせずに悪戯に時を過ぎさせるだけで、後の流罪の原因がこれだったはず。意外にも歴史を覚えているものだな。
「まぁ、オレは佐久間様とは仲良く・・・どころか、喋った事も少ないけど、なんとかなるだろう。任せてほしい。まずは少量ずつ果物を流し、人道的支援と称して下々の門徒に直接、施しをしようと思う。上人などの位の高い人には何もしない」
「あっ!分かりました!下々の方達に施しをすると、必ず上の者が出張ってきます!尊さまが作るご飯は美味しいので人はまた食べたくなる筈!現に私がそうです!それを数を絞って流せば・・・」
「そう。正解だ。最終的には顕如がどうにかするだろうけど、少し内部分裂の種は仕込めるんじゃないかな?なんなら、少しくらい下々の人達は降るんじゃないかな?」
「降ってきた方をどうするのですか?」
「う〜ん。オレが貰っていいなら、甲賀村を拡張して、住まわせてもいいけど、頭の可笑しい人はその限りではないかな。オレが助けたい人は無理矢理来させられた人だな。
全員は無理だろう。それに冷たい言葉かもしれないけど、オレは助けたいって言葉に偽りはないけど、必ずしもそうしたいわけではないんだ。飽くまで内部分裂させたいと思うだけだよ」
「中々壮大な計画ですね!」
「まぁ、織田様も許してくれると思う。何もせず膠着して悪戯に本願寺に兵を割くのは、勿体無いからね」
知った口でオレが素人なりに考えた事だが、上手くいけば良い。失敗してもそこまでの痛手はない。
オレと清さんが熱弁して話していると、1人の武士が息を切らせてやってきた。
ちなみに、この時のカナは九鬼さんや滝川さんに提案する船の設計図を分かりやすく書き直している。天界のルールや、掟かは知らないが、今やノリノリでチートを遺憾無く発揮している。お金?相変わらず自転車操業みたいな物だ。
白米は信長が殆ど買い取ってくれ、なんなら秀吉も『お主が教えてくれた甘辛い汁で焼いた握りが好評で、いくら米があっても足りん』と、言ってくれ余剰分も購入してくれている。
秀吉に関してはボッタクリレベルの30キロ10貫と提示したのだが、少し渋い顔をしたが、プライドが邪魔をする武士の秀吉は『値切れば男が廃る』と言って、タブレット価格で言うなら30キロ10万円の米を5日に一度の頻度で買い取ってくれる。
だが、そのお金も全て・・・
「マスター!旋盤買っておきました!FRP塗料もついでに!」
「いや、購入する前に言ってほしいんだけど」
「(ピュー ピュー)」
このように全て事後報告なのだ。まぁこの事は今に始まった事ではないから仕方がない。カナはそういう人?神?なんだと思わないといけない。
「(ハァー ハァー)」
「いらっしゃいませ〜。清さん?冷たいお水でも出してあげて」
「あ、いえ。気遣い無用にございます。それにしてもここは冬の様な部屋ですね。過ごしやすい・・・ゴホンッ。失礼。本日は肉うどんを・・・ではなく・・・ゴホンッ。これまた失礼。実は頼みがございまして」
息を切らした武士は最近、よく来てくれる遠藤さんという人だ。この人は物腰が柔らかく案外面白い人だ。よく城の噂話などを教えてくれるのだ。確かこの間チョコレートをあげたっけ?
「はいはい。何の頼みですか?」
「実は・・・」
「貸し切りで、城勤めの人達をここにですか!?」
「はい・・・。上様の妹君であられる、お市様が是非、尊殿の飯を食べたいと・・・」
「何故にお市様が!?」
「これには事情がございまして・・・」
「うん?って事は先日のチョコが原因って事ですか?しかも、貸し切りの料金は遠藤様持ちって!?」
「はぃ・・・。上様からお叱りを受けまして・・・。『貴様が教えたせいじゃ!尊に言えば貸し切りくらいしてくれる!市にバレたなら女中の耳にも直に入る事となる!それならばハナから女中共を貴様がどうにかせい!』と言われまして・・・」
「貸し切りは別にいいですけど、何人くらい来られるのですか?」
「凡そですが、10名くらいだと・・・。後はこれも予想ですが、上様も来られるかと。それと同道して、濃姫様、於鍋の方、坂氏様、あここの方も・・・」
はぁ!?信長も女を連れてくるのかよ!?濃姫は知ってるぞ!?って事は正室、側室勢揃いって事なのか!?
