間話

 〜とある日の岐阜城〜


 「姫様。これなる物が、ちょこれえとなる物だそうです。なんとか通い詰めて、店主から覚えてもらい、いただいた物です」


 「うむ!ようやった!うん?なんじゃこれは?甘いような感じの匂いはしておるが・・・手に纏わりつく・・・バッチいのう。お主は食べたのか?」


 「はい。店内にて一欠片を店主から頂きました。非常に甘くて、他に例えようのない物と断言致します」


 「ふむ。お主がそこまで言うのは珍しいのう。どれ・・・(ハムッ)うぅぅぅぅぅ〜〜〜〜まい!!これなる物こそ至高の食べ物じゃ!!兄上はこれを好きに食べているのか!?」


 「はっ、えっ、い、いや・・・某はそこまでは分かりません」


 「ほぅ?お主は男故に、好きに出歩いて食べに行けるから良いのう?のう?」


 「・・・・そ、そんな事は・・・」


 「妾が知らぬと思うてか?毎朝、1人で出歩いてどこぞに行って居る事は知っているぞ?毎朝、妾に内緒で出掛けだして、早40日以上過ぎている。見る度に妾の好みのような身体が大きくなってきよるよのう?」


 「お、お戯れを・・・。それ以上は勘弁してください。首が飛んでしまいます」


 「ならば、お主が兄上を説得して参れ!小さき時はよく馬の後ろに乗せてくれ、色々な場所に連れてってくれた!

 じゃが今は妾のせいで浅井家との縁は無くなってしまい、しかも出戻りで恥ずかしい思いをしないようにと配慮して奥の間を与えてくれているのは分かるが、これはあんまりじゃ。どこへも行けぬではないか!

 守山の時は叔父上が何でも与えてくれたのに・・・。あのうつけの叔父上め!勝手に戦死してしまいよって!」


 「そう言われましても、某では・・・」


 「直ぐにとは言わぬ!気晴らしがしたいだけじゃ!この至高の物を作った奴の飯を食うだけで良いのじゃ!おっ!そうじゃ!わざわざ妾が出向かぬとも、其奴をここに来させれば良いのじゃ!武士ではないのであろう?ならば良い!」


 「よ、良くはありません!呼びつけるなんて事をすれば、流石のお館様も・・・」


 「良いではないか!妾はお主から土産を貰った!それが美味くて、その店の者を呼んだ!おかしくないのではないのか?」


 はぁ〜。このお方はずっと変わらない・・・。少しは落ち着いたかと思えばすぐにこれだ・・・。


 「御母様!」「母上!」「ははうえ!」


 「なんじゃ。茶々、初、江」


 「ひ、姫様申し訳ありません!甘い匂いがすると言って、飛び出してしまいまして・・・」


 「ほぅ?流石、我が娘よ。じゃが、これは妾のじゃ!欲しければ叔父である殿にお願いして来なさい!其方等が言えば、殿は断る事もなかろう!」


 チッ。本当に悪知恵は直ぐに働くお方だ・・・。



 「叔父上様!」「お館様!」「おやかたさま」


 「うん?茶々に初に江か。3人揃ってどうしたのだ?ワシの元へ来るなぞ珍しいな。今は忙しいから要件だけを言え」


 「う、上様!も、申し訳ございません!勝手に飛び出してしまい・・・」


 「良い。さぁ。どうしたのだ?」


 「あのう・・・ちよこれいとなる物を・・・」


 「うん?ちよこれいと?これか?」


 「そう!それです!母上が食べたいと言っていまして」


 「ほぅ?その話を詳しく聞こうか。ワシはお主等の母に渡した事はないのだがな。誰ぞが食わせたのじゃろう。それは誰か分かるか?」


 マズイ!非常にマズイ・・・。某だとバレてしまう・・・。


 「えっと・・・遠藤のおじちゃんが・・・」


 「ゴホンッ!ゴホンッ!お館様。巷でドライブイン安土がかなり有名店となりまして・・・。手前もよくあそこの肉うどんを食べるのですが、通い詰めたつもりはありませぬが、店主が、『いつもありがとうございます。これ良ければお食べください』と頂きまして。それをお市様が浅井家の事で気を病んでいるかと思い・・・」


 「ほう?遠藤か。ワシの小姓である貴様が市にチョコレートを渡したのだな?」


 「か、隠すつもりはありません!事実です。出過ぎた真似をしてしまいました。申し訳ございません」


 「ふん。そういう所が貴様が小姓筆頭たる所以だ。他の者ならばワシを畏怖して嘘を吐く。じゃが貴様は本当の事を言った。蘭丸にも嘘は吐かぬように教えておけ」


 ふぅ〜。やはり最初に謝れば、上様は許してくださる。


 「じゃが、市に伝えた事は事実じゃ。教えて良いとは言っておらん。何故か分かるか?彼奴が『食いたい。お代わり。もっと。全部』とどんどん口が肥えるからだ。ワシは叔父貴ほどではないが、市には甘い。この落とし前はどうつけるのだ?ん?」


 しくじってしまったか・・・。


 「城の周りを走って来い!全速力だ!ワシは市に説明してくる!ったく・・・余計な仕事を増やしおって。早く行け!」


 「は、はっ!」


 「ほれ。(ぼと)3人に均等に分けて食べさせておけ。お主も一欠片なら食っても良い」


 「あ、ありがとうございます・・・」

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