「あのう・・・難しいでしょうか?」
「あ、いえ。別に構いませんよ。いつ来られるのですか?」
「尊殿の準備が整う日に参ります」
「あ、そうですか。うちは明日にでもできますよ?」
「そんなに早くですか!?」
「そうですね。いつ誰が来てもいいようにしてますからね。100名を超えるとなると流石に準備しなくてはなりませんが、今や奥に居る太郎君や次郎君、桜ちゃんや梅ちゃんがテキパキ動いてくれますしね」
「そうですか。ではまた先触れを出します故に、よろしくお願い致します。後、代金の方は・・・」
「まぁ、1貫くらいでいいですよ。本当はもっと欲しいですけど、親睦を深めてということで」
「本当によろしいのですか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます。では先触れの者に持たせて支払いますので。御免!」
遠藤さんはニコニコ顔で戻っていった。
「清さんも手伝ってくれる?明日は大忙しだよ」
「勿論です!」
女性が来ると言ってはいるがオレはメニューは変えない。男飯!と思われるのがオレが親父から受け継いだドライブイン武田・・・今はドライブイン安土だ。まぁデザートくらいなら作ってもいいかな。
「太郎君、次郎君!仕込みよろしく!五郎君や吉ちゃん、滝ちゃんは外の厩の掃除をお願い!」
「「「はっ!」」」
「清さん!デザート作ろう!食後に出してあげると喜ばれると思うよ!」
「はい!何を作るのですか?」
「コーヒーゼリーだよ!簡単だから!」
コーヒーゼリー。作り手によっては奥が深いデザートの一つだ。オレはメニューにこそ出していないが、偶に食べたくなり現代にいた頃によく作っていた。
作り方は簡単。先ずは普通にコーヒーを淹れる。温かい状態で、砂糖を多めに入れて甘くする。
別の容器にぬるま湯に粉ゼラチンを入れて溶かす。それをコーヒーに混ぜて、冷蔵庫で冷やすだけだ。容器はうちにある中の物では似合わないため、親父のワイングラスに移す。
「これで明日の出す前に生クリームを上に乗せると完成だよ」
「まぁ!?本当に簡単ですね!」
「あれ?太郎君?次郎君?どうした?」
「じ、自分も食べてみたいっす!」
「え?食べてみたいの?」
「太郎!次郎!食べたいなら私に1本取ってからにしなさい!」
最近よく清さんから出る言葉だ。源三郎さんから作ってもらった刀を抜きたくて仕方がないようで、直ぐに勝負事を持ち掛ける。
「言いましたね!?主従関係とはいえ、遠慮しませんよ!この自分の得物、飛燕にてコーヒーゼリーは必ず食べます!」
「ふっふっふっ。抜かせ!」
「あぁ〜。やるなら外で怪我のないようにね〜。オレはもう一つ作っておくよ」
お互いがすぐに本気になる。オレの家臣は本当にバトルジャンキーばかりだ。しかも次郎君・・・あの短刀の名前が飛燕とかかっこよすぎじゃね!?
オレがコーヒーゼリーや、焼き豚、チャーシュー、出汁、カレーなどの下準備をしていると夕方になった。
「尊様。申し訳ございません」「同じく・・・」
「はいはい。コテンパンにされたんだ?」
「ふっふっふっ。私に勝とうなんてまだまだよ!」
「清さんも煽らない!はい。太郎君も次郎君も食べな。桜ちゃんや梅ちゃん達が仕込み手伝ってくれたから、2人は通常日の仕込みは1日休みね」
「「・・・御意」」
「そうだ!桜ちゃんと梅ちゃんは薬の事は相変わらず勉強していたよね?」
「はい。カナ様にも色々聞いて、どの薬がどのくらい効かくらいは聞いています」
「良し。なら側室さん達やお市様や濃姫様に栄養ドリンクを渡してあげて、生理痛を和らげる薬とか渡してあげると喜ぶんじゃないかな?ナプキンなんかも渡してあげると尚喜ぶと思うよ?これは男のオレからは無理だからね」
「畏まりました。ですが、あの栄養ドリンクを複数渡しておいた方が早いのではないでしょうか?」
「いや、まぁそうなんだけど、それを言ったらね・・・。あの薬なら何でも治るみたいな感じだけど、何でも治るなら・・・仮に1000貫でもそれ以上でも買いたいと思わない?」
「確かに・・・」
「織田様にはオレから渡して飲んでもらう。あの人ならその価値に直ぐに気がつくと思うしね。だから、栄養ドリンクに関しては・・・」
「マウンテン富士で開発でしたよね!?」
ック・・・。桜ちゃんもやるではないか。
「そうそう。それでいこうと思う。数に限りがあると言ってね」
「(ドンドンドンドン)」
「うん?あれ!?遠藤さん!?」
「も、申し訳ありません!上様が本日の夜にお越しになると申しまして・・・。そのまま本日はここでお泊まりになると言っております!『風呂を沸かし、腹一杯食わせろ!布団も用意しろ』との事です!」
「いやいや・・・早過ぎだろ・・・」
「申し訳ありません」
「いや遠藤さんのせいではないですけど。まぁじゃあ来るって言うなら準備しようか。太郎君、次郎君、それに清さんもパッパッとシャワー浴びて着替えておいで!」
「「は、はっ!」」
「了解です!」
さて・・・濃姫やお市がどんな人なのか・・・。
